みなさんは最近、映画の上映会に参加しましたか?
個人がイベントスペースで開催する小さな上映会から、最近では多くの人が野外に集まる大規模なものまで。
パソコンとプロジェクターさえあれば映画を上映できる昨今、誰といつどこで映画を楽しむか、その選択肢がどんどん増えつつある気がします。普段は出会うことのない人たちと、訪れたことのない場所で映画を観るのは、なかなか新鮮だったりしますよね。
今回ご紹介するのは、国籍もばらばらな参加者が、アジア各国の短編映画を7本を観て、ディスカッションを行う映画上映会「Red Dot Cinema」です。2015年にスタートして以来、日本のみならず、マレーシア、シンガポール、台湾、パナマなど、計18カ都市で開催されています。
アジアの社会や文化をもっと知ってほしい
「上映会を通じてアジアの社会や文化をもっと知ってほしい」そんな思いから生まれた「Red Dot Cinema」は、開催場所も来る人も主催者も観る映画も、とにかくすべてがインターナショナル。
私が京都で開催された「Red Dot Cinema」に参加したときも、日本人と外国人の比率はちょうど半分くらい。そこで日本の作品が上映されると、「ほかの国から来た人の目には作品がどう映っているのだろう?」 そんな疑問がふつふつとわいてきました。
国籍も文化もちがう人が隣に座っていると、いつもと少しちがう視点から、自分の国を見返すことができる。「Red Dot Cinema」はそんな機会をくれる場所なのです。
(京都の上映会後の集合写真)
主催者は香港出身シンガポール育ちのTong Cheuk Fung(以下、トンさん)と、上海生まれ上海育ちのYun Shi(以下、ユンさん)。
そこでは、いったいどのような映画が上映され、どんなコミュニケーションが生まれているのでしょうか? 現在はシンガポールで暮らす主催者のお二人に、じっくりお話を聞いてきました。
(左から3番目がユンさん、4番目がトンさん)
アジアの短編映画だけの上映会
「Red Dot Cinema」が始まるきっかけとなったのは、トンさんが京都と大阪で働いていたころ定期的に開催していた上映会でした。
当時、外部の組織から上映用に映画を貸してもらっていたところ、ほとんどの作品が欧米で制作されたものだったことから、「もっとアジアにフォーカスした上映会をやりたい」と思い始めるようになったのだとか。そんなときに、日本を旅行していたユンさんと偶然出会い、一緒にプロジェクトを進めることになりました。
ユンさん もともと父親の仕事で幼いころから記者会を見に行ったり、カメラマンとしての初仕事がアーノルド・シュワルツェネッガーの撮影だったり、映画と縁のある人生を送ってきました。
わたし自身も「アジアは全部一緒」と思っている人に、それぞれ違う文化を持っていることを伝えたいなと感じていたこともあり、彼から初めて話を聞いたときから、とても良いアイデアだなと思いましたね。
あえて”現実的”な問題を取り上げること
「Red Dot Cinema」で上映される映画の本数は7本。ユンさんが”それぞれの作品を比較して楽しめるように”作品を選び、直接プロデューサーや監督とやりとりをしているといいます。
そうして観客に届く作品は、可愛らしいアニメーションもあれば、シリアスなドキュメンタリーも。文化や社会を紹介するイベントというと、綺麗でポジティブなものだけを取りあげることが多いなか、トンさんは「ちゃんと現実的なテーマの作品も紹介」することをポリシーとしています。
トンさん 「Red Dot Cinema」では、現実的なものや社会課題についても発信していきたいですね。知られていない現実をみんなにみて、考えて欲しい。例えば、僕にとって思い入れの深い『DESTINY(Duyên Nợ)』というドキュメンタリーがあります。
(『DESTINY』Grace Chew)
トンさん 作品では、シンガポール人男性と結婚して豊かな生活を手にいれたいベトナム人女性、その家族たち、結婚を仲介するエージェントを取り上げています。
シンガポールでは、結婚できない一部の男性が外国人と結婚するケースがよくあるのですが、こういった女性の生活は外国人の多いシンガポールでは埋もれてしまって、あまりみんな考えることがないんです。
上映会が生む、文化と社会を再理解するサイクル
(上映会の開催場所はカフェやコワーキングスペース、ビルの屋上などさまざま)
毎回異なる都市で開催されている「Red Dot Cinema」には、現地の人だけではなく、アジアや欧米出身の外国人も多く集まります。以前、台湾にある外国人の少ない小さな村で上映会を開催したときは、現地の参加者から「上映会にいた外国人の方を通して、外国の文化を知ることができた」という感想もあったのだそう。
生まれ育った文化や社会が異なる参加者が交流する「Red Dot Cinema」では、自国の社会や文化を少し違った視点から眺めることができると、ユンさんは言います。
ユンさん 以前、先生からのいじめを苦に自殺したトランスジェンダーの生徒を描く、タイのドキュメンタリー『Consider』をシンガポールで上映しました。
そのときタイの人はそんなに敏感に反応していなくて、「別にこんなの普通のことだ」と感じている様子だったんです。けれど、上映会にいたタイ以外の国の人は「タイではこんなにトランスジェンダーに対する意識が進んでいるんだ!」と驚いているんですよね。
そのリアクションを見てタイの人は「そうか!うちの国はトランスジェンダーについて他の国よりも一歩先を行ってるんだ」と再認識することができる。「Red Dot Cinema」では自然とそういう仕掛けができているんです。
(『Consider』Panu Saeng-Xuto)
ユンさん また、台湾のアニメーションで『On Happiness Road』という作品を上映しました。
すると、シンガポールにいる中国系の人は台湾の方言に似た言葉を話すので、何を話しているか理解できるようでした。昔の台湾を描いたお話なのに、シンガポールの中国系の人は、そこで自分たちの文化と出会うことができるんですよ。
(『On Happiness Road』(幸福路上)Hsin-Yin Sung)
シンガポールと日本の国交50周年「SJ50映画祭」
自分の社会や文化を改めて捉え直す機会をくれる上映会「Red Dot Cinema」。この12月には、シンガポールと日本の国交樹立50周年を記念した特別な上映会「SJ50映画祭」の開催を予定しています。
トンさん 短編映画を通じて日本とシンガポールのことを互いにもっと理解できたらいいなと思って企画しました。シンガポールはマーライオンとマリーナベイサンスだけじゃないこと、そして日本も富士山と東京だけではないことを知ってほしい。何より普段はなかなかみえてこない社会課題も含めて伝えたいと思っています。
いつものように短編映画を上映するものとは違い、今回はシンガポールもしくは日本で撮影された作品を25本上映する特別なイベント。しかし、「Red Dot Cinema」が伝えようとしていることは、いつもの上映会とぶれることはありません。
トンさん シンガポールって道端にゴミを捨ててはいけない綺麗な国。そんなイメージがあると思います。
けれど、シンガポールにもホームレスはいるんです。しかし、数年間シンガポールで暮らしている僕たちにも彼らの姿は見えてこない。清潔で綺麗な国というイメージの裏にホームレスがいること、困っている人がいるということも含めて、みなさんに知ってもらいたいと思います。
また、上映する作品のなかには日本の在日韓国人についての作品もあります。とにかく色んな人種、色んな国の人を受け入れてきたシンガポール人にとって、日本における在日外国人のあり方については疑問に思うところがたくさんあるんです。そうしたリアクションをみて、日本の方も社会や文化の違いを感じられるはずです。
これからの「Red Dot Cinema」
人に楽しんでもらうことが好きだというトンさん、普段は日本企業の海外進出支援のコンサル会社を経営するなど、多忙な日々を過ごされています。そんななかでも「Red Dot Cinema」を続ける理由はいったいどこにあるのでしょうか?
トンさん いまは正直、作品探しも会場探しも集客も大変です。短編映画ってやはりメインストリームではないですし、短編映画ってそもそもなにが面白いのと言う人もいます。
けれど、自分たちがやっていることには価値があると信じています。これから経済的にアジアの国が発展していくなかで、きっとアートやデザイン産業も進み、よりよい作品も生まれてくるはずです。
僕自身も短編映画を通して、身近にあるのに見えてこない社会問題に出会うことができました。見えないからといって存在していないわけではない、そういう問題をより多くの人に知ってもらいたいんです。
忙しい日々の色々に追われるなかで、「身近にあるのに見えてこない」文化や社会の隅々にまで目を向けることは、なかなかできることではありません。
しかし、短編映画数本分の時間だけでも、外の世界に目を向ければ、きっとこれまで意識してこなかった社会や文化の断片がみえてくるはず。そうして得られた発見に、外部からの視点が合わさることで、自分の周りにある見えない社会や文化が浮かび上がってくる。そんなサイクルが生まれている上映会「Red Dot Cinema」に、ぜひみなさんも足を運んでみてはいかがでしょうか?
– INFORMATION –
イベント詳細:
SJ50映画祭は日本とシンガポールの短編映画の上映会を通して両国間の国交樹立50周年を祝う非営利のイベントです。このイベントを通じて互いの国に対する理解を深め、両国の未来ある映画監督たちが交流し、刺激を受け、新たなコラボレーションを生む機会を提供します。 SJ50 映画祭上映会はシンガポールと日本で開催することになります。
日時:
2016年12月3日(土曜日)、4日(日曜日)
会場:
日本アセアンセンター
〒105-0004 東京港区新橋6-7-19 新御成門ビル1階
チケット:
無料
ご支援・寄付をお願いします。
2016年12月3日、土曜日
セッション1:午前11:00時〜12:00時(1時間)
セッション2:午後12:45時〜13:45時(1時間)
セッション3:午後14:00時〜15:30時(1.5時間)
セッション4:午後15:45時〜16:45時(1時間)
セッション5:午後17:00時〜18:00時(1時間)
2016年12月4日、日曜日
セッション1:午前11:00時〜12:30時(1.5時間)
セッション2:午後12:45時〜14:15時(1.5時間)
セッション3:午後14:30時〜15:30時(1時間)
セッション4:午後15:45時〜16:45時(1時間)
セッション5:午後17:00時〜18:00時(1時間)
申し込みページ
http://sj50ff-tokyo.peatix.com/view
Facebook イベントページ
https://www.facebook.com/events/182055475586006/