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つくり手に合わせて適正量を決める。「うなぎの寝床」白水高広さんと考える、地域文化を残すことと「ほどよい量」についての関係とは?

地域文化を担保するために経済を考える。
これは、九州を中心に全国の伝統工芸品を取り扱う「うなぎの寝床」のコンセプトです。自らを「地域文化商社」と名乗り、地域に足りない要素や機能を事業化して活動しています。

メーカーとしての顔も持ち、あえて生産量を抑えたり、ただモノを売るだけでなくその背景にいるつくり手について伝えたりと、一般的な商社とは異なるスタンスを貫いています。

今回は「うなぎの寝床」代表の白水高広さんと、この連載「ローカルから始める、新しい経済の話」の担当編集者でもあるライターの甲斐かおりさんによる対談をお届けします。

甲斐さんが先日出版した『ほどよい量をつくる』には「うなぎの寝床」の取り組みも紹介されており、地域文化を守ることと「ほどよい量」をつくることは関連性があるのではないか、そんな仮説をもとにこの対談が実現しました。

地域のものづくりをつなぐ上で必要なこととは?
そのための「ほどよい量」とは?
白水さんと一緒に、考えてみました。

白水高広(しらみず・たかひろ)
1985年佐賀県生まれ、大分大学工学部福祉環境工学科建築コース卒業。福岡県南部・筑後地域の商品開発やブランディングを行う「九州ちくご元気計画」の主任推進員として経験を積む。2012年7月にアンテナショップ「うなぎの寝床」を立ち上げる。お店の運営のほか、メーカー的側面、企画、制作、他地域との交流・交易など幅広く活動する。
甲斐かおり(かい・かおり)
地域をフィールドに書くフリーライター。2010年に独立。日本各地を取材し、食やものづくり、地域コミュニティ、農業などの分野で大量生産大量消費から離れた価値観で生きる人びとの活動、ライフスタイル、人物ルポを寄稿。著書に『暮らしをつくる』(技術評論社)、『ほどよい量をつくる』(インプレス)。

つくり手に合わせて、つくる適正量を考える

白水さん(左)と甲斐さん(右)。

甲斐さん 今日はよろしくお願いします。まず、いま取り組んでいる事業について改めて教えていただけますか?

白水さん 2012年から福岡県の八女市で、2店舗を運営しています。全体としては「地域文化商社」という言い方をしていて、ただモノの売り買いだけでなく、地域文化のなかで足りないところや伝わっていないところを事業化しています。

甲斐さん そのひとつがアンテナショップなんですよね。

白水さん はい、本店は九州のものだけを、旧寺崎邸では逆に九州以外のものを取り扱っています。

アンテナショップ本店の様子。

白水さん 2019年7月からは研究と出版とツーリズムをする「UNAラボラトリーズ」という会社を「Re:public」と一緒に立ち上げました。まずは2020年1月に日本語と英語の雑誌『TRAVEL UNA』を出版します。

10月にはホテルもはじめる予定で、これは古民家を改修してホテルをつくる「NIPPONIA」という会社が八女市で4棟改修するうちの2棟を運営する予定です。お店に来てもらった人に、つくり手のもとを訪れてもらったり、もう少し深い体験をしてもらう段階に来たところです。

1月28日に発売される雑誌『TRAVEL UNA』の表紙。創刊号の特集は「ネイティブテキスタイルをめぐる旅」。

甲斐さん 売り買いだけでなく伝えるということを、総合的にやっていく計画なんですね。
その起点は久留米絣(くるめがすり)※を使った「MONPE」のイメージがあるのですが、どうしてもんぺだったのでしょう?
(※福岡県久留米市とその周辺で製造されている織物)

白水さん 久留米絣はもともと百貨店の上層階に店舗や催事を出していることが多く、その客層は年齢がある程度高くて女性が中心です。なのでワンピースなど婦人服がほとんどで、僕らが着られるものがなく、見る機会もありませんでした。

あるとき物産館に行ったとき、久留米絣のもんぺが売ってあるのを見つけて「これなら着れそうだな」と着てみたら、着心地がすごくよくて。いろんな人に知ってもらえたら意外と着てもらえるかも、と思い「もんぺ博覧会」を開きました。

もんぺは農作業に使われてきただけあって動きやすく、久留米絣も生地がやわらかくて着心地がいいので、現代にも合っていると思いました。実際に「もんぺ博覧会」では3日で1500人くらい来て、250万円ほど売れました。もともと久留米絣を知ってもらいたくて開催したので、そんなに売るつもりなかったんですけど。

久留米市の周辺には着物や反物を余らせている人たちがいて、それで「もんぺをつくりたい」という要望が多く寄せられて、それに対応するために型紙を販売しました。

昔の型はお尻まわりが大きくて布をたくさん使っていたんですけど、今は布が貴重なので布の幅を狭くしてつくったら、細身になったんですね。なので「現代版」と名前につけました。

そしたらその細身のものがほしいという声があって。最初は織元さんが内職でつくっていたんですが、テレビで紹介されたら月に100本以上も注文が増えて。織元さんがそんなにつくれないということで、生地を買って縫製所を見つけてやりはじめたら、全国から卸の依頼が来て、そこからメーカーになっていきました。

さまざまなデザインのあるMONPE。動きやすく、着心地も抜群。

白水さん ファッションの生産量って、あんまり適正量ではないんですよ。というのも、久留米絣でいうとシーズンごとに柄を変えて、同じお客さんに買ってもらう必要がある。なので小ロットで柄をたくさんつくる。でもそれだと生産効率が悪くなるのと、適正ロットに達していない場合は糸や布が余ってしまいます。

なので僕らが最初につくったMONPEは無地にしました。久留米絣のアイデンティティは柄なんですけど、柄のほうが生産効率が落ちるんです。一人あたり4〜8台の織機を見るんですけど、無地だと約70〜80センチごとに止まるのに対して、柄ものは約20センチごとに止まるので全然進まないんですよ。

無地でも柄でも着心地は変わらないので、まず体感してもらうものとして無地でもいいのではないか、と考えました。

甲斐さん シーズンごとに柄が変われば、織元さんはそれに合わせてゼロから仕込みをしないといけない。でも「うなぎの寝床」では、無地だけでなく柄の布を使う場合も、もともと織元にある布を使って織ってもらう。そして卸先を探す。織元さんにとって、継続しやすい方法ですね。

白水さん つくり手に合わせて、どういうシステムがいいか一緒に考えることが重要だと思っていて。その人たちが今後どうなりたいのかを話し合いながら決めていきます。「このくらいの規模を守りたい」という人もいれば、「もうちょっと広げたい」という人もいるし、それに合わせた適正量を考えます。

たとえばうちが100億円くらい稼ぎたいので「このくらいつくってください」と発注したとしたら、つくり手の意思と関係ないわけですよね。価格競争になるし、同じものをつくれるなら安いところ探すってなるけど、うちは地域文化商社なので、地域文化や人がまわっていくやり方を模索しています。

地域文化の要素を分解して、ほどよい量にする

甲斐さん 久留米絣の機能を分解して、MONPEなら無地でもいいけど着心地は残すとか、何を捨てて何を残すかをしっかり見極めているところがすごいなと思います。

久留米絣といえば柄がアイデンティティなので、無地でいいとはなかなか発想できない。沖縄の南風原花絣(はえばるはなおり)も伝統技法でつくられると高価になりますが、「うなぎの寝床」さんでは、その図案の部分にロイヤリティを発生させて、簡易的につくれるものをプロダクトにして、つくり手にお金がまわるような手法を取っています。

それができるのも、ひとつの文化を細部まで見て研究しているからだし、効率や売上ではなくて、地域文化を守るといった目的がはっきりしているからですよね。私は地域でものづくりをしている人をたくさん取材してきましたが、みんな目の前にあるものは一生懸命つくるけど、そもそもなぜそれが必要なのかという上の概念を語る人はあまりいないんです。

でも「うなぎの寝床」のように地域文化商社という大きな傘があると、つくり方、売り方を考えるときに決めやすくなる。立ち帰れるところがあるので。その上で、未来に残す必要がないものは無理につなぐ必要はないと白水さんが仰っているのにも共感できます。

白水さん ひとつのことに固執すると、守りに入るのであまりよくないと思っていて。いま久留米絣を年間6万〜7万反くらいつくっているんですけど、産地にとってこの割合が多くなると支配的になってしまうので1/3くらいまでに抑えようとしています。いまは1/10くらいですけど。なので、ほかの地域のものも増やして、あえて比重を下げています。

甲斐さん 「地域文化」といっても、その地域を限定していないですからね。

白水さん そうです。ひとつの産業に依存すると保守的になるので、柔軟に考えたほうがいいかなと。仮に久留米絣だけを背負うと大変だし、背負いすぎると「うちが支えている」みたいな上から目線になってしまう。そういう事例を見てきたので、避けたいですね。

機能とコストだけでなく、文化的価値に目を向けるために

甲斐さん 『ほどよい量をつくる』に登場する人はほとんどそうだと思うんですけど、売上や規模拡大が目的ではないんですよね。白水さんの場合は、地域文化を守ることが目的で、それに合わせるための「ほどよい量」を考えている、と。そのために配慮していることなどありますか?

白水さん 自分たちにとってどのくらいが「ほどよい量」なのか、それを考えるのをやめたとき、ほどよくなくなると思っています。たとえば「あと3年は大丈夫」と考えると、その時点でほどよくなくなる。日々、世の中は変わっているから。

だからなるべく短い単位で考えることが重要だと思っています。長いスパンで考えると、そのとき決定したことが実行しているうちにズレが出てくることがあるので。

甲斐さん できるだけタイムラグなく過不足を調整するってことですね。たしかに、ちゃんと需給のバランスを取って経済合理性に合わせたほうが「ほどよい量」になりますよね、無駄も出ないし。

白水さん でもそれって「消費者が正しい」と言っているようなものじゃないですか。需要がこれだけあるから売ろう、と。でもその需要に合わせてつくったツケがいま来ているわけなので、僕は必ずしも消費者が正しいとは思っていないです。

大量生産時代の「バリュー・エンジニアリング」という手法によると「機能÷コスト」で価値が決まる、という乱暴な資本主義の考え方なんですけど、これで価値を上げるにはコストを下げるか、機能を上げるかしかないと思われていました。

甲斐さん 価値を決めるのは、機能とコストしか要素がないと思われていたんですね。そうすると国産のアパレルは、安い海外産に太刀打ちできない。

白水さん それを突き詰めていったら別に地域でつくる必要はないし、人件費が安いところでつくったり、材料費を安くしたりすることで価値が上がる、と言っているようなものですよね。なので僕はこれに「歴史」と独自の「視点」を入れて考えています。

白水さん もんぺも、みんなは0.1くらいの「視点」で見ていたのを、僕は3の価値比重で見ることができた、という感じです。「歴史」も潜在的にあったけど、顕在化されていなかった。仮にコストが高くなったとしても、「歴史」と「視点」に重きを置けば価値も上がるので、それらを見出すことが大切です。

甲斐さん なるほど、大事な要素ですね。逆に言えば、地域で生き残るためには機能とコスト以外に、「歴史」と「視点」が欠かせない、ということでしょうか?

白水さん そう思っています。それを伝えるために、雑誌をつくったりツアーを企画したりしようと準備しているところです。ただの情報として知っているのと、体感として知っているのとでは、全然ちがうと思うんですよ。体感の総量を上げていかないと自分ごとにならない。

甲斐さんは自分でいろんな現地に行ったから自分ごとになって本にしようと思ったと思うんですけど、本を読んだ人は「こういう人がいるんだな」と思って終わることが多いですよね。実際に現場に行って、体感したり見たり聞いたりしたことが、自分ごとになる要因だと思っています。

甲斐さん そのためのツーリズムなんですね。つくり手との架け橋になっている。本にも書きましたが、つくり手にとっても、お客さんが見えることは仕事のモチベーションになる。

白水さん つくり手側も分業しすぎているので、自分たちがつくったものがどこに届いているのか見えにくいのが現状です。

リチャード・セネット著の『クラフツマン』という本に、アメリカで原子力をつくった人たちの話があるんですけど、最高の技術を集めて技術開発をした結果、広島と長崎に原爆が落ちて、技術者たちは最終的にすごく後悔をしたらしいんです。

ものづくりも同じで、技術を上げることに対して一生懸命だけど、それが何に扱われるか認識したほうがいいし、使う人とコミュニケーションとることも重要だと思っています。

甲斐さん 機能やコストだけでなく文化的価値に目を向けてもらう意味でも、直接現場を知ってもらうことは大事ってことですよね。ツーリズムでは具体的にどんなことをする予定なのですか?

白水さん つくり手の元をまわったり、クリエイターと地域の方の情報交換や、レジデンスプログラムまでできればと考えています。事前に情報を知ってから行ってもらいたいので、先に雑誌を出しました。ある程度、知識を入れて行ったほうが興味を持ってもらえる範囲も広いと思うので、きっかけをより多くつくることを意識しています。訪れる人、受け入れる人、双方に刺激を与え合ってほしいと考えています。

最初は、アンテナショップのお店だけで全部できると思っていたんです。でも7年やって、商品をただモノとして見られるんだなとわかってきました。この背景につくり手がいるという実感よりも「おもしろいものがあるお店だね」と思われることが多く、お店だけではなかなか背景を感じてもらうことが難しいんだな、と。

とは言え、自分で調べて工房に行くのはハードルが高いと思うので、ツーリズムを用意すれば行きやすいかなと思いました。

久留米絣の織元さんの様子。

消費者も生産者も、体感することが大切

甲斐さん この本『ほどよい量をつくる』は、最初は小商いを想定していて「お客さんは100人いればいい」というテーマで考えていました。これは本に出てくる農家の「kiredo」さんの言葉なんですけど。

この10年ほど、いろいろな人たちに取材してきて、そういう考えの人が多いなと感じていて。「100人」っていう数字はあくまでシンボリックなもので人によってそれぞれですが、一昔前の売上や右肩上がりが当たり前の考え方とは全然ちがうところにいるなと。

でも東京にいると遠く感じるし、私のなかで日本が2つあるように見えていて、この2つはなかなか交わらないんですよね。それを本の編集者と話していたときに「都心で会社勤めをしている人たちにも、もうそれほど売上や生産量を追いかけなくていいんじゃないか、もっと丁寧につくったものを届けたいと思っている人が増えているんじゃないか」という話になったんです。

それで、都心でバリバリ働く人たちにも届く内容にするために、ある程度の結果を出している人たちや企業にも取材しようと考えました。実はそういう人たちが一番すごいんじゃないかと気づいたんです。価値観は全然ちがうところに持っているのに、機能とコストでしか測られない砂漠のような市場に、果敢に挑んでいる人たちが、すごくかっこよく見えて。

小規模生産だけでなく、なかには「わざわざ」のように、自分たちがよいと思っていることを求められる限りは大きくしたいと思っている人もいて、でも究極の目的は売上じゃない。そういう人たちが増えたら世の中が変わると思って。「うなぎの寝床」もそのひとつで、ぜひ紹介したいと思いました。

白水さん ありがとうございます。僕も本を読んで、体感の機会をつくることが大事だなと改めて思いました。本のなかに、お茶農家さんがお茶摘みの体験を提供している話がありましたが、今後絶対やっていかないといけないことだなと。僕もモノを売るだけでは背景が伝わらなかった経験があるので。

お茶畑も「標高500メートルのところにある」と書いてありますが、文脈の体感は実際に行ってみないとわからないですよね。

甲斐さん そのお茶が生産された風景を知っていると、おいしさも変わるって話ですね。

白水さん モノの売り買いだけではできない、行って体感して交流することがもっとも重要な時代にさしかかっているのかなと思いました。それが消費者側だけはなくて、生産側も直売することで実感することが重要だと思っています。

甲斐さん 本当にそうですね。これからはじまるツーリズムも楽しみです!

(対談ここまで)

大量生産・大量消費によって適正量がわからなくなってしまったいま、「うなぎの寝床」は改めてつくり手にとっての「ほどよい量」を見極め、さらにつくり手と使い手をつなぐ出版やツーリズムにも着手しはじめています。

すべては、地域の文化を守るために。

目的が確立しているからこそ白水さんの取り組みはブレがなく、ローカル経済に新しい風を吹き込んでいるのだとわかりました。