自然が好きな人ならきっと一度は憧れる、北の大地・北海道。もしそこで、暮らすような旅ができたり、いつか移住するかもしれない視点でまちを知ることができたなら・・・。そんな希望を叶える「ゲストハウスオーナーによる北海道・旭川ガイド」後編です。
ガイドの舞台となる旭川市は、北海道のほぼ中央に位置する道内第二の都市。山々に囲まれた盆地地帯にあり、畑作や酪農だけでなく、最近は季節や朝晩の温度差が激しい特徴をいかして米の生産も盛んです。
中心市街地にはショッピングセンターやビルが立ち並んでいますが、車で1時間ほど走れば、標高2,291mの旭岳を中心に日本最大規模の大雪山国立公園があるという、手付かずの大自然と程よい都会暮らしの両方を身軽に味わえるまちです。
そんな旭川の隠れた魅力について、旅人とまちの生活を繋いでいる2人のゲストハウスオーナーに前編・後編に分けてナビゲートしていただく当企画。前編では、郊外にある「旭川公園ゲストハウス」のオーナー松本浩司さんより、市内北部の山麓で力強く生きる人々の営みをご紹介いただきました。
そして後編となる今回の旅先案内人は、旭川の中心市街地にあるゲストハウス「アサヒカワライド」のオーナー杉浦哲也さん。宿を始点として市内の南部や西部に焦点を当て、旭川で行ってほしい場所や会ってもらいたい人などを厳選してナビゲートしていただきます。
アサヒカワライドのオーナー。1976年生まれ、愛知県出身。北海道大学農学部で林業を学び、卒業後青年海外協力隊としてタンザニアで林業経営の指導に従事。北海道庁勤務を経て、2017年より旭川市地域おこし協力隊となり移住促進業務に携わる。2018年に中心市街地にゲストハウス「アサヒカワライド」を開業。趣味はバックカントリースキー。
アウトドア好きが集まるゲストハウス。
まちなかに位置する「アサヒカワライド」
JR旭川駅を背にして歩行者天国「平和通買物公園」を12分ほど歩くと、アサヒカワライドに到着します。杉浦さんは「アウトドアに興味がある人たちが集まるアクティビティセンターのような場所をまちなかにつくりたい」との思いからゲストハウスをはじめました。
館内にはスキーやスノボ、自転車を保管・整備するチューンアップルーム、登山用具のレンタルもあるなど、アウトドア関連の設備や環境を充実させている点がアサヒカワライドの特徴のひとつです。受付やリビングには移住関係の本も置いており、共有キッチンやリビングを利用しながら暮らすように長期滞在することもできます。
杉浦さんは昔からスキーが好きで、大学入学を機に憧れの北海道へ移住。北海道庁の林業担当者として道内各地で仕事をしていましたが、「もっと経営の現場を知りたい」と一念発起し、働きながら大学院に通い、MBA(経営学修士)の学位を取得したのだそう。
起業家や経営者など新たに出会った人たちの行動力に刺激を受けて、自分でビジネスを興そうと、旭川を含む上川地域のアウトドアシーンを盛り上げるべく活動を開始。2018年に空き店舗となっていた宿物件をリノベーションし、アサヒカワライドをオープンしました。
旭川の暮らしと自然の密接な関わり。
地元通おすすめの絶景スポット「就実の丘」
夏は緑豊かな山岳を縦走するトレッキングを、冬はスキーを担いで手つかずの山を登り滑走するバックカントリースキーを楽しむアウトドア派の杉浦さんが、旭川で行ってほしい場所として挙げたひとつが「就実の丘」と呼ばれるスポットです。
就実の丘は、旭川空港からほど近い農地に隣接した丘陵地帯です。大雪山や十勝岳連峰を見渡すことができ、旭川・美瑛の市街地の遠景まで見え、大パノラマが広がります。以前は地元の人に口伝えで教えてもらえるマイナーな場所でしたが、最近は絶景ビュースポットとして少しずつ知名度も上がっているようです。
丘一帯の景色だけでなく、丘の頂上へと続くアップダウンの連続した一本道そのものもまるでジェットコースターに乗っているかのようなダイナミックな景色で人気です。
杉浦さんはこの丘から見る光景を「自然以外に何もない丘ですが、旭川と自然の関係性をひと目でざっくりと伝えられる場所」と話します。大雪山の偉大さ、自然の恵みを受けて育つ畑の野菜や穀物、さらに田畑を営む人々の暮らし…。そんな土地の息づかいに思いを馳せながら、ゆっくりと時間を過ごしてみたい場所です。
観光地として整備されていないため、道しるべとなる看板が少ない不便さはありますが、そのぶん、晴れ渡る日に運良く訪れることができたなら、北海道らしい丘陵地帯と大自然の山々の魅力がよりくっきりと感じられるでしょう。
住所 旭川市西神楽4線31号
(※)駐車場なし。案内の看板がほとんどない場所なので、マナー遵守で見学を。
ギャラリーが点在する「北の嵐山」で
「淳工房」を営むガラス作家・菅井淳介さん
就実の丘で大パノラマを満喫したら、市内西部に小高くそびえる嵐山へ。嵐山公園は、エゾリス、アカゲラ、カタクリをはじめとした多種の動植物が生息している自然の宝庫です(ときにヒグマの目撃情報も!)。さらに、公園内の北邦(ほっぽう)野草園では600種類以上の野草が見られ、山頂の展望台からは旭川市街を一望できます。
嵐山展望台からのシティビューも素晴らしいのですが、麓にある「北の嵐山」と呼ばれるエリアもまた杉浦さんのおすすめの場所。ここには明治時代から陶芸を営む多くの窯元が点在し、以前は「陶芸の里」と呼ばれて親しまれていました。
その後、陶芸だけでなく、ガラスや染色の工房、工芸などのアトリエやギャラリーができ、さらに茶室やカフェ・レストランなども増えたことから、2010年から工房経営者たちが話し合ってエリアの名称を「北の嵐山」と改め、整備を進めています。ちなみに「嵐山」という名称は、明治時代この地を訪れた著名な歌人が「京都の嵐山の景色に似ている」と表現したことに由来しているそう。
北の嵐山には、案内看板やビジターセンターはあるものの、知らずに通りかかると別荘地と思わず勘違いしてしまうほどの落ち着きある雰囲気が漂っています。そのなかに佇む「淳工房」は、ガラス工芸を手掛ける菅井淳介さんによる工房兼ショップです。
木とガラスを組み合わせた代表作「木Glass(きぐらす)」シリーズは、旭川のお土産品として全国的にもファンが多く、今では道内のホテルをはじめとする各所の土産店や空港の売店などでも販売されています。よく見ると、アサヒカワライドの館内でも菅井さんの作品であるグラスセットとランプが使われています。
杉浦さん 協力隊時代に「旭川市のものづくりの現場を見る」という移住したい人向けのツアーをしたんですが、その時にランプを見て一目惚れして。ゲストハウスをはじめるとき、館内で使いたくて買いに行ったら、その時のことを覚えていてくれて。開業のお祝いとして木Glassをプレゼントしてくださいました。
アサヒカワライドから北の嵐山エリアまで、少しアップダウンはありますが、自転車で20〜25分程度で到着します。工房を訪れてじっくり自分好みの作品を選ぶもよし、杉浦さんのように偶然の出会いを大切にするもよし。どちらも旅の素敵な思い出になりそうですね。
人と人をつなぐまちのキーパーソン
「福吉カフェ」海老子川雄介さん
アサヒカワライドから自転車で5分ほどの場所にある「福吉カフェ旭橋本店」も杉浦さんのおすすめ。旭川八景のひとつである旭橋の近くに構えられた歴史建築「旧北島製粉所」をリノベーションしたカフェです。
美瑛産しゅまり小豆と宇治抹茶を使った看板ドリンク「福吉らて」のほか、旭橋をかたどった焼き型でつくられる「トキワ焼き」など北海道産の素材と手づくりにこだわったオリジナルメニューを展開。旭川家具を中心としたレトロモダンで落ち着いた店内は、フリーWi-Fi完備で、旭川の観光情報をまとめたリーフレットなども充実しています。
福吉カフェを営む海老子川(えびしがわ)雄介さんは、旭川の地域情報を発信するフリーペーパーの元副編集長で、観光振興と移住促進に寄与するまちづくりのキーパーソン的存在です。現在は3店舗のカフェを運営し、まちづくりに関するプロモーションやマーケティング事業のほか、フリーマガジン『Fillmore』も発行するなど多方面で活躍しています。
杉浦さんは海老子川さんとのこれまでを振り返り、こう話します。
杉浦さん 僕が旭川市で地域おこし協力隊の活動をはじめた初期の頃から、いろんな人を紹介してくれました。前職で築かれた関係性もあって、旭川のおもしろい方をたくさん知っていて。彼が出会わせてくれた方々のおかげで、僕も旭川の幅広い魅力を知ることができました。
カフェでゆっくりくつろぎながら、店内にある旭川情報のリーフレットなどをじっくり読んで、旅の計画をここで深く掘り下げるのも楽しそうです。旅先で、ゲストハウスのオーナーさんとお話したり、まちのコアな情報が得られるカフェに出会えると、旅の質がぐっと高まります。
博物館や文学資料館をめぐり、
異なる角度から旭川の解像度を上げる
アウトドア派の杉浦さんが意外にも!? 「ぜひ行ってみてほしい」と強調したのが、旭川市内に複数ある博物館や文学資料館です。旭川はアイヌ文化や、明治時代に北海道を開拓した屯田兵の歴史が色濃く残る土地。また、著名な作家が旭川を舞台に執筆作品を多く残したことでも知られています。
例えば、「アイヌの歴史と文化に出会う」をテーマに、旭川市をはじめとした北北海道の歴史や文化、自然にかかわる資料を数多く展示する「旭川市博物館」や、旭川ゆかりで日本の近代彫刻の歴史に大きく寄与した彫刻家・中原悌二郎を記念した彫刻専門の美術館であり、建築そのものも評価され、旭川市唯一となる国の重要文化財に登録されている「旭川市彫刻美術館」など。
さらに、旭川市出身の日本を代表する作家・井上靖を記念して建設された「井上靖記念館」や、『氷点』などの小説で知られる旭川市出身の作家・三浦綾子の活動を伝える「三浦綾子記念文学館」もあり、施設数だけでなくジャンルのバラエティも豊かです。
もうひとつ、珍しい資料館として、陸上自衛隊の駐屯地内にある北海道の開拓と防衛の歴史を物語る貴重な資料約2,500点が収蔵・展示されている「北鎮記念館」も見逃せません。
杉浦さん 旭川といえば、有名な旭山動物園の名前が挙がりがちですが、例えば旭川市博物館は、資料点数もたくさんあって、アイヌや旭川の地質・歴史とかがひととおり揃っているのでおすすめです。地味かもしれませんが、みなさん行くと満足して帰ってくるんですよ。
北鎮記念館では、希望者に自衛隊の方が資料を説明してくれるんです。30分、60分コースがあって、人気の漫画『ゴールデンカムイ(明治末期の北海道・樺太を舞台にした、金塊をめぐるサバイバルバトル漫画)』に第7師団出身のキャラクターが出てくるので、それに関わる話なんかもしてくれたりします。
旭川は「彫刻のまち」として昔から知られており、まちなかにも彫刻が点在しています。現在、約100基の野外彫刻が置かれているそうで、彫刻が市民の日常に溶け込んでいるのがわかります。「旭川野外彫刻たんさくマップ」を片手にまちをめぐるのも楽しそうです。
施設はいずれも、アサヒカワライドから半径5km圏内に位置しています。旭川の市街地はバス便も充実しているので、車がなくても比較的どこへでも行きやすいのも魅力です。
こうした施設を訪れて土地の成り立ちや歴史を知ると、単に観光名所で「きれいだな」と感心する以上の感覚を養うことができ、まちを見る解像度が上がるので、よりいっそう旅を楽しめるようになるのではないでしょうか。
旭川市博物館
住所 旭川市神楽3条7丁目(大雪クリスタルホール内)
開館時間 9:00〜17:00(入館受付は16:30まで)
旭川市彫刻美術館
住所 旭川市春光5条7丁目
開館時間 9:00〜17:00
井上靖記念館
住所 旭川市春光5条7丁目
開館時間 9:00〜17:00
三浦綾子記念文学館
住所 旭川市神楽7条8-2-15
開館時間 9:00〜17:00
北鎮記念館
住所 旭川市春光町 陸上自衛隊旭川駐屯地隣
開館時間 4月~10月は9:00〜17:00、11月~3月は9:30〜16:00
※定休日は各サイトをご参照ください。月曜日は休館が多いのでご注意を。
裏山感覚で、圧倒的な良質の雪と戯れる。
「バックカントリースキー」の大いなる魅力
杉浦さんは、旭川の魅力を趣味のバックカントリースキーに絡めてこう話します。
杉浦さん 自然は北海道であればどこにでもありますが、ここは特に圧倒的な雪質の良さがあるのが魅力ですね。あとはまちから簡単に行けて暮らしやすいところも。
冬であれば、近郊の名も知れぬ裏山のような場所でも良質の雪でスキーを楽しめるそう。スキー場も、近いところで車で15分、大きめのスキー場で30分ほど。手付かずの自然を楽しむバックカントリーですら40分程度で到着するという環境です。
バックカントリースキーの魅力は、ゲレンデスキーのように滑りだけを楽しむのではなく「自分の足で山を登りながら、雪を見たり、木を見たり、景色を見たり。そういう過程すべてが楽しめるところ」と杉浦さんは笑顔で話してくれました。
杉浦さん 私のようなゲストハウスの仕事であれば「朝、バックカントリースキーにパッと行って、それから昼過ぎぐらいに帰ってきて、午後から掃除して」みたいな生活もできますよ。
ブルーチーズと情熱で江丹別を世界一の村に!
「伊勢ファーム」伊勢昇平さん
さらに足を伸ばして、最後にもうひとり。バックカントリースキーつながりでご紹介いただいたのは、旭川市北西部の江丹別(えたんべつ)で「伊勢ファーム」を営む酪農家の伊勢昇平さんです。
実は、杉浦さんが冬に滑りに行く場所のひとつに伊勢さん所有の山があるそうで、今後は冬のガイドツアーなどで提携できたら・・・という楽しい構想もあるのだとか。
「ブルーチーズに命をかけている」という伊勢さんは、修行を重ね、若くして独自のブルーチーズをつくりあげました。彼の手掛けた「江丹別の青いチーズ」は、航空会社のファーストクラスの機内食に採用されるなど、高い評価を得ています。
杉浦さん チーズもすごいんですが、彼はその江丹別という地区を世界一の村にしようとする取り組みをしていて、もちろん彼だけの力ではないでしょうけど、レストランができたり、廃校を活用した大人の社会塾である「熱中小学校江丹別校」を誘致するなど、情熱的にいろんな人に地域の魅力を広めようとしている人です。
このブルーチーズは、前編・松本さんおすすめのカフェ「Cafe旭荘」でピザの材料としても使われています。気になった方は現地江丹別へ、またはカフェへと出かけてみてはいかがでしょうか。(めちゃめちゃ興味、湧きますよね?)
住所 旭川市江丹別町拓北214
営業時間 13:00〜17:00、土日祝10:00〜18:00
(※)定休日: 火曜日、冬季休業
Cafe 旭荘
住所 旭川市旭町1条2-439
営業時間 10:00〜17:00 ※定休日:日曜
圧倒的大自然も文化も、天気次第で自由自在。
懐深い旭川で上質で贅沢な暮らしを体感しよう
そして最後に、杉浦さんが四季を通じて「言うまでもなくおすすめ」として挙げたのが大雪山の最高峰・旭岳。旭川市内から車で1時間ほどで夏は登山、冬はバックカントリースキーができる大自然が待っています。体力に自信がなくても、大雪山旭岳ロープウェイを使って標高1,600mの高山地帯まで誰でも簡単に行けることも大きな魅力です。
どこに行くにせよ、自然のなかで遊ぶ際に最も重要なのが天気。その日の天気にぴったりあった旅程を組むと、旅の満足度もより上がります。アウトドアとインドアをバランスよく楽しめるのが旭川の懐の深さ。春〜秋にかけては自転車でまちめぐりも楽しめます。
前編・後編でお届けした「ゲストハウスオーナーによる北海道・旭川ガイド」はいかがでしたか? まだコロナ禍で遠出がしづらいご時世ではありますが、「寒そう」「動物園」「ラーメン」だけじゃない魅力たっぷりの旭川。ぜひご自身の「今なら行ける!」なタイミングで、旭川を五感で存分に楽しむべく直接訪れてみてください。
(※)文中で紹介している施設の情報は取材時(2020年8月)のものです。お出かけの際は、各リンク先のサイトにて最新情報をご自身でご確認ください。
(photo by 株式会社monogram.)
– INFORMATION –
旭川市では地域おこし協力隊を募集しています。協力隊は、就業でも起業でもない働き方。これまで培ってきた経験・実績、これから叶えたい夢や目標を手に、あなたらしいライフスタイルの実現を目指しませんか。(締切:2020年11月15日必着)
旭川の暮らしについて以下でもご紹介しています。ゲストハウスオーナーとの交流企画、旅するように暮らす特別滞在プラン等もこちらから随時ご案内します!