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私たちは、毎日、毎日、何をしているのだろう? 繰り返しの世界と、丁寧に丁寧に向き合う『世界をきちんとあじわうための本』

世界をきちんとあじわうための本』という題名から、あなたはどんな内容を想像するだろうか。

世界各地にあるレストランの紹介本?
自宅でもできる見た目も味もピカイチの簡単料理メニュー本?
それとも、自分でつくった野菜は安全で美味しいという類の農に関する本?

どうしても”あじわう”とあるから”食”が連想されてしまうけれど、この本は僕らの空腹を満たすためにつくられてはいない。

毎日意識せず繰り返す、呼吸をすること、食べること、飲み込むこと、服を選ぶこと、歩くこと、風を感じること、電車を待つこと、日記を書くこと、できないと思うこと。そんな“私たちの営み”をあじわうための本だ。

その視点は人以外にも向けられていて、表紙の裏に小さな文字で、こんな例も提示されている。

本には、ページというものがあって
めくることで始まり
そこを行ったり来たりすることができる。
それは、ちょうど、手に持つことができて
食事を摂りながらでも
ベッドの上でダラダラしながらでも読むことができる。
持って出かけて、誰かに見せてあげたりすることができる。

そのようなことができる、この世界を
きちんとあじわうための本。

表紙の裏の文章

冒頭に書かれているのは本のテーマ。

私たちは、毎日、毎日、何をしているのだろう?

続いて「この本は、この問とともに始まります。」とも記されている。

これは、本のテーマでありつつ、著者から人類へ投げた大きな問のようにも感じる。

ちなみに著者の山崎剛(やまざき・ごう)さんは人類学者で、企画者は山崎さんを含めた3人(2人の人類学者と1人の社会人類学者)から成るリサーチグループ「ホモ・サピエンスの道具研究会」。

テーマや著者、企画者から難しいイメージを抱いてしまうかもしれないが、読みやすいよう施された工夫が随所にある。

例えば肌触りのいい表紙と、手に馴染む大きさ。思わずパラパラとページをめくってしまう。そしてどのページも、空白をいかしたデザインによって、読むことへのハードルを低くしてくれている。

写真と余白が心地良いページデザイン

見開き一面が写真のページも

何より読みやすい理由は、全体の構成。果てしなく大きな問「私たちは、毎日、毎日、何をしているのだろう?」へのアプローチはとてもシンプルだ。

それは、目次を見てもらえれば、伝わるのかもしれない。

[1]気づく
[2]探る
[3]指し示す
[4]これからも、きちんと

それぞれの章で、”私たちが毎日毎日”繰り返す行為や受けとる事象と、丁寧に丁寧に向き合うことができるのだ。

そして、それら一つひとつを生活の中で意識してみた時、はじめて「世界をきちんと味わうための本」という題名の意味がわかる。
この感覚は本を読んでみないと、あじわえない。

目次ページ。各章の最後には哲学者・映像デザイナー・版画家などのコラムも掲載されている。

世界に対するちょっと変わった視点から、毎日の一瞬一瞬への視点まで、様々な角度で日々の営みと向き合う。その時、本を読んだ僕自身、例えばこんな言葉たちを意識する。

ちょっと気取って「この世の全てに、意味なんかない」とか言ったりする。でも、それは、結局のところ「意味がない」という意味のある話。

すべてがうまくいっているときよりも、どこかがうまくいっていない そんな時のほうが、とても大事な何かに気づいたりします。

ただ、足元の靴を選ぶ。それだけのことにも世界をあじわう楽しみが潜んでいます。

やがて読み終えた時、心が少し軽くなったり、世界に対しての緊張感が薄くなっていたり、靴紐を結ぶ時になんだか微笑んでしまったり。無意識に、ちょっとした変化があらゆる部分で起こる『世界をきちんとあじわうための本』。

繰り返しになるが、この本は「私たちは、毎日、毎日、何をしているのだろう?」をテーマにしている。だから、新しく何かを始めたい人に役立つ知識や、大きな悩みを解決してくれるような方法論は書かれていない。

そのようなことよりも、もっと身近な、だけれども考える対象としてはあまりにも当たり前過ぎる事象について、ゆっくり咀嚼したい。そんな人におすすめしたい一冊だ。

– INFORMATION –

『世界をきちんとあじわうための本』

出版社: ELVIS PRESS
著者: 山崎剛
定価: 1700円(税抜)
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