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“起業”や“まちおこし”って言われると荷が重い。でも、好きなことが仕事のひとつになって、それがまちの魅力につながるとしたら……? 「駅前☆ラウンジ」根本香さんから学ぶ「地域を豊かにする小商い」

ここ十数年ほどで、ハンドメイド系のマルシェがぐっと増えた気がします。ほかにはない個性的なアクセサリーを見つけたり、作家さんと話が弾んだり。デパートでの買い物とは違った楽しみがあり、立ち寄るとついあれこれ買ってしまうのは私だけではないはず。

先日訪問したのは、茨城県大子町で隔月開催されている「駅前☆ラウンジ」。会場の「daigo front」には、眺めているだけで心躍る色とりどりの作品が並んでいました。主催者の根本香さんは、2人の子どもを育てながら、仲間と一緒に「駅前☆ラウンジ」を運営しています。

お話を聞いて、「根本さんのような地域との関わり方って、いいなぁ」と思いました。無理のない範囲で好きなことを仕事にして、それが結果的に地域を盛り上げることにもつながっていて。“起業”や“まちおこし”という言葉に「そんな大それたこと……」と気後れしてしまう人も、根本さんのような関わり方だったら「やってみよう」と思うかもしれません。

大子町で活動する夫婦に光を当て、移住や起業のきっかけを伺う連載「あきない夫婦のローカルライフ with茨城県北・大子町」。今回は少しイレギュラーですが、根本さんの事例から「地域を豊かにする小商い」を掘り下げようと思います。

根本香(ねもと・かおり)さん
1985年茨城県大子町生まれ。母親が身のまわりのものを手づくりしてくれた影響からハンドメイドが好きになり、2009年から「Kaon」として作家活動を始める。「駅前☆ラウンジ」支配人。

大子町出身・在住のクラフト女子が開く手づくり市

根本さんは大子町で生まれ育ち、中学のときからつき合っていた同級生と結婚し現在も大子町で暮らす、生粋の大子っ子です。子どもは11歳と7歳。小さな頃からハンドメイドが好きだった根本さんは、上の子が生まれて仕事ができない時期に、カラフルな帆布を使ったバッグや小物をつくり、イベントで販売するようになりました。

素朴なぬくもりのある日本製純綿帆布を使った「Kaon」の作品。

「駅前☆ラウンジ」を始めたのは、2017年1月のこと。大子町役場と、大子町のまちづくりを行う「NPO法人まちの研究室」から、「若い女性の活躍の場をつくりたい」と相談されたことがきっかけでした。

「私にできるかな」という気持ちもありましたが、声をかけてもらったからには頑張りたいなと思いました。それで、大子町出身・大子町在住のクラフト女子に声をかけて、手づくり市を開くことにしたんです。せっかくやるなら、自分の好きなことで、と思って。

出展する作家さんは、知人友人からご紹介をいただいて集めました。「まさかあの人がクラフト作家さんだったなんて」「えっあなたもものづくりしていたの?」という驚きがいっぱいで。作家さんから「声をかけてくれてありがとう」なんて言われて、「こちらこそありがとう」と嬉しくなりました。

第1回のテーマは、「ハジマリハシロカラ」。開催に合わせ、作家全員が白い作品を製作しました。大々的な宣伝はしませんでしたが、思いのほか来場者は多かったそう。「正確な数は数えていないけど、150名位じゃないかな」と振り返る根本さん。新聞やラジオからの取材も受け、反響の大きさに驚いたといいます。

遠方からわざわざ大子町に来てくれる人がいたり、同級生と久しぶりに再会したり。回を重ねる中で、嬉しいことがたくさんありました。

「駅前☆ラウンジ」の特色のひとつが、「コイスルキモチ」「雨ふりでも」「モノクロの夜に」など、毎回テーマを設定しそれに合わせて作品をつくっていること。

毎回同じにしたほうが作品や装飾品を使い回しできるのでつくり手側は楽ですが、テーマを設定することで会場の雰囲気に統一感が出るし、常連さんも「このテーマではどんな作品が登場するんだろう?」と楽しみにしてくれるそう。お客さんが喜ぶ顔を想像しながら、製作に励んでいるといいます。

家庭も作家活動も、両方大事にしたいから

ただ、マルシェを開くのは意外と大変なもの。作家さんから参加費を集め、日にちを決めて会場を押さえ、広報宣伝を行い、什器を用意して展示し、経費を計算して……と、地味な作業の積み重ねです。「駅前☆ラウンジ」はどのように運営しているのでしょうか。

いま、参加作家さんは11人ほどいて、基本的には全部みんなで相談して決めています。開催日も本当は第何週の何曜日、と決めてしまえばいいんでしょうけど、それぞれ子どもの学校行事があったりするから、その都度予定を出し合って。全員が毎回参加するわけではなく、都合のつく人が参加する体制を取っています。

作家さんからは毎回500円、委託の方からは500円+売上の10%ほどの参加費をいただいていて、そこから会場費を払ったり、商品を渡すときの袋など備品を購入したり。チラシづくりも広報宣伝も会場装飾も自分たちで行っています。メインで動くのは私ともう1人ですが、事務局として運営費をもらうことはしていません。自分の作家活動の一環と捉えているので。

写真館を改装したイベントスペース兼ワークスペース「daigo front」。

根本さんは普段、大子町のカフェ「フランボワーズ」で働き、繁忙期は夫の実家が営む袋田の滝そばの土産物屋を手伝っています。2児を育てながら働き、自分の作品もつくって、更に「駅前☆ラウンジ」も運営して……。仕事と家庭とクラフト活動と、どんな風にバランスを取っているんだろう、と疑問に思い、「仕事がある日」「お休みの日」「駅前☆ラウンジの日」の時間割を書いてもらいました。

どの日も睡眠時間が短い……! 買い物や雑務をしているときに作品の構想を考え、子どもが帰ってくるまでの間や子どもが寝た後に手を動かすなど、限られた時間を目一杯活用しているのですね。

子どもの学校行事とか習い事とか、全部一緒に楽しんだ上でクラフトもやりたいんです。子どもに寂しい思いをしてほしくないし、家族の負担になるならやりません。でも、幸い夫は私が好きなことをしているならいいって言ってくれるし、子どもも「今日もお店屋さん頑張ってね」って応援してくれているんです。そういうことに対して、「ありがとう」をちゃんと伝えるようにしています。

根本さん以外の作家さんも、多くが家族のいる女性です。子どもが体調を崩したときは急遽欠席することも。お互い大変なことがわかっているから助け合っているそう。

みんなが家族のことも「駅前☆ラウンジ」のことも大事にしてくれているから、無理なく続けられています。楽しいですよ、いますごく。本当に、メンバーに恵まれました。

取材当日の参加メンバー。それぞれの作品を手に持ってもらいました。

作家活動でやりがいを感じるのは、思い描いたものが形になったとき、それを気に入って買ってもらえたとき。でも、何より嬉しいのは、大子町で自分の作品を身につけている人や子どもに出会ったときなのだとか。

私がつくったお花のヘアゴムをしている子を見かけて、思わず声かけちゃったこともあります(笑)。「それつくったの私なんだよ、ありがとう、もし壊れちゃったら直すからいつでも言ってね」って。

毎回娘さんを連れて参加している「Solina」矢田部さん。娘さんは町の人に可愛がられ、人見知りしない子になったそう。「駅前☆ラウンジ」の看板娘です。

大子町役場の保坂太郎さんが家族で遊びに来ていました。「いつも応援してくれているんですよ」と根本さん。

みんなで大子町を楽しい大好きな故郷にしたい

根本さんがこうしてまちに関わるようになった背景には、地域おこし協力隊の存在が大きいといいます。

昔ながらの商店が残る大子町駅前

町外から来た人たちが大子町のために頑張ってくれている姿を見て、「ありがとう」という気持ちでいっぱいになりました。地元の私たちもその姿を見習わらないと、もっと頑張らないとって思ったんです。

田舎なのでやっぱり閉鎖的なところもあったんですが、考え方や経験や口調が違う人が来てくれたことで異なる文化に触れられたし、鍛金やキャンドルなどプロの作家さんがつくるクオリティにすごく刺激を受けました。「駅前☆ラウンジ」にもときどき参加してもらっています。「こんな素敵な作家さんたちが大子を気に入って暮らしてくれているんだよ」って、地元の人に紹介できたらな、と思って。

「地域おこし協力隊」制度を使って大子町にやってきた鍛金作家・ともつねみゆきさんの作品

「駅前☆ラウンジ」を始めて丸2年。これまで19回のマルシェを開催してきました。ときには大子町のイベントに合わせて開催することもあります。

自分たちの活動が大子町のためになる、なんて想像もしていなかったんですが、たくさんの人が期待を寄せてくれていて、もしかするとちょっとは役に立てているのかなって思います。自分が楽しみながらやっていることがまちにいい影響を及ぼしているなら、こんなに嬉しいことはありません。

それと、都会に出て行った友達に、「香ちゃんめっちゃ楽しそうだな、地元も面白くなってるんだな」って思ってもらえたらいいな、という想いもあって。

「NPO法人まちの研究室」のみなさんは本当にまちのことを考えて活動しているし、「daigo front」も素敵な場所です。でも、まだそれを知らない人もいます。「駅前☆ラウンジ」が、大子町のことを知っていくきっかけになれたら。私はこのまちが好きだから、大子町で暮らすことを選ぶ人が増えてほしいし、一緒に大好きな楽しい故郷にしていけたらなって思います。

この記事を書いている私も地元に物足りなさを感じて上京したタイプですが、確かに同世代が地元で頑張っていると知ったら見に行きたいし、応援したいし、帰る頻度が増えそうだな、と思いました。そして、「うちの地元には何もない」というのは思い込みで、実は知らないだけなのかもしれません。

最後に、「根本さんと同じように、自分の好きなことで小商いを始めたい、まちに関わりたいと思う人にアドバイスするとしたら?」と質問してみました。

やりたいことがあるなら、口にすることでしょうか。どこにチャンスが転がっているかわからないし、すぐに形にならなくても、タイミングが来たときに「そういえば」と思い出してもらえるかもしれません。

自分がやりたいことを既に行っている人に聞きにいくのもいいと思います。聞かれて嫌な人は答えなければいいだけだし、優しく教えてくれる人のほうが多いはず。もし私たちの活動がヒントになるなら、「駅前☆ラウンジ」に来てくれればいつでも相談に乗りますよ! 「私でもできたから、きっとできるよ、大丈夫だよ」って伝えられたらと思っています。

根本さん自身も2013年頃、大子町で「丘の上のマルシェ」というクラフト系イベントが開かれていることを知り、主催者を調べて「どうしたら出店できますか、私の作品はだめですか?」と聞きに行ったそう。

「丘の上のマルシェ」では公募をしておらず主催者の木村勝利さんが「この人に来てもらいたい」という作家に声をかけて出店者を確保する形を取っていましたが、作品を見て参加枠を用意してくれたといいます。毎年出店する中で「NPO法人まちの研究室」のメンバーから信頼されて「根本さんならいい場をつくってくれるだろう」と白羽の矢が立ち、「駅前☆ラウンジ」の開催につながったのでした。

毎年9月に開かれる「丘の上のマルシェ」。クラフトやフードなどさまざまなブースが100以上並び、ワークショップや音楽ライブも行われます。来場者が13000人を超える、大子町の一大イベントです。

木村さん曰く、年に1度の「丘の上のマルシェ」に隔月開催の「駅前☆ラウンジ」が加わり勢いがつく中で、駅前の空き家や蔵を貸してくれる人も現れはじめ、また新たな動きが生まれているそうです。

「丘の上のマルシェ」主催者の木村さん。この日も「駅前☆ラウンジ」の様子を見に来ていました。

「田舎はプレイヤーが少ない」といわれますが、その分、挑戦すれば注目されて応援してくれる人が現れるし、まちに与える影響も大きいのでしょう。都会にはない、田舎だからこその強みですね。

冒頭でも少し触れましたが、“起業”や“まちおこし”に挑戦して成功できる人は、正直言って限られていると思います。でも、“好きなことで小商いをすること”なら、ぐっとハードルが下がるはず。何も、特別なこと、大きなことをしようとしなくてもいい。小さく一歩を踏み出す人が増えたら、まちは面白くなっていく。根本さんの活動を見ていて、そんなことを感じました。

(撮影:吉田貴洋)

– INFORMATION –

駅前☆ラウンジ 手作り市「ハジマリハシロカラ2019」(1月27日)

 次回は第1回と同じテーマで開催します。もちろん根本さんも参加予定!
https://www.facebook.com/events/349539988958061/

大子町まちづくり会議〜夫婦やパートナーとの仕事を考える〜(2月3日)

 「夫婦で起業する」をテーマにした基調講演(ゲストは瀬川翠さん)、大子町内の起業家によるプレゼンテーション、交流会。大子町に興味のある方、夫婦で移住や起業を考えている方、観光も兼ねてぜひ遊びにいらしてください! 参加無料です。
https://greenz.jp/event/daigo-machizukurikaigi2019/