大事なことだから、ひとりでも多くの人に知ってほしい。
その思いは、悲しいことに、ときに空振りに終わってしまいます。
特に難しいのが、SNSでの情報発信ではないでしょうか?
それはなぜか。
24時間365日、膨大な情報の洪水が起きているSNSにおいて、ユーザーは自分の関心がない情報をノイズとしてシャットアウトしてしまうからです。必要なタイミングで、必要な情報にアクセスすればいい。そう考える受け手に情報を届けるのは、とても大変なことなのです。
ましてや、差し迫っていないと思われている社会課題についての啓発は、なおさら厳しいものがあります。
乳がん対策の啓発を行ってきた「ピンクリボンドイツ」も、なかなかメッセージが伝わらないという悩みを抱えていました。ドイツでは8人に1人の女性が乳がんにかかると言われています。乳がんから命を守るには、早期の発見が何よりも大切。
若い女性に定期的に胸のセルフチェックをする重要性を伝えたい。
切実に思うピンクリボンドイツは、SNS世代の関心を高めるために「ルール違反」のコミュニケーションを実行しました。
FacebookとInstagramの規約では、胸があらわになった女性の写真は削除対象になっています。そこを逆手にとって、ピンクリボンドイツは国際女性デーに合わせて、17人のモデル女性に胸をあらわにした写真を投稿してもらいました。「CHECK IT BEFORE IT’S REMOVED.(削除される前にチェックして!)」というメッセージと、セルフチェック動画へのリンクもいっしょにして。
えっ?と驚いたあと、いたずらっぽい取り組みを知ってニヤリとしてしまいますよね。よし!いっしょにルールと戦おう!というか、遊ぼう!という気持ちにさせる、まさに「体を張った」チャレンジです。
さらにピンクリボンドイツはドイツ国内外を問わず、歌手やセレブ、ブロガー、アスリートなどに協力をお願いし、「検閲に引っかかる前にシェアしよう!」と呼びかけてもらいました。
FacebookとInstagramはすぐに削除を開始しましたが、瞬く間に拡散されてしまったため、削除されはじめたことで逆に注目が高まることに。
「ピンクリボンドイツ」が若い女性に向けて訴えたかった乳がん予防の啓発になったのはもちろん、ソーシャルメディアにおける検閲や男女平等に関する問題についての議論に火をつけるというオマケ的効果もありました。
物議を醸しながらも、国際ガールズデーというタイミングもあり多くのメディアに取り上げられ、広告費に換算すると22万ユーロのメディア露出を獲得し、2,900万人にリーチする結果に。
「削除される前にチェックして!」というメッセージには、SNS上の検閲のことだけではなく、乳房が切除される前に、セルフチェックで乳がんを早期発見しよう、という啓発もダブルミーニングで含まれています。
このキャンペーンにより、乳がんのセルフチェック方法を説明するサイトに多くの人が訪れ、セルフチェックのムービーを視聴することになりました。
普通なら面倒がられて敬遠されがちな啓発メッセージも、タブーに触れることで「ヤバい」ネタとなり、進んでチェックし、拡散したくなる情報にすることができるのですね。
情報が伝わらない、広まらないとお悩みのNGO/ NPOのみなさんも、思い切って「ヤバい」領域にチャレンジしてみてはどうでしょうか。
無視されるよりはずっといいかもいいかも知れませんよ。
私もコピーライターとして、がんばって「よい炎上」をする企画を考えたいと思います(笑)
Cannes Lions 2016
(翻訳アシスタント: 村上萌)