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子どもも大人も、全員が学習者。「寺子屋プロジェクト」が各地のお寺でつくる、分断のない教育環境とは。

江戸時代、子どもたちに文字の読み・書き、そろばんを教える庶民のための教育施設であった寺子屋。自ら学ぶことや学び合いが中心で、わからないところは友だち同士で教えあうことが、当たり前の風景としてありました。

そんな寺子屋のあり方を受け継ぎ、京都や東京のお寺で子どもと大人が学び合う現代版の寺子屋「Tera school」を開校しているのが、「NPO法人寺子屋プロジェクト(以下、寺子屋プロジェクト)」です。

代表理事の荒木勇輝さんに、「寺子屋プロジェクト」の活動と、今の時代に求められる教育のあり方について伺いました。

荒木勇輝(あらき・ゆうき)
1984年京都府生まれ。京都大学文学部卒業。2008年から13年まで日本経済新聞社に勤務。東京本社を経て京都支社に配属。記者として企業や大学、行政の取材を担当する中で、お寺と出会う。2014年、特定非営利活動法人寺子屋プロジェクトを設立し、子どもと大人が学びあう現代の寺子屋「Tera school」を運営。現在、京都市内3ヶ所のお寺を会場にしている。

小さな積み重ねの先にあった教育分野での起業

強い原体験があるわけではないんです。本当に小さな出来事の積み重ねで。身近な人が児童養護施設で働いていたり、僕自身が子どもの頃に一般の学習塾に馴染めなかったりしたので、教育で起業することは自然なことでした。

大学卒業後は、新聞記者として働いていた荒木さん。東京から京都支社へ転勤し、取材の中で出会い、仲良くなったのがお寺の方々でした。

たまたま若くて面白いお坊さんと出会って、一緒にご飯を食べに行くこともありました。時にはなぜか僕が、宗派を超えたお坊さん同士の食事会をセッティングすることもあって(笑) だから起業する時、お坊さんに声をかけたのも、特別なことではありませんでした。

そうした付き合いの中で、荒木さんが「寺子屋プロジェクト」の構想を話したところ、賛同するお坊さんたちが現れ、とんとん拍子に開校が決まりました。2014年、「青蓮院門跡」と「妙心寺 寿聖院」の2ヵ所で、一気にスタートしたのです。

当時は、新聞の折込チラシなどを用いて周知。その後は、口コミを中心に集まっています。

「全員が学習者」をコンセプトにした、お寺の学び場

Tera schoolのプログラムは、「学び合いコース」「プログラミングコース」、そして「探究コース」の3つがあります。コースによりますが、対象は未就学児から高校生まで。そこに、スタッフとして10代から70代の大学生や社会人のボランティアが関わっています。

コンセプトは、「全員が学習者」。子どもも大人も一緒に学びあう、先輩と後輩のようなナナメの関係性のある学びの場であることが特徴的です。

小学3年生〜高校生を対象にした「学び合いコース」。1回あたり120分/の授業のうち、前半80分は学校の宿題をしたり読書をしたり、長期目標に沿ったテーマ学習をしたりします。そして後半40分はグループワークの時間。和気藹々と交流しながら、子どもと大人の関わりを深めています。

小学3年生から高校3年生を対象にした「プログラミングコース」。2020年から小学校で必修科目になることが決まるよりも前の2014年から開講。「知り合いにプログラマーの方がいて面白そうだと思い、ゼロから一緒に教材をつくるところから始めました」と荒木さん。

小学1年生から6年生を対象にした「探究コース」。円通寺春日会館から徒歩1分のところにある鴨川をフィールドに、ネイチャーゲームなども取り入れながら自然と触れ合い、動植物の観察手法を学んでいます。

Tera schoolでは3ヶ月に1度、長期の目標を考える時間をとり、子どもも大人も1年後から10年後までの目標を相談しながら書いていきます。これは、Tera schoolが子どもも大人も自己実現に近づける場でありたいとの思いから。大人も発展途上ですからね。

ここでのキーワードは「職業なきキャリア教育」だといいます。

将来の夢を聞かれると職業を答える子が多いですが、重要なのは自分の好きな行為や性質を理解していること。「人を楽しませるような話をするのが好き」「コツコツ何かをつくって完成させた瞬間が好き」といったことを理解していることが、なりたい職業を持つことよりも大事だと思います。

ラベリングも分断もない環境づくり

2015年からは、就学援助世帯を対象にした寺子屋プロジェクト独自の「奨学生制度」を導入。通常「学び合いコース」なら月12,000円、「探究コース」なら月8,000円の月謝制ですが、奨学生制度によって、保護者の所得にかかわらず、経済的にも学力的にも幅広い層の子どもたちが「Tera school」に通えるようになりました。

保護者の方がお医者さんや大学の先生というご家庭もあれば、ひとり親で経済的に苦労されているご家庭もあります。学校の勉強についていくのが大変な子もいれば、進学校に合格してそこで上位の成績をキープしている子もいる。本当にさまざまな子たちが来てくれていて、この多様性は私たちの事業の価値の1つだと自負しています。

鴨川での探究学習の様子。子どもも大人も楽しそうですね。

異なる家庭環境の子どもが一堂に会することのメリットを、荒木さんはこう考えます。

福祉的な事業で、経済的に厳しい子どもたちのみを対象に無料で学習支援をするモデルもあり、もちろんそれにも価値があるのですが、子どもたちが引け目を感じてしまいやすく、大人も「助けてあげる」といった発想になりやすいという課題があります。

奨学生制度の導入は、経済的格差による教育の分断を防ぐことにもつながっています。

小学校・中学校・高等学校と進学するにつれて、どうしても経済面や学力によって子どもたちは分断されてしまいます。

分断は、保護者の方を利己的にしやすい側面もあります。特に教育熱心な方は、自分の子どもにとって良かれと思って塾や習いごとを選択しているうちに、親の方針に沿って子どもを動かしてしまうこともあります。そして、周りにも同じような考え方の人が多いのでそれを不自然とも感じない。でも、子どもがどう他者に貢献できるかを考えた方が、子どもの人生も社会も豊かになるんじゃないかって思うんですよね。

保護者の方も、自分以外の子どもとの関わりを持ち、何かしら価値を提供する経験をしてもらえたら、変わっていくことがあるんじゃないかと感じています。

京都から全国へ広がるTera schoolの仕組み

寺子屋プロジェクトの活動に注目した真宗大谷派(東本願寺)から声がかかり、2016年に始めたのが、開設相談から事業企画、継続的な運営までをサポートする「寺子屋開設支援事業」です。

総務省の「宗教統計調査(令和元年度)」によると、全国にお寺は7万6000ヵ所。コンビニエンスストアが約5万5000件(JFAコンビニエンスストア統計調査月報 2020年7月度)ですから、いかにお寺があちこちにあるかわかります。

過去には青森や福井のお寺で、寺子屋開校のためのノウハウを提供してきました。

例えば、青森にある「真宗大谷派蓮心寺」では、冬休み・夏休みの宿題合宿を開講。お寺の講堂で、小学生が宿題に取り組める環境を提供しました。主催はお寺ですが、ボランティアとして門徒さんたちや地元の大学生や高校生が関わってくれたそうです。

合宿と言っても日帰りですが、午前中は大学生や高校生のお兄さんお姉さんに見守ってもらいながら宿題をして、お昼ご飯は門徒さんのおばちゃんたちがつくってくれたカレーライスを食べて、午後はお寺の境内で遊んで。子どもたち、保護者の方たち、スタッフとして参加した皆さん、いずれからも好評でした。

青森で開催された、「宿題終わらせよう合宿」の様子。門徒さん・大学生・高校生など多様な方がボランティアスタッフとして参加されています。

この事業で開催されるプログラムは、各お寺の持つネットワークによってさまざま。能の体験や盆栽ワークショップなど、ユニークなプログラムも特徴的です。

真宗大谷派岡崎別院で開催された、能のワークショップの様子。気軽に日本の伝統文化に触れるきっかけにもなっています。

多くのプログラムは、お寺さんのご厚意で無料です。一緒に事業をさせていただいて、お寺さんは非営利団体であることが骨の髄まで染み渡っているのだと驚くことが多いですね。

私たち非営利団体でも、普通は赤字になる事業は行いにくいのですが、お寺さんの間では、子どもたちのために年間いくらまでなら予算を出そう、と考えられることもめずらしくありません。ボランティアの方に対しても、イベント終了後にお菓子やお茶を振舞うといった形でお返しをされるなど、損得勘定なしに社会貢献活動をできることは、お寺さんの面白さですし、可能性を感じるところでもあります。

公教育と補完し合う関係を築きたい

2020年度から改定された小学校の学習指導要領には、“生きる力”を育むため生徒自ら主体的に学習する「アクティブ・ラーニング」が推奨され、それに伴いTera schoolでの学び方のような探究型学習への関心も高まりを見せています。

荒木さんは、Tera schoolと公教育の関係性をどう捉えているのでしょうか。

よく違いを聞かれるのですが、最近では公教育の指針となる学習指導要領も私たちが共感しやすいものに変わっており、実は目指しているところは近いと思います。ただ、学校の制度的に限界があるのも事実です。そこを補完する役割として、Tera schoolがあればいいと考えています。

補完関係としてTera schoolが担う役割だと意識しているのは、例えばこんなこと。

一般的な学校の授業では、1人の先生が35〜40人の生徒に授業を行うことが多いので、どうしても子どもたちの発話機会が少なくなります。

一方Tera schoolは、子どもと大人合わせて10名ほど。全員の顔を見ながらコミュニケーションがとれます。最近、チームの中で自然体の自分をさらけ出すことができる“心理的安全性”が企業関係者の間で注目されていますが、どんな意見を言っても受け止めてもらえる安心感を得たことで、初めはシャイに見えた子が自分の言葉で堂々と話してくれるようになったケースも多いです。「学校では全然発言しない子なのに」と保護者の方に驚かれたこともあります。

日頃からグループワークを繰り返し、信頼関係を積み重ねることの大きさを実感しています。

Tera schoolでは、自分のことを安心して話せる対話の時間を大切にしてきました。

新型コロナウイルス感染症の広がりを受け、2020年春からオンライン授業も取り入れているTera school。「オンライン化が進み、チャットなどでのコミュニケーションが増えたことで、よりフラットな関係を築きやすくなった」と荒木さんは続けます。

対面で話すのが苦手な子どもたちも、チャットのコメント機能だと積極的に発言してくれることがあります。学校の授業を受けて考えたり疑問に思ったりすることはあっても、大人数ゆえに発言を抑制している子どもは想像よりも多いのでしょうね。

2020年9月現在、「学び合いコース」は、実地とオンラインから選べる体制で開講中。週に1日は実地、そのほかに1〜2日はオンラインで参加する子どもが多いそうです。

大きさよりも、深さを求めて広げたい

探究型学習へのニーズが高まる今、荒木さんは寺子屋プロジェクトのビジョンをどのように描いているのでしょうか。

組織を大きくしたい気持ちはそれほどありません。創業から7年、自分たちがやってきたことの価値を掘り下げて、いろんな組織の参考事例の一つにしてもらえるようにしたい。それを寺子屋開設支援事業のパートナーさんたちに活かしてもらい、Tera schoolの仕組みを広げていく方向で考えています。

また、「教育を不安ビジネスにしたくない」とも続けます。

「子どもの将来が不安だから、プログラミングや英語を学ばせないといけない」などと、子どもが学ぶことを不安から選択するのは違うと思うんです。子どもがいかに育つかは、保護者がありのままの子どもを受容できるかどうかで決まると思いますから。

日本社会では長らく、いい大学に入っていい会社に入ることが成功であるとされてきました。しかし、荒木さんは、いろんな生き方が尊重される社会であってほしいと願っています。

僕はもともと、元気なおばちゃんが切り盛りしているような下町の定食屋などに行くのが好きです。おばちゃんたちはもしかしたら経済的に豊かではないかもしれませんが、人に前向きなエネルギーを渡せる人ってすごいなと尊敬しています。

「DJワークショップ」では、DJが曲を流すときに必要な知識を学び、体を動かしながらみんなで盛り上がりました。さまざまな仕事を知る機会にもなります。

いろんな生き方があるから、上ばかりを目指す生き方じゃなくてもいいんです。僕にはもうすぐ3歳になる息子がいるのですが、人に迷惑をかけない人、何かしら他者に貢献できる人になってくれたら十分だと思っています。親として、「○○を身に付けるために○○をしなきゃ」という発想はできるだけなくして、のびのび子育てを楽しみたいです。

教育の分断を生み出すのは、制度や仕組みだけではない。保護者一人ひとりが我が子を思いより良い教育を求めた結果、経済力や学力によって子どもたちは分けられてしまう側面もあると、荒木さんは語ります。

もしそうなのだとしたら、私たち大人は「我が子にとって」を考えるだけではなく、視野を広げ「他者にとって」「社会にとって」を考えながら、子どもの選択肢を増やしていく必要があるのでしょう。

「全員が学習者である」とは、誰からも学ぶことがあるということでもあり、誰しもが他者に貢献できる何かを持っていることでもあります。本来、子どもの生きる力を伸ばすための特別な場は必須ではありません。

いつでも、どこでも寺子屋ができるとしたら、「私は子どもたちとどんな関わり合いをしたいだろう?」。一人ひとりが胸に手を当てて考えたい問いではないでしょうか。