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まちの文脈を大事にしながら、新しい景色をつくる。築60年の長屋をリノベーションした岩淵町の拠点「co-toiro iwabuchi」織戸龍也さんがほしいのは、まちが家族のように住む暮らし

東京都北区岩淵町。JRの赤羽駅から徒歩10分ほどのこの町に、どうやら最近若い人が集まっているらしい、との噂を耳にしました。

実は私の実家はこの町の一駅隣。私自身、小学生の頃は習い事に通っていたなじみ深い場所でもあります。とはいえ、当時は賑やかな赤羽の手前にある住宅街で、これと言って何かがある、といった町でもなかったと記憶しています。

その町で何かが起こっていると聞いて居ても立ってもいられず、岩淵町でプロジェクトを始めた「株式会社岩淵家守舎(いわぶちやもりしゃ)」代表取締役の織戸龍也さんを訪ねました。

織戸龍也さん

コトとイロがにじみだすまちの拠点

東京都北区岩淵町。ここは江戸時代、将軍が日光東照宮にお参りする際の第一番の宿場町だったそう。地下鉄・赤羽岩淵駅から徒歩2分。住宅街へ一歩足を踏み入れたその場所に、織戸さんの活動拠点「co-toiro iwabuchi(以下、コトイロ)」はあります。

住宅街に現れる、落ち着いた黒のシックな建物の内部に足を踏み入れると、中は木材が張られた明るい空間。吹き抜けのある1Fには、テーブルと、大きなキッチンがあります。

奥の階段を登って2Fにあがると、そこにはいくつかのテーブルとイスのセットが。

ここはシェアキッチン付きのコワーキングスペースです。築60年になる古いアパートをセルフリノベーションしました。この他にDIY可能な賃貸アパート「コトイロの家」の企画・運営をしています。

食に関するイベントを開催することができる、グルメなコワーキング制度「グルコワ」としても使われているのだとか。写真は会員が肉にまつわるイベントを開催したときのもの。制度について詳しくはこちら

住居棟である「コトイロの家」は現在2棟。4世帯が入居する住居のみの棟と、1階が店舗、2階に住居がある店舗併用住宅の棟があります。店舗併用住宅には現在、コーヒースタンド「AERU COFFEE STOP」と自転車ショップ「Bicycle Studio R-FACTORY」が入居しています。

4世帯からなる住居棟。住居棟には、もともとこの場所が染色工場の跡地だったことに由来して、それぞれの部屋には藍・紅・藤・鶯、と色の名前がついています。

さらにコトイロ周辺の私道では月に1度「宿場町まるしぇ」を開催。日本各地から募集した飲食店・物販店が屋台を構え、1日商店街を展開しているのです。

この町の「将軍が日光東照宮へお参りする第一の宿場町だった」という文脈もあって、「思わず旅に出たくなるようなマルシェ」がコンセプトです。全国各地から、農家さんやサービスをしている人が直接来て、それぞれの土地の話をお客さんとしてもらっています。

このマルシェに来た人が産地の人とお話をすることによって、そのまちに行ってみたくなるきっかけになったらいいなと。逆に他の地域から出店している人は、お客さんや赤羽地域から出店している人たちと交流してもらって、このまちを知ってもらうこともできるかなと思ってます。

山形、長野、栃木、など様々な場所から出店者が集まるマルシェ。毎回500〜600人が来場する大人気イベントです。

近所のホテルとも提携し、宿場町まるしぇの前日に宿泊した出店者や来場者には特別なサービスがあるのだそう。地域を巻き込み、外から人を呼んで関係人口を増やしながら、まちににぎわいをつくり出しているようです。

「宿場町まるしぇ」は、芝浦工業大学のゼミのフィールドワークの場としても活用されています。今後は学生たちがより主体的に運営する形をとっていきたいと織戸さんは考えているそう。

コトイロができるまで
顔が見える関係性をまちへ広げる

織戸さんは東京都足立区の出身。同じ東京とはいえ、岩淵町にはそもそも縁もゆかりもなかったと言います。この町でプロジェクトを始めることになったのは、空き家や空きビルを活用した都市再生手法を学ぶ場である「リノベーションスクール」に参加したことがきっかけでした。

2016年の春に、「リノベーションスクール@都電・東京」に参加しました。岩淵町にも昔は都電が走っていたそうで、僕らのチームの対象物件がこの地域だったんです。

オーナーさんはこの地域に所有している物件が20件ぐらいあって、築60年ほどになるそれらの物件を、コミュニティや地域との関係性のある場所として育みたいという思いがありました。チームでプランを練って、最終的にオーナーさんにプレゼンをするんですけど、会場にいる300人の前で「運営は僕がやります」って言っちゃったんですよ(笑) それでそこから会社を辞める準備を始めたんです。

当時勤めていた設計事務所を2016年末に退職すると、フリーランスで設計の仕事を請け負いながら準備を進めます。リノベーションスクール参加時の一部のメンバーと一緒にまちづくり会社・岩淵家守舎を立ち上げたのは、2017年8月のことでした。

まずは土地のことを知らないと何もできないだろうからと、自分たちが住むことのできる住居棟をつくることに。さらに住む人たちが一緒に使える場であり、地域の人も関われるシェアスペースということでコトイロをオープンさせます。

コトイロ施工中の様子。co-toiro(コトイロ)というのは、アクションである「事(コト)」とそれぞれの「色(イロ)」がにじみ出る場所という意味だとか。

大学を卒業してからそれまで、住宅や店舗設計の仕事をしていた織戸さん。もともとはものづくりをしてかっこいい建築物を建てる建築家になりたいと思っていたとか。

まちづくりに興味を持ち、リノベーションスクールに参加してみようと思うまでには何があったのでしょうか?

ここに来る前まで、ロイヤルアネックスというマンションの一室でシェアハウスをしていたんです。「愛ある賃貸住宅」と呼ばれていたマンションなんですが、入居するときに大家さんが「こんな人が引っ越してきますよ」って、すでに住んでいる人たちとつなげてくれるんです。

僕が住んでいた部屋は、自分たちでリノベーションしたんですが、解体工事をしているときから下の階の人たちが家に招待してくれて、仲良くさせてもらってましたね。

そうして受けた恩を恩送りするように、自らが入居してからは、新しく引っ越してきた人をまずは自分たちの部屋へと招きます。そこから他の住人へと紹介する、いわば窓口のような役割を担うことに。すると顔見知りが増え、今度は「家具をつくりたい」「部屋のちょっとドアをつけてほしいんだけど」といったことを頼まれるようになったのだとか。

マンション内のDIY屋さんみたいな感じで動いてたんです。面白かったのは、それが単身者だけじゃなくて、子どものいるご家族だったり、学生さんだったりしたこと。いろんな世代が交流できるので、これはいい生活だなと思ってましたね。

ロイヤルアネックス時代の思い出の写真たち。パーティを開いたり、何かを一緒につくったり。多様な交流があったことが伺えます。

リノベーションスクールを知ったのも、以前にロイヤルアネックスが対象物件になったことがあったから。空きスペースの活用について、マンションの入居者として、リノベーションスクールの様子を見学しながら参加していたのだとか。

そうした場に参加していたら、だんだん自分も人とのつながりがある空間づくりに対して興味を持つようになりました。ちょうど時期的にも独立を考え始めていた頃だったので、そこからただ建物をつくることよりも、リノベーションや、人を巻き込んでプロジェクトにしていくことに関心が行くようになったかな。

ロイヤルアネックスでの暮らしから、住人同士の顔が見える関係性の楽しさや心地良さを実感します。一方で、これを建物の中にとどめず、まちへと広げていきたいと思うようにも。

人が住んでいるのは建物だけど、建物があるのは地域で。だから人が引っ越してくるときに、建物だけじゃなく、それがあるまちを選んで引っ越してきてほしいなと思って。だから僕は建物の中で完結していたものを、さらにまちへと広げて、アプローチしていきたいと思うようになりました。今は「まちが家族のように住む」を実践しようとしています。

まずは知ってもらうこと、そして一緒につくること

「まちが家族のように住む」。それを実現するために、岩淵のまちづくりプロジェクトで大事にしたのがオープンするまでの過程。シェアスペースであるコトイロが地域の人たちにとって思い入れのある場所になるように、と、まちの人と一緒にDIYをします。

躯体など大工さんに入ってもらわなきゃいけないところはやってもらいながら、塗装や家具の取り付けなんかは自分たちでやりました。オープンするまでの間も、ここを知ってもらうために地域の人を巻き込みながらDIYでベンチセットをつくったり、タイルや木の端を使って、子どもたちに夏休みのDIY宿題イベントっていうのをやったり。

子どもの夏休みの宿題をお盆前に終わらせたい人どうぞ! って地域に声掛けをしたら、近所の小学校のおやじ会の人たちが興味を持ってくれて、いろんな人に連絡してくれたおかげで20人ぐらい集まりましたね。

織戸さんが地域の人たちと関わるために特に大事にしているのがお祭り。この地域では2年に一度お神輿が出る大きなお祭りがあります。コトイロオープン前の2017年の夏は、お神輿が出ない年だったので、自ら祭りを企画しました。

近所にある神社にお願いして竹を切らせてもらって、流しそうめんをしました。みなさんご招待したら結構来てくださって。日本酒を振る舞ったりしながら。この建物の裏で、物件のオーナーの奥様が陶芸教室をしているんですけど、陶芸の器を使って陶器市もやりました。

2017年11月には織戸さん夫妻にお子さんが誕生。2018年の夏祭りには家族で参加できたそう。

子どもが顔を覚えてもらえるので、それでますます地域の人たちとつながれるようになりましたね。僕もコトイロで子育てしながら仕事しているんです。うちの子は本当に地域の人や一緒に住んでる同じ住居棟に住む人たちにかわいがってもらってます。

お子さんと一緒に参加した2018年の夏祭り

すでにある風景を活かし、ほしい景色はつくりだす

住居棟の斜向いには昔なじみの銭湯があり、中華屋さんや豆腐屋さんなど、地域に根付いたお店も目にすることができます。荒川の土手までは徒歩1〜2分の距離で、そこには水上スキーやウェークボードなどの水上スポーツを楽しむ人や、サイクリングをする人の姿が。

そうしたすでにこのまちにあるものを活かしながら、今後まちにないものはつくっていきたいと話します。

パン屋さんやお弁当屋さん、簡易民泊やみんなで使えるシェア工房があったらいいなと考えています。その中心にあるのがコトイロで、みんなで集まれるよっていうことができたらいいなと思っていて。地ビールなんかもつくりたいですね。この町には23区唯一のつくり酒屋が2018年2月まであったので、その流れを汲むことができたらな。

例えば簡易民泊を始めたら、銭湯から戻ってきた人にコトイロでウェルカムドリンクを出したりして。そこにはこのまちの住人の方々がいて、一緒に飲んだり食べたり交流できるっていうことができたらいいですね。

そうした、「あったらいいな」を誘致してまちをつくる第一歩として2018年春にオープンしたのが、2軒の店舗併用住宅。1軒目のコーヒー屋さんは店舗のオープンを考えていた友人に声をかけ、内装の設計やDIYも一緒にしました。2軒目となった自転車屋さんは、もともと岩淵町で自転車屋に勤めていた方が独立を機にここでお店を構えたのだとか。

この場所は土手が近くてサイクリングをする人が通るから、自転車屋さんとコーヒー屋さんは相性がいいですね。自転車屋さんはもちろん、コーヒー屋さんもちょっとした休憩に立ち寄ってもらえる場所になっています。

織戸さんが店舗設計をしたコーヒースタンド、AERU COFFEE STOP(撮影:キリンニジイロ 鈴木智哉)

そうした「物件をリノベーションするだけでなく、一緒にまちに住む仲間をつくっていく」手法は、区にも応援していただいているんですよ。

織戸さんがそう話すように、岩淵町のエリアリノベーションは北区のビジネスプランコンテストでも最優秀賞を受賞。現在、空き家活用から創業支援をするワンストップ窓口として北区と連携し、創業セミナーや相談会の開催も行っているだそうです。

グリーンズで興味や関心のフィールドが近い人と出会えた

イメージを描き、人やことを巻き込みながら、ほしいまちを形にしていく織戸さん。そんな織戸さんは、グリーンズの寄付会員・greenz people(以下、ピープル)です。寄付会員になったのは、パートナーの祐三子さんがきっかけでした。

当時彼女だった妻が先にピープルだったんですよ。ある時彼女から「ピープルの遠足で秩父に行っていろいろ見て、酒蔵に立ち寄ったりもするよ」と聞いて、「え、それ楽しそうじゃない? 俺も行く!」って。

その遠足のときに正太郎くん(ピープル担当の植原正太郎)と初対面だったんだけど、同い年ということもあってかすごく気が合って。やっていることや考えていること、人とつながってほしい暮らしをつくっていこうってこととかね。それでその帰りにはピープルになってましたね。2016年の秋ぐらいかな。

(撮影:キリンニジイロ 鈴木智哉)

その後も遠足やオフィスでの飲み会に参加。ちょうどその頃、リノベーションスクールの参加を経て、岩淵家守舎の活動を始めようと準備していたところだったため、飲み会に参加したときには他のピープルに相談に乗ってもらうこともあったとか。

グリーンズとの関係はそこから急速に深まり、グリーンズの学校の「エコハウスDIYクラス」(2017年8月スタート)や「地域を耕すお店クラス」(2018年3月スタート)のコーディネーターを務めることになります。2018年11〜12月に開催した、グリーンズと武蔵野美術大学の共同展示「企(たくらみ)展」では展示設計を担当しました。

そうして仕事が広がったことももちろん良かったことだけど、自分がやりたいと思うことと近いフィールドにいる人たちとつながれたのがピープルになって大きかったことかな。

ピープルがオンラインで参加できる会があると、コトイロを開放しています。コトイロが気になるピープルのみなさんは遊びに行くチャンスかも!?

まちを一緒に盛り上げてくれる仲間を募集中!

地域に住居をつくり、お店を誘致し、まちのにぎわいをつくり出す。岩淵家守舎の設立から1年あまりでどんどんと描いていた景色を実現していく織戸さん。淀みない口調でクリアなビジョンが語られるのは、きっとそこにブレない思いがあるからだと感じます。どんな未来を思い描いて取り組んでいるのでしょう。

僕が目指しているのは、「顔の見える関係性のあるまち」です。人とのつながりを大事に生きてきたので、それは今後も大事にしていきたいなと。まずはこの地域で3年、さらに範囲を広げると5年、10年単位になるかもしれないけど、そんなまちをつくっていきたいですね。

織戸さんがそう話す通り、岩淵町では現在まちをつくる実践が続々と進行しています。連載恒例の「狼煙」(=これから取り組んでいきたいこと、今必要としていること)として上げたいのも、まさにまちづくりに関わってくれる仲間です。

コトイロを中心に商店街をつくろうと計画していて、空き家を対象に店舗の誘致もはじめています。ブルワリー、八百屋、本屋、アトリエなどのプロジェクトの話が進んでいます。あとはやっぱり飲食店がほしいかな、定食屋さんとか。ここは土手が近いから、テイクアウトできる軽食屋さんが入ってもいいかも。そんな飲食店開業を考えている方、ぜひご連絡お待ちしています!

岩淵町には昔ながらの銭湯もあるので、銭湯好きな方にもこの地域はオススメだそう。

飲食店という条件に合わなくても、例えばマルシェの運営を手伝う、コワーキングスペースを利用するなど、まちを一緒に盛り上げてくれる仲間は随時募集中だとか! 気になる方はまずは岩淵家守舎のページをチェックして、イベントに足を運んでみてはいかがでしょうか。

【織戸さんの連絡先】
岩淵家守舎Facebookページ https://www.facebook.com/iwabuchiyamori
co-toiro(シェアキッチン&コワーキング) ホームページ https://www.cotoiro.com/
宿場町まるしぇホームページ https://shukubamachi-marche.localinfo.jp/
Mail: info@cotoiro.com
FB個人ページ https://www.facebook.com/tatsuya.orito

(TOP画像撮影:キリンニジイロ 鈴木智哉)

– INFORMATION –

コトイロで開催予定のイベント

6/22(土)宿場町まるしぇvol.12
7/27(土)コトイロ落語会〜立川志の彦さんが今年もやってくる
8/4(日) IWABUCHI BEER FEST(仮)@正光寺

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