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夫婦で起業して子育てをしながら事業を育てていくことのリアルを「ようび」の大島奈緒子さんに訊いてみました。 茨城県大子町の外と内をつなぎ、まちをはぐくんでいく「大子まちづくり会議」

移住したいと思ったとき、ワクワクと同時に感じる不安があるとしたら、何でしょう。
「地域に住んでいる人たちとうまくやれるかな」
「子育てと働くを両立する環境は整っているだろうか」
「生計を立てられるかな」
など、人間関係や経済的なものが多いのではないでしょうか。

こういった不安を独りで解消するのは難しい。でも誰かに相談できると、解消されることもたくさんありますし、それが一歩前に進むきっかけになるかもしれません。

夫婦での地方移住や起業のヒントを探る連載企画「あきない夫婦のローカルライフ with 茨城県北・大子町」。第5回は大子町の外と内をつなぐ「大子まちづくり会議」に参加し、縁のない土地に移住して夫婦で稼いでいくことと子育てをしていくことのバランスなどのお話を伺いました。

移住する人とまちの人を、まちの人同士をつなぐ会議

大子まちづくり会議は、この秋から大子町が始めたイベントで、グリーンズが運営をサポートしています。常陸大子駅近くすぐのdaigo frontで、12月2日の日曜日に第2回目が行われました。

地域を元気にする仕掛けをつくってきた方を全国からお呼びしてお話を伺う基調講演、大子町の中で新しい取り組みをしている方のプロジェクト紹介、懇親会の3部構成です。

このイベントを立ち上げたのはなぜか。大子町まちづくり課保坂太郎さんはこう話します。

大子町まちづくり課の保坂太郎さん。

保坂さん 大子町ではいま、移住促進に力を入れています。移住したい人や移住してきた人が町内の人たちと出会って、このまちで暮らすのが楽しみになったり、住みやすくなったりする場があったらいいなと思い「まちづくり会議」を立ち上げました。また、町内でも異なるコミュニティに属す人同士が自由に交流できる場にしたいとも思っています。

今回はとくに「夫婦で、地域で働く」ということがメインに置かれていました。どのような会になったのでしょう。

スタッフと寝食を共にしながら働く

はじめは岡山県西粟倉村からようび大島奈緒子さん(以下、奈緒子さん)をお迎えしての基調講演。

大島奈緒子(おおしま・なおこ)さん
1982年大阪生まれ。 2006年滋賀県立大学生活デザイン専攻卒業後、オークヴィレッジ木造建築研究所で住宅店舗等の設計に従事。 2013年ようび建築設計室設立。10代の頃に、日本の山の問題に出会い、木でものづくりをしながら、 未来を切り開くことをライフワークとする。二級建築士。

「ようび」は、地域の森林を次の世代につなぐため、日本の杉や檜などの針葉樹を材木として使う木工房。大島奈緒子さんの夫の大島正幸さんが2009年に創業しました。家具や建築物に込められたその哲学や、デザインと使い心地のよさなどで全国に根強いファンを持っています。

西粟倉にあるようび本社。家具や日用品のショールームもあります。

奈緒子さんが夫の正幸さんと出会ったのは、新入社員時代に森林ボランティアを行っていたときのこと。森の下草刈りをしながら山を下っていく中で話していて、仲良くなったそう。

先に岡山県の西粟倉に移り住んで木工房ようび(現・ようび)を立ち上げた正幸さんと、岐阜県の高山で就職した奈緒子さんは遠距離恋愛1年ののち入籍、遠距離結婚1年半。そして2年半後に西粟倉に移住してようびに合流しました。

ようびに合流してから何年かの自分の働き方を、奈緒子さんは「拡張家内制手工業」と称します。村の森の木を加工し、建材や資材に変えていき、ものづくりをする。檜のような針葉樹はそもそも材料として使うノウハウから試行錯誤していかなければならない。それを大島夫婦ともう数人のスタッフで行っていた時期です。

奈緒子さん 夫婦とスタッフで、寝食を共にしながらようびという家を守る感じ。そのあり方のおかげで会社の創業期をうまく軌道にのせることができました。

5年ほど前に子どもが生まれたんですが、このスタイルだったからなんとか続けてこれたのかもしれません。たとえば赤子に離乳食を食べさせた後、スタッフの誰かに赤ちゃんを抱っこしてもらって私がその間に食べるみたいなこともできたので。

子育てとは、「新卒正社員とやる気はあるアルバイトスタッフ」のプロジェクト!?

娘さんと一緒に大子町に来てくださいました。

奈緒子さんは夫婦の出産・子育てについて、「新卒正社員がすぐに店舗を任されて、やる気だけはものすごくあるアルバイトスタッフとお店を切り盛りしていくようなもの」とたとえます。

奈緒子さん 新卒正社員は母親、アルバイトスタッフは父親。初めて赤ちゃんを育てる母親は、知らない業務に責任を持たなければいけない新卒正社員と同じ状態です。すごく大変で、ストレスもたまる。赤ちゃんが今なぜ泣いているのか、今何を求めているのかなどなど、言葉を話さない分、意味がわからないことも多い。

そこに、旦那さんがやる気はあるんだけど、とんちんかんなこともする。ついパニックになって奥さんが「やらなくていい!」と言ってしまうこともある。ただ、新卒正社員はどんどんスキルが上がる。子どもにある程度つきっきりになるから。子どもの対応については夫婦で差が開いていき、その状態はずっと続く。

この現実を認められると、お互いを思いやりながら関係性をつくっていけるような気がします。「私がちゃんと指示してなかったからアルバイト君がうまく動けなかったのかもな」と。

一方、夫婦が仕事として関わるときと家族として関わるときは所属団体が違うから、それぞれの団体での役割は何かを夫婦で確認しあうことも大切だと語ります。

奈緒子さん あるとき、「私たちは株式会社ようびと、任意団体大島家という2つの団体に所属しているんですよね」という話をしました。

今年の6月に火事で工房が全焼したんですが、(このことについてはこちらの記事で)私は「これは長男が火事で大けがして入院した状態だ」と思いました。その発想の切り替えができたことは私にとってものすごく大きくて、「夫が長男にかかりきりになるのも仕方ない」と考えられました。

そうは言っても、私も任意団体大島家を司っていて、責任を持っているから、随時「あなたもこの任意団体大島家にも所属しているんですよね」と夫に確認をして、お互いの振り分けをしていたんです。この確認を怠ると子どもが小さい時期はほんとうに、精神的にしんどくなるから。

夫婦で共に働くということは、仕事の時間も生活の時間も一緒にいるということでもあります。メリハリをつけることでよい関係をつくることもあるようです。

企業と行政が移住者を守っていくことが地域を活気づけていく

西粟倉村は人口1400人あまり、森林率95%の小さな村ながら、空き家が不足するくらい転入があります。子育てをする世代が特に多く、新しくこども園もできたそう。そんな現状について、参加者からは次のような質問が出ました。

西粟倉は若い人が増えていますけど、来るきっかけって何でしょう。ポイントと感じていることなどあれば教えてください。

奈緒子さんはこの10年を振り返って、地域の決断と行政のPRが上手くかみ合ったことをあげました。

奈緒子さん 西粟倉村は平成の大合併をしないと決めて、「100年の森林(もり)構想」というのを打ち立てていたんです。これは、50年前に未来の子供や孫のために植えた木を、もう50年頑張って、立派な100年の森に育てていくことを応援してもらう仕組みです。たとえば、地権者から役場が森林を借りて管理を引き受けたり、地域の企業が森林の木を使った商品をつくったり。

夫の場合はこうした考えや取り組みに感銘を受け、村を訪れて即「俺、ちょっとこの村来るわ」と決めました。そんな感じで、10年前に来ることを決めていた人ってちょっと変わり者というか、木が好きで実験できるならやりたいという人たち。

その後、村の木を使ってものづくりをする企業が増えて、雇用も生まれて。そこにぴったり合った方が来ました。大都市圏と物理的な距離がかなりあるので、「西日本で、森のことを近くで感じながら、工房の中では製品化に向けて最初から最後までの工程を実施しているところはここしか見つからなかったからようびに来ました」というような、ここじゃないとダメという理由があって、来る方が多いです。

新しく思いついたアイデアを自由に試してみたくてたまらなくて来るのか、スタッフとして働きたくて来るのかを分けて考えるといいと思います。新しいことをやりたくて来る人はどんな住環境でもわりと暮らせるけれど、スタッフ志望の人はある程度条件のいい住環境を探してあげるところから始めた方がよかったりしますから。

地域でビジネスをつくることに携わってきたグリーンズアドバイザーの小野は、起業家を守るなにかが必要だと語ります。

小野裕之(greenz.jpビジネスアドバイザー)
1984年岡山県生まれ。中央大学総合政策学部を卒業後、ベンチャー企業に就職。その後、ソーシャルデザインをテーマにしたウェブマガジン「greenz.jp」を運営するNPO法人グリーンズの経営を6年務め、2018年、同法人のソーシャルデザインやまちづくりに関わる事業開発・再生のプロデュース機能をO&G合同会社として分社化、代表に就任。greenz.jpビジネスアドバイザー。ジュエリーブランドSIRI SIRI共同代表。おむすびスタンド ANDON共同代表。

小野 起業家ってめちゃくちゃ変わり者だと思われているから、いつの時代も居場所を見つけるのが難しくて、いつもフィールド自体を探しているんですよね。そういう人に対するまなざしも含めて受け皿を工夫してつくっていかないと、来てくれたけどすぐ帰ってしまったり、地域にはいるけど活動の拠点は別のところにしてしまったり、ということになりかねない。

だから、「ちょっとわかりにくいけど、この人の言動にはこういう意図があるんだろう」と周りに翻訳して守ってあげられる人が何人もいるといい。

西粟倉は村の構想もよかったのだけれど、それを受け取った地元企業の経営者たちが変わり者好きで、「俺が守ってやるから自由にやれよ」と新しく入ってくる人に言えた。それが大きかった。役場も積極的にチャンスを提供していた。この2つがあったから、西粟倉は「先進性を持った地域」と評価されるようになったのではないでしょうか。

お話を聴いてなにを感じたか、参加者同士でシェアする対話の時間もありました。

「大子町でいま起業したら、めっちゃいける」

最後に、外から見た大子の強み、意識を向けるといいことについて奈緒子さんからお話がありました。

奈緒子さん 大子町でいま起業したら、めっちゃいけるなという感じはありますね。飲食店、物販店、宿泊施設など、ひとつひとつの事業者さんがしっかりされてるのはいいと思うので、それぞれをつなぐ、連携をうながすような横串があるといいですね。

奥久慈しゃもやりんごはおいしいし、なだらかで美しい山と滝がある。今あるそういった数多の魅力を、「これが大子だ」とどーんと打ち出せるものにしていく。観光協会ももちろんいいのだけれど、草の根から、この地域のよさをプロデュースして発信していくしくみがもっとあるとより見違えるような変化があるかもしれない。

とくに美味しい食べ物があるってすごい強みだから、うらやましいです。

ようびのある西粟倉のように、小商い的な企業が大きくなり、つながっていって、まちづくりになっていくという盛り上がり方もあれば、すでにそこにあるものについての発信の仕方を変えていく盛り上げ方もあると言います。

人を呼び込み、活性化するための方法はまちの数だけありそうです。

頑張っている人をつなぐだけできっとなにかが起こる

続いて、大子町の中で新しい取り組みをしている方々の活動をシェアする時間です。

一人目は、「NPO法人まちの研究室」副理事長の笠井英雄さん。

笠井英雄さん

コミュニティFMを立ち上げたり運営したり、空き物件をリノベーションしてカフェやゲストハウスに生まれ変わらせたりと、まちの新しい場をいくつもつくっています。

大子町の中心商店街には、古い建物がたくさん立ち並んでいます。それをこのまちの強みだととらえ、美しく保存することに力を入れているそう。

たとえば30年放置されていた古民家を改装して2013年にオープンした「daigo café」。最初は足を踏み入れるのも怖くなるくらいの廃屋だったものを、軽トラック何十台分もの不要物を運び出し、仲間とともに約1年間かけてリノベーションをしていってつくりあげました。生まれ変わった建物は国の有形文化財登録をされ、テレビでも取り上げられるなど、大子町のランドマークのような存在に。

町の内外からひっきりなしに人がやってくるdaigo cafe

そんな笠井さんは大子の魅力をこう語ります。

笠井さん 夏は約38.7度まで上がり、冬はマイナス約10度まで下がる。そんな厳しい環境ではぐくまれる素材のクオリティが高いことが自慢です。漆、和紙の原料のこうぞ、わさび、りんごなどなど。建物や景観とともに、ここならではの魅力を発信し、地域の総合力で盛り立てていきたいですね。

このまちはとても頑張っておもしろい取り組みをしている人も多い。それをつないでいくだけですごいことが起こっていくんじゃないかと思います。つなぐ横串となって新しい魅力をつくっていければ。

名産のわさびを使ったわさび丼など、daigo caféでは土地の特産品をどうやって新しさを加えてメニューにとりいれていくかをいつも考えているそう。

これまで当たり前のようにあった地域資源も、ちょっと視点とアプローチを変えるだけで光を放っていく。そして、新しい人を呼び込み、ずっと住んでいる人たちも自分のまちへの愛着が強くなるのではないか。

笠井さんのお話を聴いていて、そのようなことを感じました。

同世代が帰れる場所をつくる

大子町における取り組みのシェア、二人目はdaigo frontで「駅前ラウンジ」というイベントを主催する根本香さんのお話。

根本香さん

「駅前ラウンジ」は、大子町出身および在住の女性が活躍できる場所をつくりたいという、町の依頼で2017年1月からはじまったクラフト市です。ものづくりを趣味や仕事として行う十数人の女子のチームで主催をしていて、大子周りの女性同士のネットワークづくりに一役買っているそう。(くわしくはこちらの記事を)

子育てや仕事をしながらこのイベントを続ける根本さんには、こんな想いがありました。

根本さん 私は地元が大好きで、一生ここで暮らしていくんだろうなと思っています。でも周りを見れば同級生はほぼ外に行ってしまっていて、残っているのは2~3割。大子町を、みんなが帰ってきたくなる場所にできるように自分を信じて、活動を続けていきたいです。

面白い女性クリエイターが大子町にいることを知ってもらって、まちに足を運んでもらう循環ができていくとうれしいです。

楽しんで活動している姿を同じ世代のまちの人たちに見せていくことが、「私もやってみようかな」と一歩踏み出す人を増やしていくのではないでしょうか。

子連れでものびのびと参加できるイベント

今回のイベントには、大子町に住む人、デザイナーさんや大工、商工会の方が、他の地域からは起業を具体的に考えている人が家探しもかねて参加していました。

夫婦や子育て中の家族連れも何組かいて、会場の後ろの方では、子どもたちの元気な声が。

まちづくり会議の最後はグリーンズでも取材したパン屋さん「サンローラン」からのお食事を囲んで、懇親会。

大子町役場では今後、企画段階から町民の方々を巻き込んでまちづくり会議をつくっていきたいと考えているそう。たしかに自分たちでひとつのイベントをつくれたという経験は大きな自信とつながりを築き、また新たな動きを生んでいくような予感がします。

懇親会ではまちの内と外のつながりもたくさん生まれていました。

地域に住む人も外から訪れる人も一緒になって楽しめるイベントが毎月のように開催されている大子町。夫婦での移住や起業を考えてみようかな、と思ったらまずはどんな場所か、どんな人がいるかちょっと覗いてみるつもりで、自然の美しいこの土地にぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。

(撮影:山野井咲里)

– INFORMATION –

【参加費無料】次回の大子町まちづくり会議は2月3日(日)開催!

ゲストは吉祥寺〜西荻窪エリアで多拠点近接ネットワーク型のまちなかシェアを行う瀬川翠さんです。移住・起業を考えている方、夫婦で仕事を始めたいと思っている方、まちづくりに関心のある方、大子町に興味のある方、ぜひいらしてください!
https://greenz.jp/event/daigo-machizukurikaigi2019/