大切な人への想いをチョコに託して贈る日として盛り上がるバレンタインデー。近年は義理チョコにまつわる同調圧力など、華やかさの裏に隠れた問題も取り上げられるようになりました。
ハートマークや愛という言葉が飛び交うバレンタインデーですが、そもそも、私たちは暮らしの中で人と愛ある関係を築けているのでしょうか。愛の名の下に相手を束縛したり、ときには傷つけたりすることもあるかもしれません。
愛をテーマにたくさんの人が浮かれ気味なバレンタインの時期に、愛のかたちについて考えよう。そんなメッセージを皮肉たっぷりなアプローチとともに届けた取り組み「#LoveBetter」をご紹介します。
舞台はニューヨークのSOHO地区。オシャレなブティックやレストラン、カフェがひしめくにぎやかなエリアです。バレンタインを前に街が盛り上がり出す時期に、あるポップアップ・ストアがオープンします。ショップにはハートのモチーフがあふれ、テディベアやスイーツ、ワインなど、バレンタインにおなじみの品々がポップに並んでいます。
「そういえばもうすぐバレンタインだ。どんなプレゼントを贈ろうかな」
そんな気持ちで店内を眺めるお客さんたち。ワクワクしながら商品を手に取りますが…。
まず、クマのぬいぐるみのお腹を押してみると、「黙れ!」「お前なんか大嫌いだ!」「ごめん、そんなつもりじゃなかったんだ」といった声が聞こえてきます。
そしてペンダントを手に取ってみると、そこには常に位置を把握させるためのGPSが埋め込まれています。
アレッ? と思いながら他の商品を手に取ってみると、そこにもギョッとするようなメッセージが…。
バレンタインに浮かれ気味の気分を一気に冷ますようなこのお店には、実はシリアスな思いがありました。このお店を出したのは、ドメスティック・バイオレンスなどの恐れがない、健全なパートナー同士の関係づくりについて啓発するNPO法人「ONE LOVE FOUNDATION」。
2017~2018年の#MeTooムーブメントの流れで社会でセクハラや暴力を告発する動きが出てきてたものの、パートナー間の暴力はなかなか明るみに出ることはありません。取り返しがつかない状況に陥る前に、私たちには何ができるのだろうか。ドメスティック・バイオレンスの原因は実にさまざまで、すぐに問題をなくす解決策となるとなかなか難しいのが正直なところ。しかしひとつだけ言えることがあります。それは、私たちは人の愛し方について学んだり、話したりする機会があまりないということ。
パートナーを脅かすような愛の言動をモチーフにしたグッズの数々は、パートナーや好きな人と自分との関係を考えさせるきっかけとなるもの。愛の名の下に、自分は、そして相手は、暴力的な言動をぶつけていないだろうか、そしてもっといい関係づくりはできないだろうか。そんなことを考えさせられるつくりになっているのです。
バレンタインシーズンに物議を醸し出すようなポップアップ・ストアは多くのメディアに取り上げられ、「One Love Foundation」のウェブサイトで誓いを立てる人の数はそれまでより800%増加。表立って語られることがなかったパートナー間の暴力や、望ましい関係のためにできることなどが語られる機会をつくることに成功しました。
お店を訪れた人たちからは、こんなコメントが。
すごくインパクトのある体験だった。だって「人を愛するとはどういうことか」を知らない人がいっぱいいるんだってわかったから。
家に帰って今日のことをパートナーと話すのが楽しみだわ。
お互いの心の声を深く聞き合うことが、お互いを愛することにつながると思った。
愛にまつわる問題は複雑で立場によって考え方が変わるので、他人が介入して簡単に解決できるようなものではありません。
一筋縄にはいかない問題なので大きく状況が改善されることにははらないとは思いますが、自らの心に問いかけたり、なかなかオープンに話せないことを他人と話したりするきっかけをつくってくれるこのショップは、じわじわとパートナー同士、そして人と人との関係を変えていく可能性を秘めているのではないでしょうか。
バレンタインが、愛を伝えるだけではなくて、愛について考える日になりますように。
(翻訳協力: greenz.jp編集部)
(編集:スズキコウタ)
[via TRENDHUNTER, YouTube]