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モットーは、「てきとー」と「いいかげん」。わたなべあきひこさんの、肩肘張らない地給知足生活のススメ

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わたしたちエネルギー」は、これまで“他人ごと”だった「再生可能エネルギー」を、みんなの“じぶんごと”にするプロジェクト。経済産業省資源エネルギー庁GREEN POWER プロジェクトの一環で進めています。エネルギーを減らしたりつくったりすることで生まれる幸せが広がって、「再生可能エネルギー」がみんなの“文化”になることを目指しています。

みなさんは暮らしの中で、どれだけのものを自分でつくっていますか?
日々の食事、畑で野菜を育てる、家具や洋服をつくる人もいるかもしれませんね。

では、エネルギーに関してはどうでしょう。電力をはじめとして、毎日使うとても身近なもの、そして私たちの暮らしを支える大切なものですが、なかなか自分でつくっている、と言える人は少ないのではないでしょうか。

今回訪ねたのは、さまざまな方法で電力をはじめエネルギーの自給自足にも取り組んでいる、わたなべあきひこさん。「電力を自分でつくる」って憧れはあるけれど、なんだか大変そう? そもそもエネルギーを自給するってどういうことなの?

わたなべさんがどのように暮らし、エネルギーとどう向き合っているのか、伺ってきました。

20年間建築中のパッシブソーラーハウス!?

訪れたのは山梨県北杜市。県の北西部に位置するこの場所は、八ヶ岳や甲斐駒ヶ岳といった山々に囲まれた地域です。わたなべさんのお宅も、目の前には畑、裏には森、そうした山岳景観をぐるりと見渡すことができる、緑の中にあります。
 
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現れたのはまるで海外にあるような、大きな一軒家です。それもそのはず、建築材はカナダにあるホームセンターから家のプラン集をベースにして選んでもらい取り寄せたものだそう。
 
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建物の躯体や基礎工事は業者の方にお願いしたものの、内装やキッチンづくりなどは家族で手がけているといいます。そしてなんと建て始めてから20年経つけれど、いまだにつくり途中だとか!

洞窟のようなお風呂をつくろうと思ってるんだけど、まだ壁が仮のビニール貼りのままで、もう20年もたつというのにまだ完成していないのです(笑)

中はステップフロアでどこの部屋に行くにも廊下がいらないつくりになっています。なかなか完成しないけれど、暮らしながら自分たちで使いやすいように、つくることができるので、家づくりを楽しむことができて、そこが一番いいところかなぁ。

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わたなべあきひこさん

内装が手づくりなだけではなく、実はこの家は自家製の“パッシブソーラーハウス”にもなっています。“パッシブソーラーハウス”とは、省エネルギーを目的として、太陽熱エネルギーを住まいの空調や給湯に生かす住宅の設計のこと。

機械を利用する“アクティブ(能動的)ソーラー”に対して、建物の構造や間取りなどの建築的な工夫によって太陽や風などの自然エネルギーを建築に取り込むものが“パッシブ(受動的)ソーラー”と呼ばれています。
 
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詳しくはこちら。わたなべさんの解説入りの図。クリックで拡大できます。

パッシブソーラーハウスにしたおかげで、室内は夏涼しくて冬温かいので、暖房はこの他に薪ストーブのみ。冷暖房に石油などの化石燃料を使わずに済んでいるとのこと。

ストーブひとつで家全体が暖かいんです。ここは寒冷地だけれど、以前住んでいた横浜の家よりもよっぽどあったかくて、冬の朝、外が氷点下10度でも、室内は薪ストーブを点ける前で13度ぐらいはあるかな。

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太陽熱温水器。春から秋頃まではほとんどこれで給湯できるそう。裏側に100円ショップで買ったエマージェンシーシートを貼ってみたら温度が10度も上がったとか!

燃料は地元のお蕎麦屋さんの天ぷら油!

続いて現れたのは、レトロでクラシックな車。天ぷら廃油、つまり使用済みの天ぷら油で走らせている車です。
 
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軽油タンクと天ぷら廃油タンクをそれぞれ積んでいて、エンジンをかけるときには軽油タンクを使い、エンジンが温まってきたら、その熱で天ぷら廃油を暖め、その後、燃料を天ぷら廃油に切り替えます。

以前は天ぷら廃油を精製したバイオディーゼル燃料を使っていました。でも精製するには汚水も出るし、水酸化物も使わないといけなかった。燃料を暖めてあげる仕掛けがエンジンに必要になりますが、天カスを取り除いただけのストレートの天ぷら廃油を燃料として使う方が環境のために優しいように思います。

今ではトラクターやユンボ(小型のシャベルカー)、それにテーラーなども、ストレートの天ぷら廃油で走ることができるように改造しました。

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天ぷら廃油で走るように改造されているテーラー(運搬車)。「荷台が低いので脱穀機などを運ぶのに便利で、家から少し離れたところにある田んぼへの往復には主にこれを使っています」とのこと。

天ぷら油は、近隣の飲食店に声をかけていて、溜まると連絡がくるとのこと。このあたりのお蕎麦屋さんは、質のいい油を供給してくれる「油田」なのだそうです。

虫と触れ合う暮らしを求めて

わたなべさんが北杜市に引っ越してきたのは20年ほど前。以前は横浜在住で、車の雑誌などでライターとして活動していました。

自動車系の出版社に入ったんですけど、実は新車にはほとんど興味がなかったんです。だから好きなことをやりたいと思って、何かモノをつくることは好きだったので、古い車を修理したりつくったりする連載をやっていました。

どんな環境でも好きなことをつくりだして自分で楽しんでしまう! そんなわたなべさんの生きる姿勢が垣間見られます。

そんな「つくることが好き」なわたなべさん、さぞかし自給自足的な生活がしたくて移住を決意したのかと思いきや、意外にもきっかけは虫だったといいます。

一番好きなのは虫なんです。引っ越してきたのも、僕は虫と触れ合う生活がしたいからでした。彼女(奥様)は自分で食べるものがつくりたいというのがきっかけでね。

目を輝かせながら、虫の多様性や生態系についてお話してくださったわたなべさん。いまでは奥様とお嬢さんも影響を受けて、わたなべさんお気に入りのカメムシを携帯電話の待ち受け画面にしているとか。
 
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ちなみにわたなべさんがお気に入りとして紹介してくれたカメムシは“アカスジキンカメムシ”。とてもきれいな虫です。みなさんもぜひ検索してみてくださいね。

走るソーラー発電システム

そして、こちらがわたなべ家で新しく取り組んでいる発電システム! 軽トラの荷台にソーラーパネルを積んだ、オリジナルのソーラー発電車です。
 
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100wと150wの太陽光パネルが各1枚、太陽の光を集めやすいよう、夏と冬とで角度が変更できるようになっています。そしてその後ろに5wの小さなパネルが3枚。ここで発電した電気はバッテリーを介さず、家の電源につながっています。発電量の多い晴れた日中は、ほとんどソーラーパネルの電力だけで家の電気をまかなうことができるといいます。

この発電車のポイントは、ただソーラーパネルを積んだだけではなく、少し変わった配電制御機器を搭載しているところ。

この装置は、この家の現在の電圧が何ボルトかを測って、例えばそれが103ボルトだったら、それよりも高い電圧の104ボルトで太陽光発電の電力を送ってくれます。つまり、電力会社から供給される電力よりも少しだけ高い電圧で電気を流すことでソーラー発電の電力を優先的に使えるように、細かく調節してくれる優れものなのです。

ところで、なぜパネルを庭や畑に固定するのではなく、軽トラに乗せているのでしょう。

車は動くから、日が陰ったら動かすことができるんです。さらにバッテリーを組み合わせると、これ自身が走る蓄電池にもなります。

ソーラーパネルのメリットは、どこでもその場で発電できること。電気を使用する場所のすぐわきで発電できるってことが良さだと思いますね。メガソーラーみたいなものだと電圧がすごく高いんで、遠くまで流すことができるかもしれない。でもそれを森を切ってまでやる必要があるのかなともぼくは思います。

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畑で音楽を聴くことができるシステム。スピーカーやバッテリーを収納する“おかもち”もわたなべさんの手づくり。

わたなべ家の食卓

家まで戻ると「お昼にするからご飯を炊いてね」とわたなべさんに声をかける奥様。ひと通りわたなべ家をご案内していただいた後は、お昼の時間です。
 
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畑から戻ってきた奥様とお嬢さん。手づくりの籠にはたくさんの野菜が。

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わたなべさんに、籾殻を燃料にしたかまど、“ぬかくど”でご飯を炊いていただきました。

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こちらがわたなべ家の食卓! サラダやお惣菜をはじめ、マヨネーズなどの調味料まで、ほとんどが家の敷地内で採れたものでできています。

「てきとー」と「いいかげん」がモットー

わたなべさんがはじめてソーラーパネルを使い出したのは大学生のときでした。「車のバッテリー用に、いつも電池が切れちゃうからソーラーパネルで充電しておこうって始めたのが最初じゃなかったかしら」と高校時代からの付き合いという奥様。わたなべさんも記憶をたどります。

そうだったね。これはすごい大発明だ! って、大学生のときにアメリカからパネルを輸入して使い始めたんだったな。出版社に入ってからは、自分でソーラーパネルを仕入れて通信販売もしていました。

そうして出会ったソーラーパネルの小さなものは、横浜の家でも車のバッテリー用やちょっとした充電を行うときに使っていました。だけど家の電源として使い始めたのはこちらに引っ越してからだそう。

いまではこの敷地内で、ソーラー発電にパッシブソーラーハウス、天ぷら廃油車など、さまざまな方法でエネルギーの自給に取り組むわたなべさん。今後のエネルギーのあり方をどう考えているのでしょう。

とりあえず個人としては、原子力や化石燃料を使った電力に頼らない方法を考えたいですね。だからといって、そんなに不便な暮らしを自らに強いるつもりもないんですが。

ウチは実際、電気を使わずに薪ストーブとパッシブソーラーで暖房をまかなったり、家で育てたもので食事をしたりしています。そのようにあるものを上手に使っていけば、それでも充分やっていける気がするんですよね。

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ダイニングにある薪ストーブ。「燃焼室が大きいので、ダッチオーブンのオーバルも入ります」とわたなべさん。食事もつくれるし、パンや焼き鳥も焼けるのだそう。「つい先日も、アラとして売ってた鯛の“お頭”をストーブで焼きました。オキ火をうまく使って焼くと、塩を振っただけでとてもおいしくいただけるんですよ」

わたなべさんが日々の暮らしを綴っているブログのタイトルは“「地給知足」の備忘録”。

「地給知足」とは、「地球から給わり、地域で分かちあう、足るを知る暮らし」であり、それは「「自給自足」のように、ひとりであんまり頑張らない。“「てきとー」と「いいかげん」がモットー”な暮らしでもあります。

うちの暮らしを見に来た人たちに「よくそんな大変なのにやっていけるね」と言われることはありますね。でも私としてはこうした暮らしは楽しいし、生活の余裕というか、贅沢なことなのかなという気もします。

例えばサンマを食べる場合でも、電気で焼くよりも、炭起こしてウチワをパタパタやりながら焼いたほうがおいしいじゃないですか。楽しいじゃないですか。そういう余裕があるのがやっぱりいいですね。かといってつらいときに無理して「ぬかくど」で火を起こさなくてもいいし。楽しめる範囲でね。

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わたなべさんのおうちを案内していただき、一緒に食卓を囲んで感じたのは、「豊かさ」でした。「考えてつくって暮らしていくのは楽しいですよ」とわたなべさん。

きっとわたなべ家にとって、自給自足的な生活は、楽しい方、心地良い方を選んでたどり着いた、ひとつの暮らしの選択肢。そんな暮らしは楽しさのほかに、時間や気持ちの余裕など、思いがけない豊かさをもたらしてくれているようでした。

(撮影: 清水美由紀)