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やりたいことを見失わないように、自分的職業を見つける。和える・矢島里佳さんの「いかしあう働き方」とは? – いかしあう働き方研究室レポート –

働くなかで、
「本当に自分がやりたいことと離れてしまってるな」
「人とのつながりを損ねてしまっているな」
「利益を重視するあまり、環境に負荷をかけてしまっているな」
と感じることはありませんか?

「いかしあう働き方」とは、それらの逆。「自分・人と人・地球」という、いかしあうつながりを構成する3つの要素とつながる働き方です。こうした働き方は、これまでの成長や効率を重視した働き方がひきおこす弊害を乗り越える、持続可能な働き方として、今後必要になっていくはず。

では、どのようにしたら「自分・人と人・地球」それぞれといい関係を持つことができるのでしょうか?

「いかしあう働き方研究室」は、ゲストのトークとワークショップをもとに、少人数で「いかしあう働き方」を探究する場。まずは「自分とつながる編」と題し、2020年6月から7月にかけて、14人のメンバーが「自分とつながる働き方」について探求していきました。

今回は、4回のゲストトークのうち、株式会社和える代表取締役の矢島里佳さんによる「自分とつながる働き方」についてのトークの一部をお届けします。

矢島里佳(やじま・りか)
株式会社和える 代表取締役。1988年生まれ 東京生まれ、千葉育ち。慶應義塾大学法学部卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。職人と伝統の魅力に惹かれ、19歳の頃から全国を回り、大学時代に日本の伝統文化・産業の情報発信の仕事を始める。大学4年時の2011年3月、「日本の伝統を次世代につなぐ」株式会社和えるを創業。日本全国の職人と共にオリジナル商品を生み出す“0歳からの伝統ブランドaeru”を立ち上げ、東京・京都に事業拠点を立ち上げる。その他、日本の伝統を暮らしの中で活かしながら次世代につなぐ様々な事業を展開。

赤ちゃん、子どもたちに日本の伝統を伝える。

2011年、大学4年生のときに株式会社和えるを創業して、いま9年経ったところです。私自身は和えるを会社というよりは自分の子どもだと捉えていて、「和えるくん」と呼び、息子のように9年間育んできました。

もともと、起業家になるつもりはなく、ただ自分自身がやりたいジャーナリズムを追求していました。私がやりたいことは何だろうと、ずっと自分と対話をしてきました。

その中で出てきたやりたいことが、日本全国の伝統産業の職人さんと一緒に、「赤ちゃんや子どもたちに、日本の伝統や先人の智慧を伝える」という仕事です。 でも、赤ちゃんや子どもたちに日本の伝統を言葉だけ伝えるのは難しいのではないかと思いました。もっと子どもたちに伝わりやすい方法があるはずだと考えていたのです。

そこでたどり着いたのが、「モノを通して伝える」ということでした。モノを通して伝えることも、ジャーナリズムです。つまり、赤ちゃん、子ども向けの伝統産業品を職人さんとつくる。そして、そこでつくった物を通して、日本の伝統文化を伝えられるジャーナリストになるというのが、私のやりたいことなのだと確信しました。

まず自分と対話して、何がしたいのかを考える。

私が生まれたのは1988年で、ちょうどバブルが絶頂から落ちるあたりの頃なんですね。そんな社会状況のなかで育ったので、安定というのは社会が提供してくれるものではなく、自分の心次第で決まるんのではないかと思いながら育ちました。

そうであれば、自分の心を平穏にしてあげることが安定につながるし、違和感のある仕事を自分に強いる必要はないのではないかと考えました。自分に素直に生きられる、納得できる仕事をしたいという思いが自分の根底にありました。

そんななか、私は自分自身や様々な世代の人たちとの対話を通して、思考を深めてきました。ただ、いまの社会では、自分との対話の大切さが忘れられているのではないかと感じています。

社会と向き合うときに、まず自分と対話をしておくと、不安になるとか、ブレてしまうとか、そういうことがあまりない。なぜなら、自分と対話しきって、こうしたいという意志が自分のなかで決まっているからです。まずは自分と対話することが大事。私はずっとそうやって生きてきてると思います。

自分の感情を無視せず、ちゃんと受け取ってあげる。

私が考える「いかしあう働き方」をつくるための3つのキーワードのうち、まず「自分に素直に生きる」ということについて、お話ししようと思います。 これは、自分の中で感じているやりたいという気持ちや、やりたくないという気持ちを無視しないということです。ポジティブなものでも、ネガティブなものでも、自分の感情を無視しないでちゃんと向き合ってあげてほしいです。

人生の中での大事な決断については、自分の気持ちに素直にした方がいいですし、普段も社会との折り合いを大切にしつつ、自分の気持ちを出した方がいいと思います。ただ、それを出さないほうが自分に素直にいられるなら、出さないこともあります。

もしも、感じたことをその場で出してもしょうがないと感じたら、それを出せる他の場所に行くのもいいですね。中には主張しても意味がないような場もあるかもしれませんので。そういう時はそのように意思決定した上で、自分の感情を表さずに、でも、ちゃんと受け取ってあげるといいと思います。

やりたいことを見失わないように、自分的職業を考える。

2つ目のキーワードは、「社会的職業と自分的職業」です。社会的職業というのは社会から見た肩書きのことで、自分的職業というのは自分自身がぴったりとくる肩書きのことです。例えば、私は社会的職業としては起業家とか社長になると思います。 ただ、私の中での自分的職業は起業家でも社長でもなくて、やっぱりジャーナリストなのです。

とはいえ、社会の人たちから起業家だと思われていてもよく、「私はジャーナリストなので起業家と呼ばないでください」とは言いません。それは、社会の人たちにどう呼ばれようとも、自分的職業を自分自身で押し殺さないことが大事だと思っているからです

もしも、自分的職業を考えていなかったら、「日本の伝統を次世代につなげたい」という原点より、利益をあげることを優先してしまうかもしれない。

でも、和えるでやりたいことは日本の伝統を次世代につなげるということで、あくまで利益は継続のために必要なだけなのです。そう考えると、社会的職業しか考えていないと、本質から逸れて、本当にやりたいことを見失ってしまうのではないかと思っています。

調和のとれた「三方よし以上」を目指す。

3つ目のキーワードは、「美意識を育む」です。美意識を育むということは、美しいものがなぜ美しいのかを言語化することです。

私にとっての美意識は、「三方よし以上」という言葉で表すことができます。近江商人の言葉で「売り手よし、買い手よし、世間よし」という言葉がありますよね。今だとステークホルダーが多く、四方とか五方になっていると思うので、「三方よし以上」と私は表現しています。

つまり、「三方よし以上」というのは、多様なステークホルダーの間で不協和音とか無理がない状態のことで、それが私にとっての美しい状態です。自然界ではその「三方よし以上」が実現されているので、私は美しさの原点は自然界にあると思ってます。

だから、私にとって自然の中に身を置くことは意識的にしますし、すごく大事なことです。人工物に囲まれている状態では、美意識や感性、感覚が閉じてしまう。だから、自然のなかで、そういったものを思いっきり開くということが大切なのだと思います。

和えるのビジネスモデルも、「三方よし以上」で文化と経済を両輪で育み、日本の伝統が次世代につながる事業しかやらないという美意識に基づいて設計しています。

(構成: みやまともき)
(イラスト作成: ニッタシンジ