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人任せにしたくないから、地域で“狼煙”を上げ続ける。さいたま市のgreenz people佐藤真実さんが住み開きを始めるまで

「自分が住んでいる地域で何かしたい」

ここ最近、そんな言葉を聞くことが多くなりました。人はいつ、どんなきっかけで“地域”に心を向けるようになるのでしょうか。

今日ご紹介する佐藤真実さんは、さいたま市南区鹿手袋(しかてぶくろ)町内で、マーケットやカフェ、古本交換会など、地域の人と人をつなげていくさまざまな活動を主催しています。昨年からは、自宅を地域のコミュニティスペースとして開く、“住み開き”も開始。常に自分の暮らす地域に軸足を置き、地域のために、自分の得意なことやできることを差し出すことを惜しみません。

そんな佐藤さんですが、実は5〜6年前までは、自分の地域のことなど興味がなく、ご近所さんの顔さえ知らなかったとのこと。何が彼女の心の向かう先を変えていったのでしょうか。

2016年の年末、さいたま市にある佐藤さんの自宅兼コミュニティスペース「さとうさんち」にお邪魔して、お話を聞きました。さまざまな活動を通して、本当に伝えたいこととは? ほしい未来をつくるために、佐藤さんが今、ほしいものとは?

出会い、気づき、迷いながらも、未来へ向けて行動するgreenz peopleのみなさんの等身大の想いを伝える連載「greenz peopleの狼煙(のろし)」の第1回。佐藤真実さんの住み開き物語を、一緒にたどってみましょう。

佐藤真実(さとう・まなみ)
千葉県出身。2010年、結婚をきっかけに、さいたま市南区鹿手袋へ転居。2011年以降は地域をベースに、「near design」、「シカテカフェ」、「シカテ一畳マーケット」、「シカテBOOK BOOK CHANGE」、「さとうさんち」など、さまざまな活動を主催。2012年にgreenz.jpと出会い、greenz peopleとなる。半年後には退会するも、2016年より再び入会し、12月にはgreen drinks Saitamaを立ち上げ、活動の幅を広げている。

マイプロジェクトのデパートメント?

“マイプロジェクトのデパートメント”。取材前、私は佐藤さんについて、こんな風に聞いていました。Facebookなどで調べてみると、出てくる、出てくる、マイプロジェクトの数々…。

本当にいろいろやってて、ほんとスミマセン(笑)! 何から話しましょう?

ハキハキと明るい笑顔で出迎えてくださった佐藤さん。取り組みについてのお話の前に、まずはこの地域に来た頃のことから伺うことにしました。

取材場所は佐藤さんの自宅兼コミュニティスペース「さとうさんち」。ちゃぶ台にお茶とみかんが良く似合う、ほっこり空間です

佐藤さんがさいたま市南区鹿手袋に引っ越してきたのは、2010年のこと。埼玉出身のご主人と結婚したことがきっかけでした。当時は、最寄り駅の駅ビルで会社員として働き、地域のことなんて、まるで知らなかったと言います。

ある日、佐藤さんは、駅ビルのイベント企画を担当することになりました。ステージに誰かを呼びたいけれど、有名人を呼ぶような予算はありません。そこで、地域の人たちの発表の場としてステージを使ってもらおうと、市民活動サポートセンターを訪れました。

何か情報をもらえるかな、と思って行ったんです。そうしたら、登録している団体が1900グループもあって、いろいろなチラシが置いてあって。

でも、やっぱりデザインが…(苦笑) みんなWordやExcelでがんばってつくってるんだろうけど、正直見づらくて。

それなら、私がデザインをお手伝いして、もっと広まるようになるといいな、って思ったんですよね。

会社では主にグラフィックデザインを担当していた佐藤さん。この気づきをきっかけに、2012年には、任意団体「near design(ニアデザイン)」を設立。市民活動やNPOの方々を対象に、デザインの仕事を受託する活動を始めました。最初は佐藤さんひとりでしたが、仲間が増えるとともに活動も活発化し、市民活動を紹介するフリーペーパーの発行も開始。2014年にはNPO法人化し、活動の幅を広げていきました。

「near design」が制作・発行するフリーペーパー『かいわい』。5号まで発行し、現在はFacebookページでの情報発信に切り替えて運営を続けています

「near design」の活動を展開するなかで、佐藤さんご自身もグラフィックデザイナーとして、会社から独立。個人事業主(屋号は「granew design」)として仕事を引き受けるようになります。同じデザインの仕事でも、営利と非営利を佐藤さんのなかで分けているそう。

当時は会社勤めしていたこともあって、「near design」は地域支援を通して何か面白いことが仕掛けられたらいいかな、って思って始めました。だから「granew design」のような営利目的のビジネスではないんです。

支援する気持ちを込めて、ちょっと安く、「その分がんばってください」という気持ちで受けています。でももちろん、クオリティは落としません!

「near design」を始めたことで、少しずつ地域と関わるようになっていた佐藤さんのところに、今度はまた少し違った風が吹きます。ある社会福祉法人の仕事をお手伝いしていた際に、「イベントでコーヒーを出したいのだけど、佐藤さんできない?」と、声をかけられたのです。

コーヒーの知識はまったくなく、むしろ好きじゃなかったという佐藤さんですが、「とにかく一回やってみよう」と、知り合いのカフェオーナーが開催していたコーヒー教室に参加。そこで今まで知らなかったコーヒーの魅力にハマってしまいました。

コーヒーを淹れてると、いい香りに引き寄せられて人が集まってきたり、場の雰囲気がすごく良くなることがわかって。イベントにも「私出ます!」って言っちゃいました(笑)

それから、「コーヒーめっちゃいいじゃん、自分でやりたい!」って思うようになって、場所を探して。そうしたら、すぐ近くに鹿手袋会館という自治体の施設があって、借りられることが分かって。

そこで月に1回、和室スペースを借りて「シカテカフェ」を始めました。

最初は5〜6人、佐藤さんの知り合いが集まることから始まった「シカテカフェ」ですが、噂が噂を呼んで、地域の社会福祉事業のひとつとして場所代を補助してもらえることに。毎月1回、すでに開催は20回を数え、今では地域の恒例イベントになっているそうです。

畳の部屋で開催されるシカテカフェには、老若男女さまざまな人が集まります。地域の方がつくる焼き菓子の販売やワークショップなども加わり、回を重ねるごとににぎやかさを増しています

私はただ好きなコーヒーを淹れてるだけなんですけどね。でも、まわりからは今流行ってる地域サロンみたいに見られて、「佐藤さん、いいことしてるね!」って言われて、「え〜」みたいな(笑)

それまで一応自治会には入っていたんですけど、正直何やってるか分からなかったんですよね。でも自治会の掲示板にポスター貼らせてもらったら、老若男女問わずいろんな人が集まるようになって。自治会のことも分かってきて、地域とつながるきっかけになりましたね。

ご縁に引き寄せられるようにじわじわと、地域に根を張り始めた佐藤さん。物語は、次のひらめきで一気に大きな展開を迎えることになります。

一夜漬けの企画書で、倉庫に飛び込み営業

シカテカフェが軌道に乗り始めた頃、佐藤さんはふと、自宅から徒歩圏内にある大きな倉庫の存在を思い出します。2010年頃、鹿手袋に引っ越してきたときに見つけていた場所で、当時は「何かできたらいいな」と思いつつも何も動かずにいました。でも、そのときの佐藤さんは違いました。

ここでマーケットやろう! って急に思い立ったんです。一夜で企画書にまとめて、次の日に電話も何もせず、トントンって事務所に行って。「こういうイベントやりたいんですけど、借りられますか?」って飛び込み営業しちゃいました(笑) ダメ元ですよね。

休日は使われていなかった倉庫の大きな屋根付き空間に、佐藤さんは心惹かれていました

しかしそこには、何かの縁があったに違いありません。その年の企業スローガンが「地域交流」だったこともあり、倉庫の長を務める女性と意気投合。「本部に許可を取ります」と答えてくださったのだとか。一度は本部から厳しい回答が来ましたが、佐藤さんが直接話すことで解決。「near design」を法人化していたことで信頼も得られ、マーケットの開催が決まりました。

グラフィックデザイナーの佐藤さんにとって、チラシ作成はお手の物。デザイン性の高さも、多くの人を惹きつけました

マーケットの経験もなく、ひとりで思いつき企画した佐藤さんでしたが、Facebookで告知し、倉庫の企業にもチラシの裏側やフリーペーパーに求人情報を載せることで恩返しをするなど、自分のこれまでの経験を次々につなげながら、着々と準備を進めていきました。

それが、実は順調ではなくて(苦笑) 倉庫が医療品を取り扱っている関係で、飲食の出店がNGになっちゃったんです。どうしよう、って思っていたとき、「鹿手袋会館あるやん!」って思って。

鹿手袋会館で飲食店を出して、あとは近隣のカフェやギャラリーなど、いくつかまわってスタンプラリーにして。「マーケット+まち歩き」みたいな企画にしたんですよね。

佐藤さんのアイデアが功を奏し、出店者はなんと80店舗も集まりました。得意とするチラシ制作はもちろん、募集告知や出店者の方とのやりとりも、全部ひとりで仕切った佐藤さん。当日は10人ほどのボランティアの手を借りながら、2015年6月、「第1回シカテ一畳マーケット」は大盛況のうちに終わりました。

当日の様子は、ぜひこちらの動画を。2016年5月には第2回も開催し、小さなお子さんからご高齢の方まで、多くの人でにぎわいました。

「地域に何もない」という恐れを感じて

さて、まだ“住み開き”に至る物語の途中ですが、きっかけや気づきをすぐにアクションへとつなげる佐藤さんの行動力に、既に圧倒されている読者の方もいるのではないでしょうか。

インタビューを担当した私も、そうでした。なぜ、この人はこんなに行動するのだろう。どこからこのパワーは来ているのだろう。自分の中に生まれた問いを正直にお伝えすると、佐藤さんは、こんなうれしい言葉をくださいました。

4年前くらいからgreenz.jpの記事を読みはじめて、みんなめっちゃ自由じゃん、って思って。会社に属してても属してなくても、思いつきでも、やらないよりやったほうがいいじゃん、失敗しても死ぬわけじゃないしって。だいぶ勇気づけられました。

きっかけは5年ほど前。Facebookで、たまたまMAD Cityが仕掛けたアーティストインレジデンス「PARADISE AIR」を知った佐藤さん。その自由な発想に衝撃を受け、情報を検索する中で、虎ノ門の「リトルトーキョー」が始まることを知り、たどり着いたのがgreenz.jpだったと、振り返ります。

それをきっかけにいろいろなイベントに参加したりし始めたんですが、「みんな動いててかっこいい、私もやってみよう!」って思ったんです。

グリーンズの「オープンランチ」(2012年頃開催していた出入り自由なランチ会)にも行きましたが、面白い人めっちゃいるやん、ってワクワクしましたね。

でも震災より前は、今のような地域活動ではなく、面白いものを求めて東京へ出かけていたのだとか。

「地元で地域活動をしてる若い人はあまりいない」、「都内に行かないと面白いことできない」って思ってたんですよね。

でも震災があってから、怖くなって。東京行って帰って来られなくなるのは嫌だな、っていうのもあったし、ご近所さんに誰がいるか本当にわからなかったし。

震災のときは家にひとりでいたんですが、たとえば、お水が止まったらどこでもらえるかとか、知らなくて。そういうことを全然気にしてなかったんだな、ってことに気づきました。気づいたら、地域に何もないなあ、みたいな。

震災前はまったく感じていなかった、言い知れぬ不安に襲われた佐藤さん。それ以来、地域とつながりたいという気持ちが生まれ、突き動かされるように行動し始めたのです。

それからですよね、「near design」を始めて、カフェもマーケットもやって。急に、いろいろなところにアンテナが立ったんでしょうね。

今思うのは、狼煙を上げておけば、気づく人は気づくんだな、って。それまではまったく地域との接点がありませんでしたが、今は地域の若い人たちともつながれるようになりました。

デザイン要素も入れているので、ちょっと違うことをやり始めていることに気づいて、連絡くださったり、来てくれたり。いろいろな出会いがあります。

シカテ一畳マーケットのオリジナル「しかてーしゃつ」は、もちろん佐藤さんがデザインを手掛けたもの。親しみやすくいデザインが、地域の人々を惹きつけています

佐藤さんにとって、これらの活動は“狼煙”。その最たるものが、住み開きなのです。

やっぱり自分も拠点がほしい、コミュニティの場を自分で持ちたいって思ったんです。

住み開きにしたのは、主がずっとそこにいないと、いろんな意見が入ってきて揺れたりするから。自分が住んで、何か言われても「自分の家だから」って弾き出せるくらいのパワーがあるところがいいな、って思ったんですよね。

佐藤さんの自宅に掲げた「さとうさんち」の看板。親しみやすく、自宅にも溶け込む、さすがのデザインです

2016年秋、佐藤さんは自治会の方に紹介してもらった物件に引っ越し、「さとうさんち」をオープン。月・水・金の週3日、10時〜18時まで、自分の家の一室を、地域の人々を受け入れるコミュニティスペースとして開放しました。12月にはgreen drinks Saitamaも立ち上げ、この地域での暮らしはますますにぎやかさを増しているようです。

「さとうさんち」で開催した第1回green drinks Saitamaの様子。約15人が集まり、それぞれの活動と想いをシェアしました

気づいてしまったから、「狼煙」を上げます

地域活動は、身近にさまざまなつながりが生まれて、楽しいもの。でも、一方で、煩わしさも伴います。同じ趣向性を持った同質の人とつながるのは、楽で居心地がいい。でも、地域という物理的な条件下のコミュニティでは、まったく異なる価値観を持った人たちとやりとりしなくてはならない場面も出てくるでしょう。

自治会館を借りたりすると、否が応でも地域のおじいちゃんたちと話さなくちゃならないし、イベントのときは自治会に言いに行って、交番にも届けて。いや〜、本当に気を使いますね。

私はここに生まれ育ったわけじゃないから、向こうからしたら「あなた誰ですか?」って感じだろうし(笑)

そんな逆風を感じながらも、なぜ佐藤さんは動き続けるのでしょうか?

実は、自治会の人から声をかけてもらって、最近民生委員になったんです。それで、困っている人のお家を廻ったりして…気づいちゃったんですよね。

超高齢化社会はすぐそこだし、行政に頼ってるだけじゃ本当に不安だし、福祉や介護の問題も、自分もいつか直面するかもしれない。一人ひとりができることをやって、地域で助け合っていかないとどうにもならないんだなって。

私、一見ただ楽しい活動をやっているだけのように見えますよね。まあ、確かに、まず自分が楽しめないとダメ!とは思ってますけど(笑) でも、本当に気づいてほしいのは、そこだったりするんです。気づかなきゃ気づかないんですけどね、私の場合は気づいちゃったから。

気づいた者として、佐藤さんは狼煙を上げ続けます。

どんどん仕掛けていって、できれば、自分だけが仕掛けるんじゃなくて、そういう動きが埼玉にいっぱいできるといいな、って。

「できるじゃん!」「動けばいいじゃん!」みたいな気づきのきっかけを、自分でどんどんつくっていこうと思っています。私にとっての、greenz.jpの記事みたいに。

「さとうさんち」には、People’s Books vol.07『ソーシャルデザイン白書』も置いてくださっています

佐藤さんが言うように、greenz.jpというメディアも、ほしい未来のつくり手が「狼煙」を上げられる場所になりたいと思っています。たとえ道半ばでも、何かに気づき、何かしたいと思ったときに、「ここにいるよ!」と合図を出せる場所。そしてその狼煙に気づいた人とつながり、次へと歩み出す一歩をアシストしていける存在でありたいのです。

私はgreenz.jpを読みはじめてオープンランチに参加して、応援したいと思ってgreenz peopleになりました。でも半年ほど経って、なんのためにpeopleになっているかわからなくなってしまって、一度別れを告げたんですよね(笑)

でも、「さとうさんち」を始めたとき、また戻ろうって思ったんです。地域で狼煙を上げても、やっぱり私一人では力不足で。greenz peopleのFacebookグループで知らせたら、絶対誰か来てくれるだろうな、って。

そうしたら、本当に、近所に住んでいるgreenz peopleの人が突然遊びに来てくれたんですよ。「あー、いた!」って感じ(笑)

greenz peopleコミュニティに狼煙を上げたことで、ご近所に住むgreenz people・押切重喜さんとつながることができました

でもまだまだ足りません。もっともっと近くの人とつながりたいし、他の地域でも自分たちで何か行動している人たちに出会えたら、またいろいろ始まるんだろうな、って。

そしてみんなの少しずつの力が、とてつもなく大きな力となって私たち自身を支えてくれるんじゃないか、って思うんです。

だから私の「ほしい未来をつくるためにほしいもの」は、たくさんの人とのつながりです。いつでも、「さとうさんち」でみなさんのことをお待ちしています!

佐藤さんの狼煙は、greenz peopleというコミュニティを通じて、少しだけ広くまで届いた様子。でも、「まだまだ届けたい!」「仲間がほしい!」と願っています。

・さいたまを愛してる
・さいたまで楽しく暮らしたい
・さいたまで地域活動の仲間がほしい
・シカテの取り組みを手伝いたい

そんな読者のみなさん、ぜひ佐藤さんへ直接連絡してみてください。佐藤さんとつながることから、一緒にほしい未来へと歩み出してみませんか?

【佐藤真実さんの連絡先】
Facebook https://www.facebook.com/granewdesign
メール info@granewdesign.com

– INFORMATION –

【第2回】Green Drinks Saitama at.路地裏 Garage Market 2/19開催決定!
詳細・参加申し込みは、イベントページをご覧ください。