応援したい自治体へ寄付をすることで、返礼品が届き、更に寄付金に応じた税の控除を受けられる、ふるさと納税。2016年度の寄付総額は2844億円となり(出典元)、ここ数年ですっかり浸透しつつあります。
自治体への寄付、と聞くと敷居が高いけれど、地域の特産物などのおいしい返礼品が届くことが、この仕組みが広まった大きな魅力のひとつ。
そんなふるさと納税の仕組みを応用して、寄付と返礼品で全国にある障がい者福祉施設とつながる取り組みがあるといいます。その名も「うまふく」。
取材で訪れた福祉作業所でたまたま出会ったお菓子の美味しさに心動かされたことのある私。この商品を友だちや家族にもっと知ってもらいたい、と思いながらも、なかなか入手できる場所がないと感じていました。もしかしたら、この仕組みを使えば、そうしたおいしい商品を手に入れられるだけでなく、活動を応援することにもつながるのかも?
そんな「うまふく」のことを今日は紹介します。
福祉施設の活動を仕組みでサポートする
まずは気になる「うまふく」のウェブサイトを覗いてみましょう。ページには、美味しそうなお菓子やジュースが並びます。
施設の紹介文を読みながら、応援したい施設、気になる返礼品を探します。施設のページから必要事項を入力し、申し込み。寄付金の振込を終えたら、あとは返礼品が届くのを楽しみに待つのみです。支払った寄付金は、施設によって寄付金控除を受けることもできます。
福祉施設を応援しながら、施設からおいしい返礼品をいただくことができる。この仕組みを考えたのは、「一般社団法人プレニッポン」の共同代表のひとりである松山康久さん。
松山さん 福祉施設でつくられている良いものが、伝わらない、売れないという状況をこれまでたくさん見てきました。そうした施設の活動を社会の仕組みでサポートしたい。そう考えた時にふるさと納税の仕組みに気がついたんです。
福祉施設でつくられているものには、素材や工程もこだわって丁寧につくられているものが多くあります。
たとえば「この施設の焼き菓子は本当においしいんですよ」と松山さんが紹介してくれたのは、埼玉県川口市の施設「晴れ晴れ」でつくられているクッキー。
鋳物のまち川口にゆかりのものを、ということでつくられた「ベーゴマクッキー」は、鋳物の型で本物そっくりに焼き上げられています。焼き菓子コンテストで優勝し、その特典としてパティシエの指導を受けながらつくられたもので、美味しさも折り紙つきなのだとか。
「うまふく」のウェブサイトがオープンしたのは2017年8月。それまで福祉施設のものづくりに関わってきたプレニッポンが感じていた、課題意識やジレンマがきっかけでした。
ここからは「うまふく」が生まれるまでのストーリーを、プレニッポンの共同代表の松山さんと平原(ひらばる)礼奈さんのお二人に伺いましょう。
素材、地域、仕事、伝統を再生してPRする
プレニッポンのはじまりは、「うまふく」のウェブサイトオープンから遡ること5年前の2012年1月。きっかけは、ひとつのものづくりの企画でした。
それが以前こちらの記事でも取り上げたゲラメモ。書籍の校正紙(ゲラ)を再生利用した自由帳です。
平原さん 2011年の震災以降、被災地の福祉施設に仕事がなくなった、ということを、現場の方から聞いて知りました。それで被災地に仕事をつくろうとはじまったのが「ゲラメモ」です。
実際に現場に足を運び、利用者さんへの指導などにも立ち会った平原さん。そこで感じたのは、施設の職員も利用者も、とても疲れているということ。震災によって仕事がなくなり、仕事がなくなったことによって、施設の利用者は活力を失い、職員も仕事をつくることに追われるような日々でした。
単純に新しい仕事をつくるだけではなく、こうして活力を失った地域や施設を再生するための仕組みをつくる必要がある。平原さんは、そんな思いから仲間と共にプレニッポンを立ち上げます。
平原さん プレニッポンは“PRe Nippon”と表記するのですが、頭のPRは文字通り、PRをしていくこと。そして“Re”には「再生」という意味を込めています。これからの日本のために、素材・地域・仕事・伝統などを再生してPRしていこうという思いではじめたんです。
ゲラメモは多くのメディアに取り上げられ、趣旨に共感したリクルートホールディングス社と一緒に「東北和綴じ自由帳展」として企画を展開。187人のクリエイターが表紙をデザインし、東北の14の福祉施設で製本したこの自由帳展は、2015年度のグッドデザイン賞を受賞しました。
ゲラメモに続いて、取り組んだものづくりの企画が、「Musubi-Tie(むすびたい)」。規格外の手ぬぐいを福祉施設で縫製して、蝶ネクタイにします。
この2つのものづくりによって、プレニッポンはこれまで廃棄されていた素材を再利用することや、施設の利用者さんにとってやりがいのある仕事をつくることに成功しました。ただ一方で、ものづくりに対する課題も感じていたそう。
平原さん 福祉事業所と一緒にものづくりをするときには、利用者の方々の多様性を理解し、福祉事業の特性も知った上で、いろいろな気配りや配慮をすることが必要になります。でも、私たち自身がものづくりの専門家ではないため、制作過程で壁が生じた時に、プロジェクトのスピードが落ち、何より教える職員さんに負担がかかってしまうことがありました。
また、福祉事業所の仕事を増やすことはできたけれど、ゲラメモやMusubi-Tieは製本・縫製技術が必要なことから多くの人の仕事にはならなくて、一部の人しか関わることができなかったというのも事実です。そこで、もっと日本の福祉事業所全体を巻き込んでいくことができないだろうかというのを考えていました。
福祉×デザインの商品開発は、仕事をつくる入口として注目を集めてきました。しかし、そうしてできた商品をどう届けるかという出口まで含めた全体の構造を考えていかなければいけないことに気づいたといいます。
とはいえ、平原さんや松山さんを含め、当時プレニッポンに関わる人はほとんどプロボノの在り方。思いだけで続いているような状態でした。将来への展望と働き方の狭間でジレンマを抱えていたのです。
本気で事業にしていくために、再スタートを切る
そんなあるとき、平原さんは松山さんに尋ねられます。
「プレニッポンのこと、どれぐらいやる気ありますか?」
平原さん そう聞かれて、「ライフワークとして、細々とでもずっと続けたい」と話したんです。そうしたら松山さんに「自分は本気でやっていきたいと思っているんです。それが仕事の100パーセントになってもいいくらい」と言われて。
その決意を聞いて、そんな風に思っていたんだ、と驚き、私も嬉しく感じました。みんなそれぞれに仕事があり、これまでプレニッポンからの収入はほぼありません。その状態で、どこまでメンバーを巻き込んでいいのかわからないまま、自分自身の出産や育児もあり、何もできずに時が過ぎていたところでした。
そのとき松山さんが、こんな事業はどうだろうと持ち込んだ企画が「うまふく」でした。その企画書を見て、平原さんは「これは社会を変えるものだ!」と感じたといいます。さらにその仕組みは、ウェブ全般をつくることや仕組みの構築ができる松山さん、編集・ライティング・企画ができる平原さん、それぞれの持ち味を活かせる事業でもありました。
それまで任意団体というかたちだったプレニッポンを2016年に一般社団法人として法人化。平原さんと松山さんで共同代表になります。企画を詰め、事業を始める準備を整え、ウェブサイトがオープンしたのが2017年8月のことでした。
これまで廃棄されていた素材を再生し、東北の再生にも貢献してきたプレニッポン。「日本全国に埋もれている福祉事業所でつくられている良いものを再生していこう」と新しい目標を掲げ、プレニッポン自身も再スタートをきることになりました。
社会の境界線を失くすための寄付へ
2018年4月現在、「うまふく」に掲載しているのは6施設。これまでものづくりで関係性があった施設を中心に声をかけ、少しずつ数を増やしています。
施設が「うまふく」に掲載をする際、最初にページをオープンするためのサイト登録料を支払います。ただ、それ以降は月々の掲載料などの固定費はありません。寄付金は運営手数料を除いて、残りはすべて施設に入ります。
時間と労力がかかるため、これまでオンライン販売をはじめることができずにいた施設にとっては、全国の消費者に商品を届けるひとつの手段になります。寄付を受けることができるだけでなく、施設や商品のPRとして多くの人に知ってもらうこともできます。さらに、この返礼品には型くずれしたものや、不揃いのものなど規格外の商品や、賞味期限が近い商品も活用しているのだとか。
さぞかし登録したい施設が多くあるのでは? と思って聞いてみると、すぐに掲載をしたい、となる施設はまだ多くないそう。福祉施設は日々の業務で忙しいためなかなか新しい事業を始める余裕がないことも理由としてありますが、登録料を支払うこともひとつのハードルかもしれない、と松山さんは話します。
松山さん 商品のPRや販促に予算を割く、という感覚を持っている施設が、今はまだ少ないみたいで。だから最初に登録料を払うということは、大きなハードルなのかもしれないです。
「うまふく」を安定して続けていくには、最低限の運営費は必要です。施設さんとも相互理解の上で、きちんと事業として成り立たせていけるようになったらいいなと思っています。
平原さん ただ、お金じゃない価値も大切にしたいと思っていて、たとえば「うまふくPRサポーター」としてサイトのPRに協力していただける施設さんには、掲載時に必要なサイト登録料を割引しています。
松山さん この「うまふく」をきっかけに多くの人に知ってもらって、施設に直接注文が入るようになって、どんどん売上を伸ばしてもらえたらいいなと自分たちは思っているんです。
設備を整えたり、環境をつくったり。そのためにきちんとPRをしたい、と思ってくれる施設と一緒にやりたいですね。
平原さん 誇りを持ってつくったものを、誇りを持って売っていく。そんな風に感じてくれる施設とパートナーとしてやっていきたいです。施設に対して私たちがサポートしてあげるっていう感覚でも、お客様とクライアントでもなくて、一緒にやっていく対等なパートナーという気持ちですね。
これまでものづくりを通して、様々な施設の現場を訪れたことがある二人。その中で工賃が低いことや、現場のスタッフさんが疲弊してしまうことなど問題を目の当たりにしてきたからこそ、このプロジェクトが福祉施設の自立を後押しできたらと考えているのです。
福祉かどうかは関係なく、良いものは広まってほしい
今後はまずは参加施設を増やし、ゆくゆくは、「うまふく」で取り扱っている商品をイベントで売るなど、寄付とはまた違った形で、施設と社会をつなぐようなことができたら、と考えているそう。
最後にお二人に、どんな世の中が実現したらいいと思っているのか、ほしい未来を聞いてみました。
松山さん 境目がなくなるといいなと思っています。性別とか障がいの有無とか、福祉かどうかとか、そうした境目は本来どうでもよくて。できる人ができる仕事をしたらいいし、良いものは福祉かどうか関係なく広まったらいいなと思っているんです。そうやって本当にごちゃまぜな世の中になっていけばいいなと思っています。
平原さん ごちゃまぜ、多様性があるということが面白いし、大事だと思います。誰かのため、社会のために価値を生み出したいというのもありますが、それだけじゃなくて、自分が面白がって夢中になれるかどうか、ということも大切にしていきたいです。
松山さん 楽しくないと続けていられないしね。
平原さん そうですよね。私は視点が、未来よりも今にあるんですけど、今それぞれが楽しいことを積み重ねていって、それが未来になるんじゃないかなと思っています。
自分じゃないものとつながる喜び。自分が地に足の着いたことをする喜び。それがプレニッポンはできる場所だと思うので。そういうことを積み重ねて、人や物との縁がどんどん育っていったらいいですね。
話を伺っていて、おふたりが、何よりも自分の中での違和感、こんな社会がいい、これが楽しい! そんな軸を大切にしているのが印象的でした。
私たちもまずは、面白そう! おいしそう! そんな気持ちからはじめてみてもいいのかもしれません。
「うまふく」のウェブサイトを覗いて、おいしいからはじまる福祉を体験してみませんか?