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自然とつながって、自分らしく生きる。小さな小屋と小さな庭「コロニヘーヴ」を伝えるイェンス・イェンセンさんを訪ねて

みなさんはコロニヘーヴを知っていますか?

コロニへーヴとは、北欧・デンマークにある「庭を持てない人が週末、自然を感じながら、家族との時間を楽しむために通う場所」のこと。

1区画に小さな小屋と小さな庭があり、それが5つ以上集まっている集合体のことを「コロニヘーヴ」と呼びます。デンマークでは200年以上も前から息づいているのだとか。別荘のように特別な場所ではなく、公営で賃貸形式のものがほとんどだといいます。

このコロニヘーヴを、日本で、都会の様々な暮らしの課題に対し、「もっとゆっくり自然と関わりながら日常を楽しもうよ」と普及活動する人がいます。デンマーク生まれ、育ち、今年で来日14年というイェンス・イェンセンさんです。

9年前、日本の都会の暮らしに疑問を持ち、デンマークのコロニヘーヴの一区画を再現した「エノコロ」というモデルハウスをつくり、その普及に力を注ぐイェンスさん。

今回は、日本コロニヘーヴ協会代表イェンス・イェンセンさんのインタビューをお届けします。コロニヘーヴのこと、イェンスさんのお話から、ぜひ、都会で暮らしながらも、自然と関わりながら日常を豊かに暮らすこととは何なのか、そのヒントを受け取ってください。

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Jens H Jensen(イェンス・イェンセン)
日本コロニヘーヴ協会理事長。デンマーク出身、2002年来日。北欧の料理やデザイン、DIY などのライフスタイルを提案する活動を中心に手づくりの暮らしを実践中。2010年、デンマーク式コミュニティーガーデン「コロニヘーヴ」を日本に広める活動として、「日本コロニヘーヴ協会」を設立。www.kolonihave.com

都会に住みながら自然とつながりなおすガーデンコミュニティ

まずは、日本唯一のコロニヘーヴのモデルハウスをご紹介する前に、デンマーク発コロニヘーヴについて少し詳しくお伝えしましょう。

コロニヘーヴとは、集合体を意味する「コロニー」と庭を意味する「ヘーヴ」、つまりデンマーク式のコミュニティーガーデンなのです。デンマークの場合、一般的なひとつの区画の大きさは100坪強、その形が20〜30区画ほど集まったものをコロニヘーヴと呼びます。

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デンマークのコロニヘーヴ。奥の小屋1区画のすぐ左にまた1区画小さな小屋と庭があります。これがいくつも集まった集合体がコロニヘーヴです。

公共機関の運営のものが多く、大きさはそれぞれですが、年間約30,000円ほどで利用できるものが一般的なのだそう。

日本では類を見ない施設ですが、暮らしの中で庭が不可欠なデンマークではとてもポピュラー。都会でマンションやアパートなどに住みながら働いていても、週末は自然の中でリフレッシュする、そんな暮らしを大切にするデンマークでは、特に都会で暮らす人がコロニヘーヴを利用しています。

それでは、日本で唯一コロニヘーヴの1区画である小さな小屋と小さな庭をつくり、コロニヘーヴの理念を伝える場として開かれている場所、「エノコロ」をご紹介しましょう。神奈川県は小田原市、江の浦と呼ばれる山手の土地に、その場は開かれています。

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東京駅から約90km。1時間半ほどで到着する小田原・根府川駅が最寄り駅です。

山から海にかけての傾斜のある土地、その1区画にひっそりと佇む小屋とガーデン、ここが「エノコロ」です。デンマークではコロニヘーヴは小屋とガーデンの集合体ですが、ここにはエノコロ1区画があり、周りは山という環境が広がっています。

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半セルフビルドされた小さな小屋。内部はロフト付きでくつろげる仕様に。

エノコロの敷地の広さは、およそ200坪。デンマークではもっと小さい規模でガーデンと小屋を持つそうですが、エノコロでは一軒の小屋の庭に様々な果樹が植えられ、季節ごとに収穫が楽しめます。

基本的に、ガーデンは収穫を目的にしたものではなく、自然を感じるための庭という位置付けです。そこで採れるハーブや野菜は自然の中で過ごす余剰、産物だといいます。さらにコロニヘーヴの象徴ともいうべき小屋の面積は3坪ほど。キッチンなどはなく、小さな本棚や小さな机などがシンプルに整えられています。

エノコロの小屋の完成は2008年のこと。日本コロニヘーヴ協会代表のイェンス・イェンセンさんを中心に、地元の人や仲間たちと半セルフビルドで建てたのだそう。江の浦にできたことから”エノコロ”と名付けられ、その立ち上げから完成までは一冊の著書として紹介されたほどです。

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コロニヘーヴができるまでとその後のガーデンつくりなどを詳しく記したものは書籍化されるまでに。注目度の高さを感じます。

以来、”エノコロ”は月に一回のオープンデーを設け、デンマークに脈々と息づくコロニヘーヴを伝えるモデルハウスとして、また、創設者イェンスさんのライフスタイルのひとつ、家族と週末を過ごす場として開かれています。

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都内から家族で参加する人も多いそう。敷地にある川でのサワガニ採りは子どもたちに大人気!

特筆すべきは、そのオープンデーでの光景です。

注目度が高いゆえに定員15名は毎回すぐに満員。ただ、エノコロではなにか特別なことをする、学ぶといったことは一切決まっていません。なにもしないのもあり、やりたい人がやりたいことをやる、それがエノコロのオープンデーです。

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みんなで食べるランチつくりもやりたい人がやる。食材はガーデンから収穫したい人がする。その場を思い思いにすごす場所。

週末自然の中に戻ることで、それぞれがなにかを感じる場所として、また、それを日本で普及することを目指し、エノコロは開かれたコミュニティとして親しまれています(冬季と8月はクローズ)。

これまで訪れた人はのべ1000人を超えるほど。江の浦の絶景と共にエノコロの魅力はこれからもたくさんの人を魅了していくことでしょう。

都会でも自然と寄り添うことのできるライフスタイルを

現在、神奈川県は鎌倉でご家族と暮らすイェンスさん。エノコロ立ち上げ当時は東京でマンション暮らしをしていたそう。東京で仕事をしながら、日本でコロニヘーヴをつくり、広めるまでに至った理由はなんだったのでしょうか。

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奥様とふたりのお子さん、鶏(!)と、自身がセルフリノベーションした住まいで暮らすイェンスさん。

14年前、デンマークの大学で日本の文化を学んでいたイェンスさんは、すぐに来日し、東京で仕事をはじめました。

でも、東京の暮らしを続ける中ですぐに自然が恋しくなってしまったんです。

週末になると、様々な場所へ自然を求めて出かける日々。そんな暮らしに疑問を持っていたとイェンスさんはいいます。

なぜ、東京での暮らしはこんなに自然と離れてるんだろうと思いました。

デンマークでは、都会で暮らしながらも、自然と離れすぎないようにコロニヘーヴというものがあるので、日本でもあるはずだと思い探してみたんです。でもなくて。これはつくるしかないと思ったのが2007年のこと。場所探しが始まりました。

東京から週末通える場所をと、千葉県房総や神奈川県の山手など探しながらも時は過ぎていきます。すると、アウトドア雑誌などを手がけるエイ出版社の知人から「良い場所がある」とここ小田原を紹介されたといいます。

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相模湾と山の緑がワンフレームに収まる、まさに絶景。

一目で気にいりました。土地のオーナーもコロニヘーヴに興味を持ってくれて、ここにつくろうとなったんです。すると、エイ出版社の方からつくるまでを本にしないかというお話をもらって。

自分にとって、コロニヘーヴは特別なものではなかったので、興味を持ってくれる人がいることに最初は驚きました。でも、日本の都会の暮らしには、コロニヘーヴの文化はきっと必要だと感じたので、個人のためだけのものじゃないコロニヘーヴつくりを始めたんです。

東京での自然とかけ離れた暮らしでは、自分らしく生きていけない。そんな息苦しさから始まったイェンスさんのコロニヘーヴつくりは、都会でも自然と寄り添うことのできるライフスタイルの提案の場としても動きはじめました。

さらに、イェンスさんは都会でこそコロニヘーヴをライフスタイルに取り入れるメリットについてこう語ります。

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料理もDIYも得意なイェンスさん。料理本などの著書も手がけられている。

家とかいて、庭とかいて、家庭ですよね。

今、都会を見渡すと家ばかりで、庭がなくなってる。それは家庭の半分がなくなってる状態です。ここでいう庭っていうのは、自然と触れ合うってことです。自然が教えてくれることはいっぱいあるのに、その学びを知らないと、自然が敵になってくる。

例えば、家の中でエアコンをバンバンかけるとか、エネルギーの課題も身近ではなくなってしまいますよね。自然と離れすぎると、暮らし自体が他人事になっていくんです。

だから、もっとコロニヘーヴが普及していけば、都会に住んでいても自然が近くなるよねってことです。

焚き火をして、収穫をして、焼いて食べる。小さな小屋の中で家族と語らうと、暮らしを実感できる。そんなシンプルなことが日常だという感覚を取り戻していく場としてもエノコロは機能していると思うんです。コロニヘーヴが日常的になっていけば、都会でもすごく豊かな暮らしができます。

更に、エノコロは自然と人をつなぎなおすツールでありコミュニティだとイェンスさんは続けます。

エノコロは流動的なコミュニティなんですよね。

今はコロニーヘーヴが日本でここにしかないからか、想いの近い人が集って、つながって、どんどん友だちになっていっています。ここで出会って結婚したカップルもいるんですよ。

都会に限らずですが、今、隣に誰が住んでいるかわからない、同じ場所で暮らす人々が断絶した状態ですよね。そんな不自然なコミュニティが常識になってます。

でも、エノコロをオープンにすることで、北欧が好きだったり、コロニヘーヴに興味があったりする、共通点のある人たちが集まってきます。するとお互いのことを知っている新しいコミュニティが生まれる。自分がつながりたい人たちとつながるツールでもあるなと思います。

エノコロのように自然の中にある場でこそ学び、何かに気づくことができるコミュニティが生まれるんですよ。デンマークとは違うけど、そこがここのおもしろいところです。

都会に住みながらも自然を感じる暮らし。そこには、自分たちの暮らしを他人事にしないヒントが多くあるとイェンスさんは教えてくれました。

自分らしく生きる、暮らすために

現在、日本でデンマークの暮らしを実践しながら、コロニヘーヴを始め、料理やDIYを紹介した著書を出版したり、自分の暮らしに寄り添いながら、仕事をし暮らすイェンスさん。

田舎ではなく、あえて都心に近い場所で自然体のまま、自分らしく暮らすイェンスさんにとって、暮らすとはどういうことなのか伺いました。

暮らすっていうことは、本来生きるっていうことです。僕が生きる、暮らす中で、焚き火もDIYも、週末ここにくることも必要であり、今はそれが日常です。都会で、自分の暮らしを見つめた時、やりたいことは何かを探しながら暮らしていたら、ここができて、会いたい人に会えて、びっくりするような嬉しいことが起こったっていう感じです(笑)

でも、さっき「庭=自然」っていったけど、それはただ単に自然の中にいようってことではないんです。

もっと深い部分、 余暇の取り方であるとか、暮らしが生きる時間であるとか、そういうことを思いだすことが大事なんです。

会社の仕事の時間に束縛され、本来の暮らし、生きる価値を見失ってる。それを想い返せる場所が僕にとっては自然の中だってことです。

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日常を楽しむことを取り戻す暮らし方へ。

自分らしく暮らす、生きること、イェンスさんは暮らしを明らかにすることで実現できるといいます。

例えば、この小屋は自分で建てたから、今見えているこの壁の裏側まで自分は知っている。隠し事のない全部明らかな状態。すると安心するんです。

僕にとって自分らしく暮らすこと、安心できる暮らしを手にいれること。

加工食品の裏のラベルを見て、なにが入ってるかよくわからない、それは不安なことです。不安がないように、できるだけ料理をしたり、ものをつくったり、食べ物をつくったりする。すると、暮らし自体がすごく透明になる。そこが自分にとって、暮らしをつくる基本なんだと思います。

暮らすことにおいて、「安心感」こそが豊かな生き方につながる。その安心感は、様々なことを他人事にする暮らしでは得難いとイェンスさんは続けます。

今、お金がないと死んじゃうって漠然とした不安を抱えている人が多いと思うんだけど、それは、暮らしが複雑だったり、自分ごとになっていないから。自分の暮らしを自分でつくっていれば、いわゆる、社会の大きなグリッドを頼らなくても安心して暮らせる。

人間は本来、シンプルなもので暮らしていて自然の循環の中で生きていたんですよね。

人間らしい暮らし、シンプルに生きるということはそういうことで、ほっとするんですよ。

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自然の中にあるものを生かし、やりたい人がやりたいことをして、でき上がるランチ。贅沢な品々がテーブルを飾りました。

安心とは、お金や組織に頼るのではなく、自分自身の力と自分の信頼できるコミュニティの中から生まれてくる。イェンスさんはそう教えてくれました。

日常を楽しむ暮らしへ

デンマークの豊かな文化、コロニヘーヴを日本でつくり、広めようと活動するイェンスさん。デンマークのような集合体をつくるまで、まだまだ旅の途中だとイェンスさんは笑います。

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非日常を楽しむのではなくて、日常を楽しんだほうがなんだかいいじゃないですか。

コロニヘーヴがもっともっと増えて、過疎した街に人の交流が増えたり、週末自然の中で家族のんびりする時間を持つ暮らし方を広めていけたらいいなと思います。なかなか普及活動は難しいけど、そんな街や村にいつか出会うまでの旅路を楽しみたい。

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週末、自然の中で大きくのびをする場所、そんなエノコロです。

どこに暮らすのか、どう暮らすのか、それは、暮らす場所ではなくて、自分がどうしたら安心して暮らせるのかを見つめていくと、自ずと見えてくることなのかもしれません。

あなたが本当に安心できる暮らしとはどんな暮らしですか?イェンスさんの言葉からぜひそのヒントを見つけてみてください。

(photo: 寺島佑)