みなさんが思い描く“ほしい未来”が1日実現するとしたら、どんな日になるでしょうか?
今回ご紹介するのは、そんな未来の1日をみんなで楽しもうとつくった結婚式です。式を挙げたのは、食べ物・仕事・エネルギーを自給する「いとしまシェアハウス」の志田浩一さんと畠山千春さん。
結婚式というと“新郎新婦のこれまで”の過去をみんなで共有する場をイメージするかもしれませんね。ですが式は、ふたりが思い描く“これからの社会”をみんなで体験する場でした。
一体どんな結婚式だったのでしょうか? そしてなぜ未来を向いた結婚式をつくることにしたのでしょう? レポートとインタビューでお届けしたいと思います。
「結婚キャンプ」で伝えたいメッセージ
2人が結婚式「結婚キャンプ」を開催したのは2016年9月18日。福岡県の糸島市で、海の家のオーナーさんが借りている海岸エリアを会場に、アウトドアの糸島ウェディングを挙げました。
海岸につながる森の広場にはライブステージや飲食テントがあり、まるで野外音楽フェスのよう。当日は全国から約250人がお祝いに集まって賑わいました。
会場の入口には目立つようにゴミステーションが置かれています。
「結婚キャンプ」のテーマは「自分たちでつくるサステナブルなアウトドアウェウェディング」。普段から「いとしまシェアハウス」で持続可能な暮らしを実践する浩一さんと千春さんにとって、結婚式というハレの日もDIYとサステナブルをテーマにすることは自然なことでした。
そのためにゲストも巻き込んで、ゴミを出さないようにMY食器を持参してもらったり。“自分たちで”というのは、新郎新婦だけでなくゲストも含んでいるんですね。
千春さん あるものを使う。無かったらつくる。それでも必要なものは買うという意識で準備しました。それから、結婚式ではたくさんのお金が動きます。それならば、私たちが信頼している人や応援したい人にお金が落ちるようにしたいと思い、結婚式づくりには私たちの友人に関わってもらったんです。
式を誰と一緒につくるかということもそうですが、社会は日々の小さな選択が積み重なってできるものです。私たち夫婦はパートナーとして、心地よい未来を自分たちでつくっていきたい。今回の結婚キャンプはその決意表明でもありました。
「結婚キャンプ」でつくる1日だけの“村”
浩一さんと千春さんが「結婚キャンプ」の参考にしたのは、これまでに参加してきた友人のアウトドアウエディングやフェスなど。いいところを取り入れながら、自分たちらしさをプラスしていきました。
そして“みんなでつくろう”という思いを込めてつけた結婚式のタイトルが「1day village festival」です。
浩一さん 将来どうしていたいかと考えると、自分の知っている人たちがつくったものや関係性の中で暮らすことだと思いました。僕たちは日常もシェアハウスでそういう暮らしをしているのですが、それがさらに広がった“村”で開かれる村祭りをイメージしてこのタイトルをつけました。
村のお祭りってみんな総出で、誰かのためじゃなくて自分たちのために準備するじゃないですか。提供する側と受ける側の壁を無くしたくて、それがちょっとでも伝わればいいなと思ったんです。
友人とつくるお祭り
「結婚キャンプ」を一緒につくった友人の中でも、新郎新婦が「あの2人がいなかったらできなかった」というのが白石さん夫妻。アウトドアウエディングをした経験から、新郎新婦の代わりに当日の進行管理をしてくれたのです。
そんな白石さん夫婦が「結婚キャンプ」で驚きだったのは、浩一さんと千春さんがウエディングの電気まで自分たちでつくったことだったそう。
それからゴミを出さないようにするためにも、友人が協力してくれました。それが「ごみゼロ(ゼロ・ウエイスト)宣言」をした徳島県上勝町で、ごみステーションを運営する「NPO法人ゼロ・ウェイストアカデミー」。フードのチームともチャットグループをつくって事前に具体的なアドバイスをしたそうです。
千春さん 過去にアウトドアウェディングをした友人たちに相談すると、食器や飾り付けなど自分たちの準備した分ゴミは減らせるけれど、それ以外では “持ち込まれるものも多い”ということでした。
そこでMY食器持参・お祝品のラッピングフリーの呼びかけを行い、参加される方にもゴミ削減に一緒に挑戦してもらうことに。おかげでゴミの量はゴミ袋数袋分と少なく抑えられました。
ゴミは少ない方がいいけれど、ストイックになりすぎても楽しくないですよね。みんなが自分ごととして取り組んでくれたからこそ達成できたのかなと思います。とても嬉しかったです。
フードチームでオードブルを担当したのは「foodscape!」。日本各地の生産地に足を運び、出会った食材や生産者の想いを拡めている料理チームです。「新郎新婦に寄り添うようにつくった」という料理は、新郎の浩一さんがつくったイノシシのソーセージを使うなど、新郎新婦らしいものになりました。
「foodscape!」などのフードチームは、仕込みの段階からゴミを出さないように「ゼロ・ウェイストアカデミー」や新郎新婦と連携したのだとか。そうした経験を通して「foodscape!」代表の堀田裕介さん自身も視野が広がったといいます。
堀田さん いろいろな学びがありました。もし今回のような要望がまたあったら、今度からゴミを出さない方法も提案していけると思います。
堀田さんのこのコメントを浩一さんと千春さんに伝えると「そう感じてくれてうれしい!」ととても喜んでいました。「結婚キャンプ」に参加した友人に2人の思いが伝わって自然と社会へ広がっていく、それも2人が「こうなったらいいな」と思っていたことだったのです。
それから会場にはイノシシの丸焼きも。猟師の新郎新婦が「兄貴的な存在」という小関航さんと吉田さんが参加者に振る舞いました。イノシシ肉は処理と調理のやり方次第でくさみもなくなり、美味しくなるのだとか。浩一さんと千春さんは、結婚式でも「食べ物のプロセスを感じてもらいたい」とイノシシを食べるきっかけをつくりたかったのです。
さらに浩一さんと千春さんは、自分たちでイノシシの解体も行いました。
千春さん お肉がどういう風に食卓に上がるのか、知ってもらえたらなと思いました。お肉はもちろんですが、革製品ってもとは動物の皮膚だったということがなかなか想像できないと思うんです。お肉も革も、その分断されてしまったところを結びつけられたらなと思ったんです。
音楽と灯りもDIY電気で
浩一さんが料理と同じくらい大切にしたのは音楽ライブ。友人である合計7組のアーティストが出演して夜まで盛り上がりました。そのための電力を自分たちでつくるために協力をしてくれたのが、「自然電力株式会社」です。
サステナブルな結婚式をしたいという新郎新婦に協賛した「自然電力」は、ソーラー発電と蓄電のシステムを提供。当日の天気を配慮し、結婚式前から糸島の太陽で蓄電していました。当日は雨だったのですが、事前の蓄電もあって電気は100%糸島の太陽光エネルギーで無事にまかなうことができました。
浩一さん 僕たちの感覚だと、当日がもし曇りや雨だったら電気が足りなくなるんじゃないかと思っていたんです。でもプロが「いけるよ!」って言ってくれてすごく心強かったです。
また、ライブの音をつくるためにはさらにソーラー音響に詳しい人が必要でした。そこで友人に紹介してもらった吉田主税さんに音響をお願いすることにしました。
こうして吉田さんが音楽、「自然電力」が照明を担当。コンセントからの電気だと、遠くの発電所から電気が送られる間に様々なノイズが入ってしまうそうですが、会場内のオフグリッドな太陽光発電を使えば、電気に含まれるノイズが少なくクリーンな音になるのだとか。
「結婚キャンプ」はソーラー発電した電気だけを使って夜まで盛り上がりました。
つくり手の姿に涙した結婚式準備
結婚式当日、たくさんの友人に祝福されて幸せな時間を過ごした浩一さんと千春さん。途中で感極まって泣いてしまうと思っていたそうですが、実はその前にもう泣いていたので、本番中にはずっと笑顔でいられたのでした。
浩一さん 入場のリハーサルで、「baobab」というギターとバイオリンの兄妹ユニットの2人が前を歩きながら演奏してくれました。彼らも自給自足をしながら音楽をしている家族で、共感もするし音楽もすごく好きなんです。友人でもあるけど大好きなアーティスト。そんな彼らが目の前で僕たちを先導してくれて、感極まりました。
共感する暮らし方とか考え方とか、そういうものが「結婚キャンプ」のみんなにそれぞれあって、それがつながっていったのもうれしかったです。
千春さん 「結婚キャンプ」では出どころがわからないものはほとんどありません。例えば久留米絣の衣装も工場で織っているところを見せてもらったり。ものづくりの現場に行ってプロセスを体験できたのはすごく幸せでした。いろんな人とたくさんの打ち合わせを積み重ねてきて、私たちのためにこれだけの情熱と時間と思いを詰め込んでくれているんだと感じることができました。
そんなつくり手さんたちを少しだけ紹介します。
「結婚キャンプ」ができあがるまでには、つくり手さんたちの手仕事もあったんですね。こうして各分野で活躍する友人と一緒に結婚式を手づくりしたお2人に、サステナブルなDIYウエディングのつくり方を聞くと、なによりも仲間が大事なのだといいます。
千春さん 新郎新婦だけだと実現できないことがたくさんあるので、周りの人に相談して一緒にやってもらうように巻き込んでいくといいと思います。
というのも、サステナブルなウエディングでは参加者にも協力してもらう必要があるためです。
ゴミを減らすためにMY箸を持ってくると荷物になるし、洗い物も自分でしなきゃいけない。
食べ物も残さず食べて、夜は念のために懐中電灯も持参してくださいだとか。だから普通の結婚式と比べると参加者に求められることも多いのですが、自分たちの気持ちを丁寧に伝えて、その手間もみんなが楽しめるように式をつくる過程の情報もどんどん発信しました。
こんなアイテムができましたとか、こんな協賛をもらえましたとか。こうしたいんだけど、どう思いますか? って聞いてみたり。
そういうコミュニケーションの時点から「結婚キャンプ」は始まっていたと思います。
「結婚キャンプ」では仲間たちとしっかりと思いを共有していたんですね。当日は台風が進路をそれたばかりの雨の日だったのですが、こうしたつながりがあったからこそ雨でもみんなで楽しむことができたのではないでしょうか。
雨でも楽しいアウトドアウエディング
結婚式直前、会場エリアには台風が近づいていました。しかしルートがそれて風も弱まったため、夜には晴れるという予報を信じてバックアッププランの屋内ではなく、当初の予定通りの屋外で開催することに。ですが、風はないものの、雨の量は相当なものでした。まさに、嵐!
フジロックの公式カメラマンである「宇宙大使☆スター」さんは「97年のフジロックを思い出した」といいます。「結婚キャンプ」の撮影はフジロックなみにハードだったけど、一生忘れられないパーティーになった、みんなすごくいい顔をしていたのだそうです。
直前までは友人たちもこの雨に「どうする?」という空気になっていたそう。ですが新郎新婦が雨でもやろうと決めると、「新郎新婦が楽しそうにさえしていれば、うまくいくよ!」と2人の背中を押してくれたのです。
千春さん 大雨だったけど、外でもなんとかやりきることができました!
これからアウトドアウェディングを企画している友人から“天気が心配だったけど、嵐でも笑顔の様子をみて、心があればなんでも大丈夫だー!ってとても元気もらったよ!”とお礼のメッセージをもらって。参加した人は結構ハードだったと思うんですが(笑)、そういう希望になれたら嬉しいですね。
2つのコミュニティでそれぞれ結婚を祝う
浩一さんと千春さんはこの結婚式の前に、実はもうひとつ、別の結婚式をしていました。春に「いとしまシェアハウス」に近隣住民と大家さんと両親を呼んで、神前式の式を挙げていたのです。
浩一さん シェアハウスでやるのもすごく大事。ローカルでの小さな暮らしと、価値観でつながるグローバルネットワークの暮らし。両方の価値観どちらかに偏らずに、両方できて良かったです。
その両極端をやるのが僕たちらしいと思うんです。両親にも両方見てもらえて、自分たちが大事にしていることをわかってもらえました。
こうして「結婚キャンプ」を終えた浩一さんと千春さんは、今度はそのノウハウを誰かに還元していきたいと考えています。
千春さん 友人たちとつくる結婚式は、自分が実現したい社会を表現する絶好のチャンスだと思いました。
大きなパーティーでどうしても出てしまうゴミの問題とか、フェアトレードのことや、エネルギーのこと。みんなでチャレンジすれば、どれも解決できるじゃん!という前向きな気持ちになれました。
私たちの式を見て、使い捨てが当たり前のウェディングパーティーから、エシカルな選択をしてくれる人が増えて行ったら嬉しいなと思います。
私たちが教えるというよりは、一緒に考えていきたいですね。地域にお金が入るような場所選びとか、コンテンツを考えたりとか。共感する人たちと情報交換したいなと思っているんです。
浩一さん 今回サポートしてくれた友人たちが自分たちにしてくれたように、自分たちだけじゃなくて、いろんな人の役に立てればいいなと思います。次にやる人も自分らしい式をつくってほしいですね。いろいろ考えたり決めたりするのにも時間がかかると思うので、相談はお早めに(笑)
いかがでしたか? ほしい未来の1日を友人と一緒につくった「結婚キャンプ」。これをきっかけにヒントを得たり、出会いがあったりして、2人の目指す世界がなんだか近づいたように感じられました。
みなさんはどんな未来を実現したいですか? もしかしたら結婚式のような特別な1日を使って、できてしまうかもしれませんね。