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恋もするし、夢だってある。田舎にはオフグリッド生活する人も! 北朝鮮で暮らす“普通”の人たちに迫る映画『ワンダーランド北朝鮮』

北朝鮮というと、みなさん何をイメージされますか。外国人を拉致し、核ミサイルを開発する独裁国家。そんな危険で謎めいた印象を持つ人も少なくないのではないでしょうか。つい先日、思いがけないスピードで米朝首脳会談が実現したものの、これからどんな変化が訪れるのは予測もつきません。

6月30日から公開される映画『ワンダーランド北朝鮮』は、「北朝鮮の人たちは実際どんな人たちなんだろう」という疑問への答えを求めて、韓国出身のチョ・ソンヒョン監督がドイツ国籍を取得して北朝鮮に入国。エンジニア、兵士、農家、画家、工場労働者など、「普通の人々」にインタビューする模様を収めたドキュメンタリーです。

韓国と北朝鮮は、現在もまだ休戦中という状態。韓国で生まれ育ち、「北朝鮮の人々は顔が赤く角が生えている鬼だ」と教えられていたチョ監督は北朝鮮に対して強い恐怖心を抱いていましたが、ドイツのテレビ局からの提案を受け、制作を決断。北朝鮮という国そのものではなく、北朝鮮に生きる人々との日常を伝えるというテーマで撮影に挑むことになりました。

撮影開始までに4回北朝鮮を訪問し、合計5週間にわたる取材を経て映画は完成。撮影には北朝鮮の担当者が同行し、検閲を受ける中で少しでも北朝鮮の人々の素顔に近づくために、家族との食事や仕事の休憩中、放課後など、インタビュー対象者がリラックスするタイミングで友だちのような雰囲気でさまざまな質問を投げかけます。

政治や防衛にかかわる内容については、恥ずかしそうに笑いながら答えをはぐらかす人たちも、恋や夢といったプライベートな質問への答えには、素直な思いがあふれます。婚約者との馴れ初めや仕事で実現したいことなどを語る微笑みには嘘はありません。

さまざまな制約の中でささやかな幸せを感じ、ひたむきに生きる北朝鮮の人たちの表情からは、国や民族に関係なく、私たちにとって幸せな人生とはどんなものなのだろうかと考えさせられるものがあります。

社会主義の独裁国家というと、イノベーションやテクノロジーといった点で遅れているのではと思っていましたが、意外なことに、「日本より進んでいるのでは」というところも見られました。それは、循環型経済への取り組みです。諸外国からの経済制裁を受け、閉鎖的な外交を行ってきたことがかえって、経済の持続可能性を高めるチャレンジにつながっているのです。

平壌市民の娯楽の場となっているアミューズメント型の大きな温水プールのエネルギーをまかなっているのは地熱。送電線のない農村部では、まるで藤野電力のキットのような小さな太陽光パネルとバッテリーで各家庭がオフグリッドで電気を利用しています。

家畜や人間の糞は調理用のメタンガスや肥料として活用。ご飯を炊く藁の熱は床暖房に使うなど、経済制裁下、物もお金も不足している農村部では特に、自然と自給自足的な循環型の暮らしが実践されているのです。

太陽光を利用し蓄電池を充電し、照明とテレビに使うと話す北朝鮮国民

インタビューの合間に映し出されるのは、街のさまざまな風景。殺風景な中で異様に目立つたくさんのプロパガンダ広告、圧倒的な国家権力を誇示するかのようなモニュメント、都市と農村での極端な貧富の差を感じさせる人々の様子などからは、厳しい情報統制や経済事情がうかがえます。

取材対象も限られ、管理下に置かれた状態での撮影によるこの映画が、北朝鮮の本当の姿を描いているかというと、そこには疑問が残ります。しかし、制約が課された中でプライベートな質問を繰り返し、人々の実像に迫ろうとする監督の姿勢とシンクロするように、見る側の観客もいつの間にか、限られた情報の中で真実を見つけようと前のめりにさせる独特の力がこの映画にはあります。北朝鮮の暮らしに自分が入り込んでいるような感覚にさせて、そこに生きる人たちへの想像力を喚起してやまないのです。

6月8日に開催された試写会では、映画上映のあとに、昨年、17歳で北朝鮮を旅行で訪れた平壌治さん(仮名)による旅行レポートのスライドショーが行われました。

小学生の頃からミステリアスな北朝鮮に魅せられた平さんは、バイト代をつぎ込んで、親はもちろん、学校、教育委員会(!)からの反対を乗り越え、旅行代理店のツアーで訪朝。観光スポットをめぐる旅を楽しまれました。

現地のツアーガイドと運転手さんがつきっきりで、旅行代理店の方が「インスタ映えするところばかり」と言う(笑)ツアーと、映画とのギャップからは、いかに監督が北朝鮮の人々のリアルに迫ろうとしたかを実感させられました。

ユナイテッド・ピープル代表の関根健次さんと、平壌治さん

どこからどこまでが真実なのかわからないところも含めて、北朝鮮という国のひとつの側面を描いた『ワンダーランド北朝鮮』。政治的な視点を抜きにしても、あまり訪れることができない世界を安心してのぞける、刺激的で面白い映画となっています。縫製工場で踊る女子工場労働者の体操シーンなど、女性監督ならではのポップでキャッチーな演出も光ります。

配給会社であるユナイテッドピープル代表の関根健次さんからコメントをいただいています。

今年の5月、チョ・ソンヒョン監督が来日した時の発言で、強く印象に残っていることがあります。

「皆、経済制裁という言葉を簡単に使うのですが、影響は上層部まで簡単に届かないことを理解していないと思います。真っ先に影響を受けるのは、映画に出てくる縫製工場で働く女性たちのような末端の人々なんだということを」

映画『ワンダーランド北朝鮮』は、これまで私たちが見たことのなかっただろう、そのような末端の人々の姿を垣間見ることができます。

ひょっとすると戦争すら起こるかもしれない雰囲気の時期もありましたが、どんな社会体制の国にでも、その中で暮らしているのは私たちと何も変わらない人々。そんな当たり前のことを伝えなければと、お届けすることを決意した映画です。行くことは簡単ではない国ですが、映画でならどんな人々が暮らしているのか知ることができます。ぜひ、もう一つの北朝鮮の姿を劇場でご覧ください。

– INFORMATION –

6月30日のシアター・イメージフォーラムでの公開初日、そして2日目の上映後には、北朝鮮関連のスペシャリストを招いたトークショーも開かれます。ぜひ劇場に足を運んでくださいね。

【シアター・イメージフォーラム公開スケジュール】
場所:東京都渋谷区渋谷2-10-2
日時:6月30日(土)~ 初週は11:00/13:15/20:50
料金:一般1,800円/学生・シニア1,200円/会員1,100円

【トークショー(15分~20分程度)】

6月30日(土)11:00~上映後トーク
宮西有紀さん(日本国際ボランティアセンター(JVC)コリア事業担当)

6月30日(土)13:15~上映後トーク
礒﨑敦仁さん(慶應義塾大学 准教授(北朝鮮政治)「北朝鮮入門」著者)

7月1日(日)11:00~上映後トーク
菱田雄介さん(写真家/最新写真集「border | korea」)

7月1日(日)13:15~上映後トーク
高英起さん(北朝鮮情報サイト「デイリーNKジャパン」東京支局長)& うねこさん(先軍女子)

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こちらの記事は「greenz people(グリーンズ会員)」のみなさんからいただいた寄付をもとに制作しています。2013年に始まった「greenz people」という仕組み。現在では全国の「ほしい未来のつくり手」が集まるコミュニティに育っています!グリーンズもみなさんの活動をサポートしますよ。気になる方はこちらをご覧ください > https://people.greenz.jp/