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東京・世田谷「TEAMNET」甲斐徹郎さんと考える”目的”ではない”手段”としてのコミュニティと不動産価値の関係性

コーポラティブハウス」って、ご存知ですか?

コーポラティブハウスとは、入居を希望する人々が集まって、土地の取得から建物の設計、そして建設業者の手配まですべてを自分たちで取り組む共同住宅のこと。

多くのプロジェクトでは入居者相互の意思疎通のために専門のコーディネーターが調整役として利害調整や合意形成をリードして住居をつくっていくそう。こういった形でつくられた住宅ならば確かに、自分たちの“好きなように”住める印象があります。

東京都世田谷区の閑静な住宅街、経堂にコーポラティブハウス「経堂の杜」があります。どうやらここでは“好きなように”の先まで見据えた“贅沢なこと”が、住んでいる皆さんのなかで共有されているようです。ここにある贅沢って一体どんなものなのでしょう?

「経堂の杜」の企画・コーディネートを行い、この家の住人でもある甲斐徹郎さんにご案内いただきましょう!

都会の真ん中に残る樹齢150年、5本のケヤキの価値

現在、地下1階、地上3階のつくりに12世帯が住まう「経堂の杜」。この場所に到着して真っ先に目に飛び込んで来るのは、立派な5本のケヤキの木と建物の外側に張り巡らされた木々と葉。

これだけの大きな木、秋ともなると大量の落ち葉が発生するそうですが、あえて(もちろん)この土地の財産としての木々を残し、土になって使えるようにコンポストも設置しています。

地下1階と地上1階、2階と3階といったタイプのメゾネット、あるいはまったくのフラットな家、などいろいろな形の家が組み合わさって混ざっていて、複雑なつくりがまた魅力。

このケヤキの樹齢はおよそ150年。この樹木がつくる空気を、「経堂の杜」の各家とつながるようなつくりになっているんですよ。

地階に居室のある住居の地下には勝手口があり、夏場にはそこへ樹木の葉の蒸散作用によって生まれた涼しい空気が下りてきて、室内の温まった空気は上階の高窓から抜けていく。そういう仕組みをつくると、建物だけではなく外の環境と連携して、全体で自然の空調装置ができ上がるんです。

建物が先、ではなく、大きな環境が先にあるということですね。

木によって空気の道の大きなつながりが生まれることと、建物自体の断熱性を高めることで“夏は涼しく冬は暖かい”という環境が生まれているこの住宅。樹木などの大きな“環境”がまず一番先にあり、その大きな空気の流れの中に建物をつくれば、その流れを自然と建物が取り込むようになる、という順番なのです。

草刈りなどだけでなく、最近では共用の庭でガーデニングも始めました。進めるうちに、「経堂の杜」のさらに近隣の家族とも出会いコーポラティブハウスの中だけでなく、街としても少しずつ連携が始まっているんですよ。

木々や花の手入れといった、地面にまつわる手入れをするうちに、日々の暮らしの中で関わりが生まれていく。どこからどこまでが誰の区画、という線引きが緩やかになり、お互いに関わり合う地続きの暮らしが生まれているような印象です。

住居内を案内してもらう途中「とってもいい香りがしますよ、いかがですか」と、住民内でのおすそ分けとして共同のボックスに置かれていたカリンの実を差し出してくださる甲斐さん。ここでの暮らしはいつも自然の巡りを意識できるのだろうなあと、とても羨ましくなる瞬間でもありました。

ひとりでは実現できない”贅沢”をコミュニティで実現する
“コミュニティベネフィット”という提案

少しずつ形式の違う住居が隣り合いながら、共同の場所も持ちつつそれぞれに住まう「経堂の杜」。そもそもはどのようなきっかけでつくることになったのでしょうか?

ここの話は地主さんとの出会いが先にありました。この環境を活かした計画を固め、そこから“こういう条件でコーポラティブのメンバーを募集します”と募集していきました。

かつて、マーケティングコンサルティング会社に10年間勤めていた甲斐さんは、自身のなかで「環境共生」という考え方が確立されてきたため、1995年に独立。「環境共生」を専門とするマーケティングコンサルタント会社「TEAMNET」を立ち上げました。

そしてその2年後にこの土地の地主である杉本賢治さんと出会い、自身もコーポラティブハウスの計画に参画するようになったのをきっかけに、会社としても住宅事業を本格化させたのでした。

いろいろな企業が「暮らしの場」「サービス」「家」といったものを当然のようにたくさん提供しているのだけど、そのなかに自分で満足できるものが無い。

僕の場合はたまたま仕事として、事業やマーケティングといったことを考える立場にいたから、暮らしのあり方自体を考える場を世の中につくり出さないと、自分たちがよしとする暮らしのあり方が生まれないな、と思いました。そこで会社を辞め、環境共生専門で起業した、というわけです。

世の中に存在するのでは足りないという動機から始まった計画だったわけですが、そのポイントは一般的に分譲型の集合住宅で企画主体となるデベロッパーなどの企業の関与を無くしたことでした。既存の枠組みに頼らずに、ゼロベースで自分たちの理想とする暮らしをつくろうと考えたそうです。

そうやって自分たちの理想の暮らしを手づくりでとなると、個人単位でできることには限界がある。だから、ほかの家族なども募り、そのコンセプトに共感する人たちとともに事業を立ち上げることで、個人ではできないとてつもなく贅沢なことを実現させよう、というのが僕の考え方でした。

甲斐さんはこの“個人単位では限界があるが価値観を共有できる皆でなら実現できる長期的な利益”のことを「コミュニティベネフィット」と名付け、以降「TEAMNET」での考え方の中枢に据えています。

未来に何を残すのか
本質的に考えるための暮らしの場

甲斐さんはこうして「本質的な暮らしの場がどうあるべきか?」という問いをもとに、コンセプトに共感した人たち同士で、コーポラティブハウスの計画を進めていきました。

この土地の地主だった杉本さんは、もともと、ケヤキの木を残すこと自体をこの場所の価値として意識していらしたそう。

誰もが歴史のあるものを見たときに“残せたらいいな”と心の中では思っているけれど実際は難しいし、どうしたらいいかわからないってなりますよね。時間の堆積した素敵なものを引き継いでいくことって、世の中でとても起こりづらい。でもそんな時に、ずっとここに暮らしケヤキを引き継いできた、土地に根ざした地主さんと出会えたことはとても大きなきっかけになりました。

未来に対して残っていかないことのほうが不自然だ、という意識が既にある地主さんと出会えたことで、話は大きく動き始めました。もしもここに想いのある地主さんもいず、単にこの土地はいろんな人たちの債権でできていて、単なるその人たちの所有物でしかなく、人格が備わっていない場所だとしたら、わざわざケヤキを残した場所でみんなで手入れをしながら暮らそうなどということは起きないはず。

「“世田谷の中心で、樹齢150年のケヤキの木に囲まれた森の中の暮らし”なんて、普通だったら実現できないけれど、もしそんなことが実現できたら、それって素直に贅沢ですよね。その贅沢を味わうためにはどうしたらよいか。それを考え抜いた結果なんですよ」と、甲斐さんは笑います。

土地、不動産がもたらす利益をどのようなものさしで測るのか

大きな樹木があることは、落ち葉も大量に出ることにつながります。つまり、30〜50年ほどの自分たちが暮らす間だけの“短期”で考えると単なる負担として感じてしまうかもしれません。けれども、もっと長期的に見てみれば、この地域全体の環境自体に“守られてきたものがある”という理由で地域の不動産価値も上がるのです。

その土地から金額にすると年間いくらの利益が発生するのか、ということだけを基準にするか。あるいは、50〜100年後という自分の次の世代の人たちにとって、利益がずっと維持されていくと考えるかで、大きな違いが生まれてくることは確かです。短期的な利益ももちろん重要ですが、そこに長期的な利益も加味するということです。

時間のなかで堆積したものをとことん味わい、自分自身もその維持に参加し、また次へと引き継いでいけることは、とても贅沢。これは多くの人が共有できる価値観でもあるはずですが…。気づけばついつい短期的な利益や便利さに飲み込まれてしまいがち。住む場所だって、単に「駅から○○分」といった利便性や、設備等の無機質な条件で選んでいたりしますよね。

“自分が本当に求めたい贅沢さ”をじっくり追求した結果が、環境共生型のコーポラティブハウスだった、と話す甲斐さん。環境のことを考えるのは決して“我慢すること”ではなくむしろ“贅沢なこと”なんだとあらためて気づかせてくれる暮らしがここには存在していました。

– INFORMATION –


甲斐徹郎著『不動産の価値はコミュニティで決まる』


空き家増加、家賃下落の時代、不動産活用で追求すべき経済合理性、価値を持続的に伸ばす方法論を解説。土地のポテンシャルを引きだす地主、暮らしを大切にする住人、コミュニティを再編する建築家、事業者による「新しい不動産」の営み方。

【紹介事例】
うめこみち、マージュ西国分寺、あまつ風、白石農園、まちの保育園、やかまし村、経堂の杜、モダ・ビエント杉並柿ノ木など。

【目次】
1章 地主よし・住人よし・街よしの不動産事業とは
2章 多様な主体が営む新しい不動産事業
… 「U & Me komichi うめこみち」 茨田禎之(オーナー)、大島芳彦(ブルースタジオ)
… 「マージュ西国分寺」 影山知明(オーナー)
… 「あまつ風」 黒岩健司・吉枝(オーナー)
… 「白石農園」 白石好孝(園主)
… 「まちの保育園」 松本理寿輝(ナチュラルスマイルジャパン)
3章 縮小時代の不動産経営のポイント
…田村誠邦(アークブレイン)×林厚見(スピーク)×甲斐徹郎
4章 時間とともに価値を増す不動産のデザイン手法

購入はこちらより!
https://www.amazon.co.jp/gp/product/4761513586/

(写真: 秋山まどか)

どこに住み、どんな暮らしをつくるのか。本当に必要なものは何か。「暮らしのものさし」は、株式会社SuMiKaと共同で、自分らしい住まいや好きな暮らし方を見つけるためのヒントを提供するインタビュー企画です。