greenz.jpの連載「暮らしの変人」をともにつくりませんか→

greenz people ロゴ

子どもの貧困をなくすべく集った6つのNPOによる新団体「コレクティブ・フォー・チルドレン」共同代表・河内崇典さんインタビュー

みなさんは“子どもの貧困”という言葉を、耳にしたことはありますか? 近頃テレビやメディアの報道などでこの言葉に出会うことが増えましたが、実際に貧困状態にある子どもは見かけたことがない、という方も多いのではないでしょうか。しかし、現実にはこんな状況があります。

「シングルマザーである母親が病気で入院していて、子どもたちは行き場もなく、食料もお金もない。そして残された彼らのことを誰も知らない、あるいは知っていても支えきれない、そんなケースに出会ってきました」と一般社団法人「コレクティブフォーチルドレン」(以下、コレチル)の共同代表・河内崇典さんは教えてくれました。

日本はいまや、約7人に1人の子どもが貧困状態にあります。ひとり親家庭の相対的貧困や非正規雇用の増加、虐待、DV、10代での予期せぬ妊娠、ひきこもりなど、日本の子どもの貧困に関する問題は、さまざまな社会課題と関係しています。そして、親も過去に同じような経験をしていて、子どもに貧困が相続されるケースが多いのです。(厚生労働省 平成28年の人口動態統計の年間推計

兵庫県尼崎市に拠点を置く「コレチル」は、そんな子どもの貧困の連鎖を解決するべく立ち上がった新しい団体です。

河内さんは、2001年から大阪で社会福祉のNPO法人「み・らいず」を立ち上げ、障害のある大人や子どもの生活面や学習面での支援を続けてきました(過去のgreenz.jpの記事はこちら)。

また、もうひとり共同代表を務める高亜希さんは、同じく大阪で病児保育サービスを展開するNPO法人「ノーベル」を設立し、日々働く女性と子どもたちに接してきました(過去のgreenz.jpの記事はこちら)。

おふたりが、「新しい団体を立ち上げなければ」と思った切実な現状、そしてこれからの取り組みについて、河内さんにお話しを伺いました。

河内崇典(かわうち・たかのり)
(社)「コレクティブフォーチルドレン」共同代表/大阪市住之江区に拠点を置くNPO法人「み・らいず」代表。学生時代にアルバイトで重度の身体障害者の入浴介助を行ったことをきっかけに、在学中から「み・らいず」の前身となるボランティアサークルを立ち上げる。誰もが当たり前に地域で暮らせる社会を目標に、障害者へのヘルパー派遣事業、不登校の子どもたちへの学習支援、居場所づくりなどを行う。

これまでの当たり前が、もう当たり前じゃない世の中

「コレクティブフォーチルドレン」は2016年の秋に発足しました。掲げているミッションは「すべての子どもたちが地域社会で当たり前に暮らせる社会」。

「それって当たり前のことじゃない?」と思われるかもしれません。その定義を、まずは河内さんに聞いてみました。

たとえば離婚などによるひとり親家庭の場合、経済的理由から塾にいけない子どももいます。仕事に行って夜遅くまで帰って来られない親を待ちながら孤食する子もいます。携帯は持たされて、コンビニで飯は買えたりする。便利な世の中にはなりましたが、子どもにとってこれが望ましいとは言えないですよね。

一般的な家族のかたちが大きく変容する中、「高齢化や少子化で地域社会のコミュニティすらなくなりつつある」と河内さんは言います。

僕らが子どもの時代は、たこやき屋に行っても「宿題やったんか?」と言われたし、ボールを壁に当てて遊んでいたら近所のおっちゃんに思いっきり怒られたりした。子ども会の集いもあったりして、地域社会のコミュニティがあった。そんな地域の網の目がほとんどないんです、いま。

冒頭に書いた親の入院によって取り残された子どもたちも、地域社会のセーフティネットで支えられなかった子どもたちの一例。

「み・らいず」のスタッフは、病気で働けないお母さんを支援するためにその家庭を訪れていたんです。

そのお母さんが入院してしまい、取り残された子どもたちは食べるのにも困っている。本来なら児童相談所に報告すべきところ。でもそうしたら子どもたちが施設に入れられるかもしれないと、そのスタッフは思ったんでしょう。僕に黙って食材をどこかから調達して、子どもたちが食べられるように用意していたんです。

それは完全に本来の業務を超えている。ひとりがこんなことをやったら、他のスタッフも同じことをしたくなる。気持ちはもちろんわかるけど「ダメじゃないか」と、そのスタッフを怒らざるを得ない状況でした。

というのも、ただでさえこちらも通常の業務だけで忙しくて、それ以上は僕らだけでは支援しきれないんです。これは新しい仕組みをつくって、いろんな方面からアプローチしないと変わらないと思ったんです。

スタッフを怒らざるを得なかったという河内さんは、いちNPOとしての限界を感じました。そして実は「ノーベル」の高さんも同じジレンマを抱えていました。

NPO法人「ノーベル」代表・高亜希さん。

「ノーベル」は設立当初、「子どもを産んでも当たり前に働き続けられる社会」を目指して、訪問型病児保育のサービスをスタートしました。しかしサービスを続ける中で、高さんは「今日仕事場に行かないとクビになる」という、切実に支援を必要としているひとり親家庭のお母さんたちに出会ったのです。

そこで2013年から「ノーベル」は寄付を募り、ひとり親家庭向けに安価な病児保育サポートをはじめました。そして支援を続けるにつれ、さまざまな困難を抱える家庭と出会うことも増えてきたのだそう。

そもそも「病児保育」とは、子どもが病気の時だけ一時的に利用されるサービス。保育スタッフが帰った後、あるいは子どもが元気な時、その家庭がどうなっているのかを知る術もなく、高さんも「ノーベル」というひとつの団体でサポートする限界を感じていたと言います。

福祉や保育、また働くお母さんの支援ということをお互いやってきたわけですが、問題の根本は依然解決されない。

そもそもNPOって、何かの問題に対処することでその活動が支援されることが多いので、問題の川上にいくことは難しいんです。そこで「子ども」をキーワードに、得意分野が異なる団体が集まって、必要な時期に適切な支援をすることで問題をもっと未然に解決できるようにしたいと思ったんです。

日々目の当たりにする切実なエピソードなどを交え、ていねいにインタビューに答えてくれた河内さん。

集った団体は、ひとり親家庭の中高生の学習支援を行うNPO法人「あっとすくーる」、デザインで地域の課題解決に取り組むNPO法人「Co.to.hana(コトハナ)」、不登校の子どもの学習支援などを行うNPO法人「ブレーンヒューマニティ」、経済的困難を抱える子どもたちに学校以外の学習の機会を提供する公益社団法人「チャンス・フォー・チルドレン」、そして「み・らいず」と「ノーべル」を含む6団体(2017年8月現在)です。

折しも日本財団が、行政や企業、NPOなどが協働することで社会の課題を解決する人材やチームを募り、最大1億円の支援を提供する「ソーシャルイノベーター支援制度」をスタートさせた矢先でした。河内さんや高さんらは全国から応募のあった中から10団体のひとつに選ばれ、1000万円の事業の立ち上げ資金の提供を受けました。

さらに半年後、ビジネスプランを練り上げ「日本財団ソーシャルイノベーションフォーラム2016」に参加。見事「特別ソーシャルイノベーター」の優秀賞に選ばれ、さらなる事業拡大のための支援を受けることに成功したのです。

「ソーシャルイノベーションアワード2016」に参加し、特別ソーシャルイノベーターに選出された瞬間。

どうやって子どもを救う?

専門性の高いNPOが集うことで、子どもたちの発達と成長の段階に合わせた必要な支援をしていく「コレクティブフォーチルドレン」の事業は、まさにこれからがはじまり。実際に準備を進めている事業をご紹介しましょう。

ひとつは、「バウチャー制度」を使った教育の選択肢を広げる事業。「バウチャー」とはクーポンのこと。この制度は、もともと先述した6団体のうちのひとつ、公益社団法人「チャンス・フォー・チルドレン」が経済的困難を抱える家庭の子どものために実施しているものです。

仕組みは以下の通り。まず、取り組みに賛同してくれる個人や企業から寄付を募り、クーポンを発券。今回は日本財団からの助成金を財源にします。利用者はこの取り組みに賛同してくれる塾、スポーツ教室、習いごと教室などで現金の代わりにこのクーポンを使用し、授業やレッスンを受けられるのです。

「コレクティブフォーチルドレン」は、現在尼崎市内のある小学校区で、2017年の10月1日からクーポンを利用できるように準備を進めています。

「子ども・若者応援クーポン」を受給するには、ウェブサイトから登録申し込みが必要かつ、居住地や所得制限等の複数の基準を満たしていることが条件となります。応募多数の場合は、抽選があります。

このクーポンがあれば、「コレクティブフォーチルドレン」の協力団体であるNPOや、クーポン取扱い事業者として登録済みの一般の塾・教室で学ぶことができるようになるのです。対象となるのは0歳児から20歳までの子どもと若者、合計200人程度。未就学児や受験生など、育児や教育に費用が多くかかる年齢の子どもには、最大で月24,000円分のクーポンが支給されます。

地域社会と子どもをつなぐ「ソーシャルワーク」でサポート

また、もうひとつ予定しているのは「ソーシャルワーク」による子どもやその家庭への支援です。みなさんも、おそらく「ソーシャルワーカー」という言葉は聞いたことがあるのではないでしょうか。

「ソーシャルワーカー」は、主に医療や福祉の現場で、サポートが必要な高齢者や障害者あるいは病気の人に対し、日常生活をよりスムーズに行えるよう、相談にのってくれる人のこと。子どもを対象としたソーシャルワーカーもいるものの、その数は少なく、「コレチル」では子ども専門の相談員をつくる仕組みを考えています。

いくらクーポンを配っても、教育への意識が低かったり、親が仕事で多忙だったりする。どこに何を相談していいかがわからなければ、必要な支援がきちんと届きません。また実際にクーポンを使って塾に通うようになっても先生や周囲の子どもたちとコミュニケーションがうまくとれず辞めてしまうといったケースも考えられます。

「ソーシャルワーク」はその間をつなぐ、子ども専門の相談員、といったところです。NPO同士が新たに連携して、新しいことをはじめることも大事ですが、地域で暮らす人々と社会的支援をつなげていくことも大事だと思っています。

「ソーシャルイノベーションアワード2016」でプレゼンする高さん。貧困家庭が身近に存在していることを切々と訴えています。

さらに、支援サービスの効果をきちんと検証するべく、アンケート調査を実施予定。きちんとしたデータをとることで、アドボカシー(政策提言)につなげたいと、河内さんたちは考えています。

NPOが連携するモデルケースをつくりたい

河内さんが「コレクティブフォーチルドレン」で叶えたいもうひとつの夢は、NPOが連携して新たな価値を生み出す、そのモデルケースをつくること。

阪神・淡路大震災以降、ボランティアやNPOが活発に活動したこともあり、関西では社会起業家による豊かなネットワークが生まれています。このネットワークを活かして、NPO同士が連携することで、ニーズに対して柔軟に対応し、新たなサービスが生まれる土壌を、関西からつくっていきたいですね。

ひとつの組織の枠を超え、協働でプロジェクトを進めるのは簡単なことではないでしょう。「お互いそれぞれの組織では常識として通用することが、通用しないこともあります」と河内さんは話してくれました。でも、何かを変えたいなら、やはり行動を起こすしかないのです。

ピンチはチャンス。そして社会の課題はイノベーションの種です。そして関西には社会起業家がたくさん活躍しています。それぞれが力を合わせることで、より多くの子どもに笑顔が戻ることを祈りつつ、「コレチル」の今後の取り組みに注目していきたいと思います。