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バスは3時間に1本、最終は19時台。そんな地域で育った私が「CIVIC TECH FORUM 2017」で感じた、”これからの公共交通”への期待

みなさんの最寄り駅の公共交通機関は、何分に1本の頻度でやって来ますか?

わたしの実家がある三重県の北部にある小さな集落では、だいたい3〜4時間に1本しか、バスは来ません。そして、最終のバスは19時台。両親いわく最近ではさらに本数が減っているようです。帰省したときに「両親が運転できなくなってバスもなくなったら…」と不安になったことは、1度や2度ではありません。

greenz.jpでもよく”二拠点生活”や”田舎暮らし”を紹介していますが、車をもっていない人が実践しようとすると、選べる地域ってかなり限られている気がします。実際、過疎地域に住む自家用車を持たない人びとが「買い物難民」と化している状況を、テレビや新聞でご覧になった方も多いことでしょう。

今後、地方の公共交通がますます厳しい状況に置かれていけば、運転に自信のない自分のような人が住める地域の選択肢はどんどん狭まってしまうかもしれません。わたしたちはこの課題にどう向き合っていけばいいのでしょうか。

そんな公共交通にまつわる課題を、テクノロジーと市民の力でどう変えていけるのか、これからの公共交通の可能性について語り合うトークセッション「21世紀の公共交通(モビリティ)について考える」が、3月25日に「CIVIC TECH FORUM 2017」のなかで行なわれました。

イベント名にある「CIVIC TECH(シビックテック)」とは、地域の問題を市民が主体となって解決するためのテクノロジーのこと。

高齢化や過疎化など、日本の課題と密接に結びついている公共交通に、テクノロジーはどんな形でソリューションをもたらしてくれるのでしょうか? 提示されるであろうさまざまな解決策に期待を寄せ、公共交通 × シビックテックで新しいチャレンジに挑んでいる方々が登壇するトークセッションに参加してきました。

                                    

行政、企業、市民、それぞれの立場で生み出される新たな公共交通

セッションではまず初めに、登壇者の方それぞれが自身の取り組みを共有。1人目の登壇者、東京大学生産技術研究所の伊藤昌毅さん。バスの時刻表や遅延情報など、公共交通に関する情報を、利用者とサービス開発者に使いやすい形でオープン化する取り組みを進められています。

東京大学生産技術研究所の伊藤昌毅さん

たしかに地元の路線バスの情報って意外に探すのが難しかったりするんですよね…。そういった情報が1か所にまとまっていれば便利だろうな、というのは利用者側にも想像しやすいかもしれません。

しかし、公共交通に関する情報のオープン化のメリットは、けっして利便性の向上だけではないと伊藤さんは言います。

伊藤さん 例えば日本中の地図を閲覧できるようなソフトウェアを使えば、取得したバス停のデータや人口のデータを地図上に重ねて、利用者のだれもが「ここバス停少ないよね」といったような気づきを得られます。

そうした発見を市民から行政に返していって、これまで一方向に流れ落ちていた情報の流れを循環させることで、よりよい公共交通を実現していけるのではと思っています。

バス停の位置と人口分布を重ねたデータを表示させながら話す伊藤さん

続いての登壇者は、実際に過疎地域でライドシェア(相乗り)サービスの実証実験を行なっている北海道天塩町の齊藤啓輔副町長、そして長距離ライドシェアサービス「Notteco」の東祐太朗社長

天塩町は生活に必要な買い物のために車で1時間、公共のバスと電車を乗り継ぐと3時間以上かけて移動する必要がある過疎地域。高齢化が進む中で住民の生活の脚をどうやって確保するのか、議会のなかで話題になることも多かったそうです。

齊藤さん 従来なら「JRやバス会社に陳情しよう!」といったような実現性がけっして高くない手段が選ばれてきました。しかしこれでは課題解決に向けて物事が動いていかなかった。

私はこうした困りごとの解決とテクノロジーは、とても親和性が高いと思っています。そこで長距離ライドシェアサービスの東社長のところに飛び込んで「一緒にやろう!」と伝えたんです。

北海道天塩町副町長の齊藤啓輔さん

齊藤副町長が選んだ長距離ライドシェアサービス「Notteco」とは、インターネット上で空いてる席を販売できるプラットフォーム。

ユーザーは、車移動をする予定がある場合に、その内容を”ドライブ”として登録し、相乗りしたい人を探すことができます。マッチングした場合はガソリン代や高速代など実費を負担してもらう仕組み。実費負担のみなので、営業許可なくタクシー営業をする違法行為(白タク)にはならないそう。


天塩町から稚内への実証実験では、利用者の多くが高齢者のため、インターネットではなく電話の窓口を用意し、相乗りしてくれる相手をオペレーターが見つけるようにしているそうです。たしかにこれなら私の家のおばあちゃんでも抵抗なく利用できそう…!何より地域の人との相乗りを通して、高齢者の方と地域に暮らす人々との間に、これまでにないコミュニケーションも生まれそうです。

株式会社「Notteco」の東祐太朗社長

斎藤副町長や東社長と同じくライドシェアで公共交通の課題解決に取り組んでいるのが、4人目の登壇者「NAOコーポレーション」の宮下直子さんです。

宮下さんが活動している富山県南砺市利賀村は、65歳以上が人口の46%を占める地域。バス停間を走るバスはあっても、バス停まで行く術がない人も多く、利用者は年々減少していました。

そんな宮下さんが去年の「CIVIC TECH FORUM」で出会ったのは、地域の高齢者と運転手をマッチングするライドシェアサービス「あいあい自動車」でした。

宮下さん 「あいあい自動車」を知って「これだ!」と感じたのは、村で70歳のおばあちゃんが90歳のおばあちゃんを雪のなか病院に送ってあげている様子を知っていたからです。

乗せてもらったお礼に野菜やお惣菜をやりとりしていました。シビックテックという言葉を知らなくても、当たり前のようにライドシェアは行われていて、究極の公共交通は乗せ合いっこではないかと感じたんです。

タブレットや電話で申し込むと、サービスに登録している地域の運転手から「どこどこに何時だね」と直接お年寄りに電話が来るこの仕組み。

病院に行くまでの費用が安くなるから絶対乗りたい!といった声や、子どもの送迎にも必要だといった声が続々と届いているのだそうです。高齢者の脚を確保…という文脈で語られることの多い過疎地の公共交通ですが、なくなって困るのは地域に暮らすあらゆる年齢の人々なのだと実感させられます。

NAOコーポレーションの宮下直子さん

最後は、伊藤先生と同じく”データ”にもとづき市民中心の公共交通の実現に取り組む茨城県つくば市から、まちづくり推進部部長の長島芳行さんです。つくば市ではコミュニティバス「つくバス」とデマンド型タクシー「つくタク」を運営しており、前者は市内の移動、後者は市外と市内間の移動に多くの市民に利用されています。

さらにこうした公共交通機関ではICカードの対応やバスの現在地がわかるロケーションシステムの導入を積極的に推進。どこに利用が集中しているのか、どこで遅延しているのかといった情報を収集し、市民にとって便利な交通に向けた最適化に取り組んでいるそうです。

つくば市まちづくり推進部部長の長島芳行さん

予算、法律、データの活用、変化の過程で浮き彫りになる課題

ライドシェアサービスに公共交通データの活用、お話に出てくる事例を聞いていると、心配していたような公共交通の減少もさらっと解決できるのでは? と思えてくる一方、会場を交えたトークセッションでは、こういった取り組みを前に進めるために超えないといけない壁も見えてきました。

長距離ライドシェアサービス「notteco」の東社長が問題視しているのは、乗せる側がガソリン代や高速代以上の利益を得ることを禁じる法規制です。

東さん 町では「いくら払ってもいいから病院だけには連れていってほしい」という声もありました。従来の公共交通機関では予算的に難しくても、払う人と払ってもらいたい人がマッチングすればライドシェアで簡単に解決することができます。

5万円がバス会社に支払われるのと、個人に支払われるのだと人々の暮らしに与える影響も全然違うと思っています。ガソリン代と高速代以上にお金を得られるのであれば、乗せて行ってあげてもいいよと思う人は絶対にいるはずです。

こうした法の規制について、会場の参加者からは「とにかく成功事例をたくさん積み上げて、”住民が欲してるなら文句ありますか?“と政府に主張すればよいのでは?」という意見も挙がる一方、官僚として働いていた経験のある斉藤副町長は、「ライドシェアについては安全性が証明できないと難しい」と、複数の面から妥当性を示していく必要性を強調されていました。

さらに、もう一つ浮かび上がってきた課題は、交通データの分析に関する”線引き”について。集めたデータを一体誰がどこまで分析していいのか?という点について、東京大学の伊藤先生が判断の難しさ、それによるもどかしさを語ります。

伊藤さん 交通系のICカードでは、ある人がどんな行動をしているのかにとどまらず、定期券であれば住所や氏名といった細かいデータも取得できます。これを誰が管理して分析することを許されているのか。また、他の会社が所有しているデータを組み合わせればより良い発見があるという点までわかっていても、じゃあどこまで社会的に許容されるの? それやっていいの? という部分は空気を読みながら慎重にならざるをえない。


会場に入りきらない人が立ち見をするほど盛況なセッションに

未来の公共交通のために。市民、行政、シビックテックコミュニティを接続して声を届ける

法規制や安全性、データの管理など、未来の公共交通に紐づく課題の数々。みんなで落としどころを探り、市民の声をもとに「Local GovTech(*)的に」解決するためには、何が必要なのでしょうか、モデレーターの柴田さんが会場に投げかけたキーワードは「市民の声」でした。

(*)「Local GovTech」とは、市民が主役となるシビックテック的な課題解決の方法論を、行政にも取り入れようとするという概念

柴田さん これまでの公共交通は頭のよい人が決めて市民が従う仕組みでしたが、これからは落としどころをみんなで一緒に合意して決めていかないといけない。

今日のお話で出てきたような交通にまつわる切実なニーズが議論を推し進める可能性はあるでしょう。しかし、あまり市民の声が届いていないなかでは事例や実績をつくって突破するしかない現状もあるのではないかと思っています。

モデレーターは昨年のCIVIC TECH FORUMの運営委員長を務められた柴田重臣さん

行政が市民の声を聞いて市民と一緒になってよりよい交通を目指していく動き自体は、シビックテックな新しい課題解決のあり方のように思えますが、実際こうした動きは交通においては以前から行われていたと、東京大学の伊藤先生は指摘します。

伊藤さん シビックテック的なアプローチというのは、”IT”というテクノロジー以前から、”交通”というテクノロジー”においてすでに存在してきたんです。

例えば私が関わっている団体に「くらしの足をみんなで考える全国フォーラム」という団体があり、60・70代の方々が集まって「お年寄りの脚をどうするか」について議論しています。

こうしたコミュニティとシビックテックコミュニティの間にギャップはありますが、本質的に望んでいることは同じなんです。こうした異なる市民コミュニティ同士を分断したままにしない努力は必要になってくると考えています。



こうした”市民の声”を掬い上げようと日々働いているつくば市の長島さんは、市民にもっと声を聞かせてほしいと強く呼びかけます。


長島さん 以前、市民の要望にもとづいてバスの路線を増やしたら、実際はあまり乗ってもらえず、廃止せざるをえなくなってしまったことがありました。

だからこそ、市民の方々には要望だけでなく本当に乗るのかといったところも含め、正直な声を聞かせていただきたいと思っています。行政の役割は集めた市民の声を聞いて、実際の交通データとすり合わせて分析し、要望に応えていくことです。そうしたやりとりのために、市民の方々の声は不可欠ですから。

技術者や市役所職員など、多種多様な参加者からの質問が飛び交いました

わたしにとっての“公共交通”は生まれてからずっと当たり前のように存在しているインフラで、公共交通システムに合わせて自分の暮らしを調整していくのが当たり前でした。だからこそ、いずれ公共交通が地域から無くなってしまうのであれば、自分たちだけでどうにかしていかなきゃいけない。そう、妙に意気込んでいました。

しかし、今日のお話から感じたのは、切実なニーズがしかるべき場所にちゃんと届けば、行政も民間も市民も一緒になって公共交通は設計しなおしていけるという希望でした。そのためには自分たちがそもそもどういう交通を求めているのかを考える必要があるし、すでに行動を起こしている人がいれば支持の声を届けていくなど、やれることは思った以上にたくさんあります。

何よりもまずわたしに必要だったのは公共交通を捉え直すこと。常にそこにある不変のインフラではなく、自分たちの暮らしにあわせて柔軟に変えていける仕組みこそ、21世紀を生きるわたしたちにふさわしい公共交通のあり方なのかもしれません。