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エネルギーは「狩猟型文明」から、「耕作型文明」へ。自然エネルギーのパイオニア、槌屋治紀さんインタビュー

自然エネルギー100%の未来は可能か? 緻密な計算の上で、それが十分に現実的だと結論づけるシナリオを発表した専門家がいます。1973年のオイルショック以降、いち早く自然エネルギーが主流になる社会の実現を提唱してきた、システム技術研究所所長の槌屋治紀さんです。かつて「そんな夢みたいな話を…」と言われた槌屋さんの描く未来が、いま現実のものになりつつあります。日本の自然エネルギー界のパイオニアである槌屋さんに、100%自然エネルギー社会の実現について伺いました。

槌屋治紀(つちや・はるき)
システム技術研究所所長、工学博士。東京大学工学部機械工学科卒、同大学院博士課程修了。1970年代から、化石燃料から自然エネルギーへの転換を一貫して訴えてきた。現在も、エネルギー・資源分析、情報科学の方法を使い、持続可能な社会への道筋を提案している。著書に『エネルギー耕作型文明』(東洋経済新報社)、『これからのエネルギー』(岩波ジュニア新書)など多数。

SFだって現実になっている

槌屋さんは1970年代からずっと、日本のエネルギーは自然エネルギーでぜんぶまかなうべきだと提言されています。なぜいち早く自然エネルギーの可能性に目をつけたのでしょうか?

いち早くと言われましたが、別に特別なことを言っていたつもりはないんです。物理とかエネルギーを勉強した人は、最終的には誰でもここにたどり着くはずなんですよ。オイルショックの影響だけではなく、当時から石油はいずれはなくなるものだとはっきりわかっていました。エネルギー問題を最終的に解決したいのなら、国内で自給できて、なくなることのない自然エネルギーを使うしかありません。

ぼくは、それを100年くらいの間に実現できるんじゃないかと考えました。そして1978年に日経新聞が主催するシンクタンクで、21世紀の日本のエネルギーは、すべて自然エネルギーで供給可能だと提言したんです。そのときは経済人はもちろんですが、企業に勤めている大学の同窓生の技術者たちにも、「そんなの夢物語だ」と言われました。

でもアメリカで私と似たようなことを言っている人がいたんです。それがエイモリー・ロビンス博士でした。彼が70年代に書いた『フォーリン・アフェアーズ』という雑誌の記事に、ほとんど同じことが書いてあったんです。ぼくは感激して、彼を訪ねてイギリスまで行きました。そして、彼の本を日本でも出したいと話し、友人と一緒に翻訳したのが『ソフト・エネルギー・パス』(1979年)という本です。 

日本で最初に提言した頃は、「SFみたいなことを」と笑われました。でも、SFに出てくるほとんどの話は、今では実現しています。スマホだって、昔のSFに出てきます。ぼくが提言をまとめたときも、そのときは受け入れられないとしても、将来は必ずこの方向性が受け入れられるはずだと考えました。

世界の方向性が大きく変わることになると直感したのは、1988年にIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が立ち上がり、世界が真剣に温暖化問題を取り上げるようになった頃からです。でも当初は、こんなに早く思っていた通りに自然エネルギーが広がるようになるとは考えていませんでした。

「エネルギー耕作型文明」へ

槌屋さんが提言されてきたのは、単に自然エネルギーを増やしていこうということではなく、人類の文明そのものを「エネルギー耕作型」に切り替えていくべきだということですよね。そのコンセプトを説明してください。

食糧とエネルギーは、人が生きるのに欠かせないものです。太古の時代、人類は「狩猟」により獲物を捕まえて食糧にしていました。しかしその方法に行き詰まり、農地で食糧を生産する「耕作」という方法に切り替えたことで人類は生き残ることができました。私は、食料で起きたこの「狩猟文明から農耕文明への転換」が、エネルギーについても起きると考えました。
 
エネルギーについては現在、化石燃料や核燃料を地下から掘り起こして消費する「エネルギー狩猟型文明」になっています。これは、いつか枯渇する資源の上につくられた文明です。また、化石燃料の消費によりCO2が大気中に堆積して温暖化を引き起こし、原子力発電による使用済み核燃料と核廃棄物が地上や地中に堆積していきます。

これに対し、「エネルギー耕作型文明」は、太陽エネルギーなどの自然エネルギーを上手に利用する文明です。自然エネルギーは安全なエネルギーであり、必要なエネルギーをすべて自然エネルギーで供給することは、人類が持続可能な生き方を選択する場合には、論理的必然になります。

100%自然エネルギーシナリオ

2050年に日本のエネルギーを100%自然エネルギーでまかなう、という「100%自然エネルギーシナリオ」を提言されていますが、これについて教えてください。

一般の方は自然エネルギーというと電気のことだけと考えがちですが、このシナリオは電気だけではなく、暖房や給湯などの「熱」や自動車の「燃料」など世の中のあらゆるエネルギーを対象にしています。その中でまず大切なのは、省エネを徹底することです。省エネは、一度実行されるとそれ以降は引き続き効果を発揮し続けますから、枯渇しない油田を新たに掘削したのと同じ価値があります。

具体的には、LED照明への切り替えや、住宅やオフィスなど建物の高断熱化などで、かなりの部分を減らすことができます。例えば、先述のエイモリー・ロビンス博士は、ニューヨークのエンパイヤーステートビルに大規模な省エネ改修をほどこし、以前と比べて38%の省エネを実現しました。また、そこにかけた費用は約3年で回収し、それ以降は毎年利益を生んでいます。効率的なエネルギー利用は、経済的にもプラスになるのです。

また交通ではハイブリッドカーや電気自動車の利用も大切です。イギリスやフランスは2040年にはガソリン車を使用しないと宣言しています。日本だってやればできるでしょう。また、日本では人口が減ってゆくので、当然それに合わせて必要なエネルギーも減少します。すでにこの5年間で毎年1.6%の割合でエネルギー消費量は減っている。こうしたことによって、エネルギー消費量を従来の半分以下に減らすことが可能です。

発電については特に太陽光と風力を増やすことが大切です。それを水力や地熱が支える形をとることで、家庭や企業の電力をまかなえるようになります。さらに、電気自動車用の燃料として使うことで、交通や輸送に使っていた石油を減らすことができるようになります。

また、工場など産業用の熱需要も電気で供給できるようになります。従来、別々に考えられていた部門を超えて行うこのような取り組みを、セクターカップリングと呼びますが、電気だけ、建物だけ、交通だけとバラバラに考えるよりも、総合的に考えることでより効率の良い仕組みを実現することができるのです。

電力で燃料も熱もぜんぶまかなう発想は、オール電化住宅やスマートハウスなどにも通じる話ですね。オール電化住宅は、電源は原発由来でも化石燃料由来でもなんでもよくて、とにかくすべてのエネルギーを電気でまかなう住宅です。槌屋さんが提唱されているのは、ざっくりと言えば、その電源がすべて自然エネルギーになるというイメージでしょうか?

それに近いかもしれません。

本来であれば熱の分野は、太陽熱温水器やバイオマス熱利用などを広めた方が良いのですが、日本では採算が合う形でなかなか実現していません。次善の策として、自然エネルギーのほとんどの供給源はコストが安くて浸透しやすい電力ということで、他の分野にも活かそうということになります。今でもエコキュートなどは、電気でヒートポンプを回して効率よく熱をつくっていますね。

そういうことを原発や化石燃料ではなく、自然エネルギーでやっていけば環境への負担を減らすことが可能です。

自然エネルギーのコストは普及すればするほど下がる

2050年に日本のエネルギーを100%、自然エネルギーでまかなうことは本当に可能でしょうか?

資源のポテンシャルとしては、100%は十分に実現可能です。ただ、どれだけ早く実現できるかについては、コストや制度など社会環境との兼ね合いがあります。特にコストについてはいつ実現されるかは未知数な部分もありますが、自然エネルギーは海外では化石燃料よりも低コストになっています。

ただ最初は何でもコストが高いのですが、量産されるようになると当然安くなってくる。自然エネルギーはその典型です。太陽電池も、1980年代には「製造するエネルギーが大きすぎて、いくら発電しても回収できない」という議論がされたこともあります。エネルギーペイバックタイム(*)の問題です。

ところが1990年代になると、5年で回収できることが一般的にわかってきました。そして現在では、1年半以下になっている。また、パネルの寿命も従来考えられてきた20年ではなく、30年は発電できるという評価に変わってきています。

その間に発電効率も上がり、価格も安くなりました。1キロワット時を発電する際にかかるコストは、どんどん安くなっています。現在では、専門家の間でペイバックタイムの話を持ち出す人はいなくなりました。

実は自然エネルギーに懐疑的な人たちの間で、この「太陽光発電はエネルギーの元がとれない」という話が独り歩きしています。元ネタは1980年代に話されていたことなんですね。情報をアップデートしてもらった方が良いかもしれません。

そうですね。自然エネルギーのコストは、学習曲線にしたがって普及すればするほど下がっていきます。1980年代末に私が学習曲線を用いてコスト低下の可能性を提唱した時も疑っていた人はいますが、実際にその曲線通りになっています。

かつては、「太陽光発電なんて効率が悪いから、原発一基分の電気をつくるには山手線の内側すべてを更地にしないといけない」というようなことを言う人がいました。でも何も更地に置く必要はなくて、余っている場所は住宅にもビルにもいくらでもあるわけです。

例えばアメリカやフランスでは、屋根や壁面だけでなく道路に太陽光を設置するなど、いままで使えなかった場所でも発電することが考えられています。そのような例が、世界中で増えることでさらに発電量も増えるし、コストは安くなっていきます。

一方、複雑な科学技術を駆使する原子力は、安全性を高めれば高めるほどコストが掛かります。原子力大国と言われるフランスも、コストの上昇を理由に原発を減らす政策に切り替えてきています。

(*)エネルギーペイバックタイム:設備の製造にかかったエネルギーがどれくらいで回収できるかという数字。それにより、その設備で生産される本当のエネルギー量を評価しようとする試み。

誰にでもできるエネルギーシフト

100%自然エネルギーの未来に向けて、一般の人にできることは何でしょうか?

エネルギーを直接の仕事にしている人は少ないかもしれませんが、どんな仕事でもエネルギーと関わる機会はあります。まず気をつけてほしいのは買い物です。いまは家電でも省エネ性能がすごくあがっているので、電気冷蔵庫などはエネルギー効率が良いものを選んで買ってほしい。自動車を買うなら今は電気自動車、プラグインハイブリッド車、またはハイブリッド車です。燃費は昔の車の4分の1くらいになっています。運転するときは、エコドライブというアクセルやブレーキを急に踏まないといった工夫でも燃費はだいぶ変わります。

家を建てるなら太陽光を屋根につけてほしい。昔は、環境意識の高い人たちが赤字覚悟で付けていた時代がありました。そういう人たちはイノベーションを起こすイノベーターとして立派ですが、いまは投資すればそれに見合う採算がとれるようになっています。

イノベーションという点では、自動運転が普及してくると、移動したいときに自動運転の車を呼んで、乗捨てるといったことも可能になります。すると、都心の駐車スペースがいらなくなり、そもそも車を所有する必要がなくなります。そして、車を今のようにたくさんつくらなくてもよくなれば、生産に関わるエネルギーを減らすことが可能です。できることはまだまだたくさんあるのです。 

エネルギーによって、社会のあり方が大きく変わってくるんですね。つい「電気だけ」とか「ガソリンだけ」で考えがちなんですが、自動車と発電と家を一緒に考えることで電気自動車を蓄電池代わりに使えたりと、社会全体を総合的に見直していくことで、解決できそうな問題が増えそうです。

「ほしい未来」はそこまで来ている

槌屋さんにとって「ほしい未来」とはどんなものですか?

ぼくがエネルギーの分野で提言し続けてきたことは、いまの時代にほぼ実現しつつあります。だからほしい未来は今なんですよ(笑)

エネルギーについてはこの方向性で進んでいけば、確実に持続可能になります。世界中がそうなるまでにはまだ時間はかかるでしょうが、先進国に限れば近い将来なるでしょうね。日本は非常に遅れていますが、そういう意味では楽観しています。

ぼくの最大の課題は、その先をどうしようかということです。誰も想像しなかったときに言っていたことが実現して、みんながそれをやるようになった。ぼくはみんながしないことをしたいので、この先をどうするか難しいですね。

例えば1968年ごろ、コンピューターグラフィックの先駆けで、芸術家と技術者の間でCTG(コンピュータ・テクニック・グループ)というグループをつくって、大型コンピューターで、ケネディ大統領とかマリリン・モンローの絵を描いていました。まだパソコンなんてない頃です。でも今は誰でもCGをやっているので、ぼくのすることはなくなりました(笑)。 

この写真は、CTGがロンドンで行われたサイバネティック・セレンデピティにコンピュータ・グラフイックスを送ったときのもの(1968年)

槌屋さんたちのチームが1968年前後に製作したコンピュータ・グラフィックスの画像をまとめた本を手に。

グリーンズのインタビューでは、皆さんにほしい未来を聞いていてますが、「ほしい未来はいま来ているから特にない」と答えたのは槌屋さんが初めてです(笑)。40年以上前から、周囲がなんと言おうとブレずにビジョンを掲げ続けてきたのはすごいと思います。自分は変わらないけど周囲が変わってきたということでしょうか?

そうですね。特にすごいという意識はありません。ぼくは自然に考えて、合理的だと思われることを言ってきただけです。確かに周囲の反応は変わりましたね。大学の機械工学科にいたときの同級生には、「槌屋はおかしなことばかり言ってる」なんて言われていました。でも最近、その同級生たちは大企業の重役になっているのですが、いまでは、話を聞きたいと頼まれるようになりました。

やっと時代が追いついてきた、ということかもしれませんね。その間にいろいろな批判にさらされることもあったと思います。

批判と言っても、世の中が大きく変革しようとしているさなかには、いろいろなことが起きるのが当たり前です。あっちにいったりこっちにいったり。いまだって、大きな意味では自然エネルギーの方向に動いているけれど、原発再稼働はじめ、エネルギーについては多くの議論があります。そのさなかにいる、というだけのことなんだと思います。

親しくしているエイモリー・ロビンスさんも、いろいろ批判されてもぜんぜん平気な顔をしてますからね(笑)。背景には、絶対に社会はこの方向に行くんだ、という確信があるからです。だからブレずに言い続けることができる。ぼくにもそういう所があるのかもしれません。

どうもありがとうございました。確かに、40年以上前に太陽光発電がこんなに広がるとか、持続可能な社会をめざす動きがビジネスとつながると言っても、周囲の意識とは大きなギャップがあったことでしょう。

それに比べて、時代が槌屋さんに追いついてきた現代ではそこまでのギャップはありません。例えば「近いうちガソリン車に乗れなくなる」と言われても「そうなるのかもしれないな」と受け入れる人って結構多いのではないでしょうか。だからこそ、「ほしい未来はもうそこまできている」という話に説得力を感じました。

もちろん、自然エネルギー100%社会の実現には、技術やコスト面だけでなく、政治などさまざまな要因が絡んでくるので簡単なことではありません。しかし、槌屋さんやエイモリーさんが、一歩ずつほしい未来を実現してきたその道程は、100%の未来に向けてまっすぐに伸びているように感じました。

(撮影: 関口佳代)

槌屋治紀さんと国際NGOのWWFジャパンとが共同で制作した「自然エネルギー100%シナリオ」(2017年版)

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