「リノベーション」という言葉が広く使われるようになって久しくなりました。その草分け的存在でもあるのが、全国50都市で「リノベーションスクール」を運営する会社「リノベリング」です。
これまでもgreenz.jpでは連載記事を通して紹介してきましたが、リノベーションスクールとは不動産の再生を通じて新しいビジネスをおこし、まちを再生するためのプログラム。参加者は3日間かけて実在する遊休不動産とエリアの事業プランを企画し、最終日には不動産オーナーにプレゼンテーションします。
2011年に北九州市で開催されたことをきっかけに、ほかの都市でも展開する運営会社として、リノベリングは2013年に発足。パートナーと呼ばれる役員には「3331アーツ千代田」運営会社の代表を務める清水義次さん、「Open A」の馬場正尊さん、「ブルースタジオ」の大島芳彦さん、「まめくらし」の青木純さん、「ワークヴィジョンズ」の西村浩さん、「オガールプロジェクト」の岡崎正信さんと、都市再生とリノベーション業界で活躍する方々が名を連ねます。
今回は、このリノベリングで働くひとを募集します。なんだか楽しそう、という漠然としたイメージはあるものの、実際にはどんな会社なのでしょう?
リノベリングはリノベーションスクールを運営する会社だと思われがちですが、リノベーションまちづくりをプロデュースする会社なんです。
とパートナーの一人である青木純さん。「リノベーションまちづくりをプロデュースする」とは、どんな仕事なのでしょうか。そして、今回募集する「リノベーションまちづくりプロデュースディレクター」の役割とは?
リノベーションまちづくりをプロデュースする仕事
人口が減り、税収が減って行政の財源が枯渇し、高齢化が進み、公共施設もうまく活用できていない、空き家は増えていく……というのが、多くの都市に共通する課題です。
今までのやり方で再開発してまちをもう一度元気にしようと思っても、そもそも財源がないし、仮に再開発したとしても空き家が余っている状況では地価が下がっているので家賃が回収できず、負債産業となり悪循環に陥ります。それよりも、今ある資源を活用してまちに新たな産業を起こさないと、都市経営は改善されません。
そこで必要になってくるのが、アイデア。自由な発想と実際に経験した前例が求められています。リノベリングはその役割を担っているのです。
その大きな柱となるのが、都市のまちづくり構想を行政とともにつくること。
それぞれのまちには20年、30年でどういう方向にしていくかという計画がありますが、変化が著しい時代においてはそのままでは絵に書いた餅になってしまう恐れがある。時代に即した柔軟なものとして、実際に現地で都市経営課題に向き合った取り組みを実践している人もしくはしたいと考えている人たちの意見を最初から取り入れた実現可能な構想を考えます。
構想は、いわば市民たちが同じ方向を見るための共通のものさし。僕たちは構想をつくるというよりは「こんなやり方がありますよ」っていう前例を話しています。
たとえば公園の活用なら青木さんが携わった南池袋公園を、駐車場の有効活用なら西村浩さんのプロジェクト「わいわい!!コンテナ」を、団地再生ならブルースタジオの「ホシノタニ団地」を…というように、パートナーを中心とした取り組みを紹介。それぞれのまちの状況に合わせて「この課題にはこの人」とキャスティングするのもリノベリングの大きな役割です。
それが構想づくりに反映され、そして構想を具現化するための手段のひとつがリノベーションスクールなのです。
リノベーションスクールをイベントとしてやるだけでは何も始まりません。その背景で色々な調整を行いながら3〜5年くらいの中長期にわたって具体的な解決方法を一緒に考えます。
構想づくり、それを実現するためエンジンとしてのリノベーションスクール、当事者として事業を生み出す「家守」と呼ばれる担い手たち。この3つがリノベーションまちづくりにおいて大事で、そのプロセスをその地域に合わせて設計し総合的にプロデュースするのがリノベリングなんです。
まちに当事者を増やすきっかけをつくる
リノベリングの役割を一言でいうと「それぞれの地域に当事者を増やすきっかけをつくること」。人材資源と空間資源をうまく結びつけて当事者を増やし、公民連携で新たなチームができることでアクションが加速するのだそう。
実際にまちにはどんな変化が起きているのか、事例を教えてもらいました。
ひとつは埼玉県草加市。人口は増えていて空き家率は2.7%と低く、一見すると課題はないように見えますが、草加市はいわゆるベッドタウン。住人にとっては寝に帰るだけのまちで、駅前以外のエリアには活気がありませんでした。
それがリノベーションスクールで7つの案件が生まれ、すべて実現されました。6件は同じ商店街にでき、カフェやバル、キッチンスタジオ、洋食屋などがオープン。もう1件のシェアアトリエ「つなぐば」では、お母さんたちが子育てをしながら料理や手芸などで3ビズ(得意なことで月3万円を稼ぐ小商い)に取り組んでいます。それまで当事者意識の薄かった住人たちが当事者となり、まちに賑わいをもたらしています。
草加市の取り組みは手が届きやすいものが多く、全国のベットタウンの希望にあふれています。
もうひとつは今まさに1件目が動いているという群馬県富岡市。世界遺産・富岡製糸場のある観光地ですが、世界遺産に登録された年は観光客が増えたものの数年経つと観光客は半減し、観光客目当てのお店がどんどん撤退してしまったそう。
また、まちには宿泊施設がないため長期滞在できないという課題もありました。そこで、まちなかに宿泊のための客室を点在させ、まち全体を宿にすることに。
その際に青木さんが着目したのが、市内で婦人服店を営む入山寛之さん。まちづくりに長年取り組み「まちなかのおばあちゃんのアイドルである入山さんが始めればみんなが応援してくれるはず」と、入山さんの背中を押して「富岡まち繰るみ舎」の代表に手を挙げてもらい、まちやどのリノベーションを進めています。
すでに、入山さんが思いを書いた手紙を近所の人たちに配ったところ、なんと改装費用に100万円以上の寄付が集まったとか!まちのアイドル、恐るべし。
どんなに衰退したまちでも、この人しかいない!という人がいるんです。そういう人たちを発掘するのが僕たちの役割です。
何もないところから始めるため、まちや人を見る洞察力が鍛えられるそう。一方で「うまくいかないこともしょっちゅうある」とか。
役所の人をうまくサポートできなかったり、提案の意図を読み取れなくて失敗したり。民間も難しくて、地方だと目立っている人を否定したり足を引っ張ったりすることがよくあるので、状況を読み取る力にかかってきます。先回りして予測してあげる力というか。それは経験でしかカバーできないので、スタッフみんなでより多くの経験を積んで対応の幅を広げています。
地道に、柔軟に、本気で取り組む現場
青木さんをはじめとするパートナー陣(リノベリングの取締役たち)とともにリノベーションまちづくりに取り組むスタッフは現在10人。また「アソシエイツ」と呼ばれる関連会社のメンバーもいます。
その中でも今回募集する「リノベーションまちづくりプロデュースディレクター」の先輩となる水上幸子さんは、行政と契約前の提案から、契約後のプロデュース業務のサポートまで取り組んでいます。
水上さん 各地で地域の課題解決に向き合い、活躍するパートナーのすぐ近くでプロデュース業務に関わることができるのは、非常に刺激的で楽しいです。しかしリノベーションスクールやパートナーの印象から華やかでキラキラしたイメージが強い一方で、実際には地味な仕事も多いです。たとえば契約締結書類の準備や資料の作成、会議の準備など、内容は多岐にわたります。業務範囲は広いですが、逆に自分のやりたいことが何でもできると捉えています。ただパートナーに言われたことだけをやるのではなくて、何事においても自分から提案することを心がけています。
私は前の会社では妊娠・出産を機に、補佐業務に回されてしまい一人前の仕事をできないことが苦しかったのですが、ここでは自分のやりたいことをできる素地があって、それを寛容に受け入れてくれるのがありがたいですね。働き方も柔軟で、都合に合わせて自宅で仕事をしたり、保育園のお迎えのため17時に仕事を切り上げるなど、場所も時間も自由に仕事ができてとても助かっています。
実は水上さん、普段は大阪在住で、月に数回、社内の全体会議に合わせて東京オフィスに出勤しているそう。
水上さん もともと知り合いだったパートナーのひとりに声をかけてもらって転職したのですが、その際に大阪オフィスをつくってもらったんです。契約している自治体は全国にあるので、私は主に関西エリアを担当しています。
東京にいるスタッフと連携しながら、現在は3人で行政との調整役を担当しているそう。そしてそれをまとめているのが、一スタッフでもありアソシエイツでもある河野慎平さん。マネージャーとして主にリノベーションスクールの現場を統括しています。
河野さん ざっくり言うと、水上たちはまちの資源を発掘し、そこで見えたものからその地域に合ったプロデュース内容などの提案をして、それが決まったら現地でのリノベーションスクールなどの運営は僕たちアソシエイツが実施していくという役割分担です。
現在は会社を組織として整えている最中だそうで、社内のルールを更新することが多いようです。
河野さん 現場で起こっていることからどんどん改善していくことも多いので、絶えずどういう形がいいか考えて更新しています。だから「安定」っていう感じはないですね。
水上さん 確かに、安定を求める人よりは変化を楽しめるチャレンジャー精神のある方が向いていると思います。
水上さん自身も、前職ではハウスメーカーに勤めていましたが「このまま働いても先が見えすぎてしまって楽しくないな…」と安定した将来に満たされなかったことも、リノベリングに転職した一つの理由だそう。転職後は、あるギャップに驚いたと言います。
水上さん スタッフは20〜30代と若いので、部活っぽい感じなのかなと思ったら全然そうじゃなくて、みんなすごい意見を言うんですよ。それまで若手は控えめにしてあまり発言しないような組織にいたので、驚きましたね。一人ひとりが当事者意識を持って、真剣にぶつかり合っているのが印象的でした。
それぞれ担当する案件の内容は違えど、リノベリング として同じ方向を目指して協力し合いながら、ときにはぶつかりながら、進んでいるようです。
仕事の先に、自分の夢を重ね合わせる
河野さん 今回募集する「リノベーションまちづくりプロデュースディレクター」の主な仕事は行政との関係性づくりですけど、行政の方にヒアリングしたり課題や方向性を提案したり各調整をするなど、そうした業務を通してプロデューサーとしての視点やスキルが身につくと思います。
例えばゆくゆくは自分の故郷をよくしたいという人であれば、リノベリングでの仕事を通して磨いた力が絶対生きるし、全国のネットワークが活かせるだろうし、将来的に「自分はこういうことをやりたい」っていう夢と重ね合わせてもらえたらいいなと思います。
青木さんも「リノベリングを通して、確実に人生が豊かになっている」と続けます。
青木さん これは、ぼくが目指すまちの姿をイラストにしたものです。まちの全部を変えなくてもいいんだけど、一部にとても幸せな風景を打ち込みたい。
こういう絵を実現するには、まず一人目の変化を起こす実践者を発掘しないといけないし、その人が立ち上がって続けないと意味がないし、それも補助金に依存した形ではなく、ちゃんと自立した形でないと持続しないから、そのためのフォローアップも大切で。ほんと、超面倒くさいことやってるんだよね(笑)
手間はかかるけど、でも、かかった分だけ自分たちは豊かになっていきます。人との関係もできるし、いろんな都市に自分たちが関わったプロジェクトがあるし。だから観光地に行こうっていう思いがなくなって、あの人がやっているあの取り組みに家族や仲間を連れていきたいっていう、人に会いにいく旅になりました。
みんなもそうだよね。慎平ちゃん(河野さん)が一番やりたいことは自分が関わったまちに奥さんと巡ることで、水上さんも娘が成長したら自分の関わったまちで一緒にお酒を飲みたいと思っている。みんなそういう夢を描いています。
「全国行脚して、新婚旅行をそういう形で実現したいです」と河野さんも頷きます。
河野さん リノベリングの仕事を通して、いろんな地域を知れたことはとてもうれしいです。観光とはちがって、そこで暮らして働いている人たちと顔の見える関係で付き合えるので、そこは大きいですね。関わったまちでリノベーションまちづくりによって飲食店や宿など新しいお店が少しずつオープンして、全国各地に会いに行きたいと思う人が仕事を通して増えているのはほんとうに財産だなと思います。
それに、自分も暮らしているまちで何かやってみようと勇気づけられることも多いし、そういう人をご縁のあるまちにも増やして全国の仲間ともつないでいけたらと思っています。
青木さん 大きな夢としては、次の世代に魅力のあるまちを残していきたい。全部の都市が同じ方向を見ることはないと思うけど、せめて僕らが関わったまちは僕らなりのやり方でエンジンをかけていきたいです。子どもたちのためにも、機能的なだけでなく心地よさもある人間らしい都市を取り戻して、本当にいいまちをつくりたいよね。
自分の故郷や住むまち、好きなまちを、もっとよくしたい。それは、きれいごとだと思うかもしれない。でも、すでにリノベーションまちづくりによって変わっているまちが全国に増えています。
今後さらにその輪を広げていくため、リノベリングでは新たなスタッフを募集しています。新しくて小さい組織だからこそ、チャレンジの幅はあなた次第。ともにまちをリノベーションする担い手になってみませんか?
(写真:秋山まどか)
– INFORMATION –
グリーンズ求人は、1/31(木)に都内で合同説明会を開催します!今回記事で紹介した株式会社リノベリングの仕事についてもご紹介する予定です。興味を持った方は、ぜひお越しください!