Dannebrog [the Danish flag]
デンマークの国旗、Dannebrog(ダナブロ)ほど、国民に広く愛されている国旗はないのではないだろうか? どの国でも、ほとんどの国民が自国の国旗を愛しているとは思うが、その愛がハンパないと毎度感じさせる国旗愛と国歌愛が、デンマーク人にもある。
デンマーク人は祝いごとに必ず国旗を飾る。
ほとんどの家庭の庭には国旗掲揚ポールがあり、誕生日や記念日、試験に合格した日など、祝いごとのある日には国旗を掲揚する。自分の家だけでなく、隣近所の家々もお祝いのために同じように国旗を揚げたりする。
庭や玄関先もダナブロで飾られ、室内も万国旗ならぬダナブロ飾り、お祝いのケーキにも念入りにミニサイズのダナブロで飾り付けをする。それだけではない。使い捨ての紙皿やナプキン、カップ、テーブルクロスなどもダナブロの絵柄入りが用意され、これでもか! という赤白推し、ダナブロづくしとなるのである。
クリスマスツリーにもダナブロが所狭しと飾られる。スポーツの国際大会では、各国のファンがそれぞれ自国の国旗を持ったり、国旗のフェイスペイントをしたりして応援する風景がよく見られるが、日常生活にここまで国旗愛があふれている国も珍しいのではないか。
現存する世界最古の国旗
「現存する世界最古の国旗」ともいわれているダナブロは、いかにしてデンマークの国旗となったのか? 歴史を紐解くと、ある伝説に行き着く。
それは1219年6月15日、エストニアの現在のタリン付近での戦いにおいて、劣勢だったデンマーク王のヴァルデマー二世の頭上に、なぜか空から一枚の旗が舞い降りた。その直後に形勢逆転し、勝利を飾ったというものだ。そのとき舞い降りてきた旗こそ、赤字に白の十字が描かれたダナブロであったといわれている。2019年はちょうどこの伝説の日から800周年ということで、国内の町のあちこちがカラフルなダナブロで彩られた。
ちなみにタリン(Tallin)の由来は、エストニア語の”TaaniLinn”、「デンマークの町」という意味の言葉が由来とされている。
ダナブロ(Dannebrog)の由来は、danne(ダネ)「デンマークの」、brog(ブロ)「布/旗」という意味合いと、danは欧州のフリジア語で「赤」「赤色」を意味し、古いデンマーク語にはdannebrogetという形容詞が「赤地に白のまだら」という意味で存在することから、「赤い旗」という意味の言葉に派生したとも考えられる。
デンマーク人とダナブロ
かつてダナブロは、デンマーク王とデンマーク海軍のものだった。それが徐々にデンマーク海軍と商船のシンボルとなり、1854年以降、一般国民が広くダナブロを使用することが認められるようになった。現在、王室や政府、国家機関、軍は一般的な長方形の国旗ではなく、片側が途中から2つに分かれて先の尖った形の燕尾旗(えんびき)を用いる。
エストニアでの伝説をもとに、1912年からは毎年6月15日を「ヴァルデマーの日」として祝う習慣が続いており、今でもその日は、道行くバスをはじめ様々な場所でダナブロが掲げられる。
国民は自由に国旗を掲げることができるが、以下のように厳密に守られている古くからの慣習もある。
毎日揚げるものではないので、国旗掲揚ポールに何も掲げられていないと寂しいと感じるデンマーク人も多いようだ。そういう人のためにVimpel(ヴィンペル)と呼ばれる、細長い三角形(ペナント型)のデンマーク国旗も存在する。ヴィンペルならば、ルールも日の出や日の入りも関係なく、一日中自由に掲げていられるので、デンマークの多くの場所で日常的に見かける。気楽さと同時に、いつでも国旗を眺めていられる嬉しさがあるようだ。
いろいろなデンマーク人に「あなたにとってダナブロはどういう存在?」と尋ねると、「愛の旗」、「楽しさの象徴」、「デンマークのシンボル」など様々な返事が返ってくる。
デンマークの空港に降り立つと、到着ロビーでダナブロを振りながら誰かの到着を待つたくさんの人に出会う。嬉しいとき、楽しいとき、そして悲しいときも、いつもデンマーク人を見守り続けているのが、赤と白のダナブロなのだ。
デンマーク人にとって自国の旗に愛情を持ち、大切にするということは、他の国にとっても国旗や国歌が大切で、尊重すべきものだという感情も自然に育んでいる。自国の旗を本当に大事にする人は、他国の旗を地面に叩きつけたり、破いたり、燃やしたりすることなど到底できるはずもない。
日本人の私も、同じ赤と白を日の丸という国旗の色にもつ者として、デンマーク人の国旗愛にはとても共感するものがある。
でも、日本人が日の丸を掲揚したり、日の丸を振るときの気持ちは、デンマーク人のそれとは少し違う、かすかなほろ苦さのような感情を伴う。子どもの頃はそうではなかったけれど、だんだんそうなってしまったのはなぜなのか。どうしたら、また純粋な気持ちで日の丸を振れるようになるのか、ぐるぐると考え続けている。
– INFORMATION –
ニールセン北村朋子 presents デンマークから学ぶ「いまを生きる手習い塾」
幸せの国・デンマークから学び、自分の心や社会と向き合い、大切にしたい暮らしや人生を考える。コロナウイルス感染症の拡大により、立ち止まることを余儀なくされた私たち。目まぐるしい日々では気づけなかった違和感や見て見ぬフリをしてしまっていた事実ともまっすぐと向き合う時間も増えてきました。
『NEW NORMAL』と呼ばれる新しい生活を考えるこの時代において、わたしはいつ涙するほど感動し、どんな時に心をぐっと動かされ、何を失いたくないのでしょうか。
どのような働き方や暮らし方を実現し、どのように生きていきたいのか。今だからこそ、わたしの心のうちなる想いに出会い、社会の痛みや苦しみに向き合い、改めて心や人生を考えられるのではないでしょうか。
未来に向かって歩き始めるために立ち止まり、呼吸し、整える。意思を持つ仲間たちと「共に立ち止まる学びの場」を提供します。