2016年12月8日、東京都港区の表参道にあるコミュニティ型スペース「COMMUNE 246」で開催された、「green power drinks Tokyo」というグリーンエネルギーのイベント。
この日は「エネルギーのつくりかた、つかいかた」と題し、藤野電力の鈴木俊太郎さんとスローコーヒーの小澤陽祐さんによるトークセッションが繰り広げられました。
藤野電力・技術担当。漢方整体森氣庵・院長。建築やアウトドア関連に強く、2001年に車のバッテリー上がり対策でソーラーパネルを導入。オフグリット(※1)でイベントなどに珈琲屋台を出店した元祖(かも?)。震災時にこのシステムのおかげで何不自由無く生活できたことから注目を浴び、ワークショップや勉強会を開催して、藤野電力が誕生するきっかけとなった。藤野電力コアメンバーで主に技術部門担当、現在は電気工事士の資格を取り、オフグリット・システムの住宅施工を手がけている。
記事:藤野電力の生みの親!鈴木俊太郎さんが目指す “ものづくりから始まる自給自足”とは?
有限会社スロー代表取締役。ナマケモノ倶楽部共同代表。2000年、20代男子3名でスロー社を設立。“オーガニック”“フェアトレード”のコーヒー豆のみを“自社焙煎”することをコンセプトに、着々と卸先・顧客をふやしている。2009年にはスローコーヒー八柱店をオープン。2016年からは焙煎機の電力を100%太陽光発電の電気に切替え「ソーラー焙煎」を開始。ファストではない、スローなコーヒーのあるライフスタイルを提案中。http://www.slowslowslow.com
記事:原発抜きの電気でコーヒーを焙煎する夢が、クラウドファンディングで実現! 有限会社スロー代表・小澤陽祐さんに聞く、“グッドバイブレーション”な社会のつくりかた
お二人は、電力会社を選ぶどころか、暮らしや仕事の一部として自家発電をなさっているそうです。その話しっぷりがとっても楽しそうだったので、1月に開催された大阪や、今後開催される名古屋、札幌、福岡の「green power drinks」に先行して、全国の皆様に東京会場の様子を共有したいと思います。
使う電力を自分で選んでいる人たちは何を動機にそうなったのか、「自分ならどうだろう?」と考えながらご覧ください。
編集長の開会宣言
まずはgreenz.jp編集長の鈴木菜央より開会の挨拶がありました。
菜央 今日はグリーンパワー(※3)を考えます。世界的には再生可能エネルギー(再エネ※4)の普及ってかなり進んでいます。日本でも導入されてきてるけど、そうはいっても、あまり生活に馴染みのない話になりがちですよね?
実は2015年の1年間で、地球全体でグリーンパワーが147ギガワット(GW)も増えたのだとか! 2015年末には地球のグリーンパワーは累積で1,849ギガワットになって、世界全体の電力供給における自然エネルギーの割合は23.7%まで伸びてきました。
菜央 僕ら人間は、宇宙に一個しかない地球に住んでいますが、僕らの安全や生存は、完全に地球環境に依存しているわけです。僕らが飲む水、吸う空気、食べる食べ物はもとを正せばすべて太陽エネルギーを変換している。水は太陽が海にあたって蒸発し、雨が降って川に流れて飲み水になるし、空気も、木が太陽エネルギーを受けて酸素をつくってくれている。
それが、つい200年ぐらいの間に産業革命があって、地下から掘り出した化石エネルギーを使うようになった。その結果、温室効果ガスがたくさん出て、地球の温度がどんどん上がってる。2099年までに、最大で4.8度も上がると言われている。
環境への依存の仕方が変わったら、地球への影響にも変化が出てきました。日本でもサンゴが死滅したり、北海道に台風が来たり。
菜央 じゃあ、どうするか?「もう一度、自然の循環からエネルギーを分けてもらえる社会をつくろう!」それがぼくらの考えるグリーンパワーです。
日本では、再エネを増やしたり再エネを活用して地域を盛り上げるため、2013年に資源エネルギー庁(エネ庁)が中心になって「GREEN POWERプロジェクト」が始まりました。「日本を、グリーンの力でうごかそう。」というコンセプトのもと、国と民間が協力して、再生可能エネルギーを通じて未来の日本を創っていくプロジェクトです。
greenz.jpでは、2011年11月からGREEN POWERプロジェクトの一環として「わたしたちエネルギー」というプロジェクトを走らせています。これは、暮らしの中のあらゆることにエネルギーが繋がっているから、エネルギーをじぶんごとにして、みんなで考えていこうというプロジェクト。
再生可能エネルギーをつくったり、つかったりして幸せになることについて、5年間で述べ200本ほどの記事を紹介し、グリーンズの学校では、自分の家で発電して使うオフグリッドの仕組みや、エネルギー消費量を減らすDIY断熱を学べるクラスを開講しています。2017年1月現在、約160人の卒業生がエネルギーについて学びました。
菜央 greenz.jpで紹介しているどの取り組みも、ぼくたちが「おもしろい!」と思った活動ばかりなんですよ。
例えば、こんな方がいます。
他にも、こんなに取り組みが。いろんな切り口でエネルギーと向き合っていて、なんだかワクワクしませんか?
- 「電力会社の電気はいりません!」独立型の自家発電で、晴耕雨読の日々をおくる佐藤隆哉さん・千佳さんに聞く、これからの電力自給のありかた
- 電源から解放されたらどこでもオフィスになった。自作オフグリッドカーで旅するように仕事をする新井由己さんの「オフグリッド的生活」のススメ
- 「あわくら温泉 元湯」がOPEN! 人口1600人の村・西粟倉のエネルギー会社「村楽エナジー」がつくろうとしているのは、地域みんなが幸せになる仕組み
- 理由は「おいしいから」。0円で降り注ぐ太陽光だけで調理するソーラークッカー研究家 西川豊子さんに学ぶ「太陽と寄り添う暮らし方」
菜央 国でも、企業でも、市民の間でも再エネを増やす活動が盛り上がっています。再エネって暮らしから遠くなくて、触れて、楽しめて、クリエイティブ。こんなふうにワクワクする再エネを、ぼくらはもっと増やしたい。だから、今日もみなさんとエネルギーの楽しさを分かち合います。
それではゲストのお二人を呼びますね。みなさん、拍手で招きましょう。鈴木俊太郎さんと小澤陽祐さんです!
エネルギーをつくるムーブメントを起こした「藤野電力」
いよいよトークセッションのはじまり。話題は藤野電力誕生のきっかけになった、とある噂話から。
菜央 みどり号をつくってくれたのも俊太郎さんなんだけど、ぼくの聞いた噂では、東日本大震災後の停電時、町に一軒だけ電気がついていて音楽も聴けてamazonで買い物ができた家があったそうで。そこが俊太郎さん宅だったとか。
俊太郎さん そうなんですよ。わたしは当時、福祉の仕事をしていまして、勤め先の施設が北里大学の電気管轄内にありました。だから終業後に施設を出るまで、停電だと知らなかったんですね。
小澤さん でも、町は既にゴーストタウンのような暗さですよね。
俊太郎さん いざ帰る時になって、施設から20メートル先の信号機以降、相模湖まで全部停電していて、暗闇の中を1時間かけて車で帰りました。それが自宅につくと、家だけ明かりがついていたと。
菜央 自家発電ですね。
俊太郎さん 発電自体は、通勤に使っていたワーゲンキャンパーのバッテリーがしょっちゅう上がるので、車体にソーラーパネルをつけたのがはじまりでした。
そういう経緯で家にも自家発電システムを備えていたので、最低限の電源はとれたし、薪ストーブで暖房も料理も大丈夫。帰宅したら家族から「おかえり!」って声をかけられたほど、あまりに普通でした。
安くて壊れにくい藤野電力
菜央 それがどうして藤野電力を始めることに?
俊太郎さん それから約10日後に(旧)相模湖町で田舎暮らしをする仲間から「電気の自給について勉強会を開いて!」と頼まれたんです。家で開催したその勉強会に藤野の方も参加していて「藤野でもぜひ!」ということになりまして。
当時は10,000円ぐらいでできる自家発電の話をしました。すると、その1ヶ月後に動きがありました。藤野には地域通貨のメーリングリストがあるのですが、そこに「藤野電力はじめます!」っていう一文だけが流れたんです。「なんだそれ?!」って感じた人がわぁーっと集まって。
それが藤野電力のはじまりです。
菜央 へえー。今では42,800円のワークショップになりましたが、それはいつからですか?
俊太郎さん 2011年12月9日ですね。
菜央 自家発電はいろいろな機材の組み合わせ方があるけど、藤野電力では、実際に試した結果「これが一番安くて壊れにくい!」という組み合わせをパッケージにしている。
しかも、それを売るんじゃなくて、42,800円のワークショップとして、一緒につくっちゃうっていうのが革新的ですよね。
俊太郎さん その値段には交通費や講師料も含まれています。例えば関西だったら5人申し込みがあればガソリン代まで賄えるとか、そういう感じで続けています。
小商いに再生可能エネルギーを活用した「スローコーヒー」
2011年以降、藤野電力のワークショップは全国各地で開催されました。そんな藤野電力の広がりに、この人も呼応します。
菜央 一方、コーヒー屋さんの小澤さんがソーラー焙煎を始めたのはなぜですか?
小澤さん やっぱり3.11がきっかけです。ぼくらはオーガニックのコーヒー豆をフェアトレードで卸す会社を千葉県の松戸市でやっていますが、震災の時はばっちり計画停電エリアでした。
みなさんも体験されましたか? 計画停電って本当に大変で、信号機も止まるから、交通事故や人身事故も起きました。何がたち悪いかって停電を実施するのかどうか、その日の朝になるまでわからなかったことなんですよ。
菜央 そうそう。
小澤さん 結局、松戸が停電したのは1回だけでしたが「やる」って言われると、ぼくらは焙煎機を回せないんです。
菜央 それじゃ商売できないですよね。
小澤さん 本当に何もできなくて、こんなにもろい仕事をやっていたのかって打ちのめされました。放射能の問題もあったので、先行きがすごく不透明で、不安で…。
そんな時、ネットニュースで目にしたんですよ。「スタジオジブリは原発ぬきの電気で映画をつくりたい」って。ぼくはそれに痺れちゃったんですね。すかさず「スローコーヒーも原発ぬきの電気でコーヒーをつくりたい」って思っちゃったんです。
小澤さん やっぱり、電気(に対する認識)がコントロールされてたってことがショックだったし、それが誰かの犠牲の上に成り立ってきた電気なんだと感じて。
菜央 本当だよね。
小澤さん ぼくらのフェアトレードも、くつろぎの1杯も、全部誰かの犠牲の上にあるとしたらいい気分がしない。
なんとかしたいって思った時に藤野電力のソーラーパネルを組み立てるDIYワークショップのことをgreenz.jpの記事で知って「ちょっといってみようか」と思ったんです。
自家発電で気持ちいい焙煎
俊太郎さん ワークショップにも参加してたんですね!
小澤さん ぼくは普段DIYなんてやらないけど、教わってみたら理科の工作みたいで楽しかった。1日3時間ぐらいでぼくでもつくることができるって実感を持てて。
ぼくらの焙煎機って400ワットぐらいの電気しか使っていなくて、ワークショップでつくったソーラーパネルが8枚もあれば電気は足りるんですよ。だから俊太郎さんに見積もりをとって、総工費120万円で設計もお願いしました。
菜央 いいね、素敵じゃん。
小澤さん せっかくだったら、ぼくらだけでやるよりもみんなのプロジェクトにできないかと思って、クラウドファンディングで呼びかけたら250人ぐらい賛同してくれました。
約150万円集まって、一部の賛同者にも参加してもらいながら社屋にパネルを貼って、今は気持ちよく焙煎しています!
笑えば電気の花が咲く
鈴木俊太郎さんをきっかけに生まれた藤野電力の種が小澤陽祐さんに届き、スローコーヒーにソーラー焙煎という新たな芽が芽生えました。トークセッションはクライマックスへと向かいます。
菜央 で、ソーラーで焙煎したコーヒーはどうでした?
小澤さん やっぱり、飲んでいただくのが一番伝わるとは思います。ぼくは音楽が好きなんですが、音楽家のテイ・トウワさんがこんなことを言っていました。送電線から運ばれてくる電気にはノイズが入るから録音した音楽にもノイズが混ざって嫌だって。テイさんは軽井沢に再生可能エネルギーのスタジオをつくったそうです。
コーヒーも同じじゃないかと思うんです。味自体は一見変わらないかもしれないけど、そこにはいいバイブレーションが伝わっているんじゃないかな。
動画:太陽光発電でさらに“グッド・バイブレーション”なSlowCoffeeを。 『ソーラー焙煎プロジェクト』
菜央 確かに、ぼくも自宅で飲んでいるけど、グッドバイブレーションを感じます。
俊太郎さん&小澤さん とってつけたようなコメント!(笑)
小澤さん でも、本当にやってみてよかったです。コーヒー豆自体、そもそも農作物だから自然の恵みなんです。ぼくらはそれで仕事をしてきたから、電力も太陽の恵みで動いてるんだって、焙煎する人間がそう感じられたら、やっぱりコーヒーも変わってきます。
なんていうか、嘘がない、公平で公正な気持ちが大事。それってエネルギーもフェアトレードになったから持てる感情だよね。
俊太郎さん 本当の意味での自家焙煎ですね。
みどり号でやってみたいこと
小澤さん 今度、せっかくだからみどり号にきてもらって、外でブロックパーティがしたいなと思っているんですよ。
菜央 いいね。みどり号の電力でジューサーを回してスムージーを飲んだり、レコードをかけて踊ったり唄ったり、面白そう。
小澤さん 店舗の近隣でブロックパーティをやるのはぼくの夢でした。だからぜひみどり号に乗り付けてほしいな。
菜央 本当にエネルギーってクリエイティブだし、小澤さんのように楽しんでいくと面白くなるよね。
これからもみんなでエネルギーを楽しんでいきましょう!
(撮影: 廣川慶明)