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“すでにある未来”を手にするために、世の中に1000年動きつづける“歯車”をつくる。ミラツク代表・西村勇哉さんに聞いた「今、70億人が生きる世界の可能性」

人や組織、あるいは企業や自治体も、
それぞれに誰にも負けない得意分野や、
技術や知識、経験を持っています。

モノをつくり出す技術。
自然と向き合う心構え。
あるいは地域の成り立ちに関する知見。

それらを持ちながら出会うことのない人々が、お互いに深く信頼しあえる協力関係をつくれたら?
解決できないと思われていた、社会課題を解く新しい糸口が見つかるかもしれません。

NPO法人ミラツク」が取り組むのは、異なる地域、異なる職種の人々の間に、領域を超えた真の協力を生み出すことで、イノベーション創発し、社会進化を加速させるプラットフォームづくり。

ミラツクのミッションは、“Emerging Future, We already have.”
この「すでにある未来の可能性の実現」という言葉には、今、地球上に生きる私たち自身が持つ可能性への強い信頼がこめられています。

greenz.jp では実に4年ぶりとなる西村さんへのインタビュー。

ミラツクが取り組んできたことののなかにある、「ほしい未来」をつくるヒントを聞かせていただきました。

西村勇哉(にしむら・ゆうや)
NPO法人ミラツク 代表理事
1981年大阪府池田市生まれ。大阪大学大学院にて人間科学(Human Science)の修士を取得。人材開発ベンチャー企業、公益財団法人日本生産性本部を経て、2008年より開始したダイアログBARの活動を前身に、2011年にNPO法人ミラツクを設立。
共著「クリエイティブ・コミュニティ・デザイン」(フィルムアート社)。国立研究開発法人理化学研究所 未来戦略室 イノベーションデザイナー、関西大学総合情報学部 特任准教授、慶應義塾大学大学院システムデザインマネジメント研究科 非常勤講師、大阪大学COデザインセンター非常勤講師。

「対話に現れる願い」を
デザインすると新しい未来の姿が見えてくる

西村さんがミラツクを設立したのは2011年の12月。その前身となったのが、2008年に始めた「ダイアログBar」という活動でした。古くからのgreenz.jp読者なら、ご存知の方も多いのではないでしょうか。

東京で行われていた「ダイアログBar」は、2009年12月までの1年半に30回を開催し1,500人が参加。平日夜、参加しやすい時間と場所で開かれており、多いときは100人近くが集りました

「ダイアログBar」は、ゲストトークと当時は組織開発のメソッドとして使われていた「ワールドカフェ」を組み合わせた開かれた対話の場。そこに立ち会い続けた西村さんは、対話の場では一人ひとりが主人公になれること、自然な出会いを通じて新しい仲間やアイデアを見つけられることに大きな可能性を感じていました。

2012年にインタビューをしたとき、西村さんはふだんの会話とダイアログの違いを、こんな風に話してくれました。

たとえば、「何についてどう考えているか」は誰にでも言えますが、「じゃあ、あなたは何をしたいの?」と問われると言えたり、言えなかったりするんですね。「何をしたいのか」という話がしっかり出てくるのがダイアログの状況です。

対話を通じて「自分がどうありたいか」を言葉にしていけたら、みんな、もっと自分たち自身の手で、ほしい未来をつくっていくのではないだろうか。そう考えた西村さんは、対話から新たな取り組みやプロジェクトが生まれる場づくりにも取り組んできました。

東日本大震災発生後、次世代の担い手として取り組む若手リーダー向けのArt of Social Innovationを開催。計9回の開催に全国から約500名の20~30代の若者たちが参加しました

活動を始めてからちょうど10年が経ち、今ミラツクの活動は大きく2つの柱から成り立っています。

ひとつは、「ダイアログBar」から続く「コミュニティづくり」の活動。もうひとつは、世の中の知見を見える化することで新しい取り組みの精度を高め、オープンイノベーションを実現するための「調査プロジェクト」です。

世の中に散らばっている
「実践者の知見」をつなぐ

現在、ミラツクのコミュニティには、「役員・職員」「理事・アドバイザー」を核に、「メンバーシップ」「ネットワーク」「アウトリーチ」というグラデーションの異なる関わり方が用意されています。

ミラツクwebサイトより、それぞれのコミュニティメンバーの関わり方について

ユニークなのは、毎年100名を上限に、異分野の実践者を招く「メンバーシップ」という関わり方。

企業、起業家、NPO、大学・研究機関、行政・官公庁、医療関係、デザイナー、建築家など、まさしく“異分野”の人々が集まり、ミラツクが主催する招待制のフォーラムなどに参加しています。ミラツクのコミュニティに参加する人たちの間に、さまざまなコラボレーションを働きかけていくのが「コミュニティづくり」の仕事です。

2016年12月の「ミラツク年次フォーラム」では、NOSIGNERの太刀川瑛弼さん、READYFORの米良はるかさん、ロート製薬の河崎保徳さん、オムロンの竹林一さんなど、異分野から26人の登壇者を招いて10セッションを開催。コミュニティを基盤とするミラツクならではの離れ業!

一方、「調査プロジェクト」は、クライアント企業と共にミラツクの職員たちがテーマに沿って各分野の実践者の知見や未来の潮流を調査していく仕事です。実践者のインタビューから内容を書き起こし、必要な要素を抜き出して、カテゴリーにまとめ、集約を行います。

たとえば、デンソー株式会社とは「高齢者とお母さんが外出しやすい社会をつくりたい」というテーマに取り組んでいます。

このテーマそのものに詳しい人はいなくても、テーマが含む要素に詳しい人はそれぞれいると思うんですね。「高齢者やお母さん」についてはNPOや行政、当事者の方が詳しいし、「出かけ先のつくり方」は地域の商店街や商業施設、ホテルの人が詳しい。

僕らは、テーマを区切って調査をすることで、世の中の端々にある知見をつなぎあわせて、まだまとまっていない知見をつくっていきます。

2016年11月、京都駅八条口にワコールがオープンした「ワコールスタディホール京都」の空間づくりにも、ミラツクは深く関わりました。

スタディホールは、「美的好奇心をあそぶ、みらいの学び場」。美を収集するスクール、ライブラリー・コワーキングスペース、ギャラリーがあります(ワコールスタディホール京都のWebサイトより)

調査プロジェクトから導き出された要素を並べているところ。ぼんやりとしていたことが、言葉になって現れてくる瞬間です

「ワコールスタディホール京都」のテーマは、「みらいの学び場づくり」。つまり、主体的でクリエイティブな学びが起きる空間です。そのテーマを、僕らは「学びについて」は教育学者や教育の実践者、「空間について」はカフェの事業者、建築家、都市計画の専門家と、各分野の知見を持つ先駆的な人たちにインタビューを行い、その要素を「143のPrinciples」として集約しました。

そして、「143のPrinciples」を元に、多くの人たちと一緒に「みらいの学び場づくり」のための空間づくりやアクティビティを考えていく。これは、オープンイノベーションという方法ですが、前提となる調査で得られた知見をていねいに集約しておくことで、発想の基盤をきちんと整った状態で進むことができるんです。

1周年を迎えたスタディホールとミラツクは、さらなる飛躍に向けて12人にインタビュー。「暮らしの中で内面の美しさを磨く習慣」を見出す調査プロジェクトを行いました。

実は、「コミュニティづくり」と「調査プロジェクト」という、別々に動いているようにも見えるふたつの仕事は、根っこの部分でしっかりと結び合わされています。

その要となっているのがミラツクの「組織のあり方」です。

ミラツクの組織化に向けて
考えた「5つの条件」

ミラツクを設立した2011年当時、西村さんは職員の雇用をしない“ひとりNPO”で活動していました。

当時は、最小の労力で最大のインパクトを出すのが美しいと思っていて。また、僕の関与が最小限で、最大限のインパクトが出せていたら、「僕がいなくなっても続くしくみを残すことにつながるんじゃないか」とも思っていたんです。

組織づくりに興味が生まれたきっかけは、2012年に「国際NPO法人iLeap」がシアトルで行われたNPOリーダー向けの研修会。共に招かれた、「カタリバ」や「かものはしプロジェクト」といった、数十人から100人規模の組織を運営するNPOのリーダーたちと交流するうちに、「組織のあり方を考えるのは面白い」と感じたのだそう。

2012年、iLeapがシアトルで開いたNPOリーダー向けの研修会にて

思考と行動のスピードが極めて速い西村さんのこと。やりたいことが見つかると、すぐにそれを可能にする方法を考えはじめました。

最初に決めたのは、ミラツクに新たな事業を興すための5つの制約条件。「人を雇うに足りる収益があること」「一般的な世の中のニーズがあること」に続いて、「自分(西村さん)の個人技によらない仕事であること」。

「コミュニティづくり」の仕事は、いわば僕の個人技です。

コミュニティ、あるいはプラットフォームづくりに決まった手順はなく、すごく感覚的なところもある。僕がやることをそのまま真似てもダメだし、教えようとすると徒弟制度状態になってしまう。それでは広がらないし、仕組み化された組織にはならない。たとえば、大学院生でも加われるような組織にしないと、インパクトにはつながらない思いました。

あとの2つは、事業自体が「ミッションを達成する取り組みになっていること」「ミラツクのコミュニティがないとできない仕事であること」。「ミッションを直接推進しない仕事をするならミラツクでやる必要はない」ときっぱり決めて、ミラツクの強みを生かした仕事づくりを模索しました。

いろいろ試してみて結果的に残ったのが、「調査プロジェクト」。

実践者の方々とのつながりを集約・分析するという点、未来潮流を読み解いてテーマ設定を行うという点で自分たちの強みを一番発揮できますし、オープンイノベーションの実践、未来戦略の策定という点で世の中のニーズもある。そして、やってみるとちゃんとモジュール化(工程を分割し、分業によって組み立て可能な状態に)もできました。

「調査プロジェクト」では、職員たちは必ずミラツクのコミュニティの協力を得ます。これにより、敬意を持ってコミュニティの取り組みが継続されていきます。また、調査を通じて出会う多くの人たちも、さらにコミュニティにつながっていく――こうした循環を描けたことも「調査プロジェクト」が2本目の柱になった理由なのです。

ミラツクの方法を
世界に埋め込んでいく

今、ミラツクでは、「調査プロジェクト」を新たな形で展開するための4つの取り組みが始まっています。それぞれ簡単にご紹介します。

1.学生たちと取り組む調査プロジェクト

ひとつめは、「東北芸術工科大学 コミュニティデザイン学科」の選抜学生チームと共に行う、先進的なコミュニティデザインの現場を対象とする調査プロジェクト。こちらは今まさに、大阪ガスの会員サイト「マイ大阪ガス」のポイント応援を受け付けています。(会員の方は、ぜひ応援してください!)。

これまでは企業クライアントとともに行うプロジェクトがほとんどでしたが、今回は、学生の実践という教育目標を組み込みながら行います。

従来、ミラツクでは震災後の一部の取り組みを除いて一切寄付をいただかず、事業収入だけで運営して来ましたが、「マイ大阪ガス」のお話をいただいた時に、教育プログラムとしての実施を興し、そこに寄付のお金をあてることにしました。ミラツクの新しい挑戦のひとつです。

調査の結果はレポートと、コミュニティデザインに取り組みたい人のためのツールキットとして公開される予定です。

ある「調査プロジェクト」のようす。地図を広げて話し合っています

2. 企業人の(部分)出向受け入れプログラム
ふたつめは、企業で働く人がミラツクに半年間にわたって週一日程度の部分出向をしながら「調査プロジェクト」の手法を学ぶ、人材育成の要素も含むプログラム。

ミラツクの組織づくりのテーマは「人が育つ組織」。職員だけでなく、クライアント企業やコミュニティ、ミラツクに関わるすべての人たちが成長するような組織でありたいと考えています。企業人の出向受け入れプログラムは、一時的に企業の方をお預かりして、その間にミラツクから様々なものを学んでもらい”シャケ”のように返していく取り組みです。

このプログラムは、ミラツクが「出勤しない」というルールで働き方をつくってきたことで可能になりました。出勤しないということは、働く時間と場所を自分で決めるということ。どこにいても、少しずつでもミラツクの仕事に加わることができます。企業の人たちには、この新しい働き方の実践も同時に学んでもらっています。

同時に、企業の人たちは、ミラツクへの出向を通して外部のネットワークも得ていきます。自社に戻ったときに、ミラツクから得た調査の方法、ネットワークを新規事業の開発などに、新しい働き方の経験を組織の進展に生かすことができます。

3. 代表自らが他組織に出向する
みっつめは、さらに特殊なパターン。なんと代表である西村さん自身が、「国立研究開発法人理化学研究所(以下、理研)」の未来戦略室に週1日出向しているのです。代表自らの出向によって目指すのも、出向先の組織にミラツクの手法を埋め込むこと。

出向の受け入れや、自分自身の出向によって期待しているのは、ミラツクを“機能化”して世の中に埋め込んでいくことです。僕が行く場合は、僕が一瞬「理研」の人間になって、「理研」のなかでプロジェクトを立ち上げるんです。これはすごくおもしろい。代表者が自ら他組織のメンバーになる、という方法にも新しい可能性を感じています。

4. 異業種の企業5社によるコンソーシアム型プロジェクト
2017年10月からは複数企業のコンソーシアムによる調査プロジェクトも始まりました。第一弾として、大阪大学、レノボ・ジャパン、富士通、ワコール、日建設計と、異業種の企業が参加。1コンソーシアムの上限は5社。実際に一緒に手を動かしていく共創型で実施します。

「調査プロジェクト」のあり方が一番わかりやすいですが、仕事のやり方はなるべく“型”にしようとしています。

誰が入って来ても”型”はすぐに学べるし、学べばどこでもできる。入れ替わりながらバラバラのようで、でも、全体が散らばりながらもひとつのものを構成しなければならないからミラツクはミラツクでのオリジナルなものを構成している。今は、そういう姿を目指しています。

ミラツクが志向しているのは、分解・再構成が可能な組織。「調査プロジェクト」という方法を始め、ミラツクは、それ自体が世の中のいろんな組織に組み込まれたり、組織のなかに人を組み込んだりと、自由に出入りしながら歩みを前に進めています。

そして、このちょっと不思議なミラツクという組織のあり方によって、西村さんは「すでにある未来の実現」の達成に向けた可能性をつくろうとしているのです。

“1000年続く世の中の歯車”であるために

西村さんが目指す組織像は「1000年続く”世の中の歯車”」。これが「どういう組織であればミッションに届くのか?」を考えつづけ、導き出された現時点での答えです。

1000年の間、世の中を良い方向に促すような歯車が、世界にひとつ入ることによって、もしかしたら、そこからいいものが生まれ続けるかもしれない。世界が「すでにある未来を実現」できる角度に向くような歯車を埋め込むのが、自分たちのありたい姿だし、その歯車自体になりたい。

では、どうすれば1000年続くのか。そのひとつに、生物が細胞を入れ替えていくように世の中と行き来しながら、多くの出入りとともにありながらも、ミラツクという歯車は同じかたちをしていて、1000年先まで続くことを目指す。それが、今見ている僕らの組織としてのありようです。

インタビューの最後、ミラツクのミッションにある「すでにある未来って、どんな未来ですか?」と、あえて単刀直入に尋ねると、西村さんは、少しだけ考えて話しはじめました。

……今、世の中に70億人の人間が住んでいます。

たとえば、70億人は多すぎるから、食料や水が不足したり、エネルギー問題が起きて、戦争が起きたりしている。でも、70億人、多すぎるのかっていうとわからないんですよ。今のありようだから、70億人は多すぎるんだと思うんです。

70億人が多すぎて、重荷になっている現状の世界と、
70億人だからこそ、できることがある世界の間にあるのは、
「70億人で何をするのか」という違いだけです。

何をするのか、どうやったらいいのかはまだわからない。でも、レゴブロックをつくり替えるみたいなイメージで、今あるものを生かしながら、違うありようはつくれる。同じもので構成する、違う未来の可能性は常に持っている。

それを「すでにある未来の可能性」と言っています。

西村さんは、さらに続けて言いました。

すでにある未来の可能性の実現は、“常に”あることがすごく大事。

世の中は、いつも様々な可能性の中で一つの現実となって起こり、次の時代に続いていく。今、未来が完成して、その後、ずっと続くようなものではなく、常に、次の可能性があり、それが実現したり実現しなかったりする。

すでにある未来の可能性が常にあるなら、そのすでにある可能性を常に実現するために、常にすでにある可能性に寄り添っていたいんです。そこに1000年への想いがあります。

ミラツクがこれから、世の中に一粒ずつ、種を蒔くようにして伝えていこうとしているのは、未来の可能性を信じて、社会課題に向き合い続けることを諦めずに取り組むための、とても具体的な方法であり、その意思なのだと思います。

世の中を少しずつ、一歩ずつでも、よい方向に変えていく、1000年先の未来へのスタートラインは、このうえなく当然なことに、誰にとっても、常にすでに等しくある、“今”なのです。

– INFORMATION –

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