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インソールから、痛みのない社会を。予防医療に取り組む「ジャパンヘルスケア」が目指す、自分の足で歩き続けられる未来

みなさんは、足のトラブルはありますか?
たとえば外反母趾、扁平足、たこ、巻爪など…。

実は30歳以上の男性の50%、女性の75%がこうした足のトラブルを抱えていると言われています。

放っておくと足が痛くなったり、疲れやすくなったり、むくんだりと、さまざまな症状が起き、さらに悪化するとひざや腰も痛くなったり、歩けなくなったりすることも。

その原因は、足の歪み。
誤った歩き方や歪みによって、骨が変形していくのです。

つまり、歩き方と歪みを改善すれば、足腰の痛みはなくなります。
そこでインソールを使って予防医療に取り組む、「株式会社ジャパンヘルスケア」代表の岡部大地さんにお話を伺いました。

岡部大地(おかべ・だいち)
1986年奈良県生まれ。2012年三重大学医学部を卒業。初期研修修了後は総合診療医として幅広く診療していたが、2016年より千葉大学大学院で先進予防医学を専攻。2017年に株式会社ジャパンヘルスケアを設立し、代表取締役を務める。2018年から足の専門医である「足病医」に診療を特化する。

予防医療で痛まない世界をつくる

ジャパンヘルスケアは環境改善型予防医学で、筋骨格系疾患の予防に取り組むべく、2017年に設立されました。

ちょっと難しい言葉が並びましたが、「環境改善型予防医学」とは、病気を防ぐために生活環境を整えること。食生活や働き方なども含めて、病気にならない環境づくりをすることです。

歩き方もその一つ。ジャパンヘルスケアではカメラを使って歩き方を解析し、自分では見えない歩き方を可視化する「MIRROR WALK(ミラーウォーク)」を開発。

このシステムでは、マットの上を歩くだけで、画面上で自分の歩き方とその点数を確認できます。さらにAIがその人に合った歩き方も教えてくれるのです。歩き方について見直す環境があることは、普段も歩行姿勢を意識することにつながりそうです。


竹中工務店のオフィスで実証実験がおこなわれました。

そして、無意識に歩き方を整えるツールとして、インソールを開発。

足の歪みを予防する方法は3つあります。正しい歩き方をすること、足に合った靴を履くこと、そして自分の足に合ったインソールを使うこと。そのなかでもインソールは靴に入れるだけでいいので、気軽に治すことができます。

「HOCOH」のインソール。シンプルなデザインなので使いやすい。

ジャパンヘルスケアが開発したインソール「HOCOH(ホコウ)」は骨格矯正を目的としていて、一人ひとりの足に合わせてつくられます。

通常、骨格矯正のためのインソールをつくるには、専門の病院に通う必要があり、オーダーメイドなので金額も4〜5万円と高価なのが一般的です。

この「高くて面倒臭い」問題を解決すべく、「HOCOH」は3Dプリンタで製作。注文者はスマートフォンなどで足の写真を撮影し、送るだけでOKと、とても簡単。価格も18000円とリーズナブルに。

足の骨格を画像解析し、3Dプリンタでつくられたあとインソールが郵送されます。

「HOCOH」のインソールは3層構造になっていて、足に当たるカバーは和紙でできています。和紙は調湿性、耐菌性、防臭性も高いため、蒸れない・匂わないという効果が期待できるとか。

また、すこし硬いのも特徴。歯の矯正のように、正しい足の形に整えるため、あえて硬くつくられているのだそう。

人は片足だけで28個の骨があり、歪むことで痛みが生じます。それを、もとの場所に戻すと痛みが軽減されます。

インソールは下から足を支えて整えるので、とても効果的です。実際に患者さんがインソールを使ったところ、みるみるよくなっていったのを目の当たりにして、可能性を感じました。

現在、都内のクリニックで足の専門医としても勤務する岡部さん。

私自身も「HOCOH」を使用していますが、私の場合、普段は足の重心が外側へ向かっていたのが、インソールを入れると内側に正されている感覚があります。このまま矯正されていけば、O脚気味だった歪みも直りそうです。
(現在は外出自粛中のため、室内スリッパにて利用しています)

自分の足で歩き続けられるように

もともとは総合診療医として働いていた岡部さんですが、どうして予防医療のビジネスをはじめようと思ったのでしょうか?

医学部5年生のときに実習で透析センターに行ったのですが、そこに通っていた半分くらいが糖尿病を患っている人たちでした。糖尿病はちゃんと治療していれば透析には至らないんです。でも調べてみたら、透析患者さんの約30万人のうち約15万人はちゃんと治療していない糖尿病が原因だとわかって。

それで糖尿病の予防に取り組もうと思ったのですが、日本には糖尿病の専門医だけでも何万人もいるので、糖尿病に限らず「予防医療」に焦点を広げました。

自分にできることと、やりたいこと、そして社会のニーズが合ったので、予防医療をやろうと。一生かかってもできないかもしれないけど、とにかくやってみようと決めました。

予防医療の観点から、睡眠をテーマにしたワークショップやヨガ、瞑想、料理イベントなどを開催したなかで、特に歩き方に興味を持ったそう。

正しい歩き方を伝えるワークショップの様子。

そこで、日本に数少ない足の専門クリニックに行き、外来見学をさせてもらうことに。

診察のあと僕の足も診てもらったら、先生に「君、今日の患者さんのなかで一番悪いよ」と言われて(笑)

「インソールをつくったほうがいいよ」と言われ、すぐにつくって使ってみたら、すごく歩きやすいし、全然疲れなくて驚きました。7〜8年も予防医療の勉強と実践をしていたのに、ようやく気づいた瞬間でした。

それは、足のトラブルの原因が足の歪みから来ていること。そして歪みを整えるにはインソールが大事だということ。このことは世界でもあまり言われていません。

医療ではどの分野にも内科と外科がそれぞれあるのに、整形外科だけ「整形内科」はないんです。手術はできるけど、予防している人は少ない。国際的に広まる余地もない。ならば、自分がやろう。社会もこれから絶対に求めてくるだろうと思いました。

一方で、一医者としてできることって本当に少ないなと思っていて。患者さんが病院に来たときにはもう悪くなっているので、待っていないで、病院を出ないといけないと思い、ジャパンヘルスケアを立ち上げることにしました。

ジャパンヘルスケアのメンバーのみなさんと。

所得の格差が、健康の格差にも影響する

通常、病気や怪我などは個人の問題として捉えがちですが、岡部さんは「その人のまわりの環境にも要因がある」と言います。

たとえば足に痛みを抱えている人が肉体労働をしている場合、簡単に「仕事を休んでください」とは言えません。給料が減ったり、クビになるかもしれないからです。だから、その人は痛くてもその仕事を続けなければいけないし、さらに悪化するかもしれない。それって、その人だけの問題ではないと思うんです。会社や社会にも原因があり、構造や制度を変えていく必要があります。

また、所得の低い貧困層は、安価な米やパンなどの炭水化物を中心とした食生活になり、栄養が極度に偏って肥満になりやすく、結果として糖尿病などになりやすいと言われています。つまり、所得の格差が、健康の格差にも影響しているのです。(参考: 厚生労働省「国民健康・栄養調査」

こうした現実をふまえて、岡部さんはインソールだけでなく、足や歩き方についての情報発信や、立ったままMRIで筋骨格系の検診ができるシステムの開発など、さまざまな方法で環境改善型の予防医療に取り組んでいく予定とのこと。

経済的に苦しくても、忙しくても、歩くだけで自然と健康になっていく。そんな社会を目指して、岡部さんは「HOCOH」という一歩を踏み出しました。

誰でも自分に合ったインソールを手に入れることができれば、暮らしのなかで歪みが整い、痛みの予防につながります。

人生100年時代と言われているいま、健康寿命を伸ばし、自分の足で歩き続けられる社会を実現していきたいと思っています。

体の調子は悪くなってから気になるものですが、改善より予防が健康の秘訣。
まずは足元から、健康について見直してみませんか?

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こちらの記事は「greenz people(グリーンズ会員)」のみなさんからいただいた寄付をもとに制作しています。2013年に始まった「greenz people」という仕組み。現在では全国の「ほしい未来のつくり手」が集まるコミュニティに育っています!グリーンズもみなさんの活動をサポートしますよ。気になる方はこちらをご覧ください > https://people.greenz.jp/