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オーガニックな暮らし、どうやって始めればいいの? 生態系農業を実践するレイエス・ティラドさんとタカコナカムラさんに聞いてみた

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グリーンピースが開催したイベント「都会でできるオーガニックな暮らし」に登壇したタカコナカムラさんとレイエス・ティラドさん

こちらの記事は、greenz peopleのみなさんからいただいた寄付を原資に作成しました。

オーガニックという言葉を耳にする機会が、最近ぐっと増えました。それでもまだオーガニックの野菜は価格も高く、いつでもどこでも手に入るわけではありません。けれども、食卓にもっとオーガニックの野菜や果物を並べたいと思っている人はじつは多いのではないでしょうか。

国際環境NGOグリーンピース・ジャパンが7月22日に渋谷のデイライトキッチンで開催したイベント「都会でできるオーガニックな暮らし」は、オーガニックをもっと身近に取り入れるヒントを探るイベントです。

そこにゲストとして招かれたレイエス・ティラドさんは、科学者、生物学者としてグリーンピースで調査活動などに従事しており、自身も南スペインで生態系農業を実践しています。

そこで、来日中の彼女にインタビューをおこない、オーガニックな暮らしに近づくためにぜひ知っておきたい「生態系農業」について詳しく訊いてみました。
 
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科学者として調査にいそしみながら、南スペインでは、5歳の娘さんとロバと一緒に、生態系農業に汗を流す。パワフルで明るい笑顔が印象的

環境を守る「生態系農業」とは

生態系農業とは自然の力に根ざし、化学物質に頼らない農業。農法や自然農法もそのひとつです。レイエスさん曰く、「健康な食と健康な農業と健康な地球を今日、そして将来にわたって約束できる」そうです。それにも関わらず、生態系農業が広がらないのはどうしてでしょう?

レイエスさん 生態系農業が推進されてこなかった大きな理由のひとつは、工業的農業にたくさんの投資がなされてきたことです。

6、70年前に、政府や企業が化学物質を大量に投入する農業に投資するようになりました。そうすることで企業は化学物質を売って、利益をあげられる。つまり、企業を利するシステムに投資されてきたんです。

それはつまり、人びとの健康や地球の環境よりも経済が優先されてきたということ。もし、生態系農業の技術や実践方法、知識の集積などにもっと投資されていれば、生態系農業が伸びていく可能性はずっと大きかったといいます。

そんな中でも、日本ではこれまでよりオーガニックに注目が集まっています。世界的にも、消費者の有機農産物への需要は高まっており、アメリカでは生鮮野菜の20%が有機になっているというデータもあるそうです。

レイエスさんは、これから生態系農業がひろがっていくことに関して「楽観的に見ている」と口にしました。それは、アメリカでもヨーロッパでも、数十年前と比べると、有機農産物の生産も消費も、非常に速いスピードで伸びているからだそうです。

生態系農業を実践しているレイエスさんは、農業は楽しいと同時に、とても大変だといいます。それでも農業の魅力は限りがないと感じているそうです。

レイエスさん 何百年も前、人は動物や植物とつながっていました。でも、都市ができ、そこに住むようになって、そういうつながりが切り離されてきたんですね。それを取り戻してくれるのが生態系農業です。

仕事でパソコンの前に座っていて、だんだんストレスがたまってくると、農場に行って1時間だけでも作業をします。戻ってくると、とても気分がリフレッシュしているのを感じるんですね。心のお薬のようなものです。

そうやって農業の魅力を語りつつ、「ただ腰は痛くなりますよ」と笑うレイエスさんの暮らしはとても豊かなもののように感じられました。

私たち一人ひとりが声をあげることの意味

そんな暮らしに少しでも近づくため、まだまだオーガニックが広まっていない日本で、私たちができることは何なのでしょうか。

レイエスさん まず、スーパーマーケットにもっと有機野菜を置いてほしいと頼むことです。なぜなら、スーパーマーケットは消費者の声を聞いているからです。そうすることで、消費者が求めているものを示していくことが大切です。

また、ファーマーズマーケットなど、近郊の農家さんが野菜を持ち寄って売るところでオーガニックの農産物を買って、オーガニックの農家さんに投資することも、消費者ができることだと思います。また、グリーンピースのような生態系農業を推進しようとしている団体をサポートすることも大切です。

Go Organic
現在、グリーンピースがおこなっている「Go オーガニック」キャンペーン。スーパーマーケットや生協へ、有機農産物の取り扱いを増やしてくれるよう働きかける

今、グリーンピースがおこなっているキャンペーンが「Go オーガニック」。スーパーマーケットへ消費者の声を届け、2020年までにスーパーで売られている野菜や果物の半分に有機農産物を導入しようという取り組みです。

こういった働きかけによって、オーガニック野菜を取り扱うスーパーが増えることは、農家が有機農法へ転換する後押しにもなります。そうすることで農薬の使用量を減らし、環境に優しい社会に変えられるのです。

タカコナカムラさんが提唱するホールフードライフ

インタビューの翌日、イベント「都会でできるオーガニックな暮らし」には、オーガニックに関心の高い人たちが集まりました。レイエスさんに加え、ホールフードスクール主催のタカコナカムラさんをゲストに迎え、オーガニックのドリンクとヴィーガンパウンドケーキを前にして、会場には和やかな空気が広がります。
 
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真摯に食と向き合う姿勢が伝わってきたタカコナカムラさんのお話

タカコナカムラさんが提唱する「ホールフード」についてのお話から、イベントは幕を開けました。ホールフードとはもともとは皮も根もすべて食べる全体食から生まれた言葉。

タカコナカムラさんはそれをグローバルな視点で捉え直し、食と暮らし、農業、さらに環境まで丸ごととらえてホールフードと呼ぶようになったそうです。タカコナカムラさんは言います。

タカコさん 私はホールフードをライフワークとしています。私の言うホールフードとは、本当はホールフードライフという意味。健康で生き生きと、できればきれいにいつまでも暮らしていきたいときに、食べ物のことだけを考えるのではなく、環境や農業のことなど丸ごと考えていこうということなんです。

なかでも、ホールフードらしい食べ物と言えば、「ベジブロス」。パセリの軸やタマネギの皮など、捨てがちな野菜の残りものから引く野菜の出汁です。タカコナカムラさんがベジブロスを始めて27年だそうです。そしてベジブロスの本が出版されたのは2年前。

タカコさん ベジブロスをするのに、どんな野菜でもいいと言えばもっと速く広まると言われました。でも、私はそれは言えないんですね。やっぱり残留農薬の問題がありますから。

ベジブロスをつくるためには、有機野菜を買って、有機農業をしている生産者を応援することが必要なんです。

すぐに生活に取り入れられる、タカコナカムラさんのホールフードライフのお話には参加者のみなさんも興味津々の様子。

レイエスさんも、「ベジブロス」にとても関心を示すと同時に、食糧の3割もが廃棄されている現状を踏まえ、捨てられるところまでも大切にする「ベジブロス」を食糧の安全保障の面からも高く評価していました。

私たちの暮らしと世界はつながっている

続いてレイエスさんから、また違った観点でお話がありました。紹介されたのは、タイにある日本向けのアスパラガス農場。ポンプから畑に撒かれていた水は飲み水としても使われているものでしたが、レイエスさんの調査により、その水が汚染されていることが判明しました。
 
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広大なアスパラガス畑。日本向けにつくられているこの畑に撒かれていた水が、汚染されていることが調査で判明した© Greenpeace

レイエスさん 農家によると、日本の企業から農薬やホルモン剤を買うように言われ、週に2、3回散布していると話していました。採取した水は、WHOが決めている安全基準の3倍を越える汚染度でした。

レイエスさんは2ヶ月後、この結果をタイで発表しましたが、スーパーでアスパラガスを見るたびに、農場で見た子どもたちのことを思い出すと言いました。「健康被害が出なかったかな」と。

そんな彼女の仕事の紹介に続いて、グリーンピースが2015年に発表した生態系農業についてのレポートが取り上げられました。生態系農業には7つの原則がありますが、全てを理解するのは複雑とのことで、この日は「人・生物多様性・科学」という3つの要素が説明されました。

よい食料システムをつくることは、農家のためだけでもなく、私たち食べる人のためだけでもなく、世界中の人びと、そしてさまざまな生物にとっても同様に大切です。そこで、東京で暮らす私たちのライフスタイルが世界とどうつながっているのかというお話になりました。

レイエスさんは、2010年にインドの綿花農家に行って、農薬を使っている農家と使っていない農家では、その人たちの生活に違いが生まれていることを知ったそうです。通常の綿は、たくさんの農薬を使って、農家の人たちの生活を圧迫しています。農薬にたくさんのお金を使わなければならないからです。
 
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綿花畑で農薬を散布する青年。生産者にとって金銭的な負担だけでなく、身体への影響も気になるところ© Peter Caton / Greenpeace

レイエスさん 私たちがTシャツを買うとき、その原材料である綿がどのように、どこで栽培されているか考えますか? 私たちがそういったことを考えて、オーガニックコットンを買うことで、インドの農家の人たちの生活を変えることができるのです。

さらにもうひとつ、レイエスさんが付け加えたことは、ものを買いすぎないことでした。深く考えずに買ってしまって、せっかく買ったものを使わなかったりすることもあるでしょう。

よく考えてからものを買い、買う量を減らすことで、世界中の多くの農家を大量消費のために、過酷な労動を強いられることから守り、よりよい生活に導くことができるのです。言われてみれば想像できることも、ついついモノに溢れた生活の中では忘れがちではないでしょうか。

レイエスさんの話は、自身の農業への目覚めに続きました。それはインドに住んでいたときのこと。アパートの小さいベランダで、鉢を少しだけ並べて野菜を育てるところから始まったのだそうです。

レイエスさん インドは、日本と同じように暑くて湿気が高く、2ヶ月経ったらたくさんの野菜が育ちました。テラスに行けば、朝食が食べられるのがうれしかったです。食べられることだけでなく、自然とのつながりが感じられるんですね。

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レイエスさんのインドのベランダ。野菜づくりを始めた当初(左側)と2ヵ月後(右側)​© Greenpeace

当時、故郷から離れてインドに住み、個人的な問題も抱え、さらに足を骨折するというトラブルも重なり、レイエスさんは辛い時期を過ごしていました。そんなとき、朝起きてベランダ菜園で見つけるカリフラワーに本当に救われたといいます。農業をすることや何を食べるかということには、大きな意味があるのだとレイエスさんは強調しました。

レイエスさん ちょっと高いオーガニックを買うことももちろんいいことですけど、窓辺にハーブの小鉢を置くことだけでも違うんです。それぐらいのことであれば、日本でもすぐにできるのではないでしょうか。

日本は美味しい食の国ですが、生態系農業は広がっていません。そんな農業の形を、近い将来全部オーガニックにして、もっと環境に貢献できるんじゃないでしょうか。

環境のためにオーガニックライフを

タカコナカムラさんとレイエスさんのお話に対して、多くの質問が寄せられました。また、フリートークの時間では、オーガニックという共通の関心があったせいか、初対面と思えないほど、どのテーブルも会話が盛り上がっていました。

最後にレイエスさんとタカコナカムラさんの挨拶は、さまざまなことを考えさせられるものでした。

レイエスさんはお礼の言葉に始まって、こう続きました。

レイエスさん 今日は私自身、元気づけられました。人生は楽しむことがとても重要ですよね。私たちが世の中を変えられるときは、そういったハッピーなときです。やれることはたくさんあるんです。

Facebookに今日のことを投稿したり、学校へオーガニックのものを使うように頼んだり、そういった小さなことがとても重要です。とてもすばらしいことは、みなさんは東京にいて、私はスペインにいて、私たちみんなが食糧や地球のことを大切に思って、つながっていることです。

タカコナカムラさんからは、食について考える際にとても大切なことを示唆する言葉が聞けました。

タカコさん 食を大切に考えるときに、自分の健康とか美容とか狭い範囲で考える人が多いんじゃないかなと思います。ヨーロッパの人に「なぜオーガニックのものを選びますか?」と質問すると、最初に「環境のため」と答えるんです。

自分の健康、美容のためと答えるのはアメリカと日本だと言われています。美容や健康のためだけでなく、その一歩向こう側を考えてもらえれば、少しずつ変わると私は思っています。

レイエスさんもタカコナカムラさんも、共通して伝えたかったのは、少しずつ私たちができることをするということではないでしょうか。

明日、スーパーマーケットに買い物に行ったら、オーガニックのものを増やしてほしいと、一消費者として声を伝えてみる、そんな小さな一歩を始めてみませんか。