たくさんの情報がものすごいスピードで流れる現代社会で、個人の声は、もしかするとかき消されてしまうほど小さなものなのかもしれません。けれども、たとえ小さくても声を上げれば、それが狼煙のように立ち昇って、広く遠くへ伝わっていく可能性はあるはず。
「greenz peopleの狼煙」は、そんな声を上げようとしているgreenz peopleの方たちを紹介し、活動を後押ししていくことを目的にした連載です。
実は、家入一真さんも、現在約800名いるgreenz peopleのひとり。そのことがきっかけとなり、今回、greenz.jp編集長で「NPO法人グリーンズ」代表理事の鈴木菜央との対談が実現しました。
日本最大のクラウドファンディングプラットフォーム「CAMPFIRE(キャンプファイヤー)」、ユーザー数が4万人を突破したフレンドファンディングアプリケーション「polca(ポルカ)」など、さまざまな形で個人が声を上げられるサービスを提供している家入さん。そして、単なるメディアにとどまらず、関わる人々がお互いに成長しながら、一人ひとりがほしい未来をつくれる社会を実現しようとしているグリーンズの鈴木菜央。
既知の間柄だったふたりの対談は、個人が声を上げること、また声を上げられる社会づくりをテーマに、コミュニティから個人のエゴ、ほしい未来まで、幅広い話題で盛り上がりました。後半には、家入さんの生き方にまつわる本音もポロリ。
「狼煙とCAMPFIREって、近いものがあるかもしれない」という家入さんの言葉から始まった本対談、最後までじっくりとお楽しみください。
1978年生まれ、福岡県出身。株式会社paperboy&co.(現GMOペパボ)を福岡で創業し、「ロリポップ」「カラーミーショップ」「ブクログ」「minne」などを創る。2008年にJASDAQ市場へ上場。退任後、クラウドファンディング「CAMPFIRE」フレンドファンディングアプリ「polca」等を運営する株式会社CAMPFIREを創業、代表取締役社長に就任。他にも「BASE」「PAY.JP」を運営するBASE株式会社、数十社のスタートアップ投資・育成を行う株式会社partyfactory、スタートアップの再生を行う株式会社XIMERAなどの創業、現代の駆け込み寺シェアハウス「リバ邸」の全国展開なども。インターネットが趣味であり居場所で、Twitterのフォロワーは16万人を超える。
社会課題を解決するキーは“コミュニティ”
菜央 家入さんがいろいろな分野でされていることと、グリーンズが目指していることはすごく近いものを感じていたんですね。ただ、社会の中で個人がもっと声を上げられるとか、応援されるとか、そういうインフラや生態系はまだまだ豊かじゃないと思っていて。お互い見てきた風景を共有したら、未来が見えてくるかなと考えたのが今回の企画です。
実はもうひとつ狙いがあって、家入さんの心中をじっくり聞く機会にしたいとも思っています。目指しているのは、家入さんが「greenz.jpの記事が一番俺の想いを書いてくれたよ」って言ってくれる記事ですね。
家入さん (笑) 今、僕は、「CAMPFIRE」のほかに、最近は小さな声を届けるWEBマガジン「BAMP」も始めていて。有名・無名にかかわらず声を上げられる世界、そうやって声を上げて生きていける世界をつくっていくことを考えているんですね。
僕がずっと言ってきたのは、“居場所”です。居場所って、僕にとっては、「おかえり」って言ってあげられる場所。そこを起点にしてチャレンジしたり、喧嘩して出て行ったり、いろいろあっても数年ぶりに戻ってきたら、「おかえり」っていつでも言ってくれる場所というか。
そういう場所があると、人って一歩踏み出せたり、誰かのチャレンジを応援してあげたりできるのかなと思うんです。
家入さん それで僕は、たとえば「BASE」(無料で簡単にECサイトがつくれるサービス)の鶴岡くんとの共同創業とか、いろいろなことをやってきたんですよね。セーフティネットって言うと大げさだけど、小さく稼いで生きていく仕組みがきっと必要だろうと思うから。
会社も、「リバ邸」(現代の駆け込み寺としての役割を果たすシェアハウス)みたいに非営利の任意団体も、都知事選(2014年に出馬)も、自分の中で一貫性はあると思ってるんです。
菜央 そのときどきに必要なインフラを、いろいろな形で一個ずつつくっているということなんですかね。
家入さん そうですね。最近僕は、「人生定額プラン」というのをやりたいと言っているんですね。月3万円ぐらいで住むところと食べるものと着るものがまかなえたら、失敗しても「ここで生きていければいいじゃん」と思えるじゃないですか。そういう社会にしていきたいです。
実際それを実現している人もいると思いますけど、そういった生き方は孤立していては無理なんですよね。そこで大切なのはコミュニティをどう形成していくかだから、そのためにプラットフォーム事業みたいなビジネスとかシェアハウスをつくるという形で、これから向き合っていきたいと思います。
菜央 僕も今、コミュニティの大切さをすごく感じています。
神奈川県の藤野に、500人ぐらいのすごく面白いコミュニティがあるんです。地域通貨などで密接につながっていて、いろいろな困りごとと手助けのマッチングが起きてるから、都会より便利なくらいなんです。東京で生きづらさを感じてしまった人が続々と集まってくるんですけど、ちゃんと生きる場があるんですよね。
みんながどんどん元気になっていくから、これは集合的な福祉だと思うんです。それを見て、グリーンズでも、個別のソーシャルデザインを取材して記事にしていく以上のことを考えていかないと、課題は解決できないなってすごく感じているんですよね。
家入さん 小児麻痺で車椅子のお医者さんの熊谷晋一郎さんが、「本当の自立とは、ひとりで生きていくことではなくて、困ったときに助けてくれる人たちがいること」って言っているんですね。
独り暮らしとか核家族とか、自己責任のもとに自分で生きていく力を持つことが、経済が発展していく中で求められたものだったと思う。でも、それがある意味限界に近づいていると思うんです。
DIYでつくるコミュニティと、
テクノロジーでアップデートする社会と
菜央 以前、人口が増えていくときの社会と、人口が減っていくときの社会のルールはまるっきり違ってるという話を聞いたんですね。
家入さん あ~、なるほど。
菜央 人口が増えていくときの社会は、100人いる野球部みたいなもので、誰がレギュラーになれるかわからなくて、残りは補欠なんです。でも、人口が減っていくときの社会は、部員が9人しかしないから、調子の悪い奴がいたらフォローしたり、誰でも全部のポジションができるようにしておいたり、みんなが仲良くならないと前に進めないですよ。
今、家入さんが言っていたのは、そういうことかなと思うんですね。人口が減ってきている社会の負の側面がすごく出てきていて、じゃあ新しく助け合うコミュニティができてるかと言ったらできていない。それをDIYでつくるしかないっていうのが、僕のひとつの仮説なんです。
家入さん その中で僕は、ビジネスとかテクノロジーで社会をどうアップデートしていくかを考えているんですよね。テクノロジーにはもちろん負の側面もあるけれど、僕は究極的には人が幸せになるためのものだと信じている。テクノロジーを使って、自分たちは何を目指すべきなのかって考えるんです。
家入さん 最近だと、たとえば「VALU」(個人が自身の能力などの価値をビットコインを介して交換できるサービス)とか「Timebank」(10秒単位で自分の時間を売買できるサービス)が始まったりしていますよね。ただ、評価経済という名のもとに、人間の時間を証券化してお金に換えるみたいなところまでいってしまったら、必ずしもポジティブなことばかり起きないと思う。
それだと、今までの仕組みとそんなに変わらないし、資本主義を突き詰めて訪れた結果のような気もしますよね。評価経済の本来の価値は換金性のあるものではなくて、地域通貨のような、お互いを助け合うセーフティネットのような存在なんだろうと思うんです。
菜央 僕もそう思いました。換金性を持たせれば、既存の経済と連動してしまう。実は、地域通貨を僕の地元(千葉県いすみ市)でも始めたんですよ。すると、社会的資本が増してる感じが実感としてあるんですね。
ソファいりませんか?って投稿したら欲しい人が現れて、たまたまその人が焙煎屋で、焙煎した豆をどさっと置いていってくれたり、漁師さんを手伝ったら、魚をもらったりね。友だちがどんどん増えるし、いろんなものがグルグル回ってきて、(このままで)生きていけるわ~って(笑)
菜央 そういう評価経済であれば、“社会関係資本家”みたいに人間関係がたまっていく感じがあるんです。地域通貨は2000年頃にブームがあったけど、今は全然違う第2第3世代みたいなのが始まっていて、そのミーム(人から人へコピーされるさまざまな文化情報)が日本で飛び回ってる。
でも、そこにITが全然絡んでないんですよね。誰もが使える標準的なプラットフォームがあれば、みんなが使うんじゃないかなって考えたりしますね。
家入さんの源泉は、どこに?
菜央 ちょっとここで、家入さん個人の考えみたいなところを聞きたいんですけど、今までいろんな事業を立ち上げてこられたその源泉、ソースはどういうところなんですか。
家入さん 何なんでしょうね…。昔からそうなんだけど、「こうなりたい」みたいなのが本当にないんですよ。ないって言うと、いい人ぶってるみたいでイヤなんですけど、最初からないんですよね。
コンプレックスは人一倍強いタイプだと思うので、「認められたい」や「ほめられたい」は強かったかもしれないですね。「有名になりたい」とか、あったのかな…。
菜央 変な意味じゃなくて、もう満たされたと言うか、落ち着いてると言うか、そういう状態? それでも残っている何かがあるのかなって思ったりするんだけど。
家入さん 僕は、中2からいじめられて引きこもりだったんだけど、そのときに、この世界に生きる場所がないって本気で思ったんですね。結構どん底で、絶望してたんです。その一件がなければ、普通に就職して、地元でサラリーマンをやってると思います。
だから、親の敷いたレールに乗りたかったのに、強制的に下ろされちゃったみたいな感じなんですよね。そういう強烈な体験はありつつも、原体験みたいなのがないんですよ。
菜央 今のが原体験でしょ。
家入さん しいて言うならそうかもしれないですね。でも、原動力としての“怒り”みたいな、そういうものが自分にはないと言うか。「自分のやるべきことって何なんだろう?」っていう感じなんですよ。
だから、すごく地味で普通なんです。会社にいるときも小さくいますよね。オフィスにいても社員に気づかれないですもん(笑)
家入さん でも、そんな風に思われないことも多いし、そういう地味な自分がイヤで、過激な発言をして、酒を飲んで登壇していた時期もありました(笑)
でもね、もうそういうのはもういい。背伸びすると疲れることはわかったから。
輪郭から大きな絵を描く。
家入さん流・自分を表現する方法
菜央 今、それぞれの事業が、客観的に見て成功と言われるぐらいの状態になった要因はどこにあると思いますか。
家入さん 僕に言われても説得力なさそうですけど、結局のところ、ワープするような成長なんてできないよって講演などでは言うんです。一歩一歩の積み重ねでしかないと思っているから。
他者から見ると、いきなり今になってるみたいに見えちゃうけど、一発逆転ホームランみたいなものはないと思うんです。夢を口にするなら、「じゃあそのために昨日何をしたんですか?」って自分自身に問い続けられないとダメなんじゃないかと思いますね。
すごく真面目なことを言ってますね(苦笑) 面白いことは、僕から出て来ないですよ。フツーのことしか出て来ない(笑)
菜央 それが面白かったです(笑) 期待されちゃうけど、あんまりその期待は好きじゃないって感じかな。等身大でいろいろなことをやってきたんですね。
家入さん 空っぽって感じですよ。プロダクトデザイナー深澤直人さんの『デザインの輪郭』という本に、「デザインをするときは、そのモノ自体のデザインを描くんじゃなくて、そのモノがある風景を描くことで、ぼんやりとした輪郭を浮かび上がらせる」とあって、それが納得できたんですよね。
僕、ずっと自分の内側を描こう描こうとして、結局それで自意識とか承認欲求みたいなもので、破裂寸前の風船みたいにパンパンになっちゃったんです。でも、社会の中に身を置いて、自分の外側を描くことで、僕っぽい何かが描けたら、それがいいなって思ったんですよね。
だから、自分自身の存在としては、社会の中に自分というぼんやりとした何かがあればそれでいいか、って。そういった意味で言うと、「何をやってる人がよくわからない」って言われているのは、ある種成功してると言えるかもしれない(笑)
菜央 (笑) かなり成功してますね。家入さんがいろいろやっていることは、何かを表現したいと言うか、自分の表現としてナチュラルにやってるんだなって感じたんですよね。
家入さん それはあるかもしれないです。もともと絵描きになりたかったけど、才能もなくて、なれなかったから。
菜央 絵を描いている感じはしましたよ。いろいろなサービスをつくることが、まるで大きな絵を描いているようだなって。
家入さん そう思うことで自分を納得させた部分はあったと思いますね。自分はビジネスっていう形で表現してるんだって思えたときに楽になれたんですよ。それまでずっと絵描きになれなかった劣等感の中で生きてきたから。
絵描きにはなれなかったから、キャンバスじゃないもの、たとえばウェブサービスとかアプリとか、ときにはシェアハウスとかで、絵を描くのと同じようなことをやってるって自分に思いこませた感じですね。
家入さん だから究極的に言うと、自分のやっていることはすごいエゴだなって思いますね。「みんなの課題を解決したい」とか、「こぼれ落ちる人たちの居場所をつくりたい」とか、いろんな想いで活動をしてますけど、根っこにあるのは僕のエゴなんですよね。
利己と利他がループすれば強くなれる
菜央 それ、いいと思う。ひとりよがりのエゴじゃなくて、大きなエゴって言うか。今の時代を救うのは、それしかないと思うんですね。“利己”と“利他”がループすると最強だと思ってるんです。利己を追求した結果、利他がハッピーになって、自分の利己に戻ってくるのはすごく強いと思う。
みんなが自分勝手に自分のことをやるんだけど、その結果周りの人がハッピーになれる仕組みをつくれれば、日本中、いや世界中の課題なんて解決すると思うんだけど、みんなそれに気づいてないんですよね。利己と利他は別ものだって考えてる。
家入さん なるほどね。利他は自己犠牲っていうか、そういう感じですよね。
菜央 利己と利他がつながるようなことが、みんなでできる仕組みをつくりたいんですよね。自分のためにやったことが地域のみんなのためとか、地域の未来のためになって、さらに自分がハッピーっていう活動がいい。そのために、コミュニティが必要なんです。
だから、ポートランドは成功してるんだと思う。ポートランドって、全米から格差社会とか孤立した社会に嫌気がさした人たちが大集合してるんですよ。そういう人々の持ってる利己と利他の感覚が広がって、ポートランドの暮らしやすさとかブランドにつながってる。
家入さん だから、表層的に真似だけしてもダメなんですよね。
菜央 ベースにあるのは、個人同士のいいつながりを最大化していくことなんだよね。たとえば僕が取材したポートランドのシティリペアという活動では、みんなで、区画内に住んでいる個人のリソースをマッピングするんです。あの人はスペイン語が話せるとか、あの人はDIYの道具をもってるとか。そのつながりが、まちの問題の解決に役立つんですね。
そういうOS(基本の考え方)が、たとえば一緒に畑をするとか共同で鶏を飼うとかリトルフリーライブラリー(街角にゲリラで置かれる小さな図書館)、交差点をみんなで塗ってクルマの交差点から市民の交差点と憩いの場に変えていく交差点リペアとか、いろいろなアプリケーション(具体的な形)に発展するんですね。
さらにその動きが広がると、行政までも動かすことができるんです。もともと近所で畑をやる人たちのためにみんなでつくった共同コンポストの箱が公道上に置かれたんですけど、「それいいね」って真似する人が増えていって、それがポートランド全土に広がった結果、市が生ごみを回収することになって、今は一括で生ごみを土にして、市内に配っているという成功例もあります。
基本的な考え方であるOSを配って、考え方を変えて、実際にみんなが動く活動があれば、政策にまで影響があるんですよね。そういうのが面白いなと思います。
家入さん それは面白い。僕は、やっぱりネットにおけるプラットフォーム事業というか、サービスをやる側が好きなんですよね。
去年、「CAMPFIRE」の代表に戻ってきたときに、“小さな火を灯す”という言葉とともに、それまでクラウドファンディングで掲載しない方向で動いていた、目標金額5万円とか3万円とかのプロジェクトこそがむしろ大事なんだっていうのを、社内で改めて話したんですね。
インターネットの本質は、無名だったり、力がなかったりするような人たちが、声を上げられること、まず声を上げてもいいんだって思えるようにしていくことが大事なんだっていう話をしました。
家入さん その想いは今でも変わらないです。特にネットサービスなんて、参入障壁も低いし、同じようなサービスがいくらでもつくれちゃう。だからこそ、その背景に流れる哲学や思想みたいなものでサービスが選ばれるようになっていくと思うから、そこを重視していきたいんです。
自分たちがどういう世界をめざしたいかみたいな本質と、矛盾しないサービスにしていきたいですよね。それは僕にとって、「CAMPFIRE」以外の活動においても共通することですね。
菜央 なるほど。ありがとうございました。せっかくなんでCAMPFIREとグリーンズで何かできればいいですよね。
家入さん 僕はぜひって感じです。いろんなメディアがある中で、グリーンズさんは広告に頼らない収益化を模索して、ひとつの形を提示していると思っているんで、ものすごく興味がありますね。
菜央 短期的に何かしましょうっていうことよりも、土づくりと言うか、耕してみると言うか、個人が声をあげることについて引き続き話し続けていけたらいいかなと思いますね。
社員のみなさんと交流したり、考える場をつくったりして。「社会関係資本が豊富な集団を増やしていくようなWEBサービスって何なんだろう?」って話してみるのも面白そうだし。
家入さん それ、面白そう。それやりたい。やります(笑)
菜央 個人が声を上げられる、新しいインフラ、今までにないアイデアを捜してみましょう。
ビジネスやテクノロジーを駆使して社会をアップデートしようとする家入さんと、DIYでコミュニティをつくろうとする鈴木菜央。方法論は違っていても、見ている未来はとても似通っていて、ほしい未来のつくり方は幾通りでもあるのだと改めて気づきました。さらに、さまざまな個人が声を上げることで、未来はより豊かなものになることでしょう。
私自身にとっては、あれだけエネルギッシュに活動されている家入さんが、極めて淡々とお話される姿が新鮮だったこともあり、ドキドキ、ワクワクの対談となりました。
対談中、「夢を口にするなら、“じゃあそのために昨日何をしたんですか?”って自分自身に問い続けられないとダメ」と口にした家入さん。ほしい未来をつくるために、あなたは今、どんな声を上げますか?
(撮影: 服部希代野)