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とにかく自分の「やりたい」をいちばんに満たし切る。話はそれからだ。VILLAGE INC.橋村和徳さんと語る、地域ビジネスの始めかた

全国規模での認知度は低いけれど、いくつもの観光名所を擁する茨城県大子町。男体山は日に映え、久慈川は清らかに澄む。まさに山紫水明という言葉がぴったりで、近隣県からたくさんの人が遊びに訪れる町です。

そんな大子町では現在、グリーンズと共に地域の起業家人材を発掘・育成する事業を進めています。今回の取材は、地域外から先輩起業家を招き、大子町の観光スポットを周りながら、まちづくりを一緒に考えてみようという試みです。

本記事に登場する先輩起業家は、静岡県下田市に拠点を構え、全国にアウトドアフィールドを立ち上げている株式会社VILLAGE INC.橋村和徳さん

より魅力的な大子町にするために、いったい何が必要なのか。橋村さんと共に、新たな視点で大子町を眺めてみたいと思います。

橋村和徳(はしむら・かずのり) 株式会社VILLAGE INC. 代表、一般社団法人 下田HOMIE 理事
1973年生まれ、佐賀県唐津市出身。東京の大学を卒業後、テレビ局3年、上海勤務を含むITベンチャー8年の会社勤務を経て、2009年に帰国し伊豆下田へ移住。アウトドアベンチャーとしての活動を開始し、2011年に「VILLAGE INC. 」(ヴィレッジインク)を設立。船でしか行けない1日1組のキャンプフィールドを皮切りに、地域の自然資産を生かした『空間』と『非日常体験』でもって感動の時を提供できる事業「Villaging ヴィレッジング」(村づくり)を全国で手掛けている。

JR常磐線水戸駅で水郡線に乗り換えて約1時間。大子町は人口18,000人ほどの小さな町。取材を行なった10月中旬の週末は、あいにくの雨となりました。でも、雨音を聴きながら町を歩くの、実はちょっと楽しかったりして。

案内人は、大子町役場まちづくり課の保坂太郎さん。グリーンズプロデューサーの小野も同行しました。それでは早速レポートしましょう。

日本三大名瀑のひとつ、袋田の滝

写真左が大子町役場まちづくり課の保坂太郎さん。楽しい大子町ツアーのはじまりはじまり!

お昼に現地集合して、一行がまず向かったのは袋田の滝。茨城県が誇る観光名所です。栃木県・日光の華厳の滝や和歌山県・那智の滝と並んで日本の三大名瀑に数えられています。

入場口で切符を買い、順路に沿ってトンネルへ。この長い長いトンネルの先に、見晴らしのよい観瀑台が2箇所設置されているそうです。

トンネルを抜けるとそこに待ち受けていたのは、激しく流れ落ちる巨大な滝の雄姿。対面の瞬間、流れ落ちる白滝の勢いに思わず息を飲む3人。

見てください、このダイナミックな眺め。そして一面に響き渡る滝の轟音の迫力たるや! 橋村さんの嬉しそうな表情が、この瞬間の全てを物語っていますね。雨のおかげでふだんよりも水量が多く、今日は大当たりの日ですよ、と保坂さんが教えてくれました。恵みの雨!

観瀑台からトンネルに戻ったところに祀られている小さな祠。四度(よど)の瀧不動尊です。袋田の滝は、岩肌を4段になって流れ落ちることから、別名・四度の瀧とも呼ばれているそう。

本尊は不動明王。迷いの世界から煩悩を断ち切るよう導いてくれる明王です。思わず手を合わせお参りをする橋村さん。どんな煩悩を抱えているのでしょうか。

マイナスイオンをたっぷり浴び、完全にリラックスモードで一行は袋田の滝を後にしました。

多種多様な土産物がみつかる、仲見世通り

滝の入り口周辺には、観光地らしく土産物屋さんが軒を連ねていました。ひょうたんや、手編みのカゴなど手工芸品の数々が所狭しと並んでいます。

ここは水郡線袋田駅から袋田の滝まで、26軒のお食事処や土産物が立ち並ぶ、仲見世通りです。

店先では、大子町のブランド肉・奥久慈しゃもの焼き鳥や、鮎の塩焼きも売られていました。おいしそう! そのほか大子町には蕎麦・こんにゃく・お茶など、美味しいご当地グルメが豊富にあるんですって。

奥久慈りんごのふる里 豊田りんご園

続いて保坂さんが連れて行ってくれた場所は豊田りんご園です。大子町には、なんと44軒ものりんご園があるのだそう。観光りんご狩りは、大子町名物のひとつ。9月中旬~11月下旬の収穫期には、フレッシュなもぎたてりんごを心ゆくまで堪能できます。

「初恋の味 ジョナゴールド」「静香 甘さと酸味の見事なコントラスト」
「秋茜 サクッとしてマイルドな味」 手書きポップがいい味出しています。

施設内では、りんごの試食ができました。味の違いを食べ比べる3人。橋村さんはシナノスイートをお気に召した模様。それにしても、スーパーの店頭では見たことのない品種にたくさん出会いました!

大子町の秘境 奥久慈憩いの森

次にやって来たのは、奥久慈憩いの森でした。保坂さん曰く、ここは「大子町の秘境」と呼ばれているのだとか。

どこまでも広がる芝生の景色。霞みがかって神秘的な表情に。この森は、ときどき森林浴に訪れる人がいる程度で、ふだんは利用者があまりいないそう。なんてもったいないことでしょう。

併設されている森林学習館は、イベントや研修ができる施設として建てられたログハウス。屋内では郵便局主催の婚活イベントが開催されていました。この施設も、ふだんは利用者がそれほど多くはないそう。地方には、こういった眠っている資産がたくさんあるのでしょうね。

予約の取れないオートキャンプ場 グリンヴィラ

最後に私たちが訪れたのは、オートキャンプ場 グリンヴィラ。人気アウトドア雑誌の「人気オートキャンプ場ランキング」で7度1位を獲得、社団法人日本オートキャンプ協会が行う格付けでは5つ星のキャンプ場にも認定された公営のキャンプ場です。

この日はちょうど、小さな子ども連れの家族が集まるキャンプイベントが開催されていました。施設設備が充実しているので、アウトドアの雰囲気をたっぷり味わいながらも、家族で安全かつ楽しい思い出づくりができる。グリンヴィラの人気の理由はここにあります。折しもハロウィンパーティの季節。小雨にもかかわらず、ちびっこたちがお菓子を求めて元気に駆け回っていました。

橋村さんの本業はアウトドアキャンプ場のプロデュース。仕事仲間とばったりなんて偶然も!

半日かけて巡った大子町の自然を活用したレジャースポット、いかがでしたか? 想像以上に資源に恵まれた町だなと私は感じました。近くに住んでいたら、足を運びたくなるのも分かります。

さて、自然資源を生かすプロである橋村さんの目には、一体どう映ったのでしょうか。後半では、橋村さんにお話をじっくり伺いたいと思います。

VILLAGEは、不法侵入の裸祭りから始まったビジネス!?

まずは改めて、橋村さんの紹介からはじめましょう。

メディアから“グランピングの先駆け”と呼ばれるアクアヴィレッジをはじめ、全国各地に“VILLAGE”と名付けたアウトドア空間をプロデュースしている橋村さん。

みなさんは、グランピングをご存知ですか? もともとはヨーロッパ発祥のセレブの遊びで、グラマラスとキャンプを掛け合わせた造語です。

ジャングルや無人島にスタッフとシェフを連れていき、設備の整ったテントを張って非日常を楽しむ贅沢な冒険。日本では2015年頃から、アウトドアスキルのない人でもキャンプ気分を楽しめるラグジュアリーなテントホテルの形態で広まりました。

橋村さん率いるVILLAGE INC.は、そのなかでも異彩を放っています。船でしか行けない自然に恵まれた空間に、お客様は1日1組だけ。そこで本来の自分を取り戻したり、仲間との絆を高める非日常体験を提供しているのです。

グランピング・ブームを狙って、ビジネスを当てたわけではないんですよ。はじめは自分の秘密基地が欲しかっただけ(笑) 玄界灘で生まれ育った僕には、キャンプは山ではなくビーチや島でやるものだった。上京した時、同じような遊び場を求めて西伊豆まで開拓に行ったのがきっかけで。

最初につくったアクアヴィレッジは、実は不法侵入から始まったんですよ(笑)

不法侵入!? 思わず反応したのは私だけじゃないはず。今は笑い話ですけどね、といたずらっ子のように笑う橋村さん。遡ること2001年、その場所で裸祭りをしたのがルーツなのですって。裸祭りですか!

友だちを集めて、ドレスコードが裸のキャンプをしました。もちろん女人禁制で、脱げないやつは参加できないっていう(笑) でも、本当に真面目な集まりで、焚き火の前で本音を語り合うんです。心も体もまさに裸の付き合い。

裸祭りは2人から始まって、その後5年間で30人規模にまで拡大したのだとか。30人の男性が素っ裸でキャンプって、ぶっ飛んでますよね。そして2006年の夏、とうとう地主さんに見つかってしまいます。

よし、今年も来たぞー! って船から降りたら、そこにぽつんとおじいちゃんが立ってたんですよ。で、「ここ、俺の土地なんだよね」って(笑)

 
橋村さんが人目を盗んでまで手に入れたかった絶好のロケーション。そこには、日常生活から完全に切り離された、手入れのなされていない豊かな自然が広がっていました。キャンプをするには、きちんと使える状態に整えることから始めなければいけません。

しかしそれが仇となりました。地主さんはある日気づきます。どうやら年に一度だけ、誰かがこの土地を整備しているらしい。しかも年々、そのエリアは拡大していく……。

「どうして俺の土地をきれいにしてくれるんだ?」。 怒られるかと思いきや、地主さんはただただ謎を究明すべく橋村さんたちを待ち構えていたのだそう。幸運にもこの出来事を機に、土地の使用許可を正式に得ることができました。

ところが翌年、なんと橋村さんは上海へ転勤に。

上海生活は大気汚染と食事が合わなくてほんと大変で。おかげで秘密基地に戻りたい願望が募りました。もともとあの場所でビジネスをしたいと考えていたので、本気で好きなことをやって生きると決め、予定よりも早く2009年に会社を卒業して準備を進めることにしたのです。

アクアヴィレッジのオープンは2011年。はじめは法人向けの野外研修をメインで提供する予定でした。しかし当時は今ほど、企業がチームビルディングに野外体験を活用する発想を持っていませんでした。そこで、レジャー寄りの大人の秘密基地サービスと2軸で様子をみたところ、好奇心旺盛な人たちが遊びに来るように。

仕事も遊びも一所懸命なタイプの人たちがプライベートで利用し、リピートするうちに会社のメンバーを連れてくるようになり、法人利用も増えていきました。今では社内の事業説明会と社員旅行をセットにした企画や、ウエディング、ロケ地と用途も多種多様です。

アクアヴィレッジビレッジは、幹事を中心とした「村」をつくるというコンセプトを持って運営しています。

キャンプのオーガナイズを通じ、コミュニティを強化したり広げてもらいたいという狙いがあるんです。僕自身が遊び場をつくったらみんなにすごく喜んでもらえたし、焚き火を囲んで本音を話すことで仲間との絆も強くなった。仕掛け人がひとりでも多く生まれることで、心と体に沁みる共通体験をたくさんの人に持ってほしいと考えています。

そんな橋村さんが、大子町に新しいビジネスの可能性を感じることはできたのでしょうか? ここからはいよいよ、小野も交え大子町について率直に意見を聞いてみたいと思います。

大子町の自然資源を見て、どんな印象を抱きましたか?

橋村さん 大子町は自然と人が両方揃っている町ですね。交通の便も悪くないので、可能性が十二分にあるエリアですよね。僕が場所を選ぶ際に重要視しているのが、実は地域住民が織りなす町全体の雰囲気なんですよ。

なぜって、場所を生かすのは人だから。地域で何かを始めるなら、その土地の人を巻き込む必要があるわけなんです。大子町の皆さんは人が良くて寛容だし、町を良くしていこう、ってマインドを感じました。

greenz.jpプロデューサーの小野裕之。NPO法人グリーンズの事業戦略と組織づくり、企業や行政に向けた事業の開発や営業、オペレーションの責任者。ライフワークとして、ソーシャルなスタートアップビジネスの事業化を支援。

小野 僕は地方へ行くと「この町の良いところと悪いところを教えてください」とよく聞かれるんです。だけどそれを知って、一体何の意味があるのかなと思います。これを言うと、元も子もないんですけど、場所はほんと関係ないです。正直言うと、どこでもビジネスはできる。

橋村さん ずばり言っちゃったね(笑) 僕のビジネスでも極端な話、非日常の雰囲気がつくれれば、場所はどこでもいいですね。大子町は、すでに観光地として機能しているし、特産品にも恵まれているけれど、素材って意味ではオンリーワンではないわけですよね。袋田の滝は日本3大瀑布だけど一番ではないし、りんごだって長野や青森の名前がすぐに浮かびます。どちらかと言うと中途半端なポジション。

小野 今地域に必要なのはいわば料理人の存在です。地域は素材なんですよ。そのまま食べて美味しいものはいい。袋田の滝なんてそのままで圧巻ですもんね。だけど今地域に埋もれている資源のほとんどは、基本的にどれも調理が必要なわけです。

橋村さん 僕のプロジェクトにも大子町と似た課題を抱える地域があります。交通の便は悪くないけど、都会から近いわけでもないし、すごく栄えているわけでもない。だけど素材はいくつも揃っている。だからこそ、組み合わせてオンリーワンに調理するプレイヤーがしっかり立てば、僕はいかようにでもなると思います。

小野 いい素材を使ったところで、料理人の腕が悪ければそれはまずい飯になってしまう。素材のよしあしよりも、調理の腕のほうが重要だし、いい料理をつくるという情熱が大事。そういう人たちをどれだけ地域に集められるかがすべてじゃないですかね。そもそも料理人が、「この素材は悪い」って思ったら調理を始める意味がない。

地域の料理人となる人に求められる資質はなんでしょうか?

橋村さん 僕はコアとなるプレーヤーと、つなぎ役となるプロデューサー、両方が必要だと思っています。

プレーヤーはまず、その地域にある程度の年月コミットできること。「この人はしばらくいるな」って分かっていないと、田舎では信用されません。その安心感が伝われば、地域に住む年配の方から協力してもらえるようになる。

小野 ただ、現代病なのか、みんな1、2年が我慢できないんですよね。今はトレンドの移り変わりが早いし、つい儲かりそうなテーマを選びがち。地域で起業したい人の話を聞いても、10年くらいの長期でビジネスに取り組む感覚を持っている人は少ない。

けど、どうせトレンドを気にした事業でそんなに早くモチベーションが下がるのなら、時間かかっても自分の好きをとことん追求して、長く薪をくべられるテーマを見つけてほしいと思います。橋村さんだって、自分を想定ユーザーにしたサービスをつくってますもんね。

橋村さん そうです。はじめは自分のためでしたから。最初からそんなに稼ぎ方や大義名分を考えていないです。

小野 自分の中にあるニーズを本当に満たし切るってところへ向かって、まっしぐらに行けるかどうか。

橋村さん 魂こもったテーマですよね。だけど、俺がやりたいから俺のわがままに付き合ってくれって言っても、なかなか人がついてこないじゃないですか(笑) なので世の中のニーズと結びつけて、ビジネスへと翻訳する能力は後々必要だと思います。

事業ってひとりでは実現し得なくて、周りの人を巻き込んでいかなきゃいけないですけど、そこには夢が必要です。こんな明るい未来にできるよとか。その通りにならないかもしれないけど、そこへ向けてみんなでなんか面白がってやるって感覚は、ビジネスを継続する上で大事ですよね。

橋村さん あとは、どれだけ地域外の人と一緒に仕事ができるか。地域資源を生かそうと思ったら、客観的な視点を持ったプロデューサーが必要ですね。伊豆の人もそうでしたけど、「あんなところでキャンプ場たって、飯も出ねえのにひとり1万5千円も取って人なんか来るか」って言われて。都会の人にとっての非日常は、地域の人には日常すぎて分からないんですよ。「なんで夕日見ながら泣くんだい? 」みたいな。

小野 ビジネスは希少性が大事。みんなが賛同するものより、「確かに良いけどさ」くらいのほうが価値がある。大子町はもう既に、近隣から観光に訪れる人の流れがあるのだから、その矛先を変えてあげればいい。大衆向けではなく、ちょっと際立ったここにしかない何かを発信して、向こうから探して来てくれる感じにするほうがいいんじゃないかな。

橋村さん そこに気づかせるのは、やっぱり外から来た人の意見なんですよね。

小野 橋村さんだったらどうします?

橋村さん 僕だったら単なる観光事業にしないで、地域の産業全体が活性化するように仕掛けますね。まず、感度のいい人たちが集まるように、地方で新しいワークスタイルが実現できる提案をしたい。そうすれば運営を担う働き手と出会えるし、新しい経済圏も生まれます。その手段として地域資産を生かすなら、廃墟や僻地が一番低コストで活用しやすい。

とはいえ「この場所をこう使いたい! 」と思っても、自治体の所有物には規制もあります。行政ができるのは、地域で事業を起こす大義名分を上手に与えてあげたり、法律面の相談に乗ったりすること。そうやって起業家を後ろで支える地域が伸びているなって、今、各地を回って感じていますね。

小野 いわゆる露払いや根回しは、行政がきちんとバックアップする。そして起業家には、事業構築に集中してもらう。役割分担ですよね。

「魂のこもったコンセプト」ってどう見つけるのでしょうか?

小野 僕いつも思うのが、自分のセンスをもっと信じていいって。みんな言わないじゃないですか、自分ならではの変わったセンス。

橋村さん 他人のセンスをあたかも自分のセンスみたいなね。受け売りでね(笑)

小野 自分が持っている美的感覚を絶対守ったほうがいい。際立ったコンセプトがつくれるかどうかって、そこを信じられるかどうかに尽きると思う。事業を始めようと思った理由と照らし合わせてみて、自分の感覚に少しでも違和感を感じたらそれを信じる。でもみんな不安だから途中でブレちゃいますよね。

橋村さん いやぁ、やっぱり怖いですよ(爆笑)

小野 事業をやる一番の醍醐味って、その人にしか見つけられない新しいマーケットを見つけ出すことだと思うんです。そんなニーズ思いもよらなかったって金脈1個あててみる。でもみんなやっぱ、既に発見された金脈に寄せていくっていうか。でもそこはもう投資額の大きい人たちの戦場だから。

投資額を限りなく少なく、戦わずにやりたいなら、絶対自分にしか見つけられない金脈を見つける必要があって。それを見つけようと思ってやってほしい。

橋村さん 僕も最初の頃は、みんなが反対したらじゃあここは誰も来ないんだな、マルって決めていましたね。逆にいいじゃんこれ! って言われたら、お前からいいって言われたらダメ、みたいな(笑)

小野 ほんとそうなんですよね。みんな好きな飲食店の話をするときって、店主が面白いとか、変わったメニューがあるとか、決しておいしい話だけじゃなくて。お客さん側だったら普通に分かっていることを、供給側に回ったとたん、めちゃくちゃ保守的になるって面白い現象が起こるんですね。

その自覚があれば、差し引いて発想できるんですよ。もっとチャレンジしていい。でもそれがオッケーって言える人はなかなか少ないから、誰が支援してあげるかって話なんですけれどもね。

橋村さん なるべくスモールスタートするのがいいですよね。例えば24張テントを張りたいと言うのであれば、初めは5張でやってみませんかとか、僕もそういうステージの組み方をします。

小野 小さく積み重ねていって、自分の思っている感覚に合っているかどうかを検証しながらコンセプトを固めていく。頭数とセンスが足りないうちは、とにかくちっちゃくやる。はじめから自分の思い描く理想のまま、広い場所を管理するとサービスの密度が下がるんですよ。密度が下がると検証の精度も落ちる。

高密度のものを高品質でやるって案外できちゃうから。小さくとも自分の純度が高いコンセプトが体現できれば、共感してくれる人たちが集まってくれる。そして中身に合わせて外身も大きくする。そうやって進めていけば、時間はかかるけれど確実ですよね。

(対談ここまで)

大子町くらい観光資源が豊富であれば、他の地域に比べてアドバンテージがあるって話になるかと思いきや、橋村さんも小野も、ビジネスの成功に場所やリソースは関係ないとズバッと言い切りました。

大事なのは、起業する本人が「魂を込めたコンセプト」を探求し、人生をかけてじっくり取り組む覚悟を持てるかどうか。

魂だとか覚悟だとか、言葉だけ見れば清水の舞台から飛び降りるようなイメージがあるかもしれません。でも安全第一で大丈夫。むしろ、自分の好きをとことん味わい満たし、ご縁や出会った瞬間を大事にしながら、ハシゴをかけてゆっくり降りていこうよ。

大子町の発展に今一番必要なのは、自分自身を楽しみ精一杯生きる、地域外からの来訪者かもしれませんね。

(撮影: 秋山まどか)