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子育てしながら同居型民泊。いつもの暮らしを持ち合うことで価値が生まれる、”いかしあう住まいの開き方”を体験してきました。

みなさんは民泊を利用したことはありますか?

私は以前、ヨーロッパの7つの都市をめぐる旅をしたとき、それぞれの都市で同居型民泊を利用しました。ホテルに比べて宿泊費を安く済ませることができるからと民泊を選んだのですが、そこで暮らす人の実際の暮らしぶりを覗くことができ、ときにはまちの文化や歴史について話してくれるホストがいて、とても充実した旅になったことを思い出します。

greenz.jpを応援してくれている寄付会員、greenz people(以下、ピープル)と一緒につくる連載「greenz peopleに学ぶ ”いかしあう〇〇”」。第2回のテーマは「同居型民泊」です。茅ヶ崎の海まで徒歩10分の古家をリノベーションして同居型民泊を行っている、greenz people小倉奈緒子さんをピープルのみなさんと一緒に訪ねました。

同居型民泊ってなに? どうやってはじめるの? どんな苦労や楽しみがある?

小倉さんに聞いたお話と、生まれた対話、そしてそれぞれが持ち帰った学びをお届けします。

「取材同行遠足」とした今回。お昼には有機野菜たっぷりのランチをいただき、夕方には海へ。ファミリーや親子での参加が多く、集まった子どもたちは0歳から6歳まで9人! とってもにぎやかな現場となりました。

1: 同居型民泊ってなんだろう【同居型民泊の仕組み】

そもそも民泊とはなんでしょう。

ホテルなどの宿泊施設ではなく、個人宅の一部や、空室を宿泊場所として旅行客に提供するサービスのことです。急増する外国人旅行客の需要や、空き家活用へつながるとして、近年日本でも注目されています。

なかでも今回訪ねる小倉さん宅は「同居型民泊」。これは、ホストが同じ住宅内に住んでいて、住宅の一部を宿泊者に貸し出す運営スタイルのことです。生活している家に宿泊者を受け入れることになるので、さながらホームステイのような雰囲気といったらイメージが伝わるでしょうか。

こちらは小倉さんのお宅の一部。広いテラスと大きなブランコ。リビングにはプレイスペースとハンモックも。訪れた子どもたちもおおはしゃぎです。

まずはお客さんが来たら、ダイニングにお通しします。

座ってもらって、お茶をしながら家の説明をします。ルールはたった2つだけ「2階の寝室には入らないでください」「住宅街なので夜9時以降は静かにしてください」、以上です。あとは「自分の家のようにくつろいで楽しんでもらえたらうれしいです」と言っています。

次に実際に歩いてキッチンやお風呂の使い方を話しています。細かいルールがないほうが覚えやすいかなと思っています。

greenz peopleの小倉奈緒子さん

それでは小倉さんの案内で、ご自宅の中を探検してみましょう。

まずはキッチン。料理をする人もいるので、ひとつひとつ戸棚を開けてみせているそう。ゲストはコーヒーとお茶は自由に飲むことができ、冷蔵庫の一番上の段を使うことができます。

キッチンにあるゴミ箱には、分別がわかりやすいように書いてありました。中にはゴミの分別がない国もあるため、丁寧に説明しているのだとか。

続いてトイレとお風呂。ゲストがわかるよう、シャンプーやコンディショナー、ボディソープには英語のラベルが貼られています。

寝室は2つ。1つは1階の和風のお部屋。もう1つは2階の洋風のお部屋。1階のお部屋は小倉さん自身がDIYしました。

小倉さんが自らの手でDIYした1階のお部屋。

自分でペンキを塗って、畳を床に敷いて、余った部分には板を切って貼っています。和傘を飾ったり、着物の布を壁に貼ったりして和風な部屋にしました。外国の方はこちらの部屋を選ぶことが多いですね。

その他にゲストは書斎も自由に使うことができるそう。

大きな窓が開放的な書斎。ゲストはここで仕事をすることも。 

2: 準備はワンステップずつ【同居型民泊のはじめかた】

それでは、次に同居型民泊を始めるための手順をご紹介しましょう。

・規定や条例を確認する
・住宅宿泊事業者の届出を行う
・ゲストが宿泊できる部屋、寝具など受け入れの準備をする
・宿泊料や、営業日数、受け入れるゲストの数を決める
・仲介サイトへ登録する

まずは、規定や条例を確認します。例えば、住宅宿泊事業法には住宅の設備要件として「台所、浴室、便所、洗面設備が備えられていること」などの条件があります。それに加えて各市区町村では条例があり、中には平日の実施がほとんど不可の地域も。(各自治体の条例制定状況についてはこちら

またお住まいのマンションが民泊を禁止している場合はそもそも始めることができません。これらの必要事項が満たされて、民泊をはじめることができる状態かどうかを確認しましょう。

続けて、住宅宿泊事業者の届出をします。

こうした規定、条例や届出の方法については、国が提供している民泊制度ポータルサイトや、お住まいの市区町村のウェブサイトを確認してみてください。

茅ヶ崎市にお住まいの小倉さんの場合、保健所に行くと必要な書類や気をつける点など、細かい手続きについて教えてくれたそう。窓口の案内で、水道のことやゴミのことなど、各事業部にひとつひとつ話を聞いて準備を進めます。「ワンステップずつ進むので手間はかかると感じるけど、できないことはない」というのが小倉さんの実感とのこと。

民泊制度ポータルサイトには、民泊事業を行う人や利用者に向けて説明があります。この他にも、各市区町村で独自の条例があるので確認を。

晴れて開業できることになったら、次にゲストが宿泊できる部屋を整えます。非常用器具や鍵、寝具やタオル、食器などの手配も必要です。さらには、ゲストと一緒に使うもの(キッチンやゴミ箱、シャンプー・リンスなど)に英語表記を付け、案内のパンフレットなどを準備しましょう。

次に、宿泊料や営業日数などを考えます。近くで先に開業している民泊の宿泊料が参考になるので、ぜひリサーチを。

なお、受け入れられるゲストの数は、「居室の宿泊者1人あたり床面積3.3平方メートル以上」と定められているため、寝室の面積からおのずと決まってくるとのこと。

最後に、仲介サイトへ登録を行います。小倉さんはAirbnbのみを使っているとのことですが、複数のサイトに登録することもできます。
あとは、ゲストからの問い合わせを待つのみです!

ちなみに小倉さんの場合、届出や準備にかかった期間は、ゆっくり取り組んで1〜2ヶ月ほどでした。追加で必要になった費用は、非常用器具や鍵、寝具、タオル、食器などの購入に約10万円程度とのこと。なお、民泊を始める前から取り組んでいた寝室のDIYは上記の費用とは別に25万円程度かかったとのことなので、部屋の改装が必要な方は、そのあたりの期間や費用も見込んで準備する必要がありそうですね。

3: 大人も子どもも多様な価値観に触れる【同居型民泊で受け入れたゲストのこと】

小倉さんが民泊を始めたのは2018年のこと。これまでに、7カ国50名のゲストを受け入れてきました。

最初のゲストは中国の上海から。女性3名でした。ゲストがご飯をふるまってくれる場面があったそう。

彼女たちは夜8時ぐらいにチェックインしたんですけど、ふらふらでご飯を食べに行く気力もなさそうで。私たちご飯がまだだったから、うちの夕飯を一緒に食べたんですよ。そしたら、次の日お礼としてつくってくれたのが本格的な中華料理だったんです。

上海からのゲストと中華料理を囲んで。

これには小倉さんもびっくり。ちなみに上海では共働きが多く、料理をする男性も多いのだとか。「だからあなたも料理しなさい」と言われて小倉さんの旦那さんもたじたじです。

もちろん日本人のゲストもいます。なかには、なんと3回宿泊しているリピーターさんがいるのだとか。

たまたまこの方が民泊の運営会社で働いていて、集客の仕方を教えてもらったりしました。一緒に保育園にお迎えに行って、子ども食堂にも行ったんですよ。

日本人のゲストは旅行の他に、お試し移住で来る方もいるのだそうです。

さらに3歳と5歳、二人の男の子がいる小倉家には、子どもたちに会えることを楽しみにやってきてくれるゲストもいます。

これはドイツ人のカップルですね。子どもたちと遊んでくれました。

家族で来ていたフランス人の方たちは、旦那さんが仕事している間に奥さんと子どもが海に入って、というような過ごし方をしていました。

中国って母子留学が流行っているんですよね。お母さんと子どもで夏休みの間だけ日本のサマースクールに行っていて。これは家にセミが侵入してきたんですけど、それを捕まえて一緒に英語でセミってなんていうのか、何を食べるのか、うちの息子とその子がタブレットで検索していて。言葉が通じなくても一緒に遊ぶことができるんですよね。

一緒に過ごしてみると感度の合う人が多く、宿泊後に連絡を取り続けている人も多いのだとか。さらには、初対面の人だけではなく、以前からの友達も泊まりに来てくれるそうです。

民泊の制度を使ってオープンにすることで、友達も気軽に泊まりにきてくれるようになりました。それもはじめてよかったなと思っていることのひとつです。

4: 普通の暮らしをシェアすることが、いくつかの問題を解決してくれる【同居型民泊といかしあうつながり】

小倉さんはなぜ民泊をはじめようと思ったのでしょうか。「特段の決意があったわけではなく、なんとなくというのが正直なところ」と前置きしながら、このように話します。

イギリスに留学していたときにお金がなくて、フラットシェアというシェアハウスに住んでいたんですね。イギリス人、ブルガリア人、イタリア人、スペイン人と暮らしていたんですが、そうやって一緒に住む方がお金も安いし、楽しいし、家事も同時にできるから効率的だったんです。

それで日本に帰ってきてからも社会人1年目にときにシェアハウスに住みました。例えば洗濯物を朝干して、私の帰りが遅かったら誰かが取り込んでおいてくれる。そういうシェアする暮らしが楽しいし、学ぶことが大きいなと思っていて、その要素をどうしたら暮らしに取り入れられるか考えたときに、民泊だったらできるかなと思ったんです。

労働力や価値観を持ち寄る、シェアする暮らしの心地よさや楽しさを実感していた小倉さん。そうした暮らしを、今の生活の中で実現しようと思ったときにできるのが、民泊でした。

小倉さんは留学の他にも、旅行会社に務めたり、国際協力の仕事をするなど、これまで海外へ行く機会が多かったそう。現在は子育て中のため、頻繁に海外に行くのは難しいもの。それでも、民泊をすることで、家にいながら多様な人に出会うことができているといいます。

海外に行かなくても、子育て中でも、いろんな国の人と交流ができるのが一番のメリットかな。中国の経済事情を聞いたり、ドイツの保育園事情を教えてもらったり。情報交換ができるのが面白いですね。暮らしぶりを間近に見ることで、彼らのカルチャーを知ることもできます。

小倉さんのご主人は、グローバル展開をしている転職会社にお勤め。海外のカルチャーや価値観を聞くことができるのはご主人のお仕事にもプラスに働いているのだとか。

ちなみに民泊を開けているのは春から秋(3月〜10月)まで。冬に閉めているのは、寒いのと小倉さん自身がオープンな気分ではないからとのこと。制度上、民泊を受け入れる期間に制約はないため、この「気分が乗るかどうか」というのも継続するための大事なポイントのようです。

受け入れるのはひと月に3組までにしています。最初は予約が入るままに受けれいていたんですけど、一ヶ月経った頃に夫が「ずっと誰かが家にいるのはしんどい」と教えてくれて。言われてみて、そういえば私もそうだって気づいたんですよね。それですぐに、ひと月に最大3組までというルールを設けました。私たちにとっては一番楽しんでできるペースだなと思っています。

ゲストがお子さんの面倒を見てくれることもあって、子どもへ多様性を伝える教育としても良い影響があると感じているそう。さらには、子育て中だと家を頻繁に空けることができない、というデメリットと捉えられるようなことも、民泊をしていれば、家にいることがメリットになります。

一方で大変なことは、掃除や布団の洗濯。

家が広いので掃除は大変だけど、民泊をすることで、掃除が家事から仕事になるんです。普段家事をしていて褒められることなんてないんですが、これを頑張ったら収入がある、と思うと頑張れます(笑)

「ゲストとの相性によってはもしかして辛いこともあるかもしれません」と話しますが、小倉さん自身は嫌な思いをしたことはないそう。文化の異なる人を受け入れるとなると、騒音やマナーが心配されることが多いですが、小倉さんがこれまで受け入れて来た人たちはマナーもよく、静かに生活していたといいます。

相性の良い人が来てくれるよう、受け入れの時点で工夫していることはあるのでしょうか。

きちんとデメリットも伝えることが大切かなと思っています。うちは子どもが二人いてとにかくにぎやか。あとは駅から15分歩きます。そういうのは正直に書いて、事前にコミュニケーションをとって、わかってくれている人しか受け入れないようにしています。

キッチンを汚されると嫌だ、という気持ちでいると大変なことはあるかもしれないですね。でも私はお金を払ってもらっている時点で所有権は自分にないと思っているので、そういう気持ちでいたら楽です。

誰かと暮らしをシェアすることは、ひとつではなく、いくつかの問題を同時に解決してくれる。まさにそこに「いかしあうつながり」が生まれると感じているそう。

普通の暮らしが子どもの英語やダイバーシティ教育にもなるし、人との交流ができて、収入にもなる。家にいなければいけないというデメリットも、受け入れられるメリットになる。家を開いて人を受け入れることで、一石何鳥にもなっているように感じています。

5:特別なおもてなしではなく、いつもの暮らしにこそ価値がある【同居型民泊を知って得た学びのまとめ】

小倉さんの家を体験し、お話を聞いて、ピープルのみなさんはそれぞれどんな学びを得たのでしょうか。最後は学びのシェアの時間です。

頑張らずに、仕事と家族の暮らしを並行してやっているのがすごいなと思いました。頑張らないから続くのかなというのが学びでした。

「気分が乗らないときには開かない」。そんなスタンスには、多くの方が自分にもできるかもしれない、と感じたようです。

民泊って思っていた以上に気楽に始められるんだなと思いました。海外旅行に行かなくても、民泊を通して外国の人やいろんなことをしている人と会えるというのは、新しい価値観に触れるチャンスが広がりそうでいいなと感じました。

あんまり民泊をすることは考えてなかったんですけど、話を聞いて毎日やる必要ないことや、準備に必要な段取りもイメージできたので、いつか選択肢として考えてもいいなと思いました。

子連れでの参加者が多かったため、子どもがいて家にいなければいけないからこそのメリット、「デメリットがメリットになるデザイン」に目を向けている人も。

子どもが小さいときって誰かに来てもらえると子どもから手が離れて楽だし、いろんな人が場所を一緒に楽しむ空間をつくってみたいなと夢が広がりました。

自分が家で仕事をしていて、さらに家を開くことでもう一つ仕事になるというのはいいですね。

子育て中だと、家に泊まりに来て、と言っても気を使われてしまうことがある。でも民泊という形で公にしてシステムやお金を介すると、友達にも泊まりに行きやすいなと思ってもらえるかもしれないということに気づきました。

さらには、小倉さん自身の態度や考え方からも学びがありました。

文化が異なるところからやってきた人を受け入れるのは大変そうに感じたのですが、お金を払ってもらっている時点で所有権がないと思っている、というような、自らオープンに行く姿勢が大切なのかもと思いました。

民泊をやることの一番の目的が、収入ではなく多様な文化を受け入れるというところにある。いかしあうつながりだなと感じました。

こうした参加者の学びを受けて、小倉さんご自身にも学びがあったようです。

真面目にやっていたつもりなんですけど、みなさんの感想を受けて、結構ゆるいのかなと気づきました。

3回来てくれているリピーターさんに「ここはホストが誰も気を使ってこないのがいいんです」って言われて、いや、そんなつもりはないんですけど(笑) でも、私たちが気を使わないことで、ゲストにくつろいでもらうっていうのがコンセプトなので。民泊というと、もてなさなければいけない、というのがみなさんの意識にあるのかもしれないですね。今日は客観的に見る機会を持てて良かったです。

いかがでしたか。

私は「もてなさなければいけない、という意識がある」という小倉さんの言葉を聞いてハッとしました。

民泊というのは、特別なおもてなしをするわけではなくて、いつもの暮らしがあることにこそ価値がある宿泊スタイル。もちろん準備は必要ですが、ホストはいつもの暮らしをしていて、そこにゲストがいつもの自分のあり方でやってくる。そこでお互いに持ち帰るものがあるのが、同居型民泊による「いかしあう住まいの開き方」だと感じました。

参加者は、小倉さんの民泊のあり方を体験して、思った以上に自分のペースで気軽に始められることができるように感じたよう。

民泊を訪ねてみたい方や、アドバイスがほしい方は、ぜひ小倉さんに連絡してみてください。

連載「greenz peopleに学ぶ”いかしあう◯◯”」。次回のテーマは「ドキュメンタリー映画の鑑賞術」です。いったいどんな学びが生まれるのでしょうか。どうぞお楽しみに。