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自分らしく、周りにも優しく生きたい人は、微生物に学ぶ。書籍『発酵道』レビュー

人間も自然の一部、とは聞き慣れた価値観かもしれませんが、ついつい忘れやすいことでもあります。リモートワークで家にばかりいると尚更かもしれません。

しかしそれでも、木々に囲まれたらやっぱり空気を新鮮に感じるし、海の中に入れば開放感に包まれて、山に行けば雄大さに敬意を感じ、野に咲くお花を見れば癒される。これらはまぎれもなく、わたしたちが自然の一部である証拠です。

2007年に出版された書籍『発酵道』は、自然の成り立ちへの気づきから”幸せに生きる秘訣”を獲得した、ある男性の人生が綴られています。

その男性とは千葉県香取郡にて300年を越える老舗の酒蔵「寺田本家」23代目、寺田啓佐(てらだ・けいすけ)さん。惜しくも2012年に他界されましたが、本書が今もなお増刷を重ねるロングセラーであることも、この本に気づきを得た人の多さを伝えてくれています。

寺田本家ホームページより、蔵の中の様子)

啓佐さんが見つけた生き方は、日本酒を発酵させる過程で「微生物」から学んだことでした。

現在の寺田本家は、蔵に住み着いた菌を適切に培養して昔ながらの醸造方法で日本酒を製造していますが、かつて啓佐さんが代表をされていた一時期は違っていました。時代の流れも手伝って業界全体が効率至上主義。食品添加物を活用してコストを抑えながらも大量生産を行い、それはいつしか、酒蔵の仲間や啓佐さん自身の体調をも歪ませたことが鮮明に綴られています。

あるとき「百薬の長」と言われてきた日本酒と、自分たちがつくる日本酒との違いを考えた啓佐さんは、微生物のはたらきに開眼したのです。違環境条件によって活動する多様な微生物が、調和の中でそれぞれの役割を全うする様子を、自分たち人間と重ねたことで寺田本家は変わっていきました。

歴史ある蔵を背負ったビジネスパーソンとして、心を砕いたり腹を決めたりしながら、寺田本家を寺田本家らしくたらしめんと努力される啓佐さんの姿は、1本の映画のようにドラマチックであり、高僧のような清々しさを含んでいます。

日本酒や発酵の話でありながら、実は生き方を伝えてくれる一冊。きっとあなたの心も優しく照らしてくれると思います。

『発酵道―酒蔵の微生物が教えてくれた人間の生き方』
出版社: 河出書房新社
著者: 寺田 啓佐