\仲間募集/甘柿の王様「富有柿」の産地・和歌山県九度山町で、未来の柿農家となる地域おこし協力隊

greenz people ロゴ

お互いを信頼することで最高のチームが生まれる! 「カナエール」植村百合香さん×ラグビー日本代表コーチングディレクター中竹竜二さん対談

児童養護施設を頼る子どもたちは全国に3万人以上。子どもたちは18歳で施設を退所しますが、その後の進路における進学率は3割に満たず、全国平均7割に比べて大きな格差があります。また、せっかく進学しても、学費も生活費も自分で稼ぎながらの生活。3割もの子どもが中退し、その割合は、全国平均の3倍です。

どんな環境で生まれ育っても、教育や進学の機会は平等にある社会であってほしいと ”資金” と ”意欲” の両面からサポートするのが「カナエール」。自分に自信が持てない傾向にある子ども達が、ボランティアの大人とチームを組み、120日間かけてスピーチをつくり、大勢の観客の前で発表することが奨学金給付の条件です。

今年でカナエールが終了するということで、スペシャルな記事です。カナエールを運営するNPO法人ブリッジフォースマイルの植村百合香さんと、元ラグビーU20日本代表ヘッドコーチで、日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクターの中竹竜二さんの対談!

チームのメンバーの能力を引き出し、最高のパフォーマンスを発揮してもらうために奮闘する二人の対談から見えてきたチームづくりの極意です。会社、ボランティア、イベント作りなど、様々な場面で役立つお話を聞くことができました。

お互いが正直になることでコミュニケーションがはじまる

中竹 ​前回のスピーチコンテストの様子を拝見させていただき、びっくりしました。120日間という短い時間で、あれだけの立派なスピーチをする。一流企業の幹部だってあのレベルでスピーチできる人はあまりいません。感動しました。

植村 ありがとうございます。カナエールでは子どもたちと、エンパワ(子どもたちをサポートする社会人ボランティア)が「4人で笑顔で舞台に立つ」と言うことをスローガンにしています。関わるみんながスピーチしてよかった思えるように、チームをつくり、子どもたちを応援しています。こういったチームをつくる上で、大切なのはどういったことでしょうか?

中竹 お互いが正直になることですよね。

植村 なるほど。子どもたちは、大人のことをするどく見抜いているなぁと思うことがあります。施設の子はどの大人が信用できるか、そしてどのくらい信用できるか、ということに敏感なんです。そもそも、大人は信用できないと思っている子もいる。その壁を破るのはすごく難しいんです。

中竹 子どもも、大人に対してうまく取り繕うこともありますね。大きな夢を語ると大人が喜ぶでしょう。そういう子どもをちやほやする大人がいる。そうすると正直な気持ちより、耳障りのいい夢を語ることを優先するようになってしまう、それはよくないですよね。

植村 私たちも、具体的な夢の形や職業を語るだけでなく、自分が進学することの意味や目的を伝える、ということを大切にしてもらっています。だから、スピーチの練習をしていく中で、話す内容や夢はどんどん変わってもいい。自分が目指したいと思える姿を素直に話してもらうようにしています。そこをどうやってカラフルに伝えるかが大事だよって。ぐちゃぐちゃでもいい、こんな大人になりたいということを真剣に考えて話してくれればいいです。

中竹 正直に思っていることを正直に伝えるということを大事にしているんですね。

植村 施設出身の子は、SOSを出すのがすごく苦手なんです。18歳で施設を出た後も、見守りサポートする必要性はそこにあります。小さな問題のうちに相談したらいいのに、彼らは言わない。自分の話なんて聞いてもらえないんじゃないかって。

そもそもSOSを出すには、信頼関係が必要ですよね。過去に、助けを求めたときに裏切られた経験や辛さを考えると怖くなってしまうんだろうと思うんです。子どもが安心して喋ってくれるような関係性を築けるまでは時間がかかります。

大人が子どもから学ぶ

中竹 本音を聞きたい時は、自分も本音を言わないといけません。そのときに、上から目線の”教えてやろう” という態度はすぐに見破られます。共に学ぶ姿勢が大切なんです。おそらく、カナエールでも、大人が学ぼうとしているチームはうまくいっているはずです。

植村 大人の方が学ぶことが多いと言ってくれる人は多いです。この選考プロセスに応募してくる時点で、モチベーションの高い、チカラを持っている子たちなんです。だから、大人に求められているのは、その子自身の良さをどうやって引き出してあげれるか。成長する部分を見逃さないでいてあげれるか。

中竹 「自分はこれでいいんだ」というような自己肯定感は、人とのコミュニケーションで育っていくものです。不安になったり、自信が持てたり、行ったり来たりするようなゆらぎがあるのが人間です。それでも「これでいいんだ」という自己肯定ができるように大人はサポートしていかなくてはいけません。

植村 私たちがエンパワによく伝えるのは「18歳の自分と今の自分を行き来してほしい」ということです。自分が18歳のときに、大人からやんやん言われていたらむかつきますよねって(笑)。18歳の自分のダメさ加減とか、大人がどういうふうに関わってくれたから成長できたのか、そういうことを思い出してほしいなと。

中竹 自分は全力で指導したから、伸びなかったのは子どもの態度が悪かったからだと、子どものせいにする指導者もいますが、それは良くない。子どもが成長できないとき、自分の責任だと思えるか。そういうところで指導者としての素質が試されます。

植村 わかります、そうなんですよね。

ゴールはツール。その先のビジョンを共有する

植村 個人間のコミュニケーションも課題が多いですが、チームをまとめていくことも難しいです。エンパワも、子どもたちも、バックグラウンドやキッカケが違うので。

中竹 私はチームをまとめていくために、チームの前提は?ゴールは?ゴールの先にあるビジョンは?そういったことを言語化します。ゴールはあくまでもツールです。ゴールを達成した先にはビジョンがあって、そのビジョンを共有するんです。ビジョンへの向かい方で、それぞれの個性を活かしてもらうんです。

例えば、​U20は​ラグビーU20の監督時代に私は「世界を驚かすチームになろう」というビジョンを掲げました。この年、日本は、下のカテゴリーから上のカテゴリーに上がってきたばかりで、圧倒的に弱いと言われていました。

だからこそ、強いチームに勝って、挑戦することの意義を多くの人に伝えたかったのです。そのためには勝とう、と。つまり、勝つことがゴールじゃないのです。また違う年には100点以上の差をつけられたチームにも勝つと宣言しました。現実的な目標を定めてくださいと、批判もされましたし、世界中の人に日本は馬鹿ではないかと言われました。でも、チームはすごく成長しました。

昨日の自分を超えるために、昨日の自分を振り返り、今日何をするか。振り返りと明確な目標設定を徹底しました。

言葉のもつチカラを信じる

中竹 あとは、私は必ず、言葉を作ります。チームみんなの合言葉。辛い時や、問題が起きたときに、その言葉を思い出し、原点を思い出す。

例えば「セイムページ」。みんなで同じ方向を見ようよ、同じページを見ようよ、という意味です。「みんな、セイムページ見てた?」って確認作業を、練習でも試合でも、ミーティングでも使います。「ジャスティス」というのもありました。これは意味はありません(笑)

これは選手から出た言葉なのですが、試合中、練習中、苦しくてもう限界だというときに「ジャスティス」と言ってもう一度立ち上がる。本来のJUSTICEの意味とは全く別の使い方なんだけど、それでもいいんです。むしろ、その人たちにしか伝わらない言葉を作ると、よりロイヤリティーが増します。

植村 ジャスティス、いいですね。短くて言いやすいし、強くて、まさに”正しい”言葉を唱えることで、最後までやり抜くチカラにつながる気がします。カナエールでもチームをつくったときに合言葉を決めるんです。今年はラガーマンには有名な「No Pain, No Gain」を使っているチームもいます。最後まで合言葉として活用しているチームがある一方で、決めたあと全然使わないチームもあって…。

中竹 それはもったいないですね。言葉は使えば使うほど、威力を発揮します。はじめは少し恥ずかしいのですが、使っているうちに無くてはならないものになるんです。僕は言葉と行動がすごく大事だと思っています。人間って言葉で考えるから、言葉をちゃんと突き詰めて、言葉を使って行動に移すことが大事なんです。

植村 確かに、カナエールでは、スピーチの練習を何度も何度も繰り返すので、言葉に対する比重や思いが日に日に強くなることを感じます。

中竹 世界に影響をあたえるようなイノベーターも多くの言葉を残しています。カナエールに参加することは、子どもたちは言葉の大切さを若い時に知れるとても恵まれた環境だと思います。

(対談ここまで)

ぼくもカナエールのスピーチを見にいきましたが、心のこもった話に引き込まれ、自然と涙が出てきました。120日間の奮闘の末、大舞台で堂々と喋る子どもたちは本当に立派で、自分はこんなにがんばれているだろうか、と自らを振り返る機会にもなります。カナエールのプログラムは今年で終わり。見に行くなら最後のチャンスです。ぜひ。

(写真: 加藤康祐)

– INFORMATION –

カナエール2017夢スピーチコンテスト 横浜会場
日時:2017年7月1日(土)13:00~16:30(12:30開場)
会場:鶴見公会堂 神奈川県横浜市鶴見区豊岡町2−1
http://canayell2017y.peatix.com/

カナエール2017夢スピーチコンテスト東京会場
日時:2017年7月8日(土)13:00~16:30(12:30開場)
会場:ニッショーホール 東京都港区虎ノ門2丁目9-16
http://canayell2017t.peatix.com/

カナエール2017夢スピーチコンテスト 福岡会場
日時:2017年7月9日(日) 13:00 開演 17:00 終了
会場:北九州 黒崎ひびしんホール 大ホール
http://eventon.jp/6058

カナエール
http://www.canayell.jp/

本原稿は「earth garden」より転載させていただきました。