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どうやってドイツはエネルギー革命を実現したのか? 100%自然エネルギー社会を目指すドイツ企業「juwi」本社を訪ねて聞いてきた

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Creative Commons. Some Rights Reserved. Photo by Neuwieser

greenz.jpの特集企画「わたしたちエネルギー」は、これまで“他人ごと”だった「再生可能エネルギー」を、みんなの“じぶんごと”にするプロジェクトです。「再生可能エネルギー」がみんなの“文化”になることを目指しています。

日本でも、自然エネルギーに立脚した社会になってほしいと願っている人は多いと思いますが、まだまだハードルがたくさんあります。

一方、ドイツでは一足先に100%自然エネルギー社会の実現に向けて、政府も企業も市民も全員参加でエネルギーの大転換を推し進めています。ウワサに聞くところによると、ドイツでは、自然エネルギーのスタートアップが多数成長して、市民と連携して自然エネルギー社会に向かっているとか……。いったいどうなっているんでしょうか?

今回私たちは、市民とも連携しながら大規模に再生可能エネルギーを発電している企業があると聞いて、ドイツ西部の産業都市フランクフルトから電車と車で約1時間半、ヴェルシュタット(Wörrstadt)という町にある「juwi」(ユーイ)を訪ねました。

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広大な敷地内には、木造のモダンなオフィス棟が立ち並ぶ。

たった1本の風車から始まった

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juwi広報担当 フェリックスさん

フェリックスさん juwiは2人の創業者、マティアス・ヴィレンバッハーとフレッド・ユングによって、1996年に設立されました。創業者ふたりの最初の2文字を取って「juwi」です。ふたりは大学卒業後、それぞれ同時に、ここから約20kmの場所に風車を建てようと風の計測を始めました。

この辺りは常に風が強く、使わない手はないと考えたんです。共通の友人を介して知り会い、すぐに一緒に取り組むことにし、創業者のマティアスの実家の敷地内に風車を1本建てたのがjuwiのはじまりです。


juwi創業者のマティアス・ヴィレンバッハー氏(右)とフレッド・ユング氏(左) photo by juwi

菜央 てっきりずいぶん歴史があるのかと思ったら創業は1996年と意外と最近なんですね。ふたりがいわゆる「エネルギーマニア」で、Appleがガレージで創業したように、農場で起業したという話は、親近感がわきます。

フェリックスさん そうですね。今では、世界中に子会社があり、3000人もの従業員がいます。主に風力と太陽光発電事業に取り組んでいて、発電所用地の選定から開発、設計・調達・建設、運営・保守まで行っています。

風力発電所については、これまでにドイツ内外で840基以上、容量1400MW以上を建設してきました。ドイツでは風力が間違いなく重要なエネルギー源です。技術が進展し、近年では非常に高いタワーの建設が可能となり、風車の直径も大きくなり、風が弱い地域でも大きなエネルギーが取り出せるようになっています。

juwiが目指すエネルギー社会

菜央 世界中で100%自然エネルギーによるエネルギー供給を行うというビジョンを掲げていますね。
 
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フェリックスさん そうです。太陽は、世界が実際に必要な分以上のエネルギーを毎日注いでいます。周りを見渡せば、風力、太陽光、水力、バイオマス、バイオガスなど自由に使えるエネルギー資源は十分にあります。私たちは気候変動問題やチェルノブイリ原発事故、そして福島原発事故も経験しています。

リスクが低く気候変動に優しいエネルギー、100%自然エネルギーをつくり、使うという考えは、ロジカルに考えたらもっともなことですよね。
 
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菜央 juwiのウェブサイトには、自然エネルギーをつかった“自立”した未来は可能で、お金も地域に残ると書いてありました。その自立した社会をつくる上で、juwiの役割はどんなものなのでしょうか?

フェリックスさん 私たちはエネルギーを必要とする顧客や産業地域に近いところでエネルギーをつくる、分散型のエネルギー市場をつくりたいと思っています。よって風力は陸上中心です。洋上風力を建設し、北海やバルト海から何千キロも電気を運んでくることは行いません。

そして分散型エネルギーのアプローチは1つのステップにすぎず、最も重要なのは自然エネルギー発電所をつくる地域のコミュニティと協働することです。

自然エネルギー発電所が建設される自治体には、間接的に企業からの税金が入ります。再生可能エネルギー法(以下、再エネ法)のもと、20年間の事業期間に固定で受け取るお金は、コミュニティのために使うことができます。例えばこの周辺は農家が多い地域で、インフラも整備されているとは言えませんが、人々は地域に戻り住んでいます。

自治体が風力発電から得た収入で、幼稚園やスポーツセンターなどを整備し始めたからです。直接的には建築やメンテナンスの段階で関わる方法があります。そしてドイツのエネルギー協同組合では、“エネルギーを育てよう”と直接風力発電に投資しています。

菜央 なるほど。

フェリックスさん これらは民主的な側面も持っていますね。1990年以前のドイツでは、エネルギー市場が自由化され、4大電力会社による独占体制にありました。しかし2000年に再エネ法が施行され、突然、農家や協同組合など一般市民が、エネルギーをつくり、市場に売ることができるようになりました。

ドイツの自然エネルギー発電所の50%以上は、4大電力会社でもグローバル企業でもなく、一般市民によって所有されています。「電力は大きな会社しかつくれない」というストーリーは大きく変わっています。太陽光発電はほかのエネルギー生産より安価になっていますしね。

菜央 半分以上が市民の所有なんですか…! 先ほどコミュニティと協働するとおっしゃいましたが、具体的にはどのように行うのでしょうか。juwiのプロジェクトへの投資を呼びかけるのか、それとも人々をサポートするのか。

フェリックスさん 私たちが風力発電所をつくるとき、同時に風車を購入する投資家を探します。大きな電力会社ではなく小さな地域の電力会社やエネルギー協同組合に声を掛けるんです。地域の銀行が風車のためのファンドを組成し、資金を集めることもあります。市民は風力発電所の共同所有者になれるんです。

菜央 いいですね。どれくらいのプロジェクトがそのような形態なんでしょうか。
 
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フェリックスさん 正確な数値は持っていないのですが、ほぼすべてのプロジェクトで、私たちは地域コミュニティと協働する計画をつくります。もちろん数名の億万長者や百万長者と協働するほうが簡単ですが、通常は農家や先生などたくさんの人々が少しずつ投資します。

菜央 一般の人たちと一緒に取り組むのは、ビジネスモデルなんでしょうか。

フェリックスさん ビジネスモデルだとは思いませんね。それこそがエネルギー供給の民主化のかたちです。多くの人が関われば、多くの人が自然エネルギーへのシフトを考えるでしょう。それから、風力発電所がある自治体の住民であれば、経済的な利益を受けていいはずですよね。

菜央 自分や地域と関係していれば、風車を違ったふうに見るでしょうね。

フェリックスさん その通り。もしあなたがプロジェクトに直接的に関われば、「エネルギーシフト」は、「私のエネルギーシフト」になりますよね。エネルギー協同組合のメンバーは、毎朝窓を見上げ風車が回っているのを見て気分がいい。一年の終わりにエネルギーの売り上げから金銭的な分配を受けられますからね。

菜央 市民と一緒に共通の未来をつくる、いい取り組み方ですね。

ドイツの脱原発運動とjuwiの役割

菜央 日本では福島の原発事故があり、多くの人は、日本は原発から撤退すべきと考えています。簡単ではありませんが、ドイツはその過程にありますよね。ドイツでは脱原発への国民的合意はどのようにできたのでしょうか。その中でのjuwiの役割はどんなものだったのでしょうか。

フェリックスさん ドイツでの脱原発運動の歴史は1980年代に遡ります。チェルノブイリ事故が転換点で、ドイツ緑の党はますます票を集め1988年には国会に議席を獲得しました。彼らは常にドイツの原子力施設の閉鎖を訴えていました。緑の党と社会民主党の政権は、原発を持つ電力会社とNGO団体などとの対話を始め、2020年までにすべての原発を閉鎖することに合意しました。
 
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2004年に保守政権へと政権が交代したのですが、電力会社や原発推進派の活動もあり、政権は脱原発合意を反故にしました。

しかし、福島原発事故が起き、再び突然に変わりました。事故直後に行われたバーデン・ヴュルテンベルグ州の議会選挙では多くの市民が原発に反対し、何十年も原発を推進してきた保守政権が緑の党が率いる連立政権へと交代しました。メルケル首相も「福島の事故が起こったのでドイツの原発を閉鎖する」と態度を変えました。

菜央 日本でも、原発依存をやめ、再生可能エネルギーに立脚した社会をめざして動いている人はたくさんいます。でも、道のりはとても狭く険しく思えます。

フェリックスさん ドイツでも草の根の運動から始まり、長い年月をかけて市民運動を育ててきたんです。こうした脱原発に向けたムーブメントは、おそらく私たちのような企業が育つ種もまいたのだと思います。

1998年からの緑の党と社会民主党の連立政権がつくった再エネ法(注:同法により固定価格買取制度(FIT)が導入された)は信頼できる法的枠組みであり、ドイツの自然エネルギー産業の発展に大きなインパクトを与えました。自然エネルギー産業全体がキックオフしたのです。

最初にこの地域に風車を建てたjuwiは風力発電のプロフェッショナルに発展し、今では世界各地で自然エネルギー事業の主要な開発者となっています。

菜央 juwiは今も市民社会と密接に関わっていますか? 脱原発を願い、100%自然エネルギーを進めたい市民社会との連携が深いことに、大変驚きました。

フェリックスさん エネルギー協同組合を市民社会の一部と捉えるなら、もちろん私たちは彼らと一緒に取り組んでいます。それから、juwiのベルリンオフィスでは、いくつもの政党とコンタクトを持っています。

ドイツ風力協会、ドイツ太陽光産業協会など業界組織にも参加し、100%自然エネルギー社会づくりに向けた様々なアイディアを提唱しています。あえて言うならば、juwiは自分のことを市民社会の一部だと認識していると言ってもよいと思います。

菜央 なるほど……。すごいですね。なんというか…絶句です。こんなに大きな会社が、市民社会と共に動く。日本も将来、そうなるといいのですが。

100%自然エネルギー地域を自治体と実現する

菜央 juwiのウェブサイトには、この地域は100%自然エネルギー供給の目標を達成したと書いてありましたが、とても大きな成果ですね。

フェリックスさん 2007年にヴェルシュタットと周囲の町でつくる連合自治体は、今後の10年間で地域が必要とする以上の電力を自然エネルギーで生産する計画を策定しました。

2008年にこの場所に本社を移転したのち、5.6MWの太陽光発電施設やヴェルシュタット風力発電所の建設など、この計画の実現に向けてjuwiも一緒に取り組みました。そして目標より5年早く、2012年にヴェルシュタットはこの目標を達成したんです。

23基の風車からなるヴェシュタット風力発電所は、約40,000世帯分の電力を供給しています。2011年にはそのうち1本の風車を市が買い取りました。
 
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菜央 それはすごい。100%自然エネルギー電力供給を達成したヴェルシュタット連合自治体はどれぐらいの人口規模なんですか?

フェリックスさん 人口は約3万人ほどです。小さな単位で達成できることは、国レベルでも達成できると思います。ドイツは2020年までに必要とするエネルギーを自然エネルギーで生産すると計画していますが、それは達成可能でしょう。ドイツのみならず世界中で、エネルギーはその場所にあるんです。

菜央 ドイツの目標達成は日本にとっては大きな出来事です。日本とドイツは国の規模も、産業構造など、類似点が多いですね。

フェリックスさん ドイツや日本といった産業国がエネルギーシフトを達成したら、すべての国があとに続くでしょうね。彼らにできるなら、私たちにもできるはずだと。その意味では、私たちは役割を持っていますね。

菜央 そうですね。greenz.jpは、エネルギーの民主化に向けたムーブメントをつくりたいし、応援していきたいと考えています。日本では今年の4月から電力市場が自由化されます(編集部注:取材は自由化前に実施された)。greenz.jpの読者は、エネルギーや社会問題に高いリテラシーを持っているので、私たちは“市民が社会を変えていける”ことを伝えたいんです。

フェリックスさん それは楽しみですね。

juwi本社も、100%自然エネルギー

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フェリックスさん さて、最後になりましたが、私たちのオフィスをご案内しましょう。ドイツに700人いる従業員のうち、ここではおよそ600人が働いています。「言葉よりも行いを」というコンセプトで、juwiのオフィスには私たちのアイデアがたくさん詰まっています。

木造建築で断熱はパッシブハウス基準に適合しています。エネルギー需要はすべて自然エネルギーで賄っていて、電気が余った場合は売電します。発電は太陽光がメインで、屋根の上、それから建物の南正面に太陽電池を統合している建物もあります。

この建物では、熱エネルギーを生産しています。屋根上の太陽熱温水器と中のボイラーで燃やす木質ペレットで建物の地下に溜めた水を温め、それをパイプを通してオフィス内に循環させています。ペレットは、地域の木材産業で出た通常は廃棄物になるものです。
 
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菜央 熱エネルギーも100%自然エネルギー由来なんですか。

フェリックスさん はい。木質ペレットはここから60kmから100km圏内から運んでいるので、地域由来とも言えるでしょうか。

さらに、juwiはワークライフバランスを大切にしています。例えば、社内施設として幼稚園があって、従業員は無料で利用できます。園児たちは、例えば塩や水、油のような液体を使って自然の関係性を学んだり、もちろん自然エネルギーについても学びます。
 
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菜央 生粋の自然エネルギーっ子ですね(笑)。

フェリックスさん その通りです。他にも、バレーボールコートやバーベキューエリア、瞑想ルームもあるんですよ。すべてのアプローチはオフィスからつながっているので、従業員はここでは働きながら暮らしているかのようです。
 
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菜央 仕事もリラックスしてできるでしょうね。
あれは太陽光パネルですか。とても薄いですね。特別なタイプなんでしょうか。
 
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フェリックスさん そうです。太陽電池がガラスに統合されています。発電に加えて、夏場の強い日射を防ぐ効果もあります。

従業員とゲスト用のカーポートの上にも太陽光パネルを敷き詰めています。juwiの社用車は、すべて電気自動車です。自然エネルギーで移動する将来社会をjuwiは描いています。
 
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フェリックスさん ここはカフェテリアです。

菜央 わっ、すごい。
 
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フェリックスさん 毎週火曜日はベジタリアンの日で、肉は一切食べません。ほぼオーガニックの地域の生産物を購入し、廃棄物と輸送にかかるエネルギーを減らすという哲学に基づいています。私たちは地域内の農家も、彼らがつくる農作物の品質もよく知っているんですよ。

菜央 これは、うらやましいオフィス環境ですね。ここで働くたくさんの従業員とは、juwiのビジョンやパッションをどのように共有しているんでしょうか。

フェリックスさん 典型的なjuwiの従業員の多くは入社時には、既に”緑のマインド”を持っています。juwiの事業や自然エネルギー産業について強く信じていて、さらにボトムアップでアイデアを共有し発展させることに意欲的です。juwiのビジョンは彼らにとって決して絵空事ではないんです。

菜央 (カフェテリアから外に出て。)ワオ!これは全てjuwiの風車なんですか?

フェリックスさん これが先ほどもお話に出たヴェルシュタット風力発電所です。23基の風車が建っているのが見えるでしょうか。11月(注:取材時)はもっとも風の強い季節なので、よく回っていますね。
 
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photo by juwi

菜央 この風景は圧巻ですね。エネルギーはここにあること、自然エネルギー100%社会の実現を強く信じることができますね。

フェリックスさん 自然エネルギーの市場は必ず拡大していきます。そして大きな企業が参入していくことで市場が広がることがあります。適切な時に、適切なアイデアを持つことも大事ですね。共に、粘り強く取り組みを続けていきましょう。日本でも、再生可能エネルギーが増えることを願っています!
 
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(対談ここまで)

 
100%自然エネルギー社会のビジョンを具体的に形にしているjuwi。本社前に広がる、数多くの風車が風を受けて勢いよく回りエネルギーを生み出している風景には、ドイツのエネルギー大転換の進展を体感させられました。

そして世界各地のjuwiが100%自然エネルギー地域を目指し取り組む場所でも、同じようなダイナミックな風景が広がっていることを想像しました。
地域や市民との協働、従業員が安心して働けるサステイナブルなスタイルも魅力的ですね。

私たちも日本の自然エネルギー100%社会づくりのために、ひとりの市民として発電所づくりに投資したり、協同組合のようなグループで事業に参画したり、自治体に働きかけるなど、協働する方法はいろいろとありそうだと、今回のインタビューを通してあらためて思いました。

あなたは、どんなことを感じましたか?

(Text:氏家芙由子)