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きっかけは阪神・淡路大震災。「CS神戸」が育んできた、「ありがとう」を言い合える居場所づくりの秘訣とは。

2011年の東日本大震災以降、“居場所”に関心をもつ人、もしくは“居場所”をつくりたいと話す人に出会うことが増えたような気がします。ビジネスシーンでは、コワーキングスペースやオープンイノベーション施設の増加をはじめ、“コミュニティマネージャー”という新しい肩書きで働く人も現れました。こうした時代の変化から、“居場所”への関心は高まっていると感じている人も多いのではないでしょうか。

今回ご紹介する「認定NPO法人コミュニティ・サポートセンター神戸(通称: CS神戸)」は、設立23年の老舗NPO団体。彼らが神戸市民と歩んできた歴史とともに、居場所づくりの秘訣についてご紹介します。

飛田敦子(ひだ・あつこ)
認定NPO法人CS神戸 事務局長。
神戸市灘区生まれ。中学生のときに阪神・淡路大震災を体験。甚大被災エリアにもかかわらず、被害が少なかったことに後ろめたさを感じ続ける。スウェーデンやタンザニアでの留学を経て神戸に戻り、2004年にCS神戸に入職。NPOやコミュニティ・ビジネスに関する相談業務、ボランティア・コーディネート、研修の企画運営等に携わっている。神戸学院大学等で非常勤講師。兵庫県県民生活審議会委員、豊中市市民公益推進委員なども務める。

「ありがとう」と言ってもらえる担い手を増やす

「CS神戸」は、1996年に設立。きっかけは、阪神・淡路大震災でした。未曾有の事態によって壊滅的な被害を受けた神戸市。当時、全国から約130万人のボランティアが駆けつけました。

まちの復興のために、多くの人が手助けをしてくれる。その事実に感謝をしながらも、復興活動が長期化する中で、「毎日ボランティアさんに『ありがとう』を言うことに疲れてしまった」と話す人も出てきたそうです。

「この状況が続けば、人としての尊厳をもちながら自立して生きていけなくなるのではないか?」

のちに「CS神戸」を設立し理事長となる中村順子さんは、危機感を覚えたと振り返ります。そこで中村さんは、「CS神戸」の前身となるグループを立ち上げ、被災者であっても身近なことで役に立ち、「ありがとう」を言ってもらえる機会を創出しようと動き出しました。大切にしたミッションは、「自立と共生」です。

飛田さん 主婦なら日頃培った料理スキルをいかして、シニアにお昼ご飯を届けてもらうなど、身近に自分が役に立てることで活動する市民を募るところからはじまりました。まちのために何かしたい人をグループ化して、活動を継続できるように後方支援する「CS神戸」の手法は、この頃の経験をベースに生まれています。

現在「CS神戸」のメイン事業となっているのは、NPOの設立や活動を下支えする拠点運営と研修事業です。

その拠点の一つが「生きがい活動ステーション」。神戸市立六甲道勤労市民センター内に開設し、「公益財団法人神戸いきいき勤労財団」と協働で運営しています。ここでは、気軽に交流できるサロンの実施や、「地域のために何かやってみたい!」と考えている人やグループの立ち上げ、運営などの相談を受け付けています。

「CS神戸」が運営する「生きがい活動ステーション」で「生き活サロン」を開催したときの様子。インターン中の大学生も参加。

また、「まちづくりスポット神戸」も「CS神戸」が運営する拠点。地域で暮らす人々の地域のための活動をサポートする目的で、神戸市西区にある商業施設「BRANCH神戸学園都市」に大和リース株式会社が開設し、協働運営しています。

地域の情報提供や子育て相談の機会も設けており、子どもからシニアまで幅広い課題に関わっているのが特徴です。

「まちづくりスポット神戸」で開催した、ふれあいまつりの様子。子どもからシニアまで、幅広い市民を巻き込みながらイベントを開催できるところも「CS神戸」の強み。

拠点運営のほかにも数々の講座を実施。座学や実践を通じて地域の仕事や活動について総括的に学ぶ研修プログラム「社会貢献塾」や、ビジネス手法を用いて地域の課題解決を目指す「コミュニティビジネス実践講座」などを開催してきました。

「社会貢献塾」は、(公財)神戸いきいき勤労財団と協働で前身の講座が2009年度からスタートし、シニアの方を中心に過去250名以上が受講しています。

こうした相談や講座などを通じて地域で自分ができることを見つけた参加者のみなさんは、その後興味関心や住んでいるエリアによってグループに分かれ、各々活動をはじめます。

数人のサークルとして立ち上がるものから、NPO法人や一般社団法人を設立する団体までさまざまですが、なんと年間60〜70グループが立ち上がっているのだとか!「CS神戸」が地域と人をつなぐコーディネート機関として強く求められていることがよくわかります。

街角、お寺、社員食堂
まちのあちこちが住民の居場所に変身!

数々の講座を運営し、地域のリーダーとなる人材を養成してきた「CS神戸」。そんな中、近年ニーズの高まりを見せるのが、“居場所”にまつわる講座です。

2014年からスタートした「居場所コーディネーター養成講座」は、居場所の立ち上げをサポートするプログラム。事例紹介、視察、ロールプレイなど実践的なプログラムで、これから居場所をつくりたい人を応援しています。

「居場所養成コーディネーター講座」の様子。各回約20名が受講しています。

コースによりますが、講座は全4〜5回。講座で学んだことをいかしてリアルな場を運営し、振り返りをするところまでがプログラム。かなり実践的な講座になっています。

そもそも「CS神戸」が居場所に着目し、専門講座を設けることになった背景には、どのような理由があるのでしょうか?

飛田さん 地域とのつながりを得るために、居場所づくりをしたいと考える人が増えています。その一方で、空き家を活用したい人や、二世帯住宅の一部スペースを活用したい人からの相談も増加していて。高齢になり車を手放した人から「空いたガレージを使わないか」と、話が来ることもあります。

また、居場所に求めるニーズが多様化していることも、要因の一つであると続けます。

飛田さん たとえば、小学校区域ごとに行政が整えた施設はあります。でも、学区内の人しか利用できない制限があるとか、逆に学区を超えてつながりたいとか、近所すぎると気を使ってしまうとか、さまざまな声があるんです。その声を私たちは拾って、居場所を運営したい人をグループ化し、場所を提供してもよいという人とをマッチングしています。

場所を提供したい人の声を講座に反映し、一般コースのほか年度によって「社員食堂で居場所コース」や「お寺で居場所コース」など、一定の場所に特化した講座も開校。写真は、「お寺コース」で、最終日に事業計画を作成したときのもの。

「CS神戸」では、実績(講座数や受講人数)と成果(立ち上がった団体数、携わった人数)を分けて考えています。2018年度に兵庫県立大学と協働し、24ヶ所504名を対象に「居場所利用実態調査」をしたところ、こんな成果が見えてきました。

飛田さん 週1回以上、居場所を利用している人のうち20%が、「居場所をきっかけに地域活動やボランティアをはじめた」と回答しました。はじめは利用者として足を運びながらやがて担い手にもなるというように、利用者と担い手が固定化しないのが居場所の魅力であり、そのような場の創出をサポートするのが、私たち中間支援の役割なのかなと思います。

神戸市内のネットワークをつくる「居場所サミット」

「居場所養成コーディネーター講座」を立ち上げて5年。現在神戸市内にはCS神戸が把握しているだけでも市内400か所が居場所として開放されています。

居場所の数が増えたことによって、「CS神戸」には、居場所にまつわるさまざまな情報が集まるようになりました。それらを各居場所の運営者のみなさんとも共有し、また運営者同士の横のつながりをつくるために、2016年から年1回開催しているのが「居場所サミット」です。

「居場所サミット」には、居場所の運営者を中心に毎回200人ほどが参加します。大きく二部に分かれており、一部では現状報告や事例共有、二部でワークショップをします。CS神戸だけでなく、市内で居場所支援に携わっているNPO等が実行委員会を組んで開催しています。

飛田さん 第1回目のワークショップでは、「いつ・どこで活動しているのか情報が一元化されていない」との声が上がったことから、マップづくりをしました。みんなで地図を囲みながら、「私、この場所でやっています!」と手を挙げながら付箋を張り付けていき、それを冊子にまとめて配布しました。

「居場所サミット」で実際に使われた地図。

インターネットの地図情報サービスを使ってマッピングした地図を用意しているものの、居場所を利用するのはシニア層が多いことから、冊子などのアナログ情報の方が使われることが多いそう。

ほかにも、居場所情報やイベントのチラシを置く「きて・みてラック」のアイデアも、「居場所サミット」から生まれています。

「きて・みてラック」は、地域の薬局やスーパー、銀行など神戸市東灘区内22ヶ所に置かれています。

「ありがとう」を言い合える居場所をつくる
3つのポイント

「居場所養成コーディネーター講座」や「居場所サミット」を通じて、多くの知識やノウハウをシェアしてきた「CS神戸」。事務局の飛田さんが考える居場所づくりのポイントを聞いてみると、3つあると答えが返ってきました。

飛田さん 一つは、運営リーダーがオープンマインドであること。居場所にはどんな人でもアクセスできるよう、特定の人だけではなくあらゆる人を受け入れる公益性を大切にするべきです。

継続するに従い、公益よりも共益、つまりサークル化してしまうグループもあります。公益であり続けるには、リーダーがどういう居場所でありたいかという理念を持ち、誰でもウェルカムな状態であることが、地域に必要とされる居場所に欠かせません。

二つ目に挙げたのが、双方向性です。

飛田さん 双方向であることは、人の尊厳が守られることにつながると思うんです。たとえば、利用者として来ていた人が大工仕事のスキルを活かして本棚をつくる。「子ども食堂」なら、料理を提供してもらう子どもが少しお手伝いをするだけでもいい。役割を固定化せず、居場所に集う人たちの能力を引き出し、社会に還元できる仕組みをつくることが大切です。

最後が、マネジメントです。

飛田さん 居場所には、発達障害やひきこもりの方など、さまざまな生きづらさを抱えた人も訪れますので、場の包摂力が必要です。

また、会社と同じで、居場所を運営するにはお金もかかります。予算を確保するために助成金をはじめ多様な資金源を確保するスキルがあるかどうか、問題が起こった時に皆で話し合える環境をつくれるかどうかも、やはり大切。リーダーひとりがすべてを担うのではなく、チームで強みを活かしあえる運営ができるかどうかが鍵です。

「あすパーク」からはじまる「CS神戸」の新たな挑戦

「CS神戸」は場を運営したい人を育て、場を提供したい人とつなぎ、神戸市内に数々の居場所を生み出してきました。そして、設立25年を目前にした今、新たな挑戦をはじめています。それが、2020年1月にJR六甲道駅の近く、大和公園内にプレオープンする「地域共生拠点・あすパーク」です。

飛田さん 「あすパーク」は、多様な市民が出会い、交流し、学ぶことで地域に役立つ事業にチャレンジすることを応援する場です。阪神・淡路大震災の際、公園が復興の拠点になったこともあり、弱体化するコミュニティを再構築する場として公園に焦点を当てました。

2017年に都市公園法が改正されてから、公園内でのレストランや保育所などの設置が可能になりました。それに伴い、公園を活用しようとする動きは全国的に広まりつつあります。しかしまだまだ活用事例は少ないため、「CS神戸」の動きは、全国的に見ても大きなチャレンジと言えるでしょう。

「あすパーク」の完成イメージ

飛田さん 施設内をオフィススペースとオープンスペースに分けて運営します。オフィススペースでは、定期的に講座を聴講しながら地域で事業にチャレンジしたい人の拠点となるよう、シェアデスクやロッカーを置きます。オープンスペースでは図書コーナーやカフェを設け、誰でも気軽に立ち寄れるようにしながらイベントや研修を実施できるような場にしたいですね。

今まで“居場所”といえば“交流”メインに語られてきましたが、「あすパーク」では個人や組織が影響し合い、新しい物事を生み出す“創発”にも力を入れていきたいとのこと。ここからどのような成果が生まれるのか、いろんな立場の人々が期待しているようです。

飛田さん パートナー企業や団体とともに、公共施設や商業施設などでいくつもの場を運営してきました。次のフィールドは公園です。公園のもつポテンシャルを最大限活かしながら、地域活動を「やるぞ!」と思う人たちを増やし、インパクトを出していきたいですね。それが、震災25年を迎える神戸での新たなチャレンジです。

お話をお伺いする中で神戸市民のみなさんの「まちのために何かしたい」という熱量がとても高いことが印象的で、そのことを飛田さんに伝えると、このような答えが返ってきました。

飛田さん 直接的ではないにしろ、阪神・淡路大震災が影響していると思います。震災を体験していない世代や転入者も増えており、震災を経験した人が神戸市人口の半分を切りました。しかし人と助け合ったこと、つながりの大切さを実感したことを、今も毎年1月17日には思い出す機会になる。共通する体験があることが、神戸の強さなのでしょう。

「毎日、ボランティアさんに『ありがとう』を言うことに疲れてしまった」。その声をきっかけに生まれた「CS神戸」は、神戸市民のみなさんに居場所と役割をつくり、誰もが社会に関わりながら生きていける環境をつくり続けています。

あなたやあなたの身近な人は今の暮らしの中で、ときに「ありがとう」と言い、ときに「ありがとう」と言ってもらえる居場所はありますか? 今、居場所がある人もない人も、家族や職場、町内会など日常のコミュニティの中でちょっとした工夫をすることで、「ありがとう」を双方向で伝え合える新たな居場所をつくることができるかもしれません。