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映像と音があなたの想像力を刺激する。レバノンで働くシリア人労働者を描いた映画『セメントの記憶』が観る者に託す大きな問い

みなさんは、映画を観ることを通して、外国で起きていることを学んだことはありませんか? 昨今、地域コミュニティ、サステナブルなライフスタイル、エネルギー問題など、さまざまなドキュメンタリーが制作され私たちのもとに届きますよね。

そんななか今回ご紹介する映画『セメントの記憶』は、シリアから逃れ、レバノンの劣悪な環境で働く移民や難民の労働者たちを描いたドキュメンタリー。こう聞くと、悲惨な内戦や厳しい労働の実態を声高に訴える内容を思い浮かべる人が多いかもしれません。

けれども、この映画は、さまざまな映像とサウンドを駆使して想像力を刺激し、観る者の感情に静かに入り込んでくる映画なのです。

まっさらな気持ちで映像と向き合えば、簡単には答えの出ない問いが真っすぐに心に入ってきそうです。それは、SNSに流れて来るニュースに対し、条件反射のように感情が生まれてくるのとは、まるで異なるものではないでしょうか。

破壊と創造の鮮やかなコントラスト

『セメントの記憶』で描かれるのは、中東のパリとも呼ばれる、レバノンのベイルートにある高層ビルの建設現場で働く労働者たちです。内戦で破壊されたベイルートは、現在建設バブルの真っ最中。目もくらむような高層ビルが次々に建てられています。

一方、2011年から内戦が続くシリアでは、およそ100万人が亡くなり、およそ1000万人が国外へと逃れました。そしていまだ50万人もの人が行方不明といわれています。そんなシリアを後にした多くの難民や移民がベイルートで働いているのです。

シリアからベイルートへ来た労働者たちは、夜7時以降の外出が禁じられ、地下の狭い空間に寝泊まりし、ひたすら働くだけの日々を送っています。

黙々と、ただひたすらに働き続ける労働者をそのまま描写するかのように、映画に彼らの声は一切登場しません。その代わり、建設現場に轟く騒音や目前に広がる海の波の音が、彼らのあきらめや郷愁を雄弁に物語るようです。

彼らは高層ビルを建てながら、テレビやスマートフォンで故郷が破壊されるさまを目にします。建設現場では次々にセメントが流し込まれ、新たに超高層ビルが生まれ、シリアではたくさんの建物が次々に破壊され、瓦礫と化していきます。

その対比は残酷なまでに鮮やかで、そんな対比が存在する理由を観る者に問うてくるようです。

自分からは遠い世界で並行して進んでいる創造と破壊。想像力だけでは見えてこない現実が、否応なく目の前に広がることでしょう。

映像の持つ力を改めて感じたい

隅々まで計算された美しい映像の連続は、一瞬、その背景にある内戦や過酷な労働といった負の要素を忘れさせるほどです。けれども次の瞬間、その現実はより鋭く強いインパクトでもって、観る者の心に向かってきます。

どこまでも高く伸び続ける超高層ビルから手が届きそうな蒼穹の空。眼下に広がるおおらかな地中海。美しい自然環境と、整然とした人工的な美が織り成す圧倒的な映像美を味わえるのも映画ならでは。

そんな中、ホワイトヘルメッツ(シリアで人命救助にあたる民間の防衛隊)によって撮影されたという救出劇の様子だけが、どこまでも生々しく、リアルです。

過去に破壊された記憶を持つからこそ、ベイルートは再生のときを迎え、そしてシリアは破壊のただ中にいます。破壊しては創る、人間が逃れられない矛盾を嘲笑うでもなく、淡々と描き出すことで、『セメントの記憶』は観る者に大きな問いを投げ掛けるのです。

日々たくさんの情報が流れ、地球の裏側で起きたことでさえすぐに耳に入る現代です。だからこそ、じっくりと目を向け、耳を傾け、自身の感情を見つめる時間を持つのはいかがでしょうか。『セメントの記憶』の上映時間、88分間は、きっとそんな大切な時間になることでしょう。

– INFORMATION –

セメントの記憶
3月23日(土)ユーロスペースほか全国劇場ロードショー

<公開前イベント>

3⽉21⽇(⽊・祝) ジアード・クルスーム監督初来⽇記念『The Immortal Sergeant / 不死⾝の軍曹』⽇本初上映&トークイベント
⽇時: 3⽉21⽇(⽊・祝)15時開場/15時半〜上映/16時45分〜トークイベント
開催場所:筑波⼤学東京キャンパス 120講義室
上映作品: 『The Immortal Sergeant/不死⾝の軍曹』(ジアード・クルスーム監督、シリア・レバノン映画、72分、2013年制作、英語字幕版)
参加費:無料
解説・対談: ⻘⼭弘之(東京外国語⼤学)・柳⾕あゆみ(公益財団法⼈東洋⽂庫研究員)・松原康介(筑波⼤学) *同時通訳あり

<公開初⽇舞台挨拶スケジュール>

3⽉23⽇(⼟) 『セメントの記憶』公開初⽇舞台挨拶
⽇時:3⽉23⽇(⼟)12時20分と14時30分からの回上映後
開催場所:渋⾕ユーロスペース
住所:渋⾕区円⼭町1-5

(All Pictures: © 2017 Bidayyat for Audiovisual Arts, BASIS BERLIN Filmproduktion)