武藤一由さんは、青梅市内の酒屋「武藤治作酒店」の三代目。酒屋を営みながら2018年4月にオリジナルビールの「VEPAR(ベイパール)」などを提供するクラフトビアバー「青梅麦酒」をオープンしました。
オープンにあたっては、MotionGalleryのクラウドファンディングを利用。オープンの目的は自分でつくったビールを提供する場所をつくると同時に、青梅市の中心市街地を活性化することでした。
クラウドファンディングはいま、自治体がふるさと納税の制度を利用して行ったり、地域ごとのプラットフォームが広がりを見せるなど地域活性化と相性が良いという印象もありますが、実際に利用してみてどうだったのか、お話をうかがいました。
中心市街地活性化が開店のきっかけ
武藤さんが「青梅麦酒」を開店することになったそもそものきっかけは「中心市街地活性化」だったといいます。
中心市街地活性化とは、1998年から内閣府が地域活性化のために行っている施策で、中心市街地活性化地域に選ばれると国の支援のもと、都市再生や共同住宅供給、商業活性化などを行うことができます。青梅市は2016年に認定を取得。それに先駆けて2015年に株式会社「まちつくり青梅」が設立され、マルシェの実施や空き店舗対策などを事業として行ってきました。
その主要事業の一つが「アキテンポ不動産」、増えていく空き店舗をリフォームしてサブリースし、新たな事業を呼び込もうというもので、青梅麦酒がオープンした場所も元化粧品店の空き店舗でした。
利用者の募集をしていたところに、僕が手を上げたんです。このまちで飲食店やるというのは冒険だったんですが、この店をやる前から中心市街地活性化には関わっていて、マルシェやまちなかビアガーデンなどに参加する中で、まちの外の人の声も聞いて、問題もあるけどチャンスもあると思いました。
確かに人口は減ってるし、青梅駅の周辺は寂れてきてますけど、若い人たちがいないわけじゃなくて、中心市街地に飲みに行こうっていう感覚がないだけなんです。地元に住み続けている人は多いし、地元で働いている若い人たちもいるんですが、行く店がないから。夜こうこうと電気ついてるのってうちの店含め数軒で、あとは味のあるスナックくらいしかないんです。
まちから人がいなくなったわけではなく、高齢化などを理由に店がなくなり活気がなくなってしまっただけ。だから、その活気を取り戻すために若い人たちが来たくなるような場所をつくりたかったというのです。
せっかくの一杯目だから美味しいビールを飲んで欲しい
ずっと酒屋を営んできた武藤さんはこのお店をオープンすると決める以前から、クラフトビールをつくりたいと思っていたそうです。
酒屋では日本酒をメインにやっていて、酒のつくり手と関わる中で自分もものづくりをしたいと思うようになったんです。みんなに「なんで日本酒じゃないの?」って言われたんですけど、僕の中では神々しいものという思いもあるし、酒屋で柱酒にしている酒を超えるものが自分につくれるとも思えないので、日本酒をつくろうなんて考えはまったく起きませんでした。
その中で、なぜビールかというと、もともとクラフトビールが好きだったというのもあるんですが、ビールってなんだかんだ言って一杯目に飲むお酒だし、一杯目が与える影響って大きいと思うんです。だからせっかくの一杯目に美味しいビールを飲んでほしいという思いがありました。
それにクラフトビールの醸造所と日本酒の酒蔵ってどこか似ているところがあって、どちらも地域性が間違いなく出ると思うんです。だからこの地域でつくるならクラフトビールかなって。
そんな中で、酒屋としてビールを仕入れようと思ってVERTERE(奥多摩のクラフトビール醸造所、参考記事)に行ったんです。そこで「いずれ自分でつくりたいと思ってる」って話をして、自分の醸造所をつくる前に教わりながらオリジナルレシピで一緒につくったりできないか相談してみたら、やりましょうって言ってくれて。そこでまずビールをつくってみることになったんです。
こうしてVERTEREの醸造所でつくったオリジナルビールが「VEPAR」。VEPARはクロアチア語で「イノシシ」の意味で、青梅市の形がイノシシに似ていることから名付けたのだとか。
「青梅麦酒」開店前の昨年秋に最初のビールが完成し、OME OCTOBERFESTでお披露目、現在までコンスタントにつくり続けているそうです。
ちなみに、そのVERTEREも醸造所の拡張に際してクラウドファンディングを行って資金を集めました。クラフトビールとクラウドファンディングは相性が良いのかもしれません。
クラウドファンディングはつながりをつくるもの
中心市街地活性化とクラフトビールが重なって「まずは自分がつくったビールを提供する場所をつくろう」と計画が始まったという青梅麦酒ですが、なぜクラウドファンディングでやろうと考えたのでしょうか?
僕が手を挙げるという段階で、まちづくり会社とはクラウドファンディングを使おうと話していました。資金面もちろんありますけど、注目されやすいし、若い人たちがどうやって資金繰りをしてどう仕事をしているのかを身をもって感じたいという思いもありました。
そして、実際やってみて感じたのは、資金調達やお店のつくり方としての新しさと、お金を託されることから生じる責任感だったそうですが、その新しさはお店のあり方にも影響を与えたようです。
普通、お店ってオープンしてからお客さんとの関係をつくっていくものだと思うんですが、クラウドファンディングを使うとオープン前からつながりをつくることができて、最初からみんなを巻き込むことができますよね。それはすごく大きな違いだったと思います。
もう一つ感じたのは応援の力ですね。お金だけじゃなくて応援してもらえるということがこんなに力になるのかって。MotionGalleryはその応援しているという思いがすごく伝わってくるので良かったです。
ビール好きの人や、こういうお店が増えたらいいよねって言ってくれる人はもちろんですが、海外から応援してくれる人がいたりとか、遠いからリターンはいらないって言ってくる人がいて、本当に嬉しかったです。でもその分、期待を裏切れないという責任感も生まれました。
オープン前からお客さんとつながりをつくることができるという部分からは、クラウドファンディングと地域の親和性を感じました。単純に「地域活性化です」といって店をオープンさせるのではなく、そこにクラウドファンディングというメディアを挟むことで、地域にも外部にもアピールすることができ、根を下ろしやすくなると感じたのです。
実際に、地元のお客さんも多く訪れているそうで、取材中も(昼間にもかかわらず)「やってるの?」と訪ねてくる近所の方がいました。確かに近所に落ち着けるクラフトビールのお店があったら昼間から飲みたいですよね。
ビールとクラウドファンディングで人が集まるまちに
クラウドファンディングによって人とつながる場所をつくることができた武藤さんは今後どのようなことに取り組もうと考えているのでしょうか。
飲食のお店が増えていくとまちって自然と人が集まるようになるんです。だから、自分のできることは小さいけれど、この店をきっかけに青梅で商売ができると思ったり、青梅面白いから青梅で商売したいって思う人が少しでも増えてくれればいいと思っています。
実際この間、都内でも飲食をされている方が来て見学して、「青梅にお店だそうかな」みたいに言ってくれて、一役買うことができたかなって。そうやって少しずつ店が増えていけば若い人たちもどこかに出なくても青梅で飲んで帰れるような仕組みができていくんじゃないかと思うんです。
それに新しい店が増えることで、今ある飲食店も良くなるだろうし。意外とあるんですよ、いい飲食店、鰻屋さんとか。でも若い人たちはそういう店があるのも知らないし知っていても入りにくいと思うので、うちがコラボメニューをつくって、発信してつながっていくような仕組みをつくったりもしたいですね。
青梅のまちをちょっと歩いてみて思ったのは、すごくノスタルジックなまちだということでした。青梅が賑やかだった武藤さんの子どもの頃、昭和40年代くらいの町並みがそのまま残っている印象で、シャッターが下りている店も多いですが佇まいはそのままで本当にタイムスリップしたような。実際に、そのノスタルジックな雰囲気を活かした観光誘致も行っているようです。
裏は入れば昔からの八百屋さんがあったり、豆腐屋さんがあったりするので、カメラを持った若い人が結構来たりもしてるみたいですね。僕なんかはスナックによく行くんですが、それも含めてうちの店をうまく使ってツアーみたいなことができればいいなと思っています。
そういうのって地元の人より外の人のほうが興味をもつと思うんですが、観光客の人には入りにくいと思うので。そういうイベントをやって一回入ってみて気に入ってもらえればまた来てもらえるんじゃないかと思います。
そして、そんなまちの魅力の一つとして自分の醸造所をつくることも考えているんだとか。
今年中に構想は固めて、東京オリンピックまでにはつくりたいですね。安定してつくれるようになったら、酒屋のつながりで地域の飲食店で出してもらうことはできると思うので、そういう形で地域のビールになっていければ。
そして、そのときにはまたクラウドファンディングに挑戦したいといいます。
資金が必要なのももちろんですけど、一回目で感じたものを大事にして、どれだけ巻き込めるかを考えたいです。醸造所を僕の夢でもあるし地域の夢でもあるみたなものにしたいので、そのためにはクラウドファンディングが一番いい手段だと思うんです。
ただのお客さんとか応援している人じゃなくて、実際にお金を出すことで「乗ってる」感覚を得ることができるんじゃないかと。
クラウドファンディングはオンラインでつながりをつくるものですが、実際にお店などの人が集まる場所をつくる場合には、地域のつながりも自然とできていくのだと感じました。武藤さんはpopcorn(誰でも自主上映が行える上映会システム)で上映会をやったりもしてみたいと言っていて、人と人とをつなぐ場づくりをこれからもやっていこうと考えているようです。
気になった方はぜひ青梅に足を運んで美味しいビールとノスタルジックな町並みを楽しんでみてください。
– INFORMATION –
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