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ヒントは大好きなおばあちゃんの家の中に。1年間で仕事も住む場所も変わった市川智将さんは、どうやってやりたい仕事にたどりついたのか?

本当に自分のしたいことってなんだろう。そう考えたときに、もしかしたらそのヒントは自分が人生の中で幸せだった時間にあるのかもしれません。

市川智将さんにとって、幸せだった時間は「家」にありました。DIY可能物件や、古民家や平屋、レトロなマンションなど個性的な物件を多く取り扱う、松戸の不動産屋、omusubi不動産で2017年から働く市川さんは、グリーンズの学校の卒業生。学校に通ったことがきっかけで、転職を決め、さらにそこからマイプロジェクトも生まれています。

「僕は正直、受講料の元は取ったと思っています」、そう言って笑う市川さん。2017年にグリーンズの学校の2つのクラスに参加しています。市川さんは何を学び、どう次の一歩につなげたのでしょうか。激動の2016年冬から2017年冬までのストーリーをお届けします。

古い建物を活かしたい

市川さんは埼玉県鴻巣市出身。大学卒業後に働いたのは、ビジネスホテルでした。人と話す接客の仕事が性に合っていたものの、今後のキャリアを考えるうちに思いあたったのは昔から好きだった「家」のこと。インテリアを眺めるのが好きで、住まいに関わることには昔から興味がありました。

ホテルを退職すると、リフォーム会社を経て、ハウスメーカーのアフターメンテナンス部門に勤めます。

そんな市川さんの人生を動かす印象的な出来事は、2016年に起こります。

当時、東京に住んでいた市川さんには、家の近所にお気に入りの場所がありました。その場所は古民家で、カフェが出店していたり、小物が売られていたり、ヨガ教室が開かれていたりと、地域に開かれていた場所だったそう。市川さんにとってその場所は、近所の人ともつながることができる憩いの場でした。

ある日突然、その場所が失くなることを知ります。

その土地は、業者さんが買って、更地にして、小さく分けて家が建つと聞きました。とても良い雰囲気を持っていた家が壊されて失くなってしまう。ハウスメーカーに勤めていた僕は、自分の仕事との矛盾でもやもやしました。新しい家をどんどん建てるということが、自分がやりたいことなんだろうか…って。

もちろん業者さんに非があるわけでもないし、事情があって売却したオーナーの方が悪いわけでもない。でももしも誰かが建物と土地の活かし方を知っていたら、あの場所は残せたかもしれないなって。そうした場を持つ人の相談に乗って、上手い活かし方へとつなげられるような人になりたいと思いました。

どうしたらそんなことができるのだろう。やりたいことを叶える方法を探して、学びの場に足を運び始めます。そんなときに出会ったのがomusubi不動産の殿塚建吾さんでした。

殿塚さんの話を聞いて、古い建物を活かして、価値をつくっているところが、まさに自分のやりたいことだ! って思ったんですよね。

あとはなんだかすごく楽しそうだったんですよ。そのときに、「入居者の人たちと花火を見るイベントの準備をしていたけど、当日工事現場の車両が目の前にあって、ほとんど見えなかった」という話をしていたんですけど、なんだかそんなことも笑えちゃう雰囲気がいいなと思って。

そうして殿塚さんとつながるきっかけを探していた市川さんは、殿塚さんが講師として参加する、2017年1月開講のグリーンズの学校「小商いクラス」を見つけました。

小商いクラスの授業風景。右が殿塚さん

全6回のクラスでは1,2回目に講師のレクチャーを受けて、3回目から受講生が各自小商いプランを考え、6回目で発表をします。市川さんが発表したプランは「おうちパートナー」。家のメンテナンスやDIYの仕方について、相談相手として伴走するサービスを、プランにしました。

殿塚さんに近づきたいと思っていた市川さん。クラスの間に一緒に働きたいとアプローチしたのでしょうか、と聞いてみると、連絡は殿塚さんからでした。

クラスが終わって1ヶ月ぐらい経った頃に、「今度松戸に遊びにきませんかー? おうちパートナー、松戸ならできるかもしれないっす」って殿塚さんから連絡があったんです。僕も、企画をつくったものの実践する場がなかったので、これは渡りに船だ! と思って喜んで会いに行きました。

東京に住みながら松戸でも何かできることがあるかもしれない、というぐらいの気軽な気持ちで遊びにいってみると、殿塚さんにまちの人や場所を紹介してもらうことに。そうして、何度か足を運ぶうちに仕事を辞めて松戸に住む決意をし、omusubi不動産で働くことになりました。

入居者やまちの人々とお米を育てるユニークな不動産屋でもあるomusubi不動産。最初に遊びに行ったのも田植えでした

誰でも気軽に参加できる「失敗してもいいワークショップ」

omusubi不動産で働くことを決めた2017年の夏、今度は「エコハウスDIYクラス」に参加します。これから不動産に関わる仕事をするにあたり、断熱について知識を得たいということはもちろん、つみき設計施工社の河野直さんに興味がありました。omusubi不動産とつみき設計施工社は同じ千葉の近い場所で活動し、ワークショップを共催するなど関係性があったので、ぜひお話を聞いてみたいと思ったのだそう。

「エコハウスDIYクラス」断熱ワークショップ終了後の集合写真。正面ガラス部分にカーペットを幾何学模様にして貼り付けました

断熱ワークショップ内の一コマ。ベランダの照り返しを防ぐため、すだれを設置しました

エコハウスDIYは、断熱の基本について座学とワークショップを通して学ぶ、全6回のクラスです。6回の中で、受講生は自らの断熱プランを組み立てます。

当時僕は、松戸のDIY可能な賃貸物件に引っ越したばかりだったんです。そこでクラスのみんなが、自分の家で断熱の本番に取り組む前に、まずは僕の家で実験してみたい! と盛り上がったんですよね(笑) それがマイプロジェクト「失敗してもいいワークショップ」のはじまりでした。

市川さんの自宅を会場に、2017年10月までに3回ワークショップを開催。1回目は押入れの解体と床の断熱、2回目は壁の断熱、3回目は床貼りをしました。今後は漆喰塗りも計画しているそうです。

それにしても気になるのは、「失敗してもいいワークショップ」という名前。なんとも懐の深さを感じる名前ですが、どんな由来があるのでしょうか?

僕は過去にワークショップに参加したとき、それが人の家だったりすると、「失敗しちゃったら嫌だな」という気持ちがあったんですね。だからもっと気軽に挑戦してもらえたらいいなと思って。「失敗してもいいよ」って言われると気が楽じゃないですか。みんなにもっと家を自由に使ってもらいたい、気軽に手入れができるような未来になったらいいなぁという思いがあるので、それを実現するためというのもありますね。

なにかがあったときとか、なにかをつくりたいときに、まず自分でやってみる。そのための実験台にこの家がなったらいいなって思ってます。

失敗してもいいワークショップ

ワークショップにはエコハウスDIYクラスに参加した人はもちろん、小商いクラスに参加した人も来てくれました。学校のつながりも続いているのが嬉しいことです。

とはいえ実際ワークショップを主催してみると、想像以上の苦労もあったそう。

いや、実際ワークショップってめっちゃ大変ですね。当日のことを想定して、材料を用意して、手を止める人がいないように段取りを考えておくんです。工具を使うので、危険を回避することも考えないといけないですし、小さなことだけどお昼ごはんの準備もね。

でも、準備は大変だけど、楽しいんですよ。終わったときに疲れるんだけど、みんなで何か一つのことを成し遂げたというのは達成感があります。自分の家はそのうち完成してしまうので、今後はomusubi不動産の物件でもワークショップをできたらいいなと思ってます。

人生で特別に幸せだった時間はおばあちゃんの家にあった

ところで、お話を伺っていて感じたのは、市川さんはなぜこんなに家のことが好きなのだろうか、ということ。

自身で本棚をつくったことや家のリノベーションに挑戦したことがあり、今では工具を使ってDIYをすることもお手のものですが、手を動かし始めたのは社会人になってからだそう。

そしてどうやら市川さんの「家が好き」は、ただ建築物が好き、DIYが好き、ということ以上に、「家」という「誰かの思いがこもった空間」への愛着があるように感じます。家が好きだと思うようになったきっかけはあるのでしょうか。

そう問いかけると、そこには大好きな人の面影がありました。

きっかけはおばあちゃんかもしれないです。僕、おばあちゃん子でおばあちゃんの家が大好きだったんですよ。

おばあちゃんの家は実家の近くにあったんですが、家の中で縫製業をやっていて、母もそこで働いていたので、小学生の頃は学校が終わると大体いつもおばあちゃんちに行ってました。パートの人達もそこで働いていて、3時のおやつの時間に僕も混ぜてもらうんです。

おばあちゃん、お母さん、パートの女性たちに混ざって、にこにことお茶を手にする市川少年の姿が目に浮かびます。

おばあちゃんの家は、築50年ぐらいの2階建てのつくりのしっかりした民家で、おばあちゃんも、その家のたたずまいも、空間も大好きだったと続けます。

人生の転機にこれから何をしたらいいんだろうと考えて振り返ったときに、おばあちゃんの家に居た時間が人生の中で特別に幸せな時間だったなって思ったんです。だからそうした場所を残すことに、自分の力を使えたら楽しいかなって。

ワークショップが好きで、人と話すことが好きなのも、そうしたみんなで何かに取り組んでいる空間や、パートさんたちとの3時のお茶の時間が根源にはあるかもしれないですね。

実は大好きだったおばあちゃんは、2016年の冬、市川さんが殿塚さんに初めて出会ったトークイベントの前日に亡くなりました。

おばあちゃんが亡くなったので、その日会社を休んでいて、でも夕方には時間ができたんです。変な話ですが、だから殿塚さんの話を聞きに行けたんですよ。いつも通り会社に行っていたら、仕事が終わらない時間だったので、参加できていなかったかもしれません。

おばあちゃんが行って来い! って背中を押してくれたような。そんなこともあって、殿塚さんとomusubi不動産には勝手に縁を感じていますね。

まちに住む人が心地よく暮らせるように

omusubi不動産の営業という立場で、賃貸の案内や問い合わせの対応をするほか、これまでの経験を活かし、物件のメンテナンスなども任されている市川さん。人数が少ない組織だからこそ、自ら提案をしたり、様々な仕事ができたりとやりがいを感じています。

やりたいと思っていたことができる場所にきたな、という感覚があるので、頑張りがいがありますね。

omusubi不動産で開催した「八柱をめぐるDIY物件ツアー」で案内をする市川さん

今後は、omusubi不動産が所在する松戸に住む人が楽しく暮らせるよう、入居者の伴走者になりたいと言葉に力を込めます。

一般的な不動産屋だと、入居者の人と契約して終わり、だと思うんですけど、omusubi不動産って、入居者の人とお米をつくったり、飲み会をしたり、入居したところから関係を築こうとしているところが面白いなと思っていて。

まちにちょっとした知り合いが居たり、たまには何か一緒にしてみたり。まちの人が居心地良く暮らせるように、一緒に何かできる場所があるといいですよね。今後はそんな場所をつくっていくようなことができたらいいですね。小さいことかもしれないですが、そんな積み重ねが、いい場所を残すことにも必ずつながっていると思います。

2017年に受講した2つのグリーンズの学校を通して、仕事が変わり、住む場所が変わり、新しい家を舞台にマイプロジェクトが生まれ、どんどん自分のやりたかったことや理想の働き方へと近づいていった市川さん。

「グリーンズの学校で人生が変わった」と話します。でもグリーンズの学校は通うだけで人生が変わる魔法の学校ではありません。そこで生まれた人との出会いを次に繋げ、ワークショップを開催する。そうした行動力こそが、人生を前に進める魔法の力なのかもしれません。

今の自分に違和感があって、もし変わりたいと思っていたら、まずは自分の幸せなときを思い出してどうなりたいかを描くこと。イメージができたら次は、ありたい姿に近い人のそばへ行くこと。そして、最後にそこで得た縁やチャンスを次の行動へと結びつけること! そんなことが人生を後押ししてくれるのかも。市川さんの人懐っこい笑顔を眺めながら感じました。

– INFORMATION –

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9/30(日)にこのクラスのワンデイ企画が開催されます。
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