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未来の働き方に向けた未来の学びって?「ティール組織」嘉村賢州さんと「さとのば大学」信岡良亮さんが考えた。(後編)

さとのば大学信岡良亮さんが対談案内人となって、「学び3.0」について考える対談のシリーズの第二弾、嘉村賢州さんとの対談の後編をお届けします。

前回の記事では、ティール組織の話からはじまり、日本の教育は3周遅れなのではないかという話題にまで及びました。

さとのば大学の発起人である信岡さんは、未来に向けてやりたいと考えている”学び”と、人が投資する”学び”との間にギャップを感じているところなのだそう。

ティール組織の第一人者である嘉村さんと対話を通して、組織の発達理論という切り口で、これからの学びについてさらに考えていきます。

嘉村賢州(かむら・けんしゅう)
場づくりの専門集団NPO法人場とつながりラボhome’s vi代表理事。コクリ!プロジェクトディレクター(研究・実証実験)。京都市未来まちづくり100人委員会 元運営事務局長。集団から大規模組織にいたるまで、人が集うときに生まれる対立・しがらみを化学反応に変えるための知恵を研究・実践。研究領域は紛争解決の技術、心理学、脳科学、先住民の教えなど多岐にわたり、国内外問わず研究を続けている。実践現場は、まちづくりや教育などの非営利分野や、営利組織のおける組織開発やイノベーション支援など、分野を問わず展開し、ファシリテーターとして年に100回以上のワークショップを行っている。2015年に1年間、仕事を休み世界を旅する。その中で新しい組織論の概念「ティール組織」と出会い、日本で組織や社会の進化をテーマに実践型の学びのコミュニティ「オグラボ(ORG LAB)」を設立、現在に至る。

信岡良亮(のぶおか・りょうすけ)
1982年生まれ。関西で生まれ育ち同志社大学卒業後、東京でITベンチャー企業に就職。 Webのディレクターとして働きながら大きすぎる経済の成長の先に幸せな未来があるイメージが湧かなくなり、2007年6月に退社。小さな経済でこそ持続可能な未来が見えるのではないかと、島根県隠岐諸島の中ノ島・海士町という人口2400人弱の島に移住し、2008年に株式会社巡の環を仲間と共に起業(現在は非常勤取締役)。6年半の島生活を経て、地域活性化というワードではなく、過疎を地方側だけの問題ではなく全てのつながりの関係性を良くしていくという次のステップに進むため、東京に活動拠点を移し、2015年5月に株式会社アスノオトを創業。「地域共創カレッジ」主催のほか、さとのば大学の発起人。

ティールを学ぶことで、将来稼げようになるの?

信岡さん 僕は「さとのば大学」という学校をやっているのですが、学校をつくると「それを学ぶことで、将来稼げるの?」っていう問いに向き合わないといけないわけです。

今、現場の感覚としては、僕らが未来に向けて提供したいと考えている学びと、人々が投資しようとする学びの間に、まだギャップがある気がしています。

嘉村さん たしかに、今の日本の教育は「イノベーションを起こせる人材をいかに育成するか」というところを一生懸命やっている段階で、それは達成型(オレンジ)(※)に向けた学びということになります。

信岡さん 達成型(オレンジ)の世界では「これができるようになったら稼げるようになりますよ」っていうことが示しやすいと思うんですよ。でも、進化型(ティール)(※)的な世界の学びは「多様性が理解できるようになりますよ」と説明しても、なかなか理解を得られない気がしていて。

※達成型(オレンジ)はひとつの正解を細部まで広げる機械のような組織。グローバル企業がこれにあたる。
※進化型(ティール)は、ひとつの生命体のようにフラットな関係性のもと、権限や責任を任される組織のこと。ある程度の秩序があり、メンバーは同じ方向を向いているが、それぞれの創造性は担保される特徴を持つ。

信岡さん 今後、進化型(ティール)に向けての学びをすることによって、人は稼げるようになるんでしょうか。

嘉村さん それは、間違いなく稼げるようになるという確信があります。ティールパラダイムにある企業を見ると、会社としての稼ぎも個人の給与も圧倒的に多い。

信岡さん それって、どうしてなんですか?

嘉村さん 自分たちは何が表現したいのか、何を表現したら世界が喜ぶのかというところから始まって、唯一無二のものを生み出しているからです。

信岡さん そうやって、付加価値を出しているから稼げるということですね。

嘉村さん それから、エネルギー効率がいいということもあります。

信岡さん と言いますと?

嘉村さん 進化型(ティール)より前の組織では、事業の本質以外のところに、かなりのエネルギーを使っていたんです。

たとえば、評価制度のことを考えてみると、マネージャーは評価をする以上、差をつけないといけない。でも、むやみに差をつければ恨まれる。だから、ていねいに面談をして、”評価すること”に膨大な労力をかけるわけです。マネージャーになって、畑違いの部署で評価をしなければならない場合などは、なおさらエネルギーを消費します。

ところが、ティールパラダイムでは、事業の本質に関係ないところに使うエネルギーは全部無駄だと考えます。そのエネルギーを、すべてお客さんの喜びとか社会を驚かせるために使うので、ものすごいパワーになるというわけです。

ティール組織の実例として、オランダで地域密着型の在宅ケアサービスを展開しているビュートゾルフという組織がある。

ビュートゾルフには管理職が存在しない。看護師からなる10〜12人のチームごとに、管理業務全般をおこなっている。チームの方針や優先順位を決め、問題を分析し、計画を立て、メンバーの実績を評価するという仕事は、メンバー間で分担する。

2006年に4名でスタートし、現在では1万人を超える看護師を擁するオランダ最大の介護組織に成長した。その成長には莫大なコストがかかっているにもかかわらず、売り上げの7%にあたる利益を出している。

医師や患者の評価が高いのはもちろん、ここで働く看護師の満足度も高い。

嘉村さん ただし、”稼ぐこと”を目指すと、進化型(ティール)は実現できないというジレンマもあって。「ティールパラダイムに身を置けば生き残れるだろう」という動機からティールを学んだとしても同じ結果を得られるかは、ちょっと疑問ではあります。

信岡さん 自分たちは何が表現したいのか、どう表現したら世界が喜ぶのかというところからスタートしないといけないんですね。

嘉村さん 日本の教育の話でいうと、たとえば、探究学舎が一切受験に媚びなかったっていうのは、ものすごいチャレンジだったと思います。

それまでの塾は、東大に何人合格した、京大に何人合格したっていうものさしでサバイバル戦をしてきた。そのなかで、「探究」に焦点を当てた塾を始めるというのは、相当な勇気とリスクと覚悟を持ってやったと思うんだけど、結果として全国から子どもたちが学びにくるようになっています。

意思決定をするときに、サバイバルモードのスイッチを切るのってすごく難しいんです。そのなかで、サバイバルモードじゃない意思決定ができたら、希少価値が出ますよね。

“生きた社会”としての学校

信岡さん もし、嘉村さんが好きなように学びを設計していいとしたら、どんな学校をつくりたいですか?

嘉村さん ゼロベースで考えるなら、社会人大学院をつくりたいですね。

まずは、各分野で次のパラダイムを見ているような人を教員として迎えます。分野ごとに複数名ずつ、経済系で3人、教育系で3人、メディア系で3人といった具合に。

そして、ゼミ形式で、教員がどの学生を入れるかを決められることにします。ただ、教育系で入学した人も、メディア系の授業も受けられるというふうにしておく。

そして、その大学の運営は、担当分野の教員と学生たちで担ってもらうというようにします。

たとえば、教育系の専門教員3人と、そこを窓口として入学した20人の合計23人が社会人大学院の教育システムを考える。同様に、経済系とか金融系の人たちが学校の経営や外貨をどう稼ぐのかを考えたり、メディア系の人たちが情報秩序を整えて発信していくというのも含めて考えたり。

研究活動をするだけじゃなくて、学校を生きた社会として、世界のミニチュア版として、自分の分野で貢献するというイメージですね。

そうすると大学が会社みたいな感じになって、いろんな商品を持ち、ビジネスをし、お金も稼げるようになる。そのお金が、さらに研究に集中したい人の研究費になっていく。そんな社会人大学院をつくってみたいです。

ドイツにハイデルベルクという街があって、お城の残っている観光地でもあるんですけど、街の中にキャンパスが点在していて、学生が教科書を持って歩いているんです。その風景がすごくいいと思っていて。今言ったようなしくみの学校を、たとえば京都の街全体をキャンパスのようにしてできたらいいなとも思います。

嘉村さん ただ、学ぶ内容が”武器としての経済学”とか”武器としての組織論”とかになってしまうと、サバイバルモードが残っているという感じがします。もう少し自分の”Who am I ?”を問い、人の”Who am I ?”を聞けるような仕組みというのを内包したいなと思いつつ、まだそこまでは練りきれてないというところではあります。

新陳代謝を「しくみ」として組み込む

信岡さん 大学も、たとえば10年ごとに潰すことを前提にすれば、新しい何かがつくれそうな気がします。組織は自ら終わり方を設計できるものなんでしょうか。

嘉村さん 目的ベースで考えれば組織は死ねると思うし、少なくとも事業は終わらせることができますね。

ベルリンに行ったときに、建築系のアーティストの話を聞く機会があったんですけど、「みんな常設型のものをつくろうとしてばかりいる」と言うんですね。常設型のものをつくるには、お金もたくさんかかるし、その分、めちゃめちゃ考えなきゃいけない。だから、ありとあらゆるものを一時的な展示にすることを想定してつくって、みんなが喜ぶものができたときに、それを常設にしたらいいと思う、と。

嘉村さん 教育でいうと、校舎を持たない大学をつくれば、それができますよね。組織も同じで、3年か5年くらいで思いっきりルールを変えてしまった方がいい。

信岡さん さとのば大学は、寮を10年で5か所くらいつくりたいと思っていて。いずれ6つ目をつくるときには、1つ目を壊して、入ってくる人は自分で自分の物をゼロからつくっていいというところから始まるみたいな感じにしたいと思っているんですよ。

嘉村さん すごくいいと思います。

信岡さん たとえば、省庁についても、”2011年から2020年用”とか、”2021年から2030年用”みたいにしたらいい。担当の時代になったら権力をもつんだけど、最後の2年は譲りわたすフェーズに入っていくみたいな感じで、社会システムの中に新陳代謝のしくみを入れたらどうだろうと思うんですよね。

嘉村さん それでいうと、ティールの「風船モデル」というのがあります。変革の方法がいろいろある中で、既存の組織のままバージョンアップするより、風船が膨らんでしぼんでいくようにバージョンアップするというやり方です。ティール組織は新しくつくる方がまだ簡単で、変革していく方が大変なんですね。

まずは10人ぐらいで新しいパラダイムの実験を始める。そして、その実験が功を奏したら、10人を15人に増やして、またうまくいったら20人に増やして。そうやって膨らましていくと、1000人ぐらいの企業でも、次第に旧来のパラダイムの方がしぼんでいきます。最終的には、組織がティールとしてバージョンアップするというモデルです。

信岡さん その新陳代謝を内発的動機づけに委ねなきゃいけないみたいな話と、外発的動機づけでついついやってしまいそうなところから守らないといけないですね。

ティールは新しいものを生み出しているわけじゃない。

信岡さん ここまでティールの話を聞いていて思ったのは、ティール組織っていうのは、まったく新しいものというわけじゃないんだな、と。人類が”0”を発明した感覚に似てるというか。0って本来ずっとそこにあったんだけど、人間には1しか見えてなかったような感じ。前からひっそり、そこにあったと言うか。

嘉村さん そうそう。メタファーが変わるだけなんです。

オレンジパラダイムで機械主義のメタファーに染まっていると何が起こるかっていうと、うまくいかないときに、「直さなきゃ」とか、「改善しなきゃ」って思っちゃう。

信岡さん 機械の調子が悪くなったから修理しなきゃっていう発想ですね。不具合を解消するために「イノベーションが必要だ!」とか。

嘉村さん アメリカの教育的思想家であるパーカー・パーマー(Parker.J.Palmer)さんは、四季になぞらえて、うまくいかない状態を「冬」と表現しています。

夏、万物が生き生きとしていた時季から、冬、生命が息をひそめて本質に集中できる時季に移っただけなんだと。今は春に備えている時季だと考えるんです。

信岡さん そうすると、オレンジパラダイムのように「壊れかけているから直さなきゃ」と焦るのではなく、もっと豊かに考えられるんですね。

子どもたちに示したい理想を自分が生きていくこと

信岡さん:今後、未来の働き方や学びを考えていくにあたって、組織論の観点から大事にした方がいいと思われることはありますか?

嘉村さん 『ティール組織』の作者であるフレデリック・ラルー(Frederic Laloux)さんは本の中で、経営者がティールパラダイムに達しない限り、組織が進化型(ティール)になることは不可能だって言っていて、僕自身も本当にそうだなってつくづく思うんです。

『ティール組織』の著者であるフレデリック・ラルーさん ©Eiji Press, Inc.

嘉村さん ところが、最近、「ティール的な変更は現場からもできる」っていうことを主張する研究者が出てきました。

信岡さん それは興味深いですね。具体的には、どうすればいいんですか?

嘉村さん 現場からのティール的な変更には、3つのステップがあるというんですね。

ひとつめは、官僚主義中毒から自分が完全に抜け出すこと。自分は反官僚主義だと思っていても、官僚主義に染まっている人を見たときに、無意識のうちにマウンティングすることがあるかもしれない。それって、行動としては官僚主義の片棒を担いでいることになる。まずは自分も官僚主義に染まっているんだということに気づいて、そこから完全に抜け出すということです。

ふたつめは、人を物として扱うんじゃなくて、人を人として扱うこと。そうすると、共感してくれる仲間が広がっていくネットワークがつくれます。

3つめは、ハッカー集団のように今の組織をハッキングして変わっていくこと。小さな実験を繰り返すということです。

この3つのステップを踏めば、組織は現場からも変われるというんです。

その組織の中心メンバー自身が変化し、自分が関わる人を”抵抗勢力”だとか”賛同者”だとかって仕分けるんじゃなくて、それぞれ、”山田さん”とか”田中さん”とかといった個人として接するということ。そして、自分が失敗を認めて、謝って、成長していくことですよね。子どもたちに示したい理想を自分が生きていくこと。

信岡さん 究極は自分からなんですね。

嘉村さん そう。それがティールの根本的なところなんです。

(対談ここまで)

信岡さん 今回あらためてティール組織の話を聞いて、そもそも人が持っている創造性に対する信頼がすごいなと思いました。人は社会や他者に貢献したい生き物として人間を捉えている感じがすごいある。その前提にたった上で、それだけだとどうしてもうまくいかないところを仕組みとしてサポートするための工夫が、いま生まれているのだなと。一方でオレンジ的な組織の価値観はやっぱり人は放っておくと怠けるとか悪いことをするという感覚で、その前提が人の本来の創造性を制限している部分はとても大きいのではないかと。

一方で、だからといってすぐにできるものじゃないというか。対談にもある「サバイバルモードのスイッチを切って」というのがめちゃくちゃ難しいのも事実としてあります。みんながサバイバルモードのスイッチを切り始めれば自分もそれを切るのは楽になると思うのですが、みんながまだサバイバルモードのままで自分だけ切るというのはすごく勇気がいりそうです。

ちょっと逆説的ですが、だからこそ、まずは自分たちの小さなチーム・コミュニティから、できるところのサバイバルモードのスイッチを少しずつ切っていって、結果としてみんなでモード切り替えが簡単になっていく。そんな一歩を踏み出せたらいいなと思いました。

そのためにも、サバイバルモードでないときのチームとしての成功体験ってやっぱり学校というか、「仕事の場」よりも「学びの場」でのほうが実験しやすいと思うので、改めて、そんな成功体験を持っている人が「さとのば大学」などを通じて増えていくと、みんなで生きやすい世界が広がるかなという希望をもらいました。