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「直感を磨くのは、良い環境と良い食べ物」ブラウンズフィールド・中島デコさんに聞く「つながり」が育む場所づくり

1999年に東京からいすみに移住した料理家の中島デコさんと写真家エバレット・ブラウンさんが立ち上げた「ブラウンズフィールド」を、一言で説明するのは難しい。夫妻と子どもたちの家であり、カフェと宿泊場を備えた施設であり、米や野菜をつくる農園であり、多くの若者たちが生き方・暮らし方をおのおの学ぶ‟学校”でもある。ただひとつ言えることは、もしブラウンズフィールドがなかったら、いすみにはいまほど”小商いカルチャー”は生まれていなかっただろう、ということだ。

ブラウンズフィールドはいかにして生まれ、18年にわたっていすみの自由なマインドを耕してきたのだろう。グリーンズと千葉県いすみ市が、いすみに移住したり、自分なりの商いを始めようとする人々を応援するための連載「いすみローカル起業プロジェクト」。今回は、いすみを代表するローカル起業家の大先輩・中島デコさんにお話を聞きました。

自然の流れで成長してきた


(撮影: MARIKO TAGASHIRA

中島デコ
料理研究家。16歳でマクロビオティックに出会い、25歳から本格的に学び始める。二度の結婚で2男3女の母となり、1999年にエバレット・ブラウンとともに千葉県いすみ市に移住。「ブラウンズフィールド」を主宰し、カフェや宿泊施設、イベントやスクールを行うなかでこの場所を育ててきた。著書に『ブラウンズフィールドの丸いテーブル』〈ブラウンズフィールド〉、『中島デコのマクロビオティック』シリーズ〈パルコエンタテインメント事業局〉、『生きてるだけで、いいんじゃない』〈近代映画社〉など多数。http://brownsfield-jp.com

「いまのブラウンズフィールドができたのは、たまたまなんです(笑)」

インタビューのためにカフェの外に出してあった椅子を整理し、落ち葉を掃き、温かいお茶を淹れてくれたデコさんが開口一番に語ったのは、意外な一言でした。

1999年、夫のエバレットさんの知り合い伝いで知ったいすみの地。東京で5人のお子さんを育てることに不自由さを感じていたデコさんは、思い切っていすみへの移住を決断します。

「最初は千葉には全然魅力を感じていなかった。引っ越すなら温泉があるようなところがよかったし」と冗談を言いながら、「でも来てみたら、海も近いし、里山もきれいだし、日当たりもいい」と、デコさんはいすみの第一印象を振り返ります。

私は東京で生まれ育ったから、最初は田舎で暮らす自信がなかったんです。最寄りの駅までは徒歩50分。商店街は6時半くらいに閉まっちゃう。「え、こんなところで過ごせるの?」と思っていたんだけど、越してきてみたら、友だちがおもしろがって遠くから遊びに来てくれるし、県外での仕事もあるし、寂しいと思う暇もなく18年が経ちました(笑)

移住した当初は、カフェも宿泊施設もつくる予定はなかったそう。しかし、移住から9年後の2008年、料理研究家としての仕事を続けるうちに、デコさんの活動に興味をもって訪ねてくる人が増えたことをきっかけに、当時受け入れていたWWOOFer(ウーファー)たちとともにカフェを始めてみることに。

※1971年にロンドンで設立された「WWOOF」(World Wide Opportunities on Organic Farms:世界に広がる有機農場での機会)は、有機農場を核とするホストと、そこで手伝いたい・学びたいと思っている人とをつなぐNGO団体。ウーフにおいて手伝いをする人々は「WWOOFer」(ウーファー)と呼ばれる。

そして、遠方から訪ねてきた人たちの「近くに宿泊できるところはないですか?」との声に応えるかたちで宿泊施設もオープン。使われていなかった蔵を改装し、近くで売りに出された民家を手に入れ、家族の家から現在のブラウンズフィールドへと、少しずつ変化していきました。

カフェも宿泊もやるなんてビジョンは全然なかった。でも、とにかく広い土地だったから、たくさんの人が出たり入ったりできる、風通しのいい場所になったらいいなとは、漠然と思っていましたね。そのあとは自然の流れのなかで、勝手に成長してきたのかな。

お話を聞いていると、ブラウンズフィールドに住み着く猫の「ポテト」がやってきて、慣れた様子でデコさんの膝の上に。駐車場の奥には2匹のヤギも発見。秋の畑に囲まれてしんとした敷地内にいると、鳥の鳴き声はこんなに大きかったんだということに気がつきます。

そして現在は約10人のスタッフが暮らしをともにしながら働いています。人も、動物も、きっと自然の流れのなかで、この場所に引き寄せられてきたのでしょう。


(撮影: MARIKO TAGASHIRA

小商いの相乗効果

ブラウンズフィールドでは、ごはんをつくるときに「お味噌汁の具とってくるね」と、小さな菜園から格別に新鮮なものを食べることができます。「これって理想的だよね」。

もちろん、田舎暮らしは都会ほど便利ではありません。実際、取材に訪れた10月下旬には、その直前に訪れた大きな台風によって敷地内の小屋が壊されていました。こうした古民家生活でこその大変さも、「それを『苦労』と捉えるのか『おもしろい』と捉えるかの問題だと思う」とデコさんは言います。

「効率」というものさしだけで測れば、たしかに都会よりは「不便」かもしれない。一方、田舎での暮らしを通して、自分の手で自分の暮らしをつくる「おもしろさ」を追求することもできるのです。


(撮影: MARIKO TAGASHIRA

しかしやっぱり、都会との違いという点でデコさんが何よりも感じているのは、「人とのつながり」。ブラウンズフィールドがここまで成長してきたのも、気心の知れたスタッフや訪ねて来てくれる人たちがいたから。

ブラウンズフィールドをきっかけにしていすみに移住をした人もいれば、グリーンズではおなじみのパン屋「タルマーリー」も、いすみでお店を始めたころに最初にパンを売り始めたのはブラウンズフィールドでした(タルマーリーは現在は鳥取県に移転。デコさんとタルマーリーのつながりは『「小商い」で自由にくらす~房総いすみのDIYな働き方』(磯木淳寛著/イカロス出版)にも詳述されています)。

「一緒にやろう」と言ってくれる仲間や、ご近所や役場の人たちの協力があって、なーんとか、のろのろと続けさせていただいています。でも時間をかけてきたからこそ、地域に少しは貢献しているってね、最近実感するんです。もっともっとおもしろい人たちがこの地域に集まって、相乗効果で、みんなの小商いが盛り上がっていくといいなと思います。

すべての人を受け入れられる場になっていきたい

自然に、少しずつ、すくすくと成長してきたブラウンズフィールドも、20周年まであと少し。デコさんは、これからこの場所をどんなふうに育てていきたいと考えているのでしょう。「なんだろうな、行き当たりばったりで来ちゃっているから」と言い、少し考え、持ち前の明るい声で、答えてくれました。

米や野菜をつくっているからといってそれをどんどん売っていきたいわけでもないし、宿泊をやっているからといって大きなホテルをつくりたいわけでもない。でも、18年間やってきてわかってきたのは、ここが「教育の場」になってきているということ。スタッフたちはお客さんへの接し方を身につけたり、サスティナブルな生活のヒントを得たり、畑からいただいたもので調味料や美味しい料理をつくれるようになっていきます。

彼らがブラウンズフィールドでの2〜3年の経験を踏み台にして新しい世界で活躍しているのを見ると、「ここ」が何かするというよりも、「人」が行き過ぎることで、自然と世間に、貢献できているのかもしれないと感じます。

だから「ブラウンズフィールドが旗を上げて何かをする!」というわけではなく、つながりを大事にして、コミュニティを大事にして、人が何かを学んで巣立って行く場所になって、集まった人で知恵を出し合ってこの場所で暮らして、誰が来ても気持ちのいい場所づくりをしていけたらいいなっていうのがひとつあるし──。

もうひとつは?

独居老人とか、母子家庭の人とか、もっと自然に出産したい人とか、世間にはいろんな人がいるじゃないですか。そういう人たちにも来てもらって、一緒に助け合える場所づくりができたらいい。たとえばいつかは、助産院や老人ホームもつくってね。生まれてから死ぬまで、この地域で幸せに過ごせる命の流れがつくれたらいいよね。

若い人だけ、とか、定年退職した人だけ、とかじゃなくて、みんなここで、子どもをつくって産めばいいし、田畑もやればいいし、商いもすればいいし、のんびりもすればいいし、たくさん遊べばいいし、そして歳をとっても楽しいことをしながら、若い人に助けられながらゆるりと亡くなっていく。ブラウンズフィールドが、すべての人を受け入れられる場としてひとつのモデルケースになって、そんな場所が全国各地にできるのが理想的なんじゃないかな。

人が集まり、ともに暮らし、そして旅立ってゆく。ブラウンズフィールドが長い年月をかけて育ってきた秘密は、こうした人の循環によって、多くの人がこの場所に想いとエネルギーを注いできたからなのかもしれません。

現在いる20〜30代のスタッフたちも、デコさんにとっては子どものような存在だといいます。最近はこの場所で出会って、結婚をする方も増えているのだそう。「彼らに子どもができるとね、本当にもう外孫のよう」。これからも、ブラウンズフィールドの家族は増えていくのでしょう。

いくらお金持ちになっても、いくら有名になっても、嘘のない、いたわり合う優しい人間関係はお金では買えませんよね? 住んでいる地域でそんな人とのつながりがあることが、いちばんの幸せだと思うんです。私はこれからも、そこを大事にしていきたいかな。

地方への移住には興味があるけれど、なかなかきっかけがないという方は、まずはブラウンズフィールドのような場所を訪れ、その土地の空気を感じてみるのが第一歩になるのかもしれません。

またブラウンズフィールドでは毎年、月に一度のペースで週末に泊まって、デコさんやスタッフから田植えや稲刈り、味噌や梅干しの加工方法を習う「サステイナブルスクール」も開催しています。半年かけて通いながら、風景の移り変わり、採れる野菜やその味わいの変化までも感じるなかで、いすみを体験できるプログラム。なかにはこのスクールを経て、いすみに移住をした人もいるといいます。

「自分が思いつく方向へ進んでいったらいい」。デコさんは、これから移住や小商いを始めることを考えている人たちに向けて言います。彼女自身も、はじめはビジョンなんてなかった。でも、気づいたら自然に、周りの人たちに支えられながら、18年歩き続けてきた。

ふとした直感で選んだ道が、振り返ると、人生を変える分かれ道になる。
「人生は選択の連続だね。どちらを選んでどこに行き着くか? を直感で選択する。その直感を磨くためにも、良い環境良い食べ物が大事だと思うよ」とデコさん。

豊かな自然に出会いに、美味しいものをいただきに、ブラウンズフィールドに訪れてみてはいかがでしょうか。

(こちらは2018.3.6に公開された記事です)