12/19開催!「WEBメディアと編集、その先にある仕事。」

greenz people ロゴ

ヘルシーな食生活はお金持ちだけのものじゃない! 独自のビジネスモデルを展開して「Everytable」が目指すのは、誰もが健康的な食事を楽しめる社会

540_001
©Everytable Facebook

こちらの記事は、greenz peopleのみなさんからいただいた寄付を原資に作成しました。

お弁当を準備する時間もないまま慌ただしく出勤した日のランチタイムや、仕事でクタクタになって夕飯をつくるのも億劫になった夜。待ち時間も少なく食事が購入できるコンビニやファストフード店は、私たちにとって便利で助かる存在です。

しかし、そうした食事はカロリーが高すぎたり、栄養面に偏りがあったり…。健康面を考えると自炊もしなければと思いつつ、どうしても外食やコンビニ弁当に頼らざるを得ない、という忙しい日々を過ごしている人たちも少なくないことでしょう。

アメリカのカリフォルニア州、サウスロサンゼルスにオープンした「Everytable」は、持ち帰り用の食事だけが並ぶお店。一見、コンビニのお弁当コーナーのように見えますが、一品一品は栄養バランスに配慮したものばかりです。

 
540_008
©Everytable Facebook

メキシコ料理のポソレやチリ、ベトナム風サラダ、ジャマイカ風ジャークキチン、スパゲッティー…。店内には、ホテルやレストランで経験を積んだシェフが考案した、ロサンゼルスの多様な文化を反映したメニューの数々が並びます。
 
540_003
カリフラワー、ケール、ミント、春雨などが入ったベトナム風鶏肉サラダ。(© Everytable)

540_004
メキシコ風のスパイシーボウルは黒豆の他、たまねぎ、トマト、香草などの野菜が盛り沢山。(©Everytable)

540_005
こちらはキッズミール。スクワッシュでできたスパゲッティーに、キノワとターキーでできたミートボールが乗っています。(©Everytable)

驚くのは、その値段。なんと、一食3.95~4.5ドル(404~461円)という安さ! この安さを実現させようと活動する背景には、アメリカにおける食生活の格差がありました。

シングルマザーの声から生まれたアイデア

みなさんは、“Food Desert(食の砂漠)”という言葉を聞いたことがありますか? アメリカ農務省のデータによると、スーパーマーケットや大型食料品店から1マイル(1.6㎞)以上離れ、かつ車や公共交通機関などの移動手段も持ち合わせていない状況にある家庭は、アメリカで230万世帯も存在するといわれています。

こうした新鮮な野菜や果物が手軽に購入できる環境が整っていない地域は“食の砂漠”と呼ばれ、近隣にはマクドナルドなどのファストフード店しかないことがほとんど。住民は健康的な食事を摂ることができず、砂糖や脂肪の過多な食品を摂りすぎる傾向にあるため、肥満や糖尿病、ストレスを被っている割合が高くなるなど、深刻な社会問題となっています。

その反面、高所得者が多く住む地域の近くには、オーガニック食品や健康に配慮した食品が豊富なスーパーマーケットやレストランなどが並び、健康的な食事が常に手に入りやすい環境に。所得格差が、食生活にも如実に影響を与えているのです。

「Everytable」を立ち上げたSam Polk(以下、サムさん)は、2013年に「Groceryships」という非営利団体を設立。一人当たりの年間平均所得が13,000ドル(約133万円)、高所得者の地域に比べて平均寿命が10年以上も短いといわれるサウスロサンゼルスで、栄養バランスの取れた食事の大切さを教える料理教室を開催するなどの活動をしていました。

そこでサムさんは、シングルマザーたちの声を耳にします。

サムさん 家賃や生活費を支払うために仕事をかけもちしているため、子どもたちに料理をつくってあげる時間もない。テイクアウトの食事に頼らざるを得ないけれど、近隣にはマクドナルドなどのファストフード店しか選択肢がない状況だというのです。

誰にでも健康的な食事を楽しむ権利があるはず。そこで、“食の砂漠”と呼ばれるサウスロサンゼルスに住む人々に、美味しく健康的な食事が手に入る選択肢を増やしたいと思いました。

540_006
左から五番目がSam Polkさん、一番右が共同創業者のDavid Fosterさん。 (©Everytable)

持続可能なビジネスになるための仕組み

選択肢の一つとなるためには、ファストフード店と競争できるくらいの低価格で販売することができなければ意味がありません。そこで、サムさんと共同創業者のDavid Foster(以下、デイビッドさん)が考えたのは、経済状況の多様性を敢えて利用するアイデアでした。

サウスロサンゼルス店では、ファストフード店に並べるように、平均価格を4ドル(410円)に設定。一方、今年11月に開店予定のダウンタウン店では平均価格を8ドル(820円)に設定し、全く同じメニューを別の価格で販売します。

サウスロサンゼルス店と比べると高価に感じるかもしれませんが、野菜スムージーに9ドル(923円)、サラダに12~14ドル(1,230~1,435円)、という価格設定が標準的となっているダウンタウンエリアでは、良心的といえる価格設定です。

また、ダウンタウン店で購入する人々にとっては、自分が購入する一食が、サウスロサンゼルスの人々に健康的な食事の機会を与えることにもつながります。「Everytable」のミッションをサポートすることで社会貢献をしている、というメリットも感じることができるのです。
 
540_012
©Everytable Facebook

サムさん 高品質ながら各店で競合できる価格設定を可能にするには、とにかく経費を最小限に抑えることが大前提です。

そこで、各店舗とは別の場所に厨房を設け、全店分を調理、梱包して各店に配達することで、標準的なレストランでかかる経費を削減しています。また、各店舗には最大2名のスタッフと必要最低限の設備だけを配置するなど、効率の良さを追求した仕組みになっています。

540_007
各店舗で利益が出るように、1食あたりにかかる経費は3.85ドル(395円)まで抑えます。(©Everytable)

他にも、売れ残った食事は地元のホームレスシェルターに寄付するなど、食事が無駄に廃棄されることのないよう配慮しているというサムさん。今年7月の開店にあたっては、地域の人々に無料で食事を配り、存在をアピールしました。
 
540_009
ライブ演奏なども行われてにぎわった、オープン記念イベント。©Everytable Instagram

540_010
©Everytable Facebook

greenz.jpではこれまでに、払える人が多めに支払うことで他の誰かのために使われる“ペイ・フォワード”、“恩送り”などと呼ばれる「カルマキッチン」や、一足靴を購入する毎に世界で靴を必要としている子どもに一足が送られる、「TOMS」の“ワン・フォー・ワン”を紹介してきました。

そうしたアイデアに続く、新しいソーシャルビジネスのモデルとしても注目されそうな「Everytable」。デイビッドさんは今後の計画をこう語ります。

デイビッドさん 一刻でも早く、“食の砂漠”から生じるひずみの問題を解決したい。そのために、2016年中に4店舗、2017年末までにはもう10店舗をオープンし、健康的な食事をアメリカ中に広めていきたいですね。

540_011
©Everytable Instagram

健康的で、新鮮で、美味しい食事を摂ることは、人間の権利。「Everytable」の掲げるミッションが、どのようにあらゆる(Every)家庭の食卓(Table)にひろがっていくのか。これからの展開に目が離せません。

[via Co.Exist, EATER LOS ANGELES, abc7 Eye Witness News, CITYLAB]