野内菜々さん。写真を見ていただければわかるように、とてもきれいで笑顔がすてきな女性です。
かわいいものが好き。
ファッションが好き。
メイクも、ネイルも大好き!
そんな野内さんが、子どもの頃からずっとやりたくて始めた仕事は、アパレルでも美容の仕事でもなく、なんと「農業」でした。
地元・茨城県大子町でたったひとりで就農して今年で5年目。若い女性一人での就農にはハードルもあり、周囲の人からはたびたび反対もされたそう。それでも「やめようと思ったことは1度もない」「毎日楽しい」と答えた野内さん。いったいなぜ、そこまで農家になりたかったのでしょうか。
「私も農業をやってみたい!」という女性や若者を勇気づける、野内さんの今に至る物語をお届けします!
1989年生まれ。茨城県久慈郡大子町出身。茨城県立農業大学校卒業。水戸農業高等学校に実習講師として勤務した後、2013年、大子町にて就農し、農園じぇるむをスタート。無農薬栽培に取り組む。女性らしい感性を生かした農業スタイルは多くの共感を集め、テレビをはじめ、さまざまなメディアに出演している。【instagram ID=no_gal77】
かわいい野菜で差別化を!
野内さんが経営する「農園じぇるむ」は、茨城県大子町で約10アールを耕作する、無農薬、かつ少量多品目の農園です。ハウス栽培と露地栽培の両方を行ない、年間生産品目は約80種類。野菜は町内のスーパーやカフェ、個人への直売、インターネットなどを通じて販売しています。
育てている野菜には、かわいくてカラフルなものが多いのが特徴です。夏は7色のトマトを育てたり、専用の型を使ってハート形のトマトをつくってみたり。
昨年から始めたエディブルフラワーという食べられる花は、栽培しているところが少ないこともあって大反響。皮に傷をつけると白く跡が残るなすの性質を利用して、メッセージのオーダーを受けるなど、女性ならではの感性でさまざまな工夫をしているのがユニークです。
同じものをつくっていても価格争いになっちゃうので、何か差がつけられないかなと思って、かわいい野菜を育てるようになりました。最近は種屋さんにいくと「インスタ映えしそうな野菜」を探します(笑)
ファッションも諦めない!
野菜の品種だけではありません。日頃からメイクもするし、ネイルも楽しみ、農作業着も、かわいいものを見つけてはリメイクしたりと、ファッションにもこだわっています。
農業を始めたとき、むしろ(服装などを)自由にできる! って思ったんです。
ひとりでやるんだから、これがダメっていうこともないじゃないですか。1日汚れた服で終わっちゃうのはなんとなく嫌だし、本当に自分の好きなファッションでやろうって決めて、そこがモチベーションのひとつになっていますね。
好きなことを、好きなスタイルでやる。言葉にすればシンプルですが、以前にインターネット上で、批判を書かれたこともあったそうです。
でも、それに対して「女性の気持ちをわかってない」とか「女性は、ただマニュキュアを塗るだけで作業効率が上がるんだ」って反撃してくれた農家のお嫁さんがいっぱいいて。同じ気持ちの女の人がいっぱいいるんだと思いました。
あとは、見た目をきれいに、好きなようにするからこそ、頑張ってちゃんとしたものをつくらなきゃいけないっていうことは日々思っています。
しかしそう考えるとやっぱり不思議です。ある意味で、農業とおしゃれというのは真逆のようなもの。おしゃれを楽しみたい野内さんが、あえて農業を仕事に選んだきっかけはなんだったのでしょうか?
自然が大好きで、野生児だった子ども時代
洋服やメイクは好きだけど、趣味として好きって感じなんです。それよりなにより、自然が大好きで、とにかくずっと自然の中にいたかったんですよね。
きっかけは、幼少期にまで遡ります。野内さんの祖父母が畑をやっていて、そこがいちばんの遊び場だったのです。
とにかく土を触ったり、畑で遊ぶのが好きで、毎日のように畑に行っていました。記憶にあるのは、祖父母からトマトやスイカを取ってきてって言われるようになって、それが楽しかったこと。
野菜によってつくり方が違ったり、季節によっても違ったりするので、不思議で。なんで冬にスイカができないのかなっていうことを疑問に思って調べる、みたいなことをやっていました。
でも、私が小学校低学年のときに祖父母は畑を引退して、別の方に貸してしまったんです。行きたくても行く畑がなくなっちゃった感じで、ずっとモヤモヤしている部分がありました。
子どもの頃の畑での楽しい体験。不思議に感じたことを調べる探究心。それが進路を決める時期まで、野内さんの心の中に残っていました。いったいどんな子どもだったのかをさらに聞いてみると、とにかく自然や野外での活動が大好きな、野内さんの野生児っぷりが見えてきました。
子どもの頃は、男の子だって言われるぐらいやんちゃで、日の出とともに家を飛び出していました。家の中で遊ぶことはほとんどなかったですね。
蛇を捕まえたり、川で魚を手づかみしたり。
猫と間違えてウリ坊を捕まえてきたこともありました。網とかボロボロになって、引きずっておじいちゃんちまで連れてきて「飼う!」って言ったらしいです(笑)
な、なんともワイルドな日々…。しかしそのぐらい、野内さんにとって、自然の中で遊ぶことは日常でした。そしてその延長線上に、農業という仕事もあったのです。
「女子」というハンデを乗り越えて
その後も農業をやりたいという思いは途切れることなく、高校も農業高校に進学。しかし、女子生徒で農業コースに進む人はまずいないという理由で反対にあい、泣く泣く別のコースに進むことになってしまいます。それでも農家になる夢は諦めきれず、農業大学校という県立の専門学校に進学します。
そこからはもう、ますます農業にハマりました。農業大学校は設備が整っていて、初めて見るもの、初めて使う機械などがたくさんあって。実際に農業に従事している人が講師として話をしてくれることもあったので、さまざまな方向から農業を見て、深く知ることができました。
卒業後はやはり女性という理由で受け入れてくれる研修先が見つからず、水戸市内の農業高校に、実習指導の講師として3年間勤めました。そして満を持して大子町で農地を借り就農。農家としてスタートを切りました。さまざまな困難を乗り越えて、とうとう夢を実現したのです。
農業の面白さは、毎年同じことが起きないこと
農園じぇるむは少量多品目の農園ですが、じつはそれも、農業が大好きな野内さんなりの理由があってのこと。
自分の直売所をつくって売りたかったので、いろいろな種類があったほうがいいなというのがありました。でももっと単純に、野菜をつくるのがすごく好きなので、とにかくいろいろな種類がつくってみたかったんですね。つくりたい、っていう気持ちが止まらない(笑) 収穫するのも楽しいし、植えるのも、種を蒔くのも、全部楽しいんです。
農業の面白さは、よくも悪くも毎年同じことが起きないところなのだそう。数年前には記録的な大雪で露地栽培の野菜がかなりダメージを受けました。今年も日照不足でズッキーニが全滅したそう。
それで1回は落ち込むんですけど、取り返す方法を考えるのが好きなんです。じゃあ冬はこういうのをやってみよう! 今までつくったことのない野菜で巻き返そう! みたいな。
難しいほうが燃える、と野内さん。野菜はすべて無農薬でつくっていますが、それも無農薬にこだわりがあるというよりも「無農薬のほうが、難しくてやりがいがある」からなのだそう。
私は自分が消費者だったときに、別に無農薬を選んで買っていたわけではないんです。学校で農薬の勉強をして、日本の農薬はきちんと厳しい単位で規定が決められているから、全然危険じゃないというのはわかっています。
でも「無農薬栽培は難しい」って言われていて、実際やってみたら虫がついたり病気になってしまって、1年目は本当にすごく大変だったんです。だから、農薬を使わないでいかにおいしい野菜をつくるかということに挑戦したいと思って、そこから無農薬に入った感じです(笑)
自然相手の農業は大変です。けれども、それこそが農業の醍醐味でもあるとわかっていて、野内さんはあえてその試行錯誤を楽しんでいるのです。
野内さんにとって農業とは?
ただ、経営という意味ではまだまだ難しい側面もあります。夢だった直売所は1度オープンしたものの、過労で倒れて入院したことをきっかけに閉鎖。野菜を卸しているdaigo cafeで、現在もときおりアルバイトをしているそう。ただでさえ肉体労働の農業をやりながら二足のわらじというのはいかにも大変そうですが、それがすごくいいのだと話してくれました。
やっぱりカフェの店員さんって憧れるじゃないですか(笑) そのうえ野菜も使ってもらえたり、販売させてもらえたり、お客さんの声も直に聞けたりで、すごくいい流れで。農作業は孤独なので、たまにアルバイトして人と接するのはバランスがいいというか、いい刺激を受けています。
一方で「バイトを2つ掛け持ちしていたときに、全然寝てなくって気失って倒れた」とか「真夏はさすがに1日すっぴんで汗だくでグロッキーになってる」とか、数々のしんどい話も飛び出します。
「さすがに倒れたときはやばいなと思って、バイトは減らしたんですけど」と野内さん。それでもやっぱり「1度もやめることは考えたことがない」と言うのです。野内さんにとって、そこまでしてやりたいと思う農業とは、いったいなんなのでしょうか。
私にとっては、すべてですね。ちょっと変な言い方ですけど、何をしていても農業のことが頭にあるから、生活そのものな感じがします。
夏とか、すごいグロッキーになっているのを見て、周りには「そんなに無理してまでやることないじゃん」って言われますけど、全然やめようと思わない。なんていうんでしょうね。なんかもう、当たり前な感じなんですよね。
後継者をひとりでも増やしたい
そんなふうに野内さんがまっすぐ楽しそうに農業に取り組んでいる姿は、多くの人の共感を呼んでいます。
農ギャルとしてさまざまなメディアへの露出も多い野内さん。女性ひとりで農業をやっているというのはやはり珍しいようで、メディアに出ることで、自分と同じように女性で農業をやりたいという人を勇気づけたり、農業の後継者不足問題を解決する一端になってほしいという思いもあるようです。
メディアに出ると「じつは私も農業をやりたいんです。1回見にいってもいいですか」っていう連絡が、毎回必ずあります。農業をやりたいっていう女性は思った以上に多いんだなぁと感じています。
あとは女性に限らず、若い人に農業をやってほしくって。メディアに出るのは、若い人に農業って楽しいよと知ってもらうきっかけになればというのがありますね。
そこには、自分の畑のことだけでなく、後継者不足に悩む農業全体の未来をどうにかしたいという野内さんの思いがありました。また、地元で就農したことで、NPO法人まちの研究室のメンバーになったり、消防団に入ったりと地域に関わる活動も増え、自然とまちの未来についても考えるようになってきたそうです。
大子には、耕作放棄地がたくさんあります。大子の特産である奥久慈りんごの農家も、後継者がいないという理由で毎年5軒ぐらいずつ減っているんです。
農業をやる人が増えれば荒れた土地も少なくなるし、地元の農作物も増えていく。だから大子で農業を始める人を増やしていきたいです。それと、自分のハウスを観光農園にして、少しでも地域に貢献できればなっていうことも考えています。
お笑い好きがきっかけで、芸人御用達の農家に?
最後に将来の夢を聞いてみたところ、こんな話も飛び出しました。
農業とはまったく関係ないんですけど、定期的に大子でお笑いライブをやりたいです(笑)
じつは野内さん、高校生の時は足繁く、東京の劇場まで通っていたほどの大のお笑い好き。面白いのは、そのときに知り合いになった芸人さんが、ときおり野菜を注文してくれているということです。
私が茨城から片道4時間かけて通っていたのが印象に残ってるみたいで、連絡をくださって。芸人さんのバーベキューって大きいのだと200人とか300人なんて場合もあって、そうなると、とてもうちだけじゃ足りないんです。
でも「出せる分だけ全部買うよ」って言ってくれて。あとは芸人さんが行きつけのお店で話をしてくれて、そのお店から連絡がきたこともありました。
もう10年ぐらい前のつながりなんですけど、それが今になって生きているんですね。当時はみんなに「交通費もったいない」って言われてたんですけど、今、すごく助かっていて。本当に「人生、無駄はないなぁ!」って思いますね(笑)
農業愛は半端ないけれど、お笑いが好きだったり、ファッションが好きだったり、普通の女の子としての一面も持つ野内さん。ぶれることなく、自分らしく、軽やかに困難を乗り越えてきた様子を聞くと、みんなが不思議と野内さんを応援したくなる気持ちもわかります。
農業は大変! だけど楽しい!
そんな気持ちが、なんだか自然と伝わってくるのです。
そしてじつは来年から、野内さんの原点である、祖父母の畑を耕作できることになったそう。原点の地から、ますますたくさんの「楽しい」や「好き」や「かわいい」を発信してくれることでしょう。今後の活躍にも注目です!
(写真: 廣川慶明)
– INFORMATION –
野内さんもゲスト出演!「green drinks Daigo」、11/20 東京で開催
茨城県大子町では、野内さんのように新たな挑戦をする人を応援しています。地方での起業や新規就農に関心のあるみなさん、まずはイベントで大子町の人と交流しませんか? 詳しくは以下のページをご覧ください。
http://peatix.com/event/311227