みなさんは福祉作業所を知っていますか? 障がいのある方が働いているところ、ということは知っているけれど、どんな仕組みで、具体的にどんな作業をしているかはわからない、という方も多いのではないでしょうか。
今回「SUSU」のマネジャーをつとめる青木健太さんと訪ねたのは、福島県南相馬市の福祉作業所「自立研修所ビーンズ(以下、ビーンズ)」。ビーンズは、就労が困難な障がい者の方に働く機会を提供し、作業の指導を通じて自立した暮らしの支援を行う施設です。
ここではどんなものづくりが行われているのでしょうか? ビーンズの様子、そして青木さんと、ビーンズ施設長の郡さん、所長の北畑さんの対談をお届けします。
福祉作業所って?
福島県南相馬市。ご存知の通り、2011年の東日本大震災そしてそれに伴う、福島第一原子力発電所の事故によって大きな被害を受けたまちです。
震災から間もなく6年が経とうとする中、市内では2016年12月に仙台との陸路をつなぐ常磐線の運行が再開。元通りの暮らしが戻るにはまだ時間がかかりそうではあるものの、復興の兆しや新しい動きが立ち上がる息吹を感じることができました。
ビーンズは、そんな南相馬市を中心に障がい者支援活動を行う「NPO法人さぽーとセンターぴあ」が運営する事業所のひとつ。福祉作業所の中でも「就労継続支援B型」に分類されます。
「就労継続支援B型」の施設は、一般企業に雇用されることが困難な障がいのある方に対して、就労や生産活動の機会、また就労に必要な知識や技術を提供。その一方で利用者は労働の対価として工賃を得ることができます。「就労継続支援A型」と異なり、事業者と利用者の間には雇用契約がないので、障がいの種類やその程度は様々。ビーンズでは現在20名ほどの利用者を受け入れています。
訪れた午後1時頃は、ちょうどみなさんが作業に没頭されている時間でした。
機織り機が並んだ一角は「さをり織り」の作業場です。「きれいにできてるね!」と北畑さんが声をかけると、「新しく入った藍染のこの糸、いいよね」と利用者さんが応えます。自由に好きなように色を入れながら織っていく「さをり織り」は、それぞれの感性が最大限に引き出され、世界にたったひとつの布が生み出されるのだとか。
北畑さん 縦糸と緯糸を自分でセットするので、織り始められる状態にするまで少し時間がかかります。特に両端をきれいに織ることが難しいんですが、彼女は織り方を完璧にマスターしているんですよ。自分で調べて工夫して、本来向かい合わせにして人が二人いないとできないところも、ひとりでできるようにしたんです。
慣れた手つきで機を織る利用者さんの手元から、糸がどんどん一枚の布へと変化していきます。こうして織られたた色とりどりの布は裁断をして、しおりやコースター、名刺入れなどの製品に加工しているそう。
誇りを持てる自主製品を
ビーンズでは、清掃活動や地域の商店で使う菓子箱の作成やTシャツのシルクスクリーンプリントなど、多様な仕事を請け負っています。それだけでなく、設立当初から「さをり織り」をはじめとした自主製品をつくることに力を入れてきました。
特に注目を集めているのが、「ゲラメモ」という、書籍の校正紙(ゲラ)を再生利用した自由帳です。伝統技術である和製本四つ目綴じの職人技を身につけたビーンズの利用者の方が、ひとつひとつ手づくりしています。
現在はこの技術を応用して、自分たちで染めた和紙を表紙に使用した「和紙メモ」づくりにも取り組んでいるといいます。染めも綴じも担当している菊地さんにつくり方を伺うと、よく段取りされた手順と淀みない口調で説明してくださいました。
郡さん 菊地くんは図書館で2年連続、和紙メモづくりの講師も務めたんですよ。夏休みということで、小学生の自由研究を対象にした企画だったと思うのですが、来たのはこの製本に興味がある大人の方も多かったですね。
2014年のリクルートのチャリティ事業「CREATION Project 2014」では、和綴じ工房のひとつとして、デザイナーやクリエイターとコラボレーションして自由帳を作成しました。こうした外部の方と共同する作業は貴重な体験だったと、菊地さんも嬉しそうに話してくださいました。
ビーンズの作業場を一通りみせていただいたところで、青木さん、郡さん、北畑さんに、「ものづくりを通じた人づくり」をテーマにお話いただきましょう。
ものづくりのチャレンジ
青木さん 僕は、カンボジアの農村で小学校を途中で辞めた子たち60人ぐらいにこのバッグをつくってもらっているんです。
郡さん・北畑さん わぁ素敵!おしゃれですね!
青木さん 毎日同じ場所に通うことにも慣れていない子たちなので、最初は大変でした。ものづくりには納期もあるし、品質も求められる。集中力が必要だし、人とも協力しないといけない。そうした中で真面目に取り組むことで人が育っていったり、やりがいや居場所があることを感じたりすることがあるなと思っているんです。それで、“ものづくりを通じた人づくり”をテーマにして、お話を伺いたいなと思っています。
郡さん ここも「障がいのある人と何ができるんだろう」というところから始まりました。20年前ぐらいに、ビーンズの前身となるところがあったのですが、畑と染物から始まったんですよ。体が思うように動かせない方が転んでも安全だからという理由で畑。それから、草花を摘む、絞る、染める、アイロンをかける、包装する、と作業工程の中にいろんな人が関われる、ということで染物だったんです。それがやがて、さをり織りへとつながっていきました。
震災を経て生まれたつながり
青木さん 南相馬市は震災の被害が大きかった地域だと思います。震災後は作業所を閉めていたんですか?
北畑さん ビーンズを閉めていたのは1ヶ月ほどでした。他の福祉作業所よりも早い時期に再開したので、これまで来ていなかった利用者さんも多くやってきたんです。ただ、震災の後はやはり仕事がなくて。
恥ずかしい話、職員が使うメモ帳を裁断するぐらいしかやってもらうことがなかった時期もありました。利用者のみなさんは仕事があると落ち着いていられるのに、ないと何をしていいかわからない。その時間が一番苦しかったです。
青木さん そこからどうやって今のように仕事が増えていったんですか?
北畑さん 職員が足りなかったので、JDF(日本障がいフォーラム)を通じて、全国からボランティアの方に3年間ほど支援に入っていただいていたんです。
ボランティア、といってもベテランの現場職員さんや事業所の所長さんたちで、「こういう仕事があるよ」とか「こういう技術があるけどビーンズでどうだろう」と紹介してもらい、少しずつ仕事が増えていきました。
青木さん 全国から人が入ることによって、震災以前より仕事の幅が広がっていったような印象もありますね。ゲラメモもその流れで始まった事業ですか?
郡さん 震災後に障がい者の授産製品の交流会が東京であって、そこで「PRe Nippon」の代表の方と親しくなり、被災地に新たに職をつくることを目的にプロジェクトが始まりました。校正原稿の「再生」利用と、被災地の「再生」というところがリンクしているんです。
なかなか複雑な作業なので、多くの利用者の方の仕事にはなりませんでしたが、菊地さんのような方には、全工程をお任せできる仕事になりました。この仕事を通じて自信を持って活躍している姿をみると、本当によかったと思いますね。
得意の引き出し方
青木さん ビーンズを見学していて、菊地さんをはじめ得意なことを活かして活躍している方たちの姿が印象的でした。得意を引き出すために工夫していることはあるんですか?
北畑さん 新しく入ってくる利用者さんには、利用する前に「アセスメント」という聞き取りをしています。生育歴や学校で関わっていた作業、好きなこと・嫌いなこと、得意なこと・苦手なことを一通り聞いて。入所したら、とりあえず所内のいろいろな仕事をしてもらいます。そして職員と利用者さんで相談しながら仕事を割り振っていくんです。
そうやって任せた仕事でも、ボソボソっと「これ苦手なんだよなぁ」という声が漏れてくるときもあります。その声をまずは拾って、頑張れば好きになれることなのか、生理的に難しくて仕事を切ってあげた方がいいことなのか、この見極めが職員の腕の見せどころですね。日々の職員と利用者さんの何気ない会話を何よりも大切にしています。
郡さん お互いの関わりがなければ、おそらく何年やっても引き出したりみつけたりすることはできません。伴走して一緒に取り組んで、やがては職員が引き下がって利用者さんが前に出て行く、そういうあり方がいいなと思っています。
例えば今では完璧にゲラメモをつくることができる菊地さんも、初めは半分以上の工程ができなかったんです。そのひとつひとつの工程を、どうしたらできるようになるか、菊地さんにあったやり方を粘り強く考えて提案する職員がそばにいました。
青木さん 作業を通じて成長していくために、何か目標は設定されているんですか?
北畑さん 半年に1回、「個別支援目標」という職員と利用者さんの間の約束を決めています。将来的な目標を達成するために20ぐらいの段階をつくっていて、そのひとつずつは本当に小さなステップなんです。
例えば、清掃活動で「下駄箱をピカピカに磨く」という目標があったら、まずはぞうきんのゆすぎ方から、というように。小さなステップをクリアすることで、失敗体験よりも成功体験を多く積んでもらいたいと思っています。
郡さん 障がいがある方って子どもの頃にいじめられていたことも多くて、家庭の中でも役割がない方がほとんど。なので対人関係に抵抗感のある方も多くいます。菊地さんも、はじめは人間関係を築くのが苦手だったんですよ。
青木さん とても人当たりが柔らかな印象でした。今では全く想像できないですね。
郡さん ここへ来て時間をかけて作業に取り組むことで、初めて何かができるようになった、という方もいます。何かできることがあると、コミュニティの中で自分の役割を見出すことができて、自信もついていくんです。そうすると周りの人に気を配ることができるようになったり、本来の人の良さが出てきたりするようになりますね。
それから、自閉的な傾向のある方は職人に向いているかもしれません。職人さんってこだわりが強くて、何かに特化する傾向がありますよね。うちには「画伯」と呼ばれる絵の得意な方がいるんですが、こだわりが強くて、彼の絵は誰にも描けません。ビーンズが運営しているカフェでも絵を販売しているんですよ。メモ帳の表紙に使おうかなんていう話もあって。
本人が持っている能力と仕事をマッチングさせていく、ものづくりってそういう醍醐味がありますよね。
地域で自分らしく生きるために
青木さん これからビーンズではどんなことをしていきたいと考えていますか?
郡さん 利用者さんの生活の質をあげることがまずは一番の課題ですね。そのためには、自主製品を増やして、その人が頑張って手づくりしたものを世に出していけたらと思っています。
北畑さん 利用者の方も年を重ねていくので、ひとりひとりの将来について話す時間が必要だなと感じています。これから親御さんが亡き後にどうやって生活していくのか、具体的に考えていかないといけない時期にも差し掛かっていくので。
郡さん そうですね、この地域で障がいのある方が自分らしく過ごすためには、まだまだ課題があります。そうした課題にも、利用者さんに合わせてできるところから取り組んでいきたいです。
北畑さん 職員も利用者さんもお互いに助け合いながら、みんなが穏やかに自分の思いを言えるような、そんな職場、そして地域を実現したいですね。
見学する前は福祉作業所に対して漠然と「流れ作業や単調な作業を行っているのかな」というイメージを抱いていましたが、ビーンズはその逆で、それぞれの個性や能力を生かしたオリジナルの製品をつくるために、ひとりひとりの「得意」を引き出す工夫がされていました。
一般的な組織で求められる、必要とされる仕事に個人が合わせていくようなやり方の方が、たしかに効率的に大量のものをつくることができるかもしれません。でもそれぞれの人の能力に合わせて仕事を提供するやり方のほうが、能力や技術、そして自尊心を育むことにつながるのではないでしょうか。
ビーンズで大切にしていた「関わり合いを持つ」、「相手の声をよく聞く」、「人へ伝えるときはステップを丁寧に組み立てる」。こうしたことは、福祉作業所ではない場所で働く私たちにとっても、誰かと協働するうえで大きなヒントになりそうです。
– INFORMATION –
かものはしプロジェクトとgreenz.jpがともに取り組む「人を育てるものづくり」連載。
こちらの連載は、greenz.jpを寄付でサポートしてくださる「greenz people」が5名増えるごとに、プロジェクトを取材して、1本記事が公開できる仕組みになっています。つまり、25名のサポート読者が集まれば5本の取材記事、50名集まれば10本の記事を連載展開できることになります。
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