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セルフビルドできる3畳の「断熱タイニーハウス」で、冬も快適な暮らしを体感してみませんか? 建築学生・沼田汐里さんがクラウドファンディングで受け取ったのは、“消費されないお金”でした

2017年9月4日から10月10日の37日間。クラウドファンディングのプラットホームMotionGalleryで50万円の目標金額をはるかに上回る120万円のファンディングに成功したプロジェクトがあります。

キャッチフレーズは“みんなでつくりたい、くらしを変える住まいの実験室”。女子建築学生が発起人となってはじめた、都内に高性能なタイニーハウス(小さな家、身軽な住まい)をセルフビルドするプロジェクトです。

小屋をキット化し、みんなで組み立てる。内部には断熱を施し、快適な空間を体感してもらう。場所を移し、また組み立てて、多くの人に広めていく。

108名の支援者に後押しされて、プロジェクトは現在も進行中です。

今回は、プロジェクトリーダーであり、大学院生の沼田汐里さんに「クラウドファンディングのその後」をお聞きしました。

沼田さんは言います。

「クラウドファンディングで手にするお金は消費されないお金なんです」。

消費されないお金とは。プロジェクトの「その後」の物語、一緒に体感してみてください。

沼田汐里(ぬまた・しおり)
千葉大学大学院工学研究科都市環境システムコース修士2年 2018年3月卒業予定
リノベーションコーポラティブハウスや賃貸型コーポラティブハウスの研究。 

断熱タイニーハウスを自分の手でつくる

まずはプロジェクトについてご紹介しましょう。

発起人は、沼田さんと有志のみなさん。沼田さん自身が建築を学ぶ上で、もっと自分の暮らしに興味を持つ人を増やしたい、そのきっかけになる場をつくりたいという想いからプロジェクトを立ち上げました。

発起人の沼田さんと有志のみなさん

秋葉原にある「3331ArtsChiyoda」の屋上を借りて、“みんなでつくる”のは、3畳ほどの小さな小屋。“小屋キット”をコンセプトに、材料はホームセンターで調達できるものを使用し、規格そのままの大きさや最低限のカットで使用するなど、誰でも組み立てられる手軽さにこだわりました。

また、断熱材を使うことで快適さも追求しました。その背景には、日本の住宅が冬寒いことに疑問を持ち、手軽にできる快適な暮らしを追求してほしい、小屋がそのきっかけになれば、という想いがあるのだとか。

「3331ArtsChiyoda」にて小屋の組み立てワークショップの風景

小屋製作ワークショップの様子をMotionGalleryのページに随時アップすることで徐々にプロジェクトは広まり、クラウドファンディング開始からおよそ20日間で当初の目標金額50万円に到達しました。

その後ストレッチゴール(プロジェクトの内容を充実させるための次なる目標金額)を目指し、目標金額を120万円に。残り日数の少ない中でのチャレンジでしたが、多くの人の応援によって達成することができました。

クラウドファンディングのトップ画像。小屋とつくる人の姿が可愛く描かれています

完成後はお披露目会や小屋のオープンデイなどを実施し、多くの人がその快適さを体感したそう。

オープンデイの様子

2017年11月にはJR西千葉駅から徒歩5分ほど、住宅街の中にある小さな畑の横にお引越し。ここは、沼田さんが学生生活を送っているまちでもあります。今後、ものづくりの場を提供するラボ「HELLO GARDEN」と小屋を共有しながら、様々なワークショップを開催していく予定です。

暮らしに貪欲な人を増やしたい

私が取材に訪れたのは、千葉に引っ越しを終えたばかりの11月末。クラウドファンディングのリターンの準備もこれからだという沼田さんですが、そもそもなぜプロジェクトを立ち上げようと思ったのでしょうか。

多くの人が自分の家のづくりや構造に興味がないと私は感じていて。でも形はそれぞれだけど、人には暮らしがあるじゃないですか。そこにもっと興味を持ってもらいたいっていうのがこのプロジェクトの根本であり、自分の根本でもあります。

この小屋の断熱もタイニーハウスという形もどちらも住まいや暮らしに関する入り口だと思っています。衣食住、服や食事を選ぶことと同等に自分の暮らしに対して興味を持って、「よくしよう」っていう意識が芽生えていってほしいなと思うんです。

「日本の家は夏を旨とすべし。」

これは兼好法師の「徒然草」の一説の要約だそうです。昔の日本は湿度などの影響で夏に病気が流行ることが多かったため、夏場の風通しを良くした家が良いとされていたそう。

逆に、夏風通しをよくすれば冬のことは考えなくていい、冬の寒さを我慢する、という日本の風潮が生まれたように思うんです。そこにエアコンが登場して、今度は自分のまわりだけを冷やす、温める。外気との関係を考えないからカビや結露につながっています。

断熱材がしっかりしていれば、少ないエネルギーで快適に過ごせるということが、広まってほしいなと思うんです。自分の暮らしにもっと貪欲な人を増やしたい、それが私の願いです。

そんな想いからまずは一人で企画を考えはじめたという沼田さん。わからないこと、不安なことを色々な人に相談するうちに「いっしょにやろう!」と仲間が増えていったといいます。

またご自身が事務局を務める「HEAD研究会」(建築に携わる様々な専門家が集い、リノベーションやライフスタイルなどを研究する会)で知り合った、ブルースタジオ石井健さん、HandiHouseProject中田理恵さん、みかんぐみの竹内昌義さんの「とりあえずやってみたら」という言葉にも背中を押され、プロジェクトは前に進み始めたのです。

内観もおしゃれな空間が広がっています

自分の知り合いのその先まで届くプロジェクトに

それではなぜ、クラウドファンディングに挑戦したのでしょうか? 伺ってみると意外な答えが返ってきました。

大きな古屋つくりは初めてだったという沼田さん。工具も初体験だったとか

実は企画当初はクラウドファンディングするつもりはなかったんです。自分でスポンサーを探すつもりでした。人からお金をもらうことは、単純に責任が重すぎると思ったんです。

そんな沼田さんがクラウドファンディングに挑戦した理由、それは自分の周りだけで完結しない、もっと先の人にまで届くプロジェクトにしたいという想いだったと言います。

自分の知り合いに頼むだけでは広まっていかないな、と思いました。それではプロジェクトの意味がない。クラウドファンディングはメディアにもなるし自分の更新するページも持てるというのが魅力でした。特にMotionGalleryさんは、イベントを組み立ててくれたり、プロジェクトページをつくるときにフォローしてくれたりするので、自分たちができないプロモーションもできる。自分の周りだけでは終わらないプロジェクトになると思ったんです。

多くの人が関わるプロジェクトに

実際にファンディングを始めてみると、一歩先の人まで届いている感触があったと言います。

50万円を達成してストレッチゴールを120万円に設定した時、ファンディングの期間的には1週間くらいしかなくて。でも、この倍以上の金額を達成できたとき、私たちの知らない誰かが盛り上げてくれていることをすごく感じました。

私たちが「お願いします!」とたくさん言っていたのではなく、どんどん周りが広めていってくれたというか。クラウドファンディングだからこそ、一歩先の人たちにも伝えられるってことを感じました。

オープンデイやワークショップを通じて実際に小屋を体感した人からは、「足元も寒くない」「ずっと入っていたい」といった声が届いているのだとか。

小屋内のサーモグラフィーを撮影して、実際の外部との温度差を比較したりも

さらにこれからは、「体感を運ぶシャーシ」として牽引トレーラーを導入したり、キットを商品化したりするなど、プロジェクトはまだまだ面白くなっていきそうです。その魅力はきっと二歩先、三歩先の人へも広がり、たくさんの人へ暮らしの気づきを届けていくことでしょう。

クラウドファンディングのお金は消費されないお金

プロジェクトの企画当初、お金を人から集めることに対して抵抗があったという沼田さん。ファンディングを終え、今思うことを伺いました。

クラウドファンディングをしようと決めたものの、このプロジェクトのリターンを考えた時に「もの」で返しづらいということに悩みました。自分たちの知識や小屋づくりにどれだけの価値をつけて良いのか、どれだけの金額設定にすれば良いのか。

たとえば、「私たちがあなたと一緒にDIYします」というリターンをつくったのですが、私たちは建築の知識や技術を提供するだけ。それにどれだけの価値があるのか、はたしてリターンになるのかな、と。

そんな想いもクラウドファンディングが進むにつれ、変化していったと言います。

始まってみたら、意外と「一緒にDIYします」っていうリターンを選んでくれる人も多くて。お披露目パーティー招待券もあったんですが、私たちのミスで当日まだ施工している状態での開催になってしまいました。

でも、「いいよいいよ」って結局パーティーじゃなくて、みんなで小屋づくりになっちゃって(笑) お金を払ってくれている人なのにどんどん手を貸してくれて、逆に助けられたんです。

お披露目会でみんなで小屋づくり

クラウドファンディングを通じて多くの人に出会い、一緒に作業をする中で感じたたくさんの応援。そこには関係性を生むお金の存在があったと言います。

クラウドファンディングで手渡されるお金はつながりを生むお金だと思いました。何かを買って消費していくのではなく、払ったあと、消費されないお金。受け取る私たちにも感謝の気持ちが生まれてお互いの関係性も育まれるし、応援されただけプロジェクトは続いていく。

ファンディングを通して、お金を払うっていう行為の動機はリターンじゃなくて、応援したいっていう気持ちだと思うようになりました。共感だったり、成功してほしいという想いがお金という形になっている。純粋でシンプルだなと思います。




共感、想いがお金として届く、とてもシンプルなこと。沼田さんの言葉には、いつもとは違ったお金の表情に気づく、そんなきっかけがつまっているような気がしました。

小屋でつながる

クラウドファンディングへの挑戦、プロジェクトの達成、そして、小屋を携え、たくさんの人のもとへ。最後に沼田さんは、こんなお話を聞かせてくれました。

私、このまちに住んで4年になるんですけど。この小屋がここに引っ越してきて、この空き地で作業をしていると近所の人が話しかけてくれるんです。「いつ建つの?」とか、「今日は一人だね」とか。これまでこの街を歩いていて、知らない人に話かけられるなんてなかったのに(笑)

場所を提供してくれているラボの人やそこのお客さんも来てくれたり、これからも一緒に作業したり。小屋が私とまちの人たちをつなげてくれた。これも、クラウドファンディングの産物だと思ってます。

沼田さんの「クラウドファンディングのその後」の物語、いかがでしたか?
少しでも気になることがあったら、千葉の住宅街にある断熱タイニーハウスを訪ねてみませんか? ノックすることからはじまるあなたのストーリーがあるかもしれませんよ。