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岡山県が農山村にサテライトオフィスを誘致する支援とは? 地域起業の”先駆者”「レプタイル」丸尾さんに地域で働くことの楽しさと難しさを聞く

岡山県津山市に拠点を置くレプタイル株式会社は8名のスタッフで運営。今年で4期目に突入。
岡山県津山市に拠点を置くレプタイル株式会社は8名のスタッフで運営。今年で4期目に突入。

「田舎暮らし希望地域ランキング」(NPO法人『ふるさと回帰支援センター』)でもベスト5にランクインしている岡山県。大人気の移住地にはそれなりの理由がありそうです。

岡山県は中国地方の南東部に位置する都道府県で、一年を通して気候が良く晴れの日が多いため「晴れの国」と呼ばれています。その朗らかな名前に相応しく、自然災害も比較的少ない土地です。

さらに農業・漁業など第一次産業が盛んであるため、食べ物がとても美味しくって新鮮。豊かな自然がある反面、政令指定都市の岡山市をはじめ、倉敷市、津山市など便利な都会もすぐそばにある、暮らすのにちょうど良い都道府県です。

そんな安住の地・岡山県が、農山村にサテライトオフィスを誘致する支援制度をはじめました。移住の3大ハードルと呼ばれている「住居」「環境」「仕事」のうち、地域でもっとも苦戦するといわれる「仕事」について行政がサポートします。

支援内容は、都市部の起業家が中山間地域の空き家や廃校を利用して事務所を設置する場合に、最大750万円の補助を出すというもの。地域起業を目指す人にとっては、またとないチャンス。岡山県にとっても、過疎化が進む中山間地域に人口を増やすことができるというメリットがあります。

一見WIN-WINな制度ですが、地域起業をするためには資金面だけではない様々な課題があるのも事実です。

そこで今回は、農山村サテライトオフィス誘致アドバイザーの「レプタイル株式会社(以下、レプタイル)」代表取締役社長、丸尾宜史さんに、地域で働くことのギャップと楽しさについて、ご自身の起業ストーリーも含めて語っていただきました。

Uターン者とは、いつか帰りたい場所がある人のこと

まずは丸尾さんの経歴を簡単にご紹介しましょう。丸尾さんは大学進学を機に東京へ進学し、そのまま10年ほど過ごした後、津山市へUターン。地元企業への勤務を経て、地域起業を果たしました。Uターンから地域で起業する挑戦に至った経緯には、地域が抱える数々の問題が内包されていたといいます。

中山間地域では、大学はもとより高校もないところがほとんど。田舎の若者の多くは進学の際、必ず一度は故郷を離れます。そして進学した先でそのまま就職をするため、地域の若年層が空洞化するのです。これは岡山県に限らず、日本の地域共通の社会問題です。
 
レプタイルの鏡野オフィスがある岡山県苫田郡鏡野町。津山市街地から15分ほど車を走らせたところにある中山間地域。
レプタイルの鏡野オフィスがある岡山県苫田郡鏡野町。津山市街地から15分ほど車を走らせたところにある美しい中山間地域。

丸尾さん まず地方から都会に出てきた若者は、社会に出るとき、自分の居場所について思い悩みます。地元に戻るか、都会にとどまるか、まったく違う地域へ行くか。僕は地元に帰る気がまったくありませんでした。「地元に仕事なんてないだろう」と考えていたからです。

大学卒業後、東京で就職をして、順風満帆な生活を送っていた丸尾さんに転機が訪れます。故郷の家族が体調を崩したことで、岡山に戻るか東京で暮らすか、その2択を迫られたのです。これを機に丸尾さんは東京での生活を振り返ります。
 
レプタイルと津山市が共同経営をしているシェアオフィス「アートインク津山」。ここの2Fにレプタイルの本社事務所があります。
レプタイルと津山市が共同経営をしているシェアオフィス「アートインク津山」。ここの2Fにレプタイルの本社事務所があります。

丸尾さん たくさんの知らない人に囲まれて、満員電車に揺られて毎日働いて暮らしている状態って、東京では正当性があるように感じていました。

でも「どうしてここで働くのか」と訊かれたら、回答できない。完全に思考停止していました。ずっとこのまま、時計の歯車のように止まらずに暮らしていくのかな、なんて考えたら不安を覚えました。

「いつか帰りたい場所がある」「でもあそこには自分の働ける場所がない」、そんなジレンマを抱えて東京でがんばりつづけた丸尾さんは2009年に故郷の津山市へUターンを果たしました。

「地元で働くこと」を真摯に考えたら起業していた。

東京で培った経験を持ち帰り、10年の時を経て故郷のまちへダイブした丸尾さんの再就職先はシステム会社。仕事内容は営業マンとして3年で600人以上の地元企業の社長さんと会うことでした。

丸尾さん そこで伺う悩みが、「売り上げがあがらない」「人手不足、人が育たない」、そして「資金繰りが大変」というものでした。でも、「人材不足が深刻だ」という話を聞くたびに不思議な気持ちになりました。

なぜならば、丸尾さん自身、地元の求人を探したときに働きたい会社が少ないと苦心したからです。さらに都市部で働いている多くの地元の友人が、盆暮れの帰省で会うたびにみんなが口を揃えて「津山に帰りたいけど、いい仕事がない」と訴えていました。
 
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丸尾さん 僕からみたら、津山の会社の社長さんはみなさん面白い方が多くて、この人の元で働けたらめっちゃいいだろうなぁって思っていたんです。津山は、製造業でも全国展開している会社もいろいろあります。仕事のスケールも申し分ない。「仕事がない」のではなく、「見えていない」だけなんだと気がつきました。

需要も供給もあるのにそれらが噛み合っていない現実。そこに歯がゆさを感じた丸尾さんは、故郷に帰ってきたくなるような魅力を掘り起こし、可視化するしくみづくりに力を注ぎたいと思うようになりました。

一度、東京へ出たからこそ得た丸尾さんの地元への深い愛情と地域の魅力の再確認が、丸尾さんが地域で成し得ることを指し示します。

こうして地域の現状を知った丸尾さんは、システム会社の同僚だった白石七重さん(現・レプタイル副社長)と「レプタイル株式会社」を立ち上げました。
 
共にレプタイルを立ち上げた白石さん(左)と丸尾さん。
共にレプタイルを立ち上げた白石さん(左)と丸尾さん。

自分たちが欲しかったサービスを事業にする

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レプタイルのメインサービスは、企業のブランディングに関わるデザイン、Webマーケティング支援、さらに、地元企業のビジネスモデルを構築する企画運営や、地域の価値を見える化するデザイン・マーケティング。さらに自社でも、岡山県北にエリアを限定して、様々なサービスを運営しています。

FAAVO岡山」は、地域を盛り上げるプロジェクトに特化したクラウドファンディングネットワーク。岡山県内外に向けたPRと資金調達が可能に。
 
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“県北ではたらく。くらす。”を紹介するWEBサイト「いーなかえーる」。岡山県北で暮しているスタッフが津山市周辺の求人情報を紹介。
 
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アートインク津山」。クリエイティブな人々のスタートアップ拠点として利用できるシェアオフィス。津山市との共同事業。
 
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そして「tiny tech turtles」は、小学生を対象としたパソコン・プログラミング教室。デジタルネイティブ世代の創造的に考える力を養うことを目的とした新感覚スクール。
 
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丸尾さん 岡山県そして県北部の地域に必要だと思うサービスをつくっていきたい、とがむしゃらに走っていたら、毎年なにかしらサービスインしていました。自分たちが起業するときに「あったらよかったな」と思うものをつくっています。FAAVO岡山は、まさに資金ショートしかけていたときの体験が基になっています。

2013年に創業したとは思えないスピードで様々な試みをサービスインしているレプタイル。「僕らはスーパー実践派なんですよ」と笑う丸尾さん。創業当初から局面にぶつかってはなんとか解決して、無我夢中でレプタイルを運営してきたといいます。

自分たちが自力で切り開き、苦労したことをサービスに転換することで、このまちで働くための土壌ができてきます。都会でも大変なベンチャー企業の運営ですが、地域で起業するとなると、更に想像の斜め上をいく問題が噴出するもの。そこをレプタイルが先頭に立って未開の地を切り開いていくことで、新たな生態系が育ちます。その生態系はまちに様々な可能性をもたらします。

丸尾さん 僕らのサービスを通じて「津山が面白いことになっているらしい」という空気感が伝わると、地域での暮らしを前向きに考えながらも躊躇している都会の方々がUターンやIターンを具体的に考えるようになります。そういう方々が、ここで暮らせるかどうか調べるときに、きちんと情報が手渡せるサイトが欲しいと思いました。そこで立ち上げたのが「いーなかえーる」です。

僕自身Uターンするとき、再就職が一番心配だったので地元のハローワークに問い合わせました。でもハローワークって基本、対無職者のものだから、勤務条件しか情報がありません。正直困りました。

東京から地域への再就職はよっぽどのことがないかぎり勤務条件は下がります。だから、勤務条件以外の報酬みたいなものがみえるものじゃないといけないと思うんです。

あと、良い人材って、基本、現在進行形で働いているんですよね。都会ではモラトリアムを持つ余裕もないですしね。地元に住んでもらうための仕事の情報は、都会で働いている人を対象にした情報であるべきです。待遇しか書いていない求人情報ではUターンやIターンをする方々にとって足りないんです。

そこで「いーなかえーる」には、楽しさや面白さ、経営者のヴィジョンを見える化した情報を掲載することにしました。求人情報だけではなく、岡山県北部の現状を伝えるメディアとしても機能しています。

求人情報を掲載している企業は、尖ったベンチャー企業やお洒落なカフェなど若者に人気のありそうなものから、信用金庫、温泉宿など地元に密着した企業まで多岐に渡ります。エッジが効きすぎてないところがローカルで働くことの良さを引き立てている気がします。
 
「いーなかえーる」が書籍化した「地方にかえ〜る人」(吉備人出版刊)
「いーなかえーる」が書籍化した「地方にかえ〜る人」(吉備人出版刊)

丸尾さんのアイデアは、今までの経験を糧にして地域創生を持続可能なものにしています。ただ「移住してください」では誰もこない。でも、人がこなければ、地域は消滅してしまう。だから地域の魅力を丸尾さんは叫び続けます。

こんな会社が田舎にあったら、移住して、共に地域で一緒に働きたいなと思うのは私だけでしょうか。

岡山で拠点を持つ挑戦に寄り添う
「農山村サテライトオフィス」

レプタイルが鏡野町に置くサテライトオフィスの様子。
レプタイルが鏡野町に置くサテライトオフィスの様子。

2015年、岡山県は新たな移住支援制度として「農山村サテライトオフィス誘致事業補助金制度」を導入しました。中山間地域の空き家や廃校を利用してオフィスを設置する場合に、リフォーム費用などに対して最大750万円の補助金を岡山県や市町村から受けることが可能になります。

補助の要件は、サテライトオフィスなどの開設が市町村の作成した誘致計画にもとづくこと。オフィス開設後、3年間は事業を継続すること。そして、常時勤務者を配置することなどが盛り込まれています。

サテライトオフィス誘致事業と名前がついているものの、普通の事務所でもOKです。岡山の中山間地域で起業をしたい、サテライトオフィスを持ちたいと思っている人にとっては、とても魅力的な制度です。レプタイルは「農山村サテライトオフィス誘致アドバイザー」として、この制度の旗振り役を担っています。

丸尾さん ゼロから地域で起業した自分としてはただただ「いいなぁ〜」と思う制度です。ローカルであっても、事務所を構えようとおもったら、何十万も必要ですし、大した物件も借りられません。レプタイルが最初に構えたオフィスは「大倉アパート」でしたが、住所を書く時は「大倉ビル」って見栄張っていました(笑)

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農山村サテライトオフィス誘致事業補助金制度のサイトでは、市町村が使用可能な物件を紹介しています。この中から物件を選び、申し込みをするのが正攻法ですが、自ら物件を探してきて提案するという方法もあります。制度を使用するための交渉などもレプタイルが引き受けるとのこと。

そして、レプタイルがこの事業で一番大事だと思っていることは、実際に興味を持ってやってきた人々のアテンドです。一緒に地域を回って、魅力的な人を紹介したいと丸尾さんは話します。

丸尾さん 農山村にオフィスを開く意味の一つが「人と人がつながること」です。都会では希薄な人間関係ですが、地域では人と人とのつながりがイノベーションを生みます。

都会では人が多すぎて意識しづらかった「地域」と「会社」の関係性も、人口の規模が多くて数万人単位の田舎では、まちの大きさや特色に対応した事業が展開できます。小商いやローカルベンチャーは有利です。

なによりも、岡山の自然の中で仕事をするって本当に気持ち良いです。働く場所を変えると気持ちに余裕が生まれます。レプタイルも津山の街中のほかに鏡野町という山間部にサテライトオフィスを持っていますが、中山間地域だからこそ生まれたアイデアもたくさんあります。

地域にサテライトオフィスを持つことは人生や社運をかけた挑戦です。その挑戦に、岡山県は地域の未来を賭けるといいます。そしてレプタイルという地域企業があなたの挑戦を応援します。

都市部からそっと地域の様子をうかがっている起業家のみなさん、その胸に秘めた夢を岡山で叶えませんか?

[sponsored by レプタイル株式会社]