「地域資源を生かそう」。
よく聞く声です。
でも、いざ実践しようとなると、どこから? どうやって? と悩んでしまうのではないでしょうか。
裏山に自生している野草や、剪定された枝、落ちてしまったブルーベリーの実…。こうした身近にある何気ないものが資源だと気づき、生かすものづくりをしているのが「石見銀山生活文化研究所」。世界遺産登録された石見銀山遺跡のお膝元、人口400人の島根県大田市大森町に根を張る企業です。
その取り組みの名は「里山パレット」。「Gungendo Laboratory(グンゲンドウ・ラボラトリー)」ブランドの取り組みの一つです。5月に発売したグリーンズTシャツも、この「里山パレット」シリーズの一環で、大森町に自生しているコケを使って染めました。
石見銀山生活文化研究所のように、全国30店舗を展開する規模のアパレルメーカーで、地元の植物を染料に加工して服づくりをしている例は、なかなかほかに見当たりません。
同社の広報担当の三浦類さんとグリーンズの植原正太郎が対談した初回、そして松場忠さんにサスティナブルな企業のヒントを語っていただいた第2回に続き、今回ご登場いただくのは、「Gungendo Laboratory」植物担当の鈴木良拓さん。地域資源を生かしたものづくりについて、鈴木さんに語っていただきました。
1988年生まれ、福島県出身。秋田公立美術工芸短期大学プロダクトデザインコースを卒業後、文化服装学院のテキスタイル科で染色や織りを学ぶ。
2012年に(株)石見銀山生活文化研究所で働き始め2014年に立ち上げたGungendo Laboratoryブランドの植物担当になる。妻と娘と3人で大森でのくらしを楽しいんでいる。
花、実、枝、葉。1つでたくさんの色を持つ、植物ならではの魅力
里山パレットの取り組みは、「里山植物マップ」に凝縮されています。この春に完成したばかりのパンフレットに掲載されているこのマップのイラストを手掛けたのは、「Gungendo Laboratory」植物担当の鈴木さんです。
大森の山の中でどういうものを集めているか、個人的かつ主観でしかありませんが、代表的な植物を描いてみました。あぜ道に生えているヨモギ、菜の花、ヤマモモ、梅の木の枝も。これらの植物を集め、里山パレットの染料として使っています。
2014年のスタート時は10種類に満たなかった里山パレットの染料となる植物も、毎シーズン10種類以上ずつ増え、5年経った今、100種類近くになりました。
そんな里山パレットは、どのようにつくられているのでしょうか。
植物を拾い集めてくるところは私で、その色の抽出から染色を、専門の会社にお願いしています。原料となる植物を探しに行くときにはワクワクします。「この植物は実際にどんな色を持っているのだろう」と予想するのも楽しいし、こんな色が植物から出るんだという新たな発見をすることもあります。毎回、面白いですね。
2018年春のイチオシは、クロモジなのだそう。クスノキ科の落葉低木で、山地に多く、春に淡黄色の小花が多数咲きます。枝から楊枝がつくられます。
花、実、枝、葉、根。植物は1つの中にたくさんの色を持っています。芽が出て花が咲き、実をつけて紅葉していく中で、植物が内側に秘めている色も移ろいます。たとえばクロモジは、花が咲く3月〜4月頃の花と枝葉を染料にしているのですが、この時期は花を中心に黄色を多く持っているんです。
プロセスを共有するって、楽しい!
そんな里山パレットのシリーズとして手掛けることになったグリーンズのTシャツ。きっかけは前回の記事でも紹介した通り、松場忠さんのFacebookへの書き込みがきっかけでしたが、プロジェクトが始動すると、すぐに植物担当の鈴木さんも加わりました。
プロジェクトでは、原料を集めるところからつくってみたいという話になりました。確かに里山パレットでは、原料を集めるという一番楽しいところを自分が独り占めしていたんです。でも、そのプロセスを共有した方が楽しいのではないかと気づき、去年の夏、植物採集ワークショップを開催しました。
昨夏、greenz peopleと一緒に大森町の山に分け入り、採取した植物は7種類。これまで鈴木さんが見逃していたものもあったと言います。
「どんな植物からでも色は出ます」とみなさんに伝えてはいたのですが、greenz peopleの方々が木の表面についている固くなったキノコとか、シダの根っことか見つけてこられて。みんなでやるって楽しいな、と。一人で探しに行っていたときとは違う新しい発見がありました。
その中のひとつが、コケでした。
木にくっついてたんです。僕はこれまでコケから色を抽出しようと思ったことなくて。やられたなあ、面白いなあ、と思いました。
そうして集めた7種類の植物から色を抽出し、グリーンズのスタッフで検討した結果、グリーンズTシャツに使う植物が選ばれました。
まったく想像できていなかったのですが、コケを煮出して色を見たときは、なるほど、土に近いところにいるからベージュというか茶系というか、コケらしい色に染まったなと思いました。グリーンズの皆さんも「コケが私たちらしいし、面白いよね」と。
役に立たないと思っていたことが、役に立つと思えた瞬間
鈴木さんはもともと福島県の西部にある会津地域の出身。雪深いことで知られる地域です。
鈴木家は父の代で13代目。先祖代々、会津に暮らしてきました。平地でも標高500メートル、山にはブナとか白樺とか広葉樹が多い。熊も畑まで出てきて、野生動物が住んでいる山の中が地元という感じでした。
祖父母も山の中が好きで、父も森と関わる仕事をしています。山菜をとるために、日常的に山に入っていたので植物は身近でしたが、資源だとは思っていませんでした。
地元の高校を卒業後、秋田公立美術工芸短期大学に進学。その後、東京の文化服装学院でテキスタイル(染めと織り)の基礎を学びました。
デッサンと面接だけで入学できると聞き、高校2年くらいからデッサンをがんばって、秋田の大学へ入りました。地元にあった植物が好きで、山に入って植物を煮出して実験するようになりました。身に着けているものが何からできているのか、織り上げて衣服になる工程が面白くて、自生している葛や藤の蔓をとって繊維にしたり。
東京に出てからは、学校のつながりで、機屋や工場に見学やインターンに行っていました。
そこからどうやって、なぜ、遠く離れた島根県にある石見銀山生活文化研究所にたどりついたのでしょうか。
技術が素晴らしくて有名なある機屋さんにインターンに行ったんです。工場の片隅で、石見銀山生活文化研究所の背表紙が付いたサンプルを見つけて。当時は「石見」という地名の読み方を知らなかったし、怪しくてひときわ際立っていて(笑) 銀山という響きも面白いと感じました。何より、生地が上等で上質で、いいなと思えるものだったんですね。
しかも当時、高尾に部屋を借りていて、何気なく使っていた駅舎の中のカフェが、Ichigendo。石見銀山生活文化研究所が運営しているカフェです。まさにもう、運命だと。会社のことは知りませんでしたが、仕事を見てステキだ、働きたいと思いました。
しかし当時、石見銀山生活文化研究所は求人をしていませんでした。鈴木さんは諦めることなく、思い切った行動に出ます。
ものをつくるのが面白くて夢中になっていたら就職活動の時期が過ぎ、卒業してしまいました。
やはり学んできたものづくりをしたいなと考えたときに、石見銀山生活文化研究所のことを思い出して。連絡をとってみよう、作品だけでも見てもらえないかと送りつけたら、面接を受けることになり、その面接の3か月後、2012年11月に入社しました。
入社を機に、縁もゆかりもなかった町に突然、移住した鈴木さん。里山パレットの原型は、面接のときに、松場大吉会長から言われていました。
会長が私の経歴を面白がって「この大森町にも手が入れられていない山があり、資源として会社では使うことができてない。地元を生かしたものづくり、やってみないか」と。自分がやってきたことはこれまで自由研究の延長線で役に立たないと思っていたので、初めて役に立つと思えた瞬間でした。
重なりを見つけると、植物の持つ可能性が広がる
入社を機に大森町に移住した鈴木さん。男子寮に住みながら、最初の1年間は資源を生かしたものづくりを目指し、試験を繰り返していました。こだわっていたのは草木染め。天然の草木から採った色素を用いて染めることです。
アパレル業界の商品のほとんどは化学染料で染められています。個人的には100%草木染めが良いと確信を持っていたんですが、日光に弱くてすぐに色落ちする。汗でも変色しやすいし、百貨店に出せる色の強度に満たない。草木染めは商品として扱いにくくて、お客さんも困る。これじゃいけない。苦しかった。
そんなときに鈴木さんの頭に浮かんだのが、「ボタニカルダイ」という技術でした。植物の色素に少量の化学染料を加えることで、色の強度を補うものです。
植物の色は美しい。確信しています。でもやっぱり方向性を変えて、とにかくここの資源を生かすことを考えようと思いました。
ボタニカルダイは、もともと植物が持っている色合いを生かすことができ、強度も持っている。そして、色を定着させるのに使うのりは自然由来のものなので、環境にもいい。商品化できるのではないかと思い、ボタニカルダイを行っている会社の社長さんのところへ相談に行ったんです。
無事社長の協力を得て、2014年に「Gungendo Laboratoryの」取り組み「里山パレット」がスタート。立ち上げと同時に商品を世に送り出すことができました。
振り返ると、当時は草木染め原理主義だったと思います。でも、着る人が困るんじゃないか、本当に暮らしに必要なのかという疑問が湧いてきて、それより今の時代にあった生かし方をすることが必要なんだと気づいたんです。
今でも草木染めは好きで家で染めますが、草木染めと現代の技術、ふたつのいいところの重なりを探す。そんな感じでしょうか。重なりを見つけると、植物の持つ可能性が広がるようなイメージです。
色だけではない植物の魅力を引き出したい
地域資源を生かしたものづくりは、石見銀山生活文化研究所が大切にしている、サスティナブル=持続可能性にもつながっています。
化学染料の原料になるのは、石油や重金属で100%輸入していますが、里山パレットの原料は、里山にある自然です。輸入に頼るのではなく、ここにあるものを使う。色の元になるもの自体が、ここにあることに意味があり、持続可能性があります。
冒頭でも紹介したように、石見銀山生活文化研究所と同じ規模の会社で、地元の植物を染料に加工して服づくりをしている例は他にありません。
この会社の拠点が山あいの町の中にあるというのが大きいと思います。
アパレルメーカーは、都会に多いですよね。田舎にあるアパレルメーカーだからこそできる。それに、大森町ならではの植物があります。
自分が生まれ育った東北では落葉広葉樹が多くて森がひらけていて明るいのですが、この付近の山は一年中緑の照葉樹が多くてびっくりしました。椎とか樫とか大きな木も多くて、コケがはったうっそうとした森であることが印象的でした。
そんな鈴木さん。会社での肩書きは「植物担当」です。
祖父母も父も地元に生えている植物に詳しくて「ここを削るとつまようじになる」とか「魚を釣ったらこの葉でくるむといい」とか教えてくれました。自分の中の幼少期の体験というか、そういう場所で代々暮らしてきた経験が植物への興味に向かわせているのではないかと感じます。
そう振り返る鈴木さんは、これからのことをどんな風に考えているのでしょうか。
確かに里山パレットに使う種類は、いろんな植物が増えてきましたが、もっと、ひとつの植物に焦点を当てて、その植物自体を知りたいという想いがあります。たとえばヨモギは、草餅になったり、お茶になったり、いろんな使われ方をしてきました。ただ染料としてではなく、アパレル以外の商品を考えてみたいです。
その思いは、冒頭のパンフレットにもつながっています。パンフレットに書かれているのは「暮らしに寄り添う 植物の色をまとう」。
普段使っている植物、たとえば、オニグルミは皮や殻を染料にするんですが、中をほじくりだして、地元のパン屋さんにクルミパンにしてもらったり、三浦類さんがプライベートでつくる料理のチーズにいれてもらったり。実は植物はくらしの中にあり、くらしと結びついている。パンフレットをつくりながら指摘されて気づきました。
今後は自分も、服だけじゃなく、幅を広げていきたいし、色だけではない植物の魅力を引き出してみたいです。
鈴木さんは当初こだわっていた草木染めを葛藤の末に手放し、現代の技術との「重なり合い」を考えた結果、植物が持つ色合いを生かしつつも使いやすい技術を採用し「里山パレット」を生み出しました。さらに植物の可能性を追求したいという鈴木さん。次はどんな商品を世に送り出してくれるのでしょうか。
次回以降もgreenz.jpでは、石見銀山生活文化研究所や大森町のプレーヤーを紹介していきます。どうぞお楽しみに!
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