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不動産屋の枠をこえて、まちづくりへ。「omusubi不動産」殿塚建吾さんに聞く、顔の見える人との暮らしのつくり方

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みなさんは、ご近所付き合い、していますか?

よく交流している方もいれば、隣に住んでいる人を知らない、ご近所付き合いは面倒だ、という方もいるかと思います。でも、もし地域で笑い合ったり助け合ったりできる人がいたら、心強いと思いませんか?

「自給自足できる街をつくろう」。そんなコンセプトを掲げている不動産屋さんが、千葉県松戸市にあります。

八柱という駅から、歩いて5分ほど。道路の両側に桜の木が並び、この季節は緑の葉っぱのトンネルのようになっていました。この通りに、「omusubi不動産」は店舗を構えています。

おむすびの不動産屋さん…? と、ちょっと気になる名前。どんなことをしているのか、どんな思いで取り組んでいるのか、代表の殿塚建吾さんにお話を伺いました。
 
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(左から)殿塚建吾さんと、スタッフで妹の真理さん、アルバイトの吉田あさぎさん。

殿塚建吾(とのづか・けんご)
1984年、千葉県松戸市出身。中古マンションのリノベ会社、企業のCSRプランナーを経て、房総半島の古民家カフェ「ブラウンズフィールド」に居候し、自然な暮らしを学ぶ。震災後、地元・松戸に戻り、オーナーがセルフビルドした「自給ハウス」にて部屋のDIYをしながら生活する。同時に松戸駅前のまちづくりプロジェクト「MAD City」に合流し、MAD City不動産の立ち上げに携わる。2014年4月に独立し、「omusubi不動産」を設立。

代々続く不動産屋と農家を融合

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ゆるやかな坂道にある、中央の赤い軒先の店舗が「omusubi不動産」。

「omusubi不動産」は、DIY可能の物件や、古民家や平屋のような個性的な物件、レトロなマンションなどの仲介・管理、クリエイティブスペースの運営を行っています。そして、入居者や地域の人たちと一緒に、田んぼで田植えや稲刈りをしています。

もともと父方がおじいちゃんくらいの代から不動産屋をやっていて、自分も長男だし不動産屋の仕事に関わることから逃げられないな、と思っていました。

母方の実家は農家で、子どもの頃からどちらかというと田舎のおじいちゃん、おばあちゃんの暮らしのほうが好きで。おじいちゃんが家の横に小屋を建てて、そこで正月はもち米を炊いて餅つきをしたりとか、都会的な暮らしよりもそういうのをかっこいいと思っていたんだと思う。

「不動産屋と田舎の暮らしを融合できないか」。そう考えてたどり着いたのが「omusubi不動産」でした。それにしても、なぜ“お米”だったのでしょうか?

2012年から「自給自足のできる街」をテーマにトークやワークショップなどのイベント「green drinks松戸」を始めて、そのときから田んぼをずっと続けています。

不動産屋って、0を1にしない職業なんですよね。家は大工さんが建てるし、今あるものを誰かに渡す役割だから。それだと「自給自足のできる街」って言ってるけど、何も自給できてないじゃん! って怖くなって。

それで何か自分で自給したいと思って、田んぼを始めました。今では入居者や近所の方にも来てもらって、一緒にお米をつくっています。

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「omusubi不動産」の事務所にはお米が常備されていました。

green drinks松戸では食べものだけでなく、エネルギーや家、道具などさまざまな自給自足の実験を行ってきましたが、それを仕事を通じてやっていきたい、という思いも「omusubi不動産」に込められているようです。

入居者とは「契約してからがスタート」

「omusubi不動産」が扱う物件は、住宅や店舗以外に、シェアアトリエがあります。そのひとつ、千葉県市川市にある「123ビルヂング」は、駅から徒歩20分という立地に加えて築40年と古く、3階建ての一棟すべてが空いている物件でした。

殿塚さんはここにクリエイターを呼び、シェアアトリエ・クリエイティブスペースとして再生させることに。まずは説明会を行い、入居が決まった人たちと掃除や改装をして、場をつくっていきました。その評判は広まり、すぐに満室に!

現在は自転車のフレームをつくる「Bakansu Cycle」や、アイシングクッキーをつくる「Tringo e Cana」など10組が入居しています。グランドオープンを記念したイベントでは各スペースでワークショップや展示を行い、地域の子どもたちにも楽しんでもらえたようです。
 
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「123ビルヂング」の外観。入居者となった「つみき設計施工社」が主催した「土・樹・布・土・鉄のものづくり展」にて。

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入居者全員で行ったビル全体を使ったグランドオープンイベント「お出かけしよう!いちにさんまつり」には、ご近所のファミリーも来てくれました。

松戸市八ヶ崎にある「8lab」も、2015年から始まったシェアアトリエ。大きな二世帯住宅でしたが、広すぎて住居としても貸すことが難しく、長く空き家になっていました。

ここで殿塚さんが目をつけたのは、大家さんの工具。大家さんは木工が趣味で、空き家の一室にたくさんの工具が置かれていたそうです。「このスペースを、ものづくりをする人たちがシェアする場所にしよう」と思い立ち、「8lab」として運営をスタート。旅の雑貨店や、木工をはじめ、刺繍、靴、焼き菓子の作家などが入居し、みんなで文化祭を開いて地域とのつながりが生まれています。
 
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今年の2月に開かれた「8lab」の文化祭。

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文化祭では入居者がつくったものの販売や、ものづくりワークショップが行われ、大勢の方で賑わっていました。

こうしてクリエイターが集まることで、街に賑わいが生まれ、新たな出会いにもつながっているようです。一般の不動産屋は、契約したら終わり、のはず。しかし殿塚さんは「契約してからがスタート」だと言います。

入居者さんと一緒に何か出来事を興すことがまず最初の仕事です。

自分たちのスペースでこんなことをしていいんだとわかると、今度はそのうち、入居者さんから「また文化祭をやりたい」とか「マーケットをやってみたい」という声が自然と上がってくるようになります。

そうなると今度はそれを調整フォローする役割になる。いわば、学級委員長みたいなポジションです。不動産屋なのに、入居者さんとやたらミーティングして飲んでます(笑)

実は、オーナーさんと話し合い、シェアアトリエでは仲介手数料をとっていません。きちんと運営して長く入居してもらい、入れ替わりがあっても価値が上がるようにするため、仲介手数料の代わりに家賃の一部を通常より多く上乗せしてもらっているそうです。

顔の見える人たちから毎月安定したお金が入ってくると、じゃあその人たちのために何ができるかな、と考えるようになります。

一方、住宅の契約をした人とは、接点がなくなってしまいます。そこで「omusuBEER(おむすビール)」という名の飲み会を企画しているとか。

集まれるきっかけにしたくて、事務所で飲み会を開いています。少なくても十数人から、多いときは40人くらい来てくれて、大家さんが「借りてる人に会いたいわ」と来ることもあります。普通は大家さんってクレームを恐れて住人に会いたがらないんですけどね。

この前に引越しした人とは、最後にみんなで野球を見に行って、その場で「今度はフェスに行こう」という話になって。よく考えたら「退去したお客さんとフェスに行くんだなぁ」と(笑) お客さん以上の関係というか、人と人としてつながることができてうれしいです。

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DIYワークショップの様子。壁紙貼りや壁塗り、床板張りなどを行ないました。

顔の見える人と暮らしをつくる

「omusubi不動産」自体のまわりでも、新たな動きが始まっています。「omusubi不動産」のある通りは、もともとシャッター商店街でした。それが、この1年ほどで設計事務所、アンティークショップ、天ぷら屋と、新しい店舗が続々と増えたのです。

残すは一軒。それも「omusubi不動産」の隣に空き店舗が残っていましたが、いま、ここを地域の人たちとカフェにするプロジェクト「One Table」が動いています。

近所の人たちとずっと「カフェがほしいね」と話していたのですが、あるとき、隣で設計事務所をやっている大畠さんに「自分でカフェをつくることにした」と言われて。

本業もあるのに一人でカフェをやるなんて大変だし、それならみんなでやろう! ということで、俺は大家さんと話して、大畠さんは設計を、それから田んぼを一緒にやっているフードユニット「teshigoto」の古平賢志さんと夏恵さんが週に2日、お店に立ってくれることになりました。

今年5月に行われたキックオフイベントでは、まだ改装前の店舗を一日カフェとして開いたところ、80人以上の人たちが集まりました。これからDIYで改装をしていき、8月末にはオープン予定だそう。毎日開店はしないものの、イベントなどを開いて徐々に育てていくと言います。
 
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キックオフイベントでは一日限定でカフェをオープン。

最初は何もなかったところに、ありがたいことにうちがシャッターを上げたことで人が集まるようになって、すごく小さなエリアだけど、エリアのリノベーションができているなと思います。こういうことを、もっとやっていきたいです。

すでに、八柱にはオーガニック&フェアトレードのコーヒーを扱う「スローコーヒー」や、松戸市でとれた無農薬・減農薬の野菜を中心に販売している「なごみや」、ほかにもオーガニックカフェやパン屋さんなどが数店あって、ポテンシャルを感じています。

シェアアトリエも、今はまだ単体だけど、点と点がつながって面になって、広がっていってほしい。そのうち八柱の地域自体が変わったねと言われるようになったらいいなと思っています。

実際に、シェアアトリエ「8lab」では近くに住み自宅でアパレルショップをやっている方から、アトリエ内に空きが出たらぜひ借りたいと声をかけてくれたそう。

「松戸にはまだ自分で何かをしている人が少ないけれど、そうやってつながっていくことで、隠れているプレーヤーが見つかるかもしれない」と胸を膨らませる殿塚さん。最後に、どんな未来をつくりたいと描いているのか聞いてみました。

「omusubi不動産」では「顔の見える人と暮らしをつくろう」というコンセプトを提案しているんだけど、身の回りのものを「これは◯◯さんがつくったもの」とか、顔の知っている人を感じられるような暮らしをしていきたい。それに共感してくれる人が、この辺りにいっぱい集まってくれるといいな。

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「One Table」のプロジェクトメンバーもみんなご近所さん。

その思いの根底には、「困ったことがあったらこの人に助けてもらえるという安心感」があるようです。

自分は地元で商売して地元に住んでいるから、どこに行っても声をかけられたり、かけたりするんだけど、この安心感はすごいなって思うんです。

行き過ぎるとプライバシーがないかもしれないけど、ほどよい距離感を持てるといいですよね。

今は、仕事が終わって帰るとき隣の設計事務所さんに「お疲れです!」って言えたり、ビールを持って行って一緒に飲んだりとか、当たり前にできているけど、そういうことをしたかったんだよね。だからこの関係を大切にしなきゃって思います。

顔の見える関係を深めて、広げていく。殿塚さんの思いは、少しずつ八柱を顔の街に浸透しはじめています。