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オンライン化が進む今。未来の、都市と地域の暮らしかた・働きかたを妄想してみた。 #学習するコミュニティに夢を見て

こんにちは、信岡良亮です。連載「学習するコミュニティに夢を見て」いよいよ第10回目となりました。今回のテーマは、急速にオンライン化が進む中で「これからの都市と地域の働きかた、暮らしかた」はどう変わっていくのかについて、お話したいと思います。

「コロナ離婚」なんて言葉も聞くようになりましたが、オンライン化が進む中、みなさんはどう過ごしていますか?

僕の経営する会社はオフィスもありますが、基本をリモートワークにしていて、ほぼオフィスに集まる必要がない状態なので、オンライン化のこの流れで、さらにその世界観が進んだなあと感じます。そのようすをお伝えしつつ、みなさんと一緒にこれからの働きかたと暮らしかたについて考えていきましょう。

もう「ひとつのコミュニティ」にすべてを求める必要はない

都会にいる私たちの仕事や暮らしを振り返ってみると、ひとつの会社で稼ぎを得て、そのお金で家を借り、ご飯を食べ、趣味や遊びをしています。

会社で嫌なことがあっても、稼ぎがなければ暮らしていけなくなるため、我慢したり、会社の外でストレス発散をしたりして、誤魔化しながら働いている人もいるのではないでしょうか。中には、会社で満たされない承認欲求や自己実現を田舎で実現するために、関係人口として関わりを持っていることもあります。

しかし今、新型コロナウィルスが猛威を振るい、私たちは都市の人口集中に疑問を持ち始めています。スーパーも公園もたくさんの人がいて、家は仕事をする環境が整っておらず、部屋数が少ない家だと同居人との関係性もストレスが溜まるばかり。今までは利便性や刺激を都市に求めていましたが、暮らしに求めるものが少しずつですが、変わりつつあります。

「もっと広い家に住み、満員電車にもまれず、自然が近くにあり、食べ物が手に入りやすい環境で暮らしたい」

そんな声が周りからも聞こえ始めています。

実際に僕は、妻の実家がある宮城県角田市というところで暮らしていますが、東京の家よりも広い家に住んでいて、すぐに自然もあり、食べ物にもアクセスしやすい(この前は筍をとって食べました)。仕事はすべてオンライン上で行っていて、いろいろな方と「今後こんなことをしていきたいよね」と未来の会話もできていて、とても幸せです。

そもそも、今まで私たちはひとつのコミュニティにいろいろなものを求めすぎていました。

例えば就職活動をするとき、あなたは何を求めるでしょうか。

「稼ぎ」「どんな人と働くか」「自己実現」「立地」…これを会社で全て満たそうとするから、ややこしくなるんです。

僕はよく「マズローの5段階欲求」に当てはめて説明しているのですが、自己実現・承認欲求・所属欲求・安全欲求・生存欲求の5つをひとつのコミュニティで満たそうとせず、バラバラに組み合わせていくことがウィズコロナ時代の働きかた、暮らしかたにおいて必要になってくると思います。

稼ぎと暮らしのアップデート

本来、生存欲求や安全欲求といったものは、田舎のほうがしやすいです。しかし稼ぎと暮らしが密接に関わっていると、田舎に引っ越すことはイコール田舎で仕事を探すということになり、ハードルがぐっと上がります。そのため今までは都市に住み都市で働くことがよしとされてきました。

関係人口として田舎と関わったり、副業や小商いで自己実現や承認欲求を満たしても、9:1でまだ会社に求めるものが大きいのが現実です。

しかし在宅ワークに切り替わった今、さまざまな企業がオフィスの必要性を見直しています。職場の環境ではなく、暮らしのアップデートが必要になってきているわけです。

これまで貨幣経済によって安全や生存をつくり、お金を稼げる場所でしか暮らしがつくれなかったのが、この「お金を稼ぐ」部分をオンライン化することで、他の欲求を満たすための方法を1から考え直すことができるようになっていくのだと思います。暮らしも稼ぎもバラバラに好きなものをチョイスして編集するようなビュッフェ形式で、自分の世界をつくり直せるのだとしたら、ワクワクしませんか?

そうすると、マズローの5段階欲求はこんな風に変化するかもしれません。

生存・安全欲求は田舎で暮らすことで満たし、所属欲求は田舎のコミュニティやオンライン上で会社や友人、オンラインサロンといったさまざまなコミュニティに属することで満たす。承認欲求は田舎の草刈りや家族との関係性で満たし、自己実現はオンライン上でイベントを行ったり、田舎で小商いをやることで満たしていく。

オンライン化が進むことで、私たちの働きかたや暮らしかたの可能性がぐっと広がります。パズルのピースを変えるように、暮らしも仕事も自分で変えることができるのです。

ワンクリックでコミュニティを切り替えられる

突然ですが、イントラパーソナル・ダイバーシティということばをご存知でしょうか? ダイバーシティというと、ジェンダーや国籍、年齢といった外側にある多様性を指しますが、イントラパーソナル・ダイバーシティは「一人の中に幅広い多様性がある」という考えをいいます。

先ほど「ひとつのコミュニティで全ての欲求を満たすのは難しい」という話をしましたが、それは自分自身も同じです。「私」の中には子どもっぽい自分もいれば、内気な自分もいて、仕事で成果をバリバリ出したい自分もいれば、ちょっとこじらせてる自分もいます。幅広い多様性のある「私」の人格全てを、ひとつのコミュニティで出すのは難しいですよね。

でも複数のコミュニティならどうでしょうか。会社では成果をバリバリ出したい自分を、家族の前では子どもっぽい自分を、友人の前ではちょっとこじらせてる自分を、田舎では内気な自分を…というように、複数のコミュニティでさまざまな自分を表現していくのです。

さまざまな自分の人格をオン・オフで切り替えるのではなく、オンラインだとワンクリックで行き来することができます。

例えば僕の経営する会社だと、海士町のコミュニティやさとのば大学のコミュニティ、会社のコミュニティといった、仕事でも複数のコミュニティを行き来しますが、オンライン会議のミーティングURLをクリックするだけでシームレスにコミュニティと自分を変えることができます。

これ、もしオフラインでやりとりしようと思ったら、宮城から島根県の海士町にフェリーで行って、またフェリーに乗って岡山県西粟倉村でさとのば大学のミーティングをして、東京に戻って会社のミーティングをする…ということになるので、自由に行き来するにはちょっとしんどいですよね(笑)

「どんな未来を描いていて、それにむけて何をしてる人なのか」

オンライン化が進むことで、働きかたも暮らしかたもより自由になり、依存の苦しい世界が成立しなくなっていきます。自分の表現の仕方もオンラインで複数のコミュニティに接続することで、より自由になっていくと思うのです。

そうすると、今までは「○○会社の△△です」とDoの肩書きで自分を表現していたのが、「どんな未来を描いていて、そこにむけて何をしたいのか」というDoとBeを掛け合わせた、全体性をもった表現の仕方に変わっていくのではないかと考えています。

逆に言うと、ひとつの会社に所属していることの意味はすごく薄れるのかもしれません。物理空間として、◯◯社の社員であると自覚する時間は、とても短くなるし、下手するとPCを3台同時につないで、それぞれ別のチームの人と、常時接続しているようなこともおこるでしょう。

僕の会社で働くスタッフはみなパラレルワーカーです。複数の稼ぎをつくっていますが、職種だけみるとバラバラです。例えば僕の会社以外で販売やライター業をやっているスタッフがいるのですが、肩書きだけ見ると何をやっている人なのか全然わかりません(笑)

でも彼女は「ごきげんな人を増やしたい」という考えのもと、その人がごきげんになるための手段としてモノを販売したり、そのモノの背景を伝えたり、学びの場づくりをしたりしています。こうやって全体性を知ることで「どんな人なのか」が見えてきますよね。

スタッフ全員で共有しているカレンダーも、「さまざまな私の時間」が刻まれています。自分の欲求や複数の自分の表現先として、いろいろなコミュニティに属していることが分かります。

そうはいっても、この短期間で突然リモートワークになったばかりの方も多いと思います。オンラインでコミュニティを行き来する感覚がよくわからない、という方もいるでしょう。

そこで僕からの提案は、「一緒にコミュニティをつくる側になりませんか?」です。

オンラインでコミュニティメンバーになる感覚を身につける

コミュニティをつくる側といっても、リーダーシップをもって旗振りをするのが得意な方もいれば、そうじゃない方もいると思います。まずはオンラインコミュニティに入ってみて、その中で自分のサークルをつくってみるのはどうでしょうか。

僕の海士町のコミュニティに「ないものはないラボ(以下、ないラボと呼びます)」というものがあります。海士町には14の集落があるのですが、オンライン上に15番目の集落をつくろう、というのがないラボの理念です。

コミュニティメンバーである区民から区費としてお金をもらっていますが、そのお金は海士町をよくするためのお金として使います。予算委員会が2か月に1回開かれ、参加する区民それぞれが「こんなことに使ったらいいんじゃないか」という案を出し、予算委員会で決定します。

今までに立ち上がったものとしては、神社の積み立てに使われたり、修繕費に使われたりしています。そうすると、ないラボの区民が海士町へ遊びにいくと「いつもありがとうね」とコミュニケーションが生まれるのです。オンライン上での関わりなのに、親戚同士のコミュニティのようになりつつあります。

自分でコミュニティを立ち上げることは難しくても、区費をどう使うかを考えて提案することはできますよね。自分が立ちあげた案が採用され、それが島のためになる。海士町へ遊びに行くと「ありがとう」と感謝される。そういった小さな積み重ねがオンラインの感覚を身につける一歩だと思います。

このないラボのコミュニティ、手前味噌ですが本当に面白い場所になっています。普段リアルで会わない人もオンライン・コミュニティだと気軽に参加してくれるため、自分からは声をかけないような人とも関わることができるのです。

また、実際に地域に旅行をしてもいろいろな人に会うのって難しいですが、ないラボだと毎月島の人々と関わることができるので、関係性を築きやすく、リアルで遊びに行ったときに会いたい人も増えます。

オンラインだけ・オフラインだけにこだわるのではなく、オンラインもリアルと同じように関係性を築くことができると知れるだけで、これからの生きかたがだいぶ楽になると思います。実際に僕は本当に楽になりました。

オフラインだけの世界だと、子どもの教育にあわせて親が住む場所を変えたり、夫の仕事の都合で女性側も仕事を変えたり、働きかたと暮らしかたがセットだからこそ生まれる問題があったと思います。でもオンラインも併用することで、ビュッフェ形式のように好きな暮らしかたと働きかたを選べる世界になれば、今まで悩んだり苦しんだりしていた問題が一気に解決する、なんてことも起こり得ます。

そんな社会になるためにも、オンライン上で好きなメンバーのコミュニティに入れる感覚をもてることが大切になってくるし、ウィズコロナの今がレバレッジ・ポイント*だと思っています。僕はオンライン上でしか会ったことのない人もたくさんいるのですが(笑)、彼らとオンライン上でも一緒に遊べると分かっているから、楽しくいろいろなコミュニティに属することができています。

*レバレッジポイント…小さな力でも大きな変化を起こせるポイントのこと。

オンラインでコミュニティメンバーになる感覚を身につけるって、言い換えればオンライン上でも楽しく遊べる人を増やすということなのだと思います。

人をくじけさせるのも人だけど、人を勇気付けるのも人なのだなと、つくづく。