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地域の課題は、やる気のある人がいれば必ず解決する。10周年を迎えたissue+designが今本当に伝えたい「ソーシャルデザイン」のこと

「社会の課題に、市民の創造力を。」を合言葉に、2008年に神戸で誕生したソーシャルデザインプロジェクト、issue+design(イシュープラスデザイン)。行政や企業とともに多様なアプローチで地域や社会が抱える課題解決に挑むこのクリエイティブチームの取り組みをgreenz.jpでも過去に何度か取り上げてきました

そんなissue+designが2018年、10周年を迎えました。

この10年間の活動を伝える記念展示「SYNERGY(シナジー)」を、東京、神戸、名古屋の3都市で開催しています。すでに会期終了した東京での展示の様子と、issue+design代表・筧裕介さんへのインタビューをお届けします。

ソーシャルからローカルまで。
多彩な7つのプロジェクト

会場に展示されているのは、issue+designがこの10年間で手がけてきた数々の実践の中から選ばれた、7つのプロジェクトです。

実際の展示をいくつかご紹介しましょう。

2008年の阪神・淡路大震災の教訓に基づき開発し、2011年の東日本大震災支援時にリデザインした「できますゼッケン」


社会的マイノリティの人々が生きやすい社会を実現するためのデザインプロジェクト「OURS」からは、離島で出産に挑む母のサポートのための新型母子手帳「親子健康手帳」(上)や筆記音を増幅することで書く行為の楽しみを増やすボード「Write More」(下)

「佐川町みんなでつくる総合計画」。会場でひときわ目を引く、天井から吊り下げられた模造紙のような紙と、そこに貼られたカラフルな付箋。17回のワークショップを通して町民同士が思いを通わせあったそのプロセスが展示されています。

「人口減少×デザイン」では、全国の人口推移と人口減少対策効果のシミュレーションを体験できます。

実際にプロジェクトで仕様されたアイテムや、ワークショップの付箋などがそのまま展示されています。ひとつひとつじっくりと足を止めて、読んでみたり、触ってみたり。ここに示されている課題やその解決方法についてどう感じるか、誰かと話してみたくなります。

展示のタイトルは「SYNERGY(シナジー)」。

誰と、何をやるか。issue+designが大切にしている「社会課題を解決するためのシナジーを生みだすデザイン活動」を多くの方に体感してほしい、と今回の展示は企画されました。

各展示に、プロジェクトにどんな人が関わっているのか、シナジーのダイアグラムが表示されています。

ここからは筧さんに10年間を振り返っていただきながら、展示やソーシャルデザインに対する思いを伺っていきましょう。

筧裕介(かけい・ゆうすけ) issue+design代表
1975 年生まれ。一橋大学社会学部卒業。東京大学大学院 工学系研究科修了(工学博士)。2008 年 issue+design 設立。以降、社会課題解決、地域活性化のためのデザイン領域のプロジェクトに取り組む。著書に『ソーシャルデザイン実践ガイド』『人口減少×デザイン』『震災のためにデザインは何が可能か』など 。代表プロジェクトに、震災ボランティア支援の「できますゼッケン」、育児支援の「親子健康手帳」、300人の地域住民と一緒に描く 未来ビジョン「高知県佐川町・みんなでつくる総合計画」など。グッドデザイン賞、日本計画行政学会・学会奨励賞、竹尾デ ザイン賞、カンヌライオンズ(仏)、D&AD(英)、Shenzhen Design Award 2014(中)他 受賞多数。

デザインのアプローチは社会に役立つのではないか

issue+designは2008年、阪神淡路大震災からの復興の流れを受けて始まりました。活動を始めた当初は、デザインというアプローチを社会課題の解決に使えるかどうか分からず、実験的な挑戦だったと振り返ります。

筧さん デザインという考え方がデザイナーと呼ばれない人たちにとっても、何か役に立つことがあるのではないか、という思いがあって、教育の分野と社会課題へのアプローチと両方やっていたんです。

最初の2年は、地域の大学生たちと一緒に、特定の課題にアプローチするプロジェクトに取り組みました。1年目のテーマは「震災+design」。そして2年目は「子どもの放課後+design」。専門的なデザインの分野とは距離のある医学部、看護学部、教育学部などからたくさんの学生が参加しました。

筧さん 最初に成果を感じたのは学生たちの変化です。彼らがプロジェクトへの参加を通じて、すごく成長して、変わっていったんですよ。「誰かの課題を解決するために、何かをつくりあげる」というデザインの考え方が、様々な領域で役に立つことに気づきました。

仕事が世の中にわかりやすく伝わった、
東日本大震災という転機

デザインのアプローチは社会に有用である。そうした実感を得る一方、issue+designの取り組みが、世の中に伝わることはあまりなかったと言います。

ターニングポイントは2011年。東日本大震災が発生したとき、以前からつくっていた、ボランティアスタッフや被災者が「自分にできること」を表明し、助け合いを促すツール「できますゼッケン」のプロトタイプをリデザインして、東北へ持っていきます。その取り組みが、デザインと社会課題を結びつけるissue+designのメッセージが世の中へ伝わるきっかけとなりました。

またちょうど、現代日本の育児環境における課題を解決するために、従来の母子健康手帳をリデザインした「親子健康手帳」が完成したのも2011年の3月でした。

こちらはそもそも産婦人科がない離島のために開発していたものでしたが、震災で母子手帳を失くした人に提供され、全域避難となった被災地とそこに住民票がある人々の絆を結ぶオリジナルの母子手帳としても活用されることになります。

筧さん その2つのプロジェクトによって、僕らがやろうとしているデザインと社会課題の関係性が目に見えて伝わるようになりました。3.11の影響というよりは、3.11によって僕らの仕事がわかりやすく世の中に出た。ひとつの転機でしたね。

ローカルの仕事にしっかり取り組んだ5年間

issue+designは、活動を始めてから様々な社会課題に取り組んできましたが、ローカル(地域)領域のプロジェクトを本格的に始めたのは2014年のことです。

きっかけは2013年に筧さんが出版した書籍『ソーシャルデザイン実践ガイド』。
「社会課題や地域課題に対して取り組める個人が増える方が、ひとにぎりのデザイナーが取り組むよりも世の中は変わるのではないか」という思いから、市民の力で社会が抱える課題を解決する方法を紹介している書籍です。

それを読んだ高知県佐川町の町長から声がかかり、町の総合計画をつくるプロジェクトの全体設計を担当することになりました。

筧さん 僕らはそれまでもローカルの仕事はしていたのですが、「発明ラボ」を自主事業として運営するなど、ローカル事業をしっかりやっていくということも含めてひとつの挑戦でした。

町民も行政も事業者も、小学生から高齢者までが全17回のワークショップを通じて町の未来を描いていきました。

「さかわ発明ラボ」は町の総合計画の中に記された未来像のひとつを実現するプロジェクト。佐川町の地域資源を素材に新しい発明を生み出すものづくり工房です。展示では、このラボから生まれた発明を体験できます。

町長と直接話をしながら、スピード感を持ってプロジェクトを実行してきたそうです。この5年間の間で、町の総合計画や発明ラボの他に、小学校6年生から中学校2年生までの総合学習の授業でプログラミングとデザインの授業を行うなど、教育のリデザインにも取り組みました。

地域の違いは、そこに実践する人がいるかどうか

この10年。特に東日本大震災以降、ソーシャルデザインという言葉はずいぶんと浸透してきました。

筧さん自身も実際、デザインという領域と、ソーシャルやローカルといった文脈とのつながりがなかなか伝わりづらかった10年前と現在では、状況が変わっていることを感じています。ただ一方で「まだその次のステージに行ききれていない」とも。

筧さん 地域と社会課題に対してデザインで何かをするというのは市民権を得てきたけれど、具体的に誰がどうやってやるのかはまだ解決されていなくて。まだ一部の名のあるデザイナーが地域の産品を素敵なパッケージでつくりました、みたいなところに留まっている感じがあるんですよね。それで一時的に売れるけれど、だからなんだろうということがいろんな領域で起きています。

一方で、地域で課題に取り組みたいという人たちも爆発的に増えているのだとか。実はissue+designとしても、今後はローカルからソーシャルの領域へ軸足を戻し、ローカルのことは地域の実践者へバトンを渡す準備をしています。

筧さん 現在『ソーシャルデザイン実践ガイド』のローカル版のような書籍を執筆しています。ローカルの課題って、地域性があるとか地域差があるとか言うじゃないですか。でも僕は違いがあるのは、「そこにできる人がいるかいないか」だけだと思っています。

基本的に抱えている問題はどこでも全く一緒で、どこでも高齢化は進んでいて、どこでも空き家はあふれていて、どこでも一次産業は衰退していて、どこでも観光客は来なくて。それに対して取り組むやる気のある人がいるか、いないかぐらいの差なんです。

そのための方法論を共有する手段として、書籍の執筆の他に、まちづくりの基本的なことを学べるカードゲーム、「地方創生×SDGsゲーム」をつくっています。どちらも、これまで5年間のローカルで実践してきたことの集大成です。これからは僕らではなく、地域の人たち自身に動いてもらう仕組みをつくっていきたいと思っています。

issue+designのこれからとしては、社会課題へのアプローチにチャレンジしていきたいと思っているそう。NPO法人soarと共同で運営する、社会的マイノリティが生きやすい社会を実現するための事業開発を支援するプログラム「OURS」もそのひとつです。

最後に、展示を通して伝えたいことを伺いました。

筧さん 地域の課題は、最初にアクションする人もものすごく力がいるけれど、そこについていき、ともに変わっていこうと思う人たちの存在もすごく大切。周りの人たちが変わり始めることで、新しいことが生まれていくんです。

社会課題を解決するための力を生み出す動きをつくることが、僕らが言っている「ソーシャルデザイン」。そうした動きがこの展示を通して伝わったらいいですね。

多様な人々と関わり、地域や社会の課題を解決する。そうしたissue+designの10年の活動の中で生まれた、コミュニケーションを誘発するようなデザインや、他者への配慮ということもこの展示には現れているように感じました。

展示は神戸で現在開催中。名古屋でも12月より開催です。ぜひ足を運んでみてはいかがでしょう。きっと話がしたくなるので、ひとりよりも、誰かを誘って行くことをおすすめします!

– INFORMATION –

issue+design 10周年記念展示「SYNERGY」

【神戸展】
デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)
2018年10月7日[日] – 27日[土]
11:00-19:00(最終日は17:00終了・10/9 [火]、10/15 [月]、10/22 [月]休館)

【名古屋展】
アートラボあいち
2018年12月7日[金]-2019年1月20日[日]
11:00 – 19:00(最終日は17:00終了・月〜木曜休館)