「edge」実行委員長・渡剛さんに聞く、関西の社会起業家が若くして活躍している理由。

これまで「マイプロSHOWCASE関西編 with 大阪ガス」では「Homedoor」の川口加奈さんや「ハローライフ」の塩山諒さんなど、会社に就職せずに、若くしてNPOを立ち上げた社会起業家たちの活動を数多く紹介してきました。彼らに共通するのは「edge」のビジネスコンペ出身者であることです。

「edge」とは「Entrance for Designing Global Entrepreneurship」の略。若者たちに向けて、「社会起業家への扉を開くチャンスを、ビジネスプランコンペという取り組みを通じて提供したい」という思いで立ち上がった団体であり、2008年には特定非営利活動法人となりました。開催地は関西ですが参加者は幅広く、去年は北海道からもエントリーされるなど、全国で注目されています。

アツいメンターたちとの出会い。

「edge」のビジネスコンペは毎年以下の流れを辿ります。

7月頃にエントリーのための募集要項が配信され、一次審査のエントリーシートを8月中旬までに出します。その後、書類審査を通れば合宿に進み、合宿終了後に二次審査のエントリーシートを提出。審査が通れば準決勝のセミファイナルに出場し、プレゼンが通れば翌年の3月にファイナルイベントが待っています。つまり半年間、ビジネスプランをブラッシュアップしていきます。

今年、「edge」の実行委員長を務める渡剛さんもコンペの元参加者です。ひとり親家庭の中高生の学習支援を行うNPO法人「あっとすくーる」の代表を務め、その事業の源泉はedgeコンペでプラッシュアップされました。

渡 剛(わたり・つよし)
1989年熊本県熊本市生まれ。自らも母子家庭で育つ。中学・高校生時代の経済的・精神的に苦しい経験から、苦しい状況に置かれる子どもに寄り添える教師をめざす。大阪大学在学中に「社会起業家をめざす若者のためのビジネスプランコンペ edge 2010」に参加。同コンペをきっかけに、多くの支援者と自分のサービスを必要としてくれる人たちに出会い、大学3年生の時に任意団体「@school」を設立。大学卒業と同時に法人格を取得し、「NPO法人あっとすくーる」を設立、理事長に就任。ビジネスプランコンペedgeの実行委員長も務める。

僕は大学2年生のときに参加しました。大学1年のときに「子どもの貧困」に関する授業をたまたま受講したんですが、「いつか自分も同じ境遇の人たちを助けたい」と、うっすら考えて、友だちにもその話をしていたんです。その友だちがedgeのインターンをしていたのもあってedge2010のコンペに誘われて、なんとなくエントリーシートを出したのがきっかけでした。

当時は大阪大学で外国語を学び、将来は地元熊本で学校の先生になりたいと考えていたという渡さん。一次審査が通り、合宿参加が決まります。

合宿に参加したとき、実際に活動に取り組んでいる人もいて、僕はみんなと温度差を感じました。僕のプランは「無料で通える学校」という企画段階のものだったのですが、ひとりのメンターの方に「そのプランはビジネスかな? 文部科学省に入って施策化したほうがはやいんちゃうか?」と言われ、「確かに!」と思った瞬間、プランが消えてしまったんです。

初日に合宿脱走が頭をよぎったといいます。しかしその後、声をかけてくれたのは大阪ボランティア協会の永井美佳さんでした。「あなたは当事者としてどういうことに困ったの?」と質問してくれたことで、「大学への入学金に使える奨学金を寄付で集める」というプランを考えつくに至り、二次審査に提出。セミファイナルへの進出が決まりました。

とはいえ、日常に戻ると普通の大学生。何もしないまま集合メンタリングの中間報告の日がやってきてしまい、そこにはメンターからのキツい言葉が待っていました。

「やる気がないなら帰りなさい!」と怒られて、強烈なパンチをくらった気がしました。「続けるなら当事者の声を聞きなさい」と言われ、直接当事者に聞く方法と、当事者のことをよく知っている人たちに聞くという方法というふたつの聞き方も教えてもらったんです。

偶然次の日に自宅近くで「母子家庭の母親のおしゃべり会」があると知り、渡さんは即電話をかけるもつながらなかったため、アポなしで話を聞きに行ったそうです。

事情を話すとその会の代表の方が僕の手をつかみ、「あなたのような人を待っていました!」と声をかけてくださったんです。それが、誰かから必要とされた!という瞬間で、なろうとしていた学校の先生とはぜんぜん違うけれど、こういう生き方もいいんじゃないかと、意識しはじめました。

セミファイナルでは5分のプレゼンと7分の質疑応答があります。渡さんの順番は後半。前の人たちが審査員からさまざまな指摘を浴びている様子を見て、昼ご飯が喉を通らなかったそうです。しかし結果は一位通過。当時大学2年生の渡さんは「3〜5年後に地元熊本で実施します」とプレゼンしていました。

セミファイナルの懇親会でのお酒の席で、渡さんはメンターのひとりから「いま俺がお前に300万円やるわと言ったって、おまえは絶対始めへんやろ!」と言われたといいます。

「そこまで言われるんやったら大阪ですぐにやります!」と宣言し、腹をくくりました。

ファイナルでは残念ながら賞がとれず悔しい思いをしましたが、渡さんには今でも記憶に残る出来事がありました。

ファイナルの会場から懇親会会場に向かうエレベーターに、メンターの河内さんが乗っていて、僕たちを背にドア側を向いたまま、「今のお前らやったら今日の結果が精一杯やろうな。ただ、もし現場をもっていて、ひとりでも母子家庭の子どもを支援していたら、多分お前らはファイナルで勝っていたと思うわ」と言って、振り返らずに去って行かれたんです。すごくドラマチックなシーンで、河内さんと飲むとそのときのことをよく話します(笑)

ちなみに河内さんとは以前グリーンズでも紹介した「み・らいず」の河内崇典さんであり、現在「edge」の代表理事をされています。

学習支援活動を開始。

ここで少し渡さんの「あっとすくーる」の活動について触れたいと思います。

「edge」ファイナル終了後、さっそく渡さんは下宿先のあった箕面市で「実践あるのみ」と学習支援の事業活動を始めます。その後、内閣府の地域社会雇用創造事業交付金事業から「社会的企業創業支援ファンド」(関西の事務局はedgeが担当)に採択されて200万円の資金が入ります。

あっとすくーるのメンバー

満額いただく条件が、事務所を借りて固定費を発生させることでした。僕らはお尻に火がつかないと動きが鈍いという性格を知ってのことでしょうね(笑)

さっそく不動産屋に行き、選んだ物件が最終段階で大家さんからNGが出たそうです。「大学生がNPOを運営しているなんて、とても毎月の支払いは無理だろう」と考えられたのだとか。

しかし、たまたま不動産の営業担当者がシングルマザーであり、渡さんたちの活動を応援したいと、仲の良い大家さんを紹介してもらい、現在の事務所の隣にあるビルの一室を実際に借りることができたそうです。

こうして「あっとすくーる」は拠点を構え、学習塾、寺子屋式(自習補助型)の学習教室、訪問型の学習支援を開始。最初の時期は「明確にしんどかった」と渡さんは振り返ります。

塾講師の経験もないメンバーでやっていたので、今日の授業のどこが良かったとか悪かったとか、反省会を繰り返す毎日でした。また、最初は子どもが少なかったので、朝は近隣の中学を回って校門前でチラシ配りやポスティングをしていました。

それでも生徒が増えず、ボランティアとして参加してくれた大学生たちが辞めてしまうなど、軌道に乗せるのは大変だったといいます。

学習塾の様子

試行錯誤しながら事業を続けて8年ほど経った今、当時生徒だった子どもたちが大学生となり、子どもたちに教える側のボランティアとして戻ってきてくれているそう。とてもうまくいっているように感じますが、実際は悩みにぶつかる毎日なのだとか。

僕らと出会って人生が変わった子どもたちもいれば、力が及ばず去っていった子どもたちもいます。受験対策を一緒にがんばった子どもが、受験に合格したものの中退したらしいと風の噂を耳にすることもあり、自分たちのやったことに意味はあるのだろうか? と悩む日々です。

若者の可能性の芽を残し、広げたい思い。

ここまでは「あっとすくーる」の活動も含めて、渡さんの参加者としての目線で「edge」を解説してきましたが、ここからは「edge」の運営者としての渡さんの目線で少し解説を加えていきたいと思います。

渡さんはご自身がエントリーした次の年から、「edge」の合宿のボランティアに5〜6年ほど参加しています。去年からはサブメンターとして、メンターの横について補助をする仕事を経験しました。

コンペプレイヤーとメンター永井さん・渡さんとのメンタリング中の様子

自分だったらどう答えようと思うようなことをメンターがアドバイスしている様子を間近で見て、とても勉強になりました。一応、「事前課題の確認からしましょう」といったヒアリングのマニュアルはありますが、メンターたちはそれぞれ本人のキャラクターにあったアドバイスをされていて、人それぞれやり方が違うのを垣間見ることができます。

「日本を代表する社会起業家たちが、若い人から能力を引き出す様子を目の当たりにできる瞬間」だと渡さんは言います。そして、日々の仕事に追われるだけでなく、少し視点をあげたときに社会そのものを変えなければいけない、「メンターたちが伝えていることは社会を変えるという姿勢なんだ」と感じているそうです。

「あっとすくーる」で働く職員にも「edge」のボランティアをすすめているという渡さん。参加した職員はぐんとスキルアップし、明らかにしっかりと自分の意見を出すようになるのだそう。

そして今年、渡さんは「edge」実行委員長に選ばれました。今年、これから行われるコンペの流れに関して、渡さんの意向を反映してもらったといいます。一番大きな変化は二次審査までプレイヤーをあまり落とさないということ。

自分自身が参加したときもそうでしたが、そのときにプランが整っていなくても、セミファイナルまでの間に動くことで、大きく成長するプレイヤーがいます。そういったプレイヤーの可能性も捨てたくないので、できるだけ落とさない方向でプログラムをつくりました。

その結果、史上最多のプレイヤー数に。プログラムがタイトなスケジュールになったものの、渡さんは手応えをつかんだと言います。

「edge2018」ファイナリスト

この記事が掲載されるの3月時点では「edge2018」はファイナリスト6名が決まり、3月24日にはファイナルプレゼンテーションが、梅田スカイビルにて開催されることになっています。先着200名の定員で一般の方も参加できます。

そして最後に、知ってほしいプロジェクトがあると渡さんは話します。それは、社会起業家のコミュニティへと成長した「edge」から生まれた6つのNPOによる団体「コレクティブ・フォー・チルドレン」。兵庫県尼崎市に拠点を置き、子どもの貧困の連鎖を解決するべく立ち上がりました。

「edge」をベースに顔と顔の見える関係を築いてきた6団体が、互いの専門性をいかして「子どもの貧困」という大きな社会課題に取り組んでいます。

「私たちが変えたいのは社会そのものです。社会はひとりでは変わらないので、みんなで変えるものだと考えています」とは、「edge」創始者で最高顧問の田村太郎さんの言葉です。

今後も「edge」は渡さんたちに続く社会起業家の裾野を広げていきます。少しでも変えていきたい問題意識をもっている方は、渡さんが言うとおり、アイデアのプランが整っていなくても大丈夫。もし間に合えば「edge2018」のファイナルプレゼンテーション(3/24 申し込みフォームはこちら)の会場に足を運んでみてはいかがでしょうか?