長年にわたる紛争の影響が残るアフガニスタンでは、世界的に見て多くの乳幼児が亡くなっています。その数、人口1000人あたり53人。
原因として考えられているのが、ワクチン接種率の低さです。BCGやB型肝炎などのワクチン接種率は、どれも194カ国中140位〜180位あたり。全人口のワクチン接種率は、50%ほどに過ぎないと言われています。
アフガニスタンの子どもたちをワクチンから遠ざけているものは何なのでしょうか。
まず挙げられるのは、識字率が低いこと。親を含め、文字を読めない大人は病気に対する知識を得ることができず、ワクチンの必要性を知ることが難しくなります。仮にワクチンを接種したとしても、その接種を記録する書類の意味もわからないため紛失され、適切なワクチン接種につながらないことも。
また、ワクチンは西洋の陰謀だとする偏見も、保守的な人たちを中心に根強く残っています。そのため、ワクチンが利用できる地域でも、その重要性が認識されていないために接種率が低くなっているのです。
識字率、そして偏見。そうした難しいハードルを乗り越えるためにアフガニスタンの厚生省が考え出したのが、小さなブレスレット「The Immunity Charm」です。
アフガニスタンをはじめ南アジアでは、古くから「悪の目から守ってくれる」といういわれのある「ナザル」をつけたブレスレットが魔除けとして用いられてきました。「The Immunity Charm」は、そのナザルのブレスレットをアレンジ。麻しんや小児麻痺、ジフテリアなど、特定の病気ごとにカラフルなビーズをつくり、予防接種を受けたらブレスレットにビーズを付け足していくという仕組みになっています。
ナザルをモチーフにしているので、母親や地域の人たちに抵抗感なくワクチンの重要性を感じさせることができます。また、子どもがつけているビーズを見れば、どのワクチンを受けたのかがひと目でわかるようになっているので、医療従事者は適切なワクチンを接種することができます。
現地のPul-e-Sagi Village HospitalのNagina医師は、
「The Immunity Charm」ができたことで、ご近所さん同士や親戚で「どのビーズがついた?」とお互いのブレスレットを見比べて、子どもの健康状況について話す機会が増えた様子です。
と話します。古くから地域に根付いた伝承が現代の医療と結びついて、新しい習慣として根付かせるコミュニケーションをもらたしたのですね。
文化や風習など、コミュニケーションにおいて、乗り越えるのが難しい壁があります。しかし、その壁も、見方によってはお互いをつなぐ扉になるかもしれません。「むむ」と思ったら、その壁をどう活用できるか、考えてはいかがでしょうか。
(翻訳協力: 外山由香さん)